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プロローグ

王都の目抜き通りにあるカフェスピカは濃厚な卵を使ったプディングと季節ごとに変わるフルーツケーキが人気のお店だ。


賑わう店内の一角、観葉植物の影になる席で伯爵令嬢のアリシア・カリスは婚約者であるルーカス・ディカイオ公爵令息と向き合っていた。


艶やかな黒色の髪に深い濃紺の瞳。

比較的明るい髪色や瞳の者の多い王都において、彼の持つ色は珍しい。

一見暗いイメージを与えてしまいそうな色を纏っているものの、彼は人々の視線を集めて止まなかった。


アリシアの頭一つ分は高い身長、騎士団に所属して日々鍛えられている体はぱっと見た印象よりも逞しい。

濡れたように輝く瞳は匂い立つ色気を漂わせ、本人の希望とは違い社交界の御令嬢方の熱い視線を受けている。


明るめのハニーブラウンの髪色にアンバー色の瞳というごく平凡な色合いを持ち、特筆すべき顔立ちでは無い自分が隣に立つことを良く思わない御令嬢が多いことも承知していた。

それでも、彼がそんな自分で良いと言い、言葉を惜しまずにいてくれるからアリシアも胸を張って彼の隣に寄り添うことができている。


「今年のシーズンはずっと王都にいるんだよね?」

紅茶のカップを優雅な手つきで傾けながらルーカスが言う。


「そうね。今年はイリアも一緒だし、シーズンが終わるまではタウンハウスにいるつもりよ」

アリシアの5歳下の弟イリアは今年14歳になる。


15歳〜18歳までの貴族子息、子女や裕福な商人の子息などが通う王都の学園へ通うまで、王都に慣れるためにも今シーズン弟はずっとタウンハウスに滞在する予定だった。

そしてアリシアもその弟につき合うことになっている。


そもそも、結婚適齢期に子息子女が相手を見つける目的で開かれる舞踏会などは婚約者のいるアリシアにとっては不要であったし、カントリーハウスを切り盛りする母親のそばにいることの多いアリシアにとって、社交界での情報収集などは父親や兄に任せておいて問題がなかった。


もちろん、女性社交界の中での噂や情報も必要ではあったが、その点は従姉妹が社交好きであったためことが足りている。


「兄上たちの結婚式が終わったら半年後には私たちの結婚式が控えているし、どちらにしろカントリーハウスに帰る時間はないだろうけどね」

ルーカスの兄は1ヶ月後、年が明けてすぐに結婚式を控えていた。

そして慶事は続くとばかりにその半年後にルーカスとアリシアは結婚することになっている。


「慶事が続くとなると大変よね」

「まぁ、良いことではあるし、今この国では結婚や出産は大いに求められていることだからね」


「そういえば、ニコラオス公とフォティア様の間にお子様ができたと聞いたわ。これでディカイオ家も安泰でしょうし、お義母様も喜んでみえるのでは?」


ルーカスの兄であるニコラオスと婚約者のフォティアの間に子供ができたことはつい最近わかったばかりだ。

待望の子であることもあり、妊娠はかなり早い段階で判明したという。


「ああ。兄上も義母上も、安堵したような顔をされていたよ。父上が亡くなってから義母上は後継の心配が尽きなかったようだし、これで一安心だろうね」


自身の複雑な出自はおくびにも出さず、ルーカスは穏やかな顔で微笑んだ。


「そう」


ニコラオスに子が産まれることがルーカスに及ぼす影響についてどう考えているか、その微笑みから読み取ることはできなかった。


「私はこのまま騎士団所属でいられるし、結婚したら詰所に比較的近い場所に屋敷を構えてもいいかもね」


結婚後の新しい生活に思いを馳せ、二人でああでもないこうでもないと相談することはとても楽しかった。

明るい未来がくるのだと、何も疑わずにいられたから。


でも。


つつがなく今日という日が終わり、何の憂いもない明日を迎える、それが決して当たり前ではなかったのだと気づくのはもう少し後だった。


読んでいただきありがとうございます。


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よろしくお願いします。

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