第一刻 旅立ちの日 序章
「…ス、……ス!」
揺さぶられる身体、遠くに聞こえる声は揺さぶる力と共にどんどん激しさを増す。
「起きろセス!今日は森で練習する日だろ?急がないと日が暮れるぞ!」
暖かな陽の光、遠くでは鳥が鳴いている。
まだフワフワとした意識の中身体を起こす、目の前には黒い髪に青い目の少年の姿。
「そんなに激しくしないでくれ、俺は朝が弱いんだ。それに、」
「分かってる、分かってる起こされるなら綺麗なお姉さんに優しくが良いんだろ?それは聞き飽きた、早く準備しろ置いてくぞ。」
少年は被せるように言った。
忙しい奴だ、彼の声に押されるように腰を上げ支度を始める。
「下でおばさんも待ってる、先に降りておくからさっさと準備して降りてこいよ。」
そう言うと男はバタバタと下へと降りていった。
皮の鎧に身を通す、最初は固くて衣擦れを起こしていたコイツもだいぶ馴染んできた。
どれだけ寝惚けていても一度鎧に身を通すだけで目が覚める。
(昨日もう少しで掴めそうだったんだ、今日は必ず成功できる。)
下へ向かうと賑やかな声が聞こえてくる。
「ありがとね、エヴァン。アンタがいないとあの子夕方まで寝てるから」
「いつものことですよ、それよりおばさんこのラズの実とてもウマいよ!おかわりある?」
「またかい?好きねぇ、ウチのが全く食べないから沢山あるよ好きなだけ食べな。」
聞き慣れた会話だと感じながらドアを開けた。
「おはよう、母さん、エヴァン」
「アンタまた夜更ししたのかい?準備出来てるから食べな。」
「セス、早くしないとお前の分も無くなるぞ」
挨拶も終わらぬ間に二人は言った。
二人の声に押されるように席に座る。
「今日は森へ行くんだろう?そろそろ魔物達も繁殖期だ、くれぐれも奥まで行きすぎないようにね。」
空になった皿を片付けながら母は言う。
エイレン、ジルニ国一の弓取りと言われた彼女も今ではすっかり只の主婦だ。
俺を産んで現役を退いて15年それでも俺達二人にアドバイスをくれる良き先生である。
「もし俺達に何あかったらオバサンが家から撃ち抜いて助けてくれよな」
エヴァンはそう言って笑う。
「バカ言うんじゃないよ、もうアタシの相棒は弓から包丁と鍋に変わったさ」
このやり取りも日常の一部だ。
(甘い…)
ラズの実と共に変わらない日常を感じながら食事を済ませた。
「オバサンご馳走さま!行ってくるよ!」
「母さん行ってくる。」
「二人共無事に帰ってくるんだよ!」
挨拶を済ませ、家を出る。
いつもの日常かもしれない、でもこの日がすべての始まりだった。
読んで頂きありがとうございます。
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初投稿なので右も左も分かっておりません。
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