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番外編 その後の二人<母の手紙>

「アイラ王女がルーカス公にこだわる理由は一応わかったが、とはいえやはり会ってもいない相手に対してああも思えるものだろうか?」

「自分の思い描く理想の相手を絵姿に当てはめて勝手に想像していたのではないですか?」


ルーカスにしてみれはいい迷惑でしかない。


「恋に恋するようなものなのかもしれないな」

「他者を困らせないのであればそれでもいいのでしょうが……」


苦虫を噛み潰したような顔をして言うと、ニキアスも同意する。


「いずれにせよあと半月だ。ところで、結局引き取ってもらえなかったこれはどうする?」


ニキアスがヒラヒラと振っているのはトウ国からの婚姻申込書だ。


「手元に持っていたとしても答えは変わりません。アイラ王女が受け取らないと言うのであれば、トウ国の国王宛に返事をつけて返送するしかないかと」

「あの調子だと半月後であっても受け取ってはくれないだろうな。わかった。ではこれは私の方から国王宛に送るとしよう」

「お手数をおかけしてしまい申し訳ありません」

「ルーカス公のせいではないことはわかっている。しかし、本当に強烈な性格をしているな」


しみじみとニキアスが呟くが、ルーカスとしてもその言葉には頷くしかなかった。


「そうそう、使者殿が持ってきてくれた手紙は持ち帰るといい」

「国王陛下に報告しなくてもいいのでしょうか?」

「目録だけ渡せばいいだろう。手紙となれば個人の物。中をあらためることもしないだろうから問題ない」

「ありがとうございます」


そう答えると、ルーカスは手紙の入った包みを抱えてニキアスの応接室を後にした。



**********



母から祖母に宛てたという手紙はざっと見ただけでも数十通はあった。

何とも言いようのない思いを抱えながら、ルーカスはその包みを持ったままアリシアの部屋を訪ねる。


「アリシア、今帰った。体調はどうだ?」


いつもであればアリシアは階下の玄関まで出迎えに来てくれるが、今日は朝から体調が優れなかったため出迎えは不要と伝えてあった。


「おかえりなさい、ルーカス。お仕事お疲れさま」


応接セットのソファにゆったりと座り、アリシアが労いの言葉をかけてくれる。

そんなアリシアの前の机にルーカスは母の手紙の包みを置いた。


「これは?」

「トウ国の使者殿から受け取ったものだ」


そう言うとルーカスはことのあらましを説明する。


「まぁ。そんなことが」

驚きに目を見開き、アリシアが手紙を見つめた。


「どんなことが書かれているかはわからないが……いや、そもそも人の手紙を勝手に読むのはいかがなものだろう?」


周りも含めて当たり前のようにルーカスが手紙を読むと思っているが、考えてみればこれは母が祖母に送った個人的な手紙。

たとえ孫であり息子であったとしても読んでいい物なのか。


「本当に見られたくないものであれば、きっと届いたはなから手紙を処分されていると思うわ。もしくは儚くなられる前に見つからないようにするでしょう?」

「そういうものか?」

「少なくとも私なら見られたくないものはそうするわね」

「そうか……」


一言呟いてじっと手紙を見つめるルーカスのために、アリシアは立ち上がると暖かいお茶を入れる。


「気持ちが向いたら、でいいのではないかしら?読んでも読まなくてもどちらでも構わないと思うわ」


コトリと置かれたカップから湯気が立つ。

お茶の表面が揺れる様がまるで自分の心のようだった。


アリシアに見守られながらルーカスは手紙にそっと手を伸ばす。

触れた封筒の表面は年月が経っているせいかザラリとしていた。

元の色は白色だったのだろうか。

封筒から大切に引き出した便箋は少しだけ生成りに変色している。

それだけでも年月の経過が感じられた。


ゆっくりと文字を目で追っていく。

思えば母が亡くなって以来、母の書いた字をちゃんと見たのはこれが初めてではないだろうか。


「…………」


手紙からは母から子への愛情が溢れていた。

ロゴス国での偏見もあり、苦労したことは多くあったはずなのに手紙に書かれているのはルーカスのことばかり。


ルーカスが産まれてどれだけ嬉しかったか。

小さい我が子の成長をどれほど喜んだか。

日々の出来事とあわせて母の思いが綴られている。


そして、大切な我が子を残して逝く無念も。


気づけばルーカスの頬を一筋の涙が流れ落ちた。

ルーカス自身もなぜ涙が出たのかわからない。

それでも、母からの手紙が心の琴線に触れたことは間違いないだろう。


「アイラ王女には困らされているが、この手紙を届けてくれたことだけは感謝しなければならないな」


「だからといって、王女の行動が許されるわけではないけれど」


そう続けたルーカスを、寄り添って座っていたアリシアはそっと抱きしめた。

読んでいただきありがとうございます。


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