デジタル中毒
デジタル中毒
ジリリリリ
目覚まし時計の音と共に重たい身体を起こす。何の気なしに枕元に置いてある携帯をひらく。
(美穂:ねえ、夏菜子の投稿見た?あれ、何様のつもりなの(笑))
美穂はしょっちゅう人の投稿にケチをつけてはこうして、私に連絡してくる。はっきり言って迷惑だ。
見てない。なんだったの? とだけ送ってあたたかい布団を被り直した。今日は気晴らしにこのまま夜まで寝てやろう。
ブーブー
(夏菜子:春子ってさ、美穂のことどう思う?)
私の考えは夏菜子によって阻まれた。
(夏菜子はどう思うの?) 送信。
はぁ、こうして昼まで寝て、朝昼兼用のおにぎりを食べる。どうしてこうも変わり映えしない毎日が続くのだろう。
ブーブー
(夏菜子:私は嫌いだよ)
その文字を見た時、私はつい魔が刺して、夏菜子と一緒に美穂の悪口を言ってつまらない時間を潰そうと思った。
(Re夏菜子 実は私も嫌いなんだ)
「嫌い」という普段使い慣れない言葉に少しの躊躇いを覚えたが、ボタンを押してしまえばこっちのもんだ。送信。一度送ってしまうと、もう躊躇う事はない。私の手は止まる事なく文字を打ち続けた。
何かが崩れる音がして、心がスッと軽くなるのを感じた。あの時は、変わり映えしない毎日も、部屋に堆積して溢れかえったゴミの山も、〈ごめんね〉とだけ書き残して連絡が取れなくなったアイツも。全部がちっぽけなことに思えた。今まで感じていた心の重りがすっと晴れる。
私は、今にも踊り出したくなる気持ちを抑えられず一ヶ月ぶりに、外へ飛び出た。華やかな青色のドレスが身を包み、ヒラヒラと飛ぶように街を駆ける。「こんにちは」
花が私に語りかける。蝶が私の周りを飛び回る。今だけは蝶さえも手名懐けるルーブルだ。
「You are the best♪」どこか懐かしい愉快なメロディに合わせて落ちてくる札束が私をもっと楽しませる。
ブーブー
晴れた私の心に水を差すように、鈍いバイブレーションが鳴る。
(@Miho_0108 春子ってサイテイ いいね20)
途端に空気が冷たくなった。
ブーブー ブーブー ブーブー
バイブレーションは止まらない(春子ひどい)(美穂の投稿見たけどさ……)(私の事もこんなふうに思ってるの?)(いつものアレはいい顔してただけかよ)
夏菜子だ。夏菜子以外にこんなこと送った覚えはない。急いで夏菜子に連絡しようにも通知が邪魔してなかなか進まない。
やっとのことで(あれ、夏菜子?)とだけ送ったが、返信なんて来るわけもなかった。
液晶が雨に打たれ、画面に虹を描く。ブーンと不快でうざったいハエの羽音が私の周りをぐるぐるとずーっと飛び回っている。涙が溢れて止まらなかった。私は身に纏ったボロい布切れで垂れてくる涙を拭った。