番外編 剣術大会<9>
「ねぇ、聞きまして?」
「何をですの?」
「お昼の休憩時間に王族観覧席の近くにいた方たちが言っていたのだけど、あのルーカス公が微笑んだとか」
「ええ!?あの無表情と噂の?」
「そうなのよ。しかもその笑顔を見てしまった人たちは皆さん呆けたような状態になってしまったみたいで」
ひそひそと、ご婦人やご令嬢が囁く。
朝と同様その話題の中心はルーカス・ディカイオ公爵だ。
今日一番の話題の人物は、準々決勝戦のためにアリーナにいる。
「なんでも、アリシア夫人に笑いかけたのを見てしまったとか」
「ルーカス公はアリシア夫人をことの他大事にされていると聞きますけど、やはり本当なのかしら?」
「もし今日ルーカス公が優勝されたらアリシア夫人に祝福を望むのではなくて?」
一人のご婦人が言った言葉に、周りの声がぴたりと止む。
「それは…ぜひとも見てみたいわ」
「たしかに」
「そうですわね」
ひそひそ声はさらに広がっていく。
「おい、見ろよ」
「うわー…。準々決勝なのに一撃で勝敗が決まるってありか?」
「ルーカス公は相変わらず一歩も動いてないぞ」
「対戦相手って近衛騎士団の精鋭だろ?」
「大人と赤子くらいレベルが違うぞ」
「一体誰だよ、ルーカス公は大したことないって言ってたやつは」
ざわざわと、大会参加者の集まる一角で話が広がっていく。
準決勝戦と決勝戦に出る出場者の待機場所は別のところに設けられているから、ここにいるのは皆すでに負けた者たちばかりだ。
中でも第1騎士団所属の者たちが集まる一角はさながら葬式のような静けさに包まれている。
「準決勝まで残ってるやつ、誰かいたか?」
「副団長が今ルーカス公とは別の相手と試合してる。あっちの方が早く試合が進んでるから勝てば次は決勝戦だ。…対戦相手は…やはりルーカス公か?」
「今の感じだとそうだろうな」
「第1にいたときルーカス公はそんなに目立たなかったはずだが、いったいどういうことだ?」
「さあな」
「団長は…知っていたんだろうか?」
一人の騎士の声に誰も答えられない。
おそらく、知っていたのだろう。
どこでその実力を目にしたのかはわからないが。
「副団長は勝てると思うか?」
その質問に答えられる者はいなかった。
しかし皆心の中では思っていたに違いない。
ルーカス・ディカイオ公爵は同じ土俵に上がるのすら恐れ多いくらい圧倒的に強いのだと。
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