番外編 剣術大会<1>
その日、王都のコロシアムは熱気に包まれていた。
久しぶりに王家主催の剣術大会が開かれるためであるが、中でも人々の口に上っているのは今まで一度も大会と名のつくものには参加してこなかったルーカス・ディカイオ公爵が出場するという話題だった。
「聞きまして?あのルーカス公が今回の剣術大会に出場されるのですって」
「ええ。今日はその話題で持ちきりですわ」
扇の陰で、夫人や令嬢たちが密やかに囁き合う。
剣術大会の参加者は当日に発表される。
コロシアムの入り口にトーナメント表が張り出され、観客はその表を見て初めて誰が参加するのかを知るのだ。
とはいえ、自らの出場を吹聴して回る者もいれば他の者に推薦されて参加する者もいるため、往々にして人気のある参加者というのは大会前からわかっていたりする。
その中でのルーカスの突然の参戦。
誰もが予想をしておらず、完全に意表をつかれた発表だった。
「ルーカス公はたいそうお強いと噂ですけど、実際にはどうなのかしら?」
「以前は警備で王都の街中によくいらしてたけど、しっかりと戦う姿を見た方は少ないのでは?」
ひそひそ…サワサワ…夫人と令嬢の囁きは広がっていく。
「ルーカス公が参加されるということは、アリシア夫人は観戦にみえるのかしら?」
「お産まれになったお子さまも?」
アリシアは元々領地にいることが多く、王都の社交界にはあまり顔を出していない。
公爵夫人となれば社交界への参加も増えると思われていたが、結婚後まだ日が
浅く、出産してそれほど経っていないこともありアリシアと特別親しい夫人や令嬢は少なかった。
「アリシア夫人はどちらで観戦されるのかしら?」
「公爵家の観戦場所は特に決まっていなかったと思うわ」
ニコラオスがいた頃もディカイオ家はそれほど大会に参加していたわけではないため観戦のための決まった場所はない。
家によっては毎年参加しているところもあり、そいうった家はそれぞれの観戦場所を決めていることが多かった。
もちろん、王家の観覧席が一番良い場所に設置されているのだが。
「あら?あちらにみえるのはアリシア夫人ではなくて?」
一人の令嬢の声に、周りの視線が王家の観覧席方向へ向く。
「たしかに」
「あそこは王家の観覧席では?」
「いいえ、その隣のようですわ」
ざわつく夫人と令嬢たちの視線の先、王家の観覧席の隣のスペースに、アリシアがゆったりと腰かけた。
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