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嫁入り道具を仕入れる旅へ

ひとつき以上空いてしまいましたが、ちゃんと連載続けます。

 四日間の旅で、やっと隣町ガゼバハルトにたどり着いた。

「大きな町ね!」

 今回の旅で初めて故郷を出たジョセフィンにとっては、見たことのない大きな町だった。ワクワクがあふれ出している。

 高い城壁に囲われた、同じ緑色の屋根の市街。その中央にそびえる領主の城の塔。

「まあ、大きい方だな。この国では王都に次ぐ人口だし」

 世界を旅したブラウジットにとっては、故郷の近所の大きめの町、でしかない。まあ、強いて言うなら、最初の装備を揃え、最初の冒険の依頼を受け、最初のパーティを編成した町だった。

今度はブラウジットは間違えずに商人ギルドへの道を選んだ。商人ギルドは、かつて彼が冒険を依頼された場所であり、馴染み深い場所でもあった。

 商人ギルドはバーノルド商会の本部と同じ建物の一部だ。この町でもっとも大きな商会の会長が、ギルドマスターを兼ねているのだ。

 玄関前で馬を降りる。アンドロメダは手綱を結んでおいたりする必要がないので、そのまま放置する。ジョセフィンはラバの「ロバー」を玄関前に繋いでから兄に続いた。

 玄関を開けると、中は大きなレストランのような作りだった。それぞれのテーブルで商談が進められるように、適度な距離があけられ、間に観葉植物による仕切りがある半個室になっている。そして奥の厨房にあたるところがギルドの受付のカウンターになっていた。

 カウンターの向こうにはには受付の女性が立って、こちらを見ている。長い黒髪の美しい女性だ。身に着けているものも華美ではないが高級なものと一目でわかる装飾品や衣服で、品よくまとまっていた

 大きな町の商人ギルドの受付嬢ともなると、こんな貴族のお姫様みたいな人がやってるものなのか、とジョセフィンは感心していた。

「やあ、エミリア、元気そうだね」

カウンターの前まで行くと、ブラウジットが馴れ馴れしく挨拶をした。

「おかげさまで。それで、? 勇者様が商人ギルドにどういう御用かしら?」

エミリアと呼ばれた女性は、とてもうれしそうにブラウジットに微笑みかけ、ながら、ちらちらとジョセフィンを見ていた。気になるらしい。

「用があるのは俺じゃなくてこいつの方なんだ」

 ジョセフィンは深々とお辞儀をして、

「ジョセフィン・パーカーと申します。ギルドに登録をしたいんです」

「え?!」

エミリアは、驚き、そして顔色が真っ青になった。視線が定まらず、ブラウとジョーの顔を行ったり来たりしている。

 その様子を見て、ジョセフィンが、はっ、と気が付く。この女性は、パーカーと名乗った自分を、兄の妻だと思ったのだ。そして、そう勘違いしたとき、真っ青になってしまうような思いを兄に抱いてる。

「あ、あの! 妹です。わたし、この、兄の!」

慌てて訂正すると、エミリアの顔色がてきめんに回復し、視線が定まってジョセフィンを見、そして今度は恥ずかしそうに真っ赤になった。

 エミリアは自分の気持ちを悟られたことを知ったのだ。

 唯一、この場に居ながら状況を把握していないブラウジットが無神経に話を進める。

「実はこいつ、旅商人を目指していて、まあ、始めちゃったわけなんだが、ここで初めての荷を売って、次の仕入れをしたいんだ。そこで、ギルドに登録をってことで」

「そうなの! 歓迎しますわ。では、登録料の1ゴールドと、こちらの台帳にお名前を」

 ジョセフィンが、用意していた金貨をカウンターに置いて、名前を書いていると、兄が間繋ぎのつもりなのか、エミリアのことを話す。

「彼女、ギルドマスターやってるバーノルド商会の会長さんのお嬢さんなんだぜ。綺麗なひとだろう?」

 彼女の気持ちも知らないで、この、バカ兄貴は! と口には出さずにジョーがブラウを睨む。

 ブラウの方は睨まれて、手続きの邪魔をするなという意味に受け取って口をつぐんだ。

と、カウンターの奥の扉を開けながら、壮年の男性がエミリアに呼びかけた。

「おい、エミリアや。この町に勇者様がみえられたそうだぞ…と、あ! 勇者様!」

「これは、会長さん、お久しぶりです」

兄は会長さんとも顔見知り以上に親しいらしい。ひょっとして良いコネにならないかしら、とジョセフィンが考えていたら、話はそっちの方に進んでいった。

「お父様、ブラウジット様の妹さんのジョセフィンさんが、商人の登録をしに来られたの。旅商人を始められたのですって」

「ほほう。それで、勇者様は妹君の付き添いをなさっている?」

「まあ、当面はそうですね」

 ギルドマスターは、ちょっと思案してすぐに話を進めた。

「それは、ぴったりかもしれないな。ちょっと、奥で商談をいたしませんか? エミリアは、ここをよろしく頼むよ。お茶とかは、他のものに頼むから」

「え、? ええ」

 エミリアは残念そうだった。

 カウンターの奥はギルドの事務室で、さらに奥にギルドマスターの部屋があり、そこに通される。ソファーを勧められ、ギルドマスターと対面で兄妹並んで座り、やがて紅茶とお菓子が秘書らしい女性に運ばれてきた。この状況はクロッサ村のギルドのときと同じだ。勇者である兄の人脈のおかげで、駆け出しの商人なのに毎回VIP扱いだ。

「勇者様が同行する旅商人ということなら、ぜひお願いしたい仕入れの仕事があるのです」

 ギルドマスターは兄妹の顔を交互に見る。

 仕入れの仕事の依頼は、旅商人にとっては願ってもないタイプの仕事だ。指定されたものを仕入れてくれば、ちゃんと買い取り手がいるわけなのだから、高く売れるかどうかの博打の要素がない。しかも通常は前金や仕入れ費用が払われることになる。

「実は、娘のエミリアが、この町の領主ホーンウッド公爵の跡継ぎ、リヒャルト様から求婚を受けましてね」

 え? と、ジョセフィンは自分の驚きが顔に出たことを後悔した。商人としてはポーカーフェイスに徹すべきだった。

「それはめでたい。リヒャルトはいいやつだ」

エミリアの気持ちはどうなるんだ、とツッコミと蹴りを、兄に入れたくなるジョセフィンだった。ブラウは自分を振り返ったジョセフィンが蹴りを我慢したとは露知らず、リヒャルトについて話した部分について知りたがっているのだと誤解して話をつづけた。

「リヒャルトは僕とパーティを組んだことがあるんだ。この町に初めて来たとき、エミリアは魔族軍にさらわれていて、会長さんが魔族に協力するように脅されていたんだ。そこで、僕がエミリア救出の依頼を受けてね。リヒャルトは幼馴染のエミリアを助けたくて、自分から僕のパーティに参加したのさ」

「あの折は、本当にありがとうございました。それにしても、リヒャルト様は、戦力にはならなかったのでしょう?」

 会長さんが苦笑いする。

「まあ、戦力としては『お荷物』でしたけど、エミリアを助けたいという思いは一番強かった。それはとてもプラスになりましたよ」

「当時から、エミリアを妻に、と思っていらしたようで、その後正式にお話がありまして。光栄なことです。なのに、エミリアのやつが、渋ってましてね」

 さもありなん、と納得するジョセフィンであったが、その根本的原因となっている隣に座った男は、まったくわかっていない。

「え? どうして」

 今度こそ、本当に蹴ってやろうかと思ったジョセフィンだった。

「それが、問い詰めますと、どうやら、身分違いを気にしているようでしてね。まあ、相手はこの町の領主様の跡継ぎで、公爵様になられる方ですから。それで、せめて、ということなんでしょう、嫁入り道具を王都の一流品で揃えて持たせてほしい、というんですよ」

 それは本当の理由じゃないでしょう? と、正面のギルドマスターにもツッコミを入れたくなった。

「そこで、依頼の件です。この町と王都の間には、エラル山脈があり、峠道はとても険しい。大きな家具を積んだ馬車では峠は越えられません。広い街道ということになると、大きく北を回る海岸道路ということになります。ところがあの海岸道路には、大魔王軍の残党が居座っていて、並みの隊商では無事に通ることはできません。しかし、勇者様なら、大丈夫でしょう?」

 兄を見ると、問題ない、というふうに気軽に頷いている。ジョセフィンは、エミリアの気持ちを考えた。おそらくエミリアは、結婚を引き延ばしたくて無理難題のつもりで嫁入り道具の話をしたのだろう。引き延ばせば、兄が迎えに来てくれるかもしれないという一縷の望みに賭けていたのだろう。

「王都の有名な家具工房シュトレーゼンで、出来合いのもので結構です。発注すると何カ月もかかるものですからね。タンスを二つと鏡台を一つ、仕入れ用に300ゴールドお渡しします。それくらいで収まるものを買ってきてください。馬車や馬、それにスタッフの支度金として、別に400ゴールド、報酬は前払いの100ゴールドと、後払いも100ゴールド。仕入れの差額も報酬にいたしますが、あまり安物では困ります。したがって前金800と後で100、ということで、いかがかな?」

 ギルマスがジョセフィンを探るように見る。ここで釣り上げ交渉をしないと、軽く見られるのだろうか? しかし、条件は申し分ないものだ。素直に受けたほうが心象が良くなるのだろうか? ジョセフィンは3秒ほど迷った。

 そして、駆け出しとはいえ商人の端くれなのだから、なにか交渉して条件をよくするべきだと考えた。しかし具体案は思いつかない。とりあえず「何か」と言ってみようとしたとき、隣の兄が先に口を出した。

「スタッフを雇うなら、周りに危険がない王都の冒険者ギルドよりも、ダンジョンや魔の森が近いこの町の冒険者ギルドの方が良い人材が集まってる。こっちでパーティを組むべきだぞ」

 冒険者については兄が詳しい。

「そうですな。そもそも仕入れの仕事を請け負ったからといって、仕入れ先まで空荷で行くなど旅商人として失格です。自己資金以外の依頼金を使ってでもこの町でなにか商品を仕入れて、往路も荷を運ぶべきですから、馬車は峠越えには邪魔ですが、スタッフはここで揃えるべきですな。それでは商人ギルドからの紹介状を書きましょう。冒険者ギルドで便宜を図ってもらえるように」

 兄のアドバイスが元で条件が好転した。これで手を打ってもよさそうだ。

「では、その条件で、仕入れのお仕事をお受けします」

 ジョセフィンが言うと、ギルドマスターはにっこり頷いた。

「ところで、ここまで来られるのに、持ってこられた商品は?」

「あ、おもてのラバに積んでいます。クロッサ村の鍛冶屋のワッカスさんの調理道具を二箱」

「おお。それは素晴らしい。うちの商会で買い取ってもよろしいかな? ものを見せていただきましょうか。あ、ですが、見張りのスタッフもつけずにおもてに置きっぱなしはまずいですよ。早く人を雇うべきですな」

 ギルマスのアドバイスを慌てて勘定帳に控えるジョセフィンだった。

 ギルマスはベルで人を呼ぶと、ラバから荷を持ってくるように指図する。ほどなく木箱が二つ運ばれてきて、テーブルに置かれ、蓋が取られる。

 ギルマスがひとつひとつ手に取って品定めをする。大きな商会の会長が、自分でやるんだ、とジョセフィンは感心しつつ、仕入れ時の時分の目利きが正しかったことを祈った。

「ふむ、さすがの出来ですね。しかも良いチョイスをなさっているようだ。どうでしょう、二箱まとめて95ゴールドで」

 クロッサ村のギルマスに聞いた相場なら二箱で80だから、良い値だ。

「はい! ありがとうございます!」

「ふふふ、お嬢さん、そこは交渉すべきところでしたよ。100までは吊り上げられたでしょう」

しまった、と思ったがもう遅い。

「市中の小売価格を確認すれば、この品でうちが200ゴールドは売上げられることがわかったでしょう。情報は金です」

 また、必死に勘定帳にメモするジョセフィンだった。メモり終わると、ジョーは心配ごとがあって、ギルマスに提案した。

「あの……エミリアさんに、どんなデザインがいいか、お話を聞いてもよろしいでしょうか?」

「おお、そうですな。年の近い女の子同士、よろしくお願いしますよ」

 ジョーはエミリアの気持ちを聞いておきたかった。自分が家具を仕入れてくることで、嫌な思いはして欲しくなかったから。


★★★★★★★★★★

1月5日 ガゼバハルト町の商人ギルド


【収入の部】

<確定分>

調理器具2箱 95ゴールド

(仕入れ額40ゴールド、粗利55ゴールド)

家具仕入れ前払い報酬 100ゴールド

家具仕入れ費用預り金 300ゴールド

家具仕入れ支度金   400ゴールド


<予定分>

家具仕入れ後払い報酬 100ゴールド


【支出の部】

<確定分>

商業ギルド登録料   1ゴールド



<予定分>

なし


【残高】

<確定>

936ゴールド


<予定含む>

1036ゴールド



【在庫商品・消耗品】

保存食4食



さて、次回は、冒険者ギルドでの人集め。

勇者である兄に興味を持つ冒険者たちがたくさん集まるが、兄の常識外れな戦いの話をすると雲行きがあやしくなり・・・。はたしてパーティが組めるのか。

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