手紙
昼の暖かな日差しの入る窓際の机で、お気に入りの便箋を広げてアリシアはペンを取っては何も書くことができずに置くことを繰り返していた。
あの日王都のドレスショップにいたことを聞こうか。
それとも何も聞かずにいつものような近況の手紙にしようか。
今アリシアとルーカスを繋ぐ唯一の手段である手紙に何を書くか、朝からずっと頭を悩ませている。
正直な気持ちを言えば聞いてしまいたい。
あの日のルーカスとフォティアの姿が頭から離れないなら、いっそのことはっきりさせてしまえばいいのではないかと思うから。
でも同時に、忙しい最中に手を煩わせたくない気持ちもある。
アリシアとてルーカスの思いを疑っているわけではない。
決して嘘をつかない彼はいつだって気持ちを伝えてくれるから。
それでも、人の気持ちは変わるから。
この世の中に絶対なんてものは無い。
思い悩み何枚か書き損じて、それでもアリシアは手紙を書き上げた。
結局手紙にはルーカスを案じる気持ちとアリシアの近況、そして忙しいとは思うけれど会いたいという気持ちを書いた。
ルーカスに負担をかけたくなかったから、今まで会いたいと書いたことはなかったけれど。
それでも今回は。
遠目でも見かけてしまったからこそさらに会いたくなっている。
今もちゃんと想ってくれていることを目を見て確認したい。
わがままかもしれないけれど、ここは我慢するところではないと思った。
これからまだ会えない時間が続くならなおのこと気持ちは素直に伝えておきたい。
「ルーカスはどう思うかしら」
これでいいと思っているのに不安はつのる。
アリシアの独り言のような言葉に、しかし返事をする人はいなかった。