わたし、決めました。
「わたし、決めました」
街に到着した晩の夕飯のテーブルで、ジョセフィンは一同を前にして、そう言った。
「何を決めたんだい?」
兄は優しく尋ねた。
「運送の安全を強化することに決めました」
一同、きょとん、とする。つっこむ役目はグッテレイだ。
「お嬢、今以上の強化なんてありえませんぜ。今のパーティは今現在の世界最強だぁ」
勇者をはじめとして、かつての勇者パーティのふたりがおり、大魔王の後継者までまじっている。グッテレイたちは戦力的にはオマケのようなもので、この四人がついてるかぎり最強だ。
「お兄様がいっしょじゃなくなったときのことを言ってるんです。今までの旅での商売の成功は、もちろん神様にいただいた商運や、お兄様のコネで入ってきた仕事のおかげもあるけれど、何よりもこの隊商の輸送が完全に安心だから、ということにつきます。魔物に襲われて荷物をすてて逃げ出したり、盗賊に襲われて金品や命を奪われたりする心配がないことは、商売にとってとても大事です。わたしは、お兄様がいなくなっても、安全な輸送を続けられる隊商を目指すんです」
ジョセフィンは両手の拳を握って見せた。
「それって、強いガードを雇うってことですかい?」
「グッテレイさん! わたし、みなさん以外の冒険者さんを雇うことなんて考えていません! そうじゃなくて、みなさんを強化するんです」
「え?」
「たとえば、装備を私が揃えるとか、あとは、旅の途中、みなさんのレベルアップになるような冒険者ギルドの依頼を受けたりします。冒険者兼商人をやっていらっしゃるようなパーティさんのスタイルで、みなさんに強くなっていただきます。お兄様がいなくなる今年の13月になっても、安全な輸送が続けられるようになるのが目標です」
ジョーが四人の冒険者を見回して言う。横から勇者が指摘する。
「それはいいことだけど、魔法の武器や鎧とかは、高いよ。お金が続かなくなって、途中で投げ出す、なんてのはよくない」
「ええ。だから、儲けて儲けて稼ぎまくりです。それと、兄さまにもお願いがあります」
「何?」
「前に、グッテレイさんたちを雇ったとき、他の冒険者は私の話を聞いて離れて行ってしまったの。その理由をグッテレイさんが教えてくれて」
「ああ、お嬢が勇者様の戦いぶりを話してくださって、経験値のおこぼれ目当ての冒険者がひいちまった、って話ですね」
グッテレイが説明に参加する。
「そうです。そのとき、経験値を得ることができそうにない理由を説明してくださいましたよね」
「『戦闘では、とどめを刺したのが誰であれ、戦闘参加した者全員にレベルに応じた経験値が入ってくる。戦闘参加するためには、敵から攻撃されてダメージを負うか、敵に攻撃してダメージを与えるか、戦闘参加した者に戦闘中に補助魔法をかけるか、どれかに該当しなきゃならない』ってやつですね」
「ええ。兄さまの戦い方だと、それは無理そうってことでしたよね。でも、ということは、兄さまに戦い方を変えてもらって、グッテレイさんたちが参加できるような戦闘をしてもらえば、いいんじゃないかしら」
グッテレイたちは顔を見合わせる。
「なるほど。いいんじゃないかな」
肯定したのはブラウジットだ。
「おもしろそうね。わたしたちも手伝うわよ、ね?」
マリエがスファーラにウィンクしながら言う。
「そういうことなら、ぼくもぜひ参加を」
ハルツ・ベルツものり出してきた。
「じゃあ、魔物退治で得られたアイテムや宝は四人の装備にまわすとして。まずは明日、装備強化の買い物だな」
ブラウジットがまとめた。
「いっそ、ブラウの装備のあまりもの渡しちゃえばいいんじゃないの?」
マリエが提案する。ジョーが返そうとするより早くブラウが答える。
「それは違うんじゃないかな。独り立ちの冒険商人を目指すっていうことなんだから」
ジョーが頷く。
「ふーん。よくわかんないけど、そこが線引きってことね」
マリエはとりあえず納得しておくことにした。
「さて、じゃあ、明日はアイテムショップと冒険者ギルドってことかな?」
兄の言葉に、ジョーは答える。
「冒険者ギルドはまだです。だって、帰りの便の依頼を受けてるんですもの。お客様載せて別のクエストってわけにはいかないと思うの」
一同が頷く。
翌朝、エリザベスが宿を訪ねてきた。
「交渉はどうだったんですか? うまくいきました?」
朝の挨拶も早々に、ジョーが尋ねた。
「はい。ちょっと予定とは違った形になりましたが、良い交渉となりました。自分の口からお伝えしたくて、ご報告が今日になってしまってごめんなさい」
エリザベスは昨夜は特使歓迎セレモニーに参加するため、外出できなかったのだ。そして、交渉結果は伝言や手紙ではなく直接ジョセフィンに伝えたかった。未来の姑からの頼みの件もあるわけだから。
「まあ、良かった。でも、違った形って?」
交渉事についてジョーに明かすからには、帰りの運搬に関することなのだろうと、ジョーは察しをつけながら訊いた。
「運んでいただく荷が増えたのです。兵士200人分の装備ではなく、300人分になってしまって」
「あら、たいへん。今の荷馬車じゃ、運びきれませんね。もう一台たてないと」
「ええ。荷物の運搬の対価については一人分1ゴールドということで300ゴールド。それとは別に、運搬装備の準備金として100ゴールド。先払いでお渡しいたします。いかがでしょう?」
「ええ、十分な額ですわ。・・・でも、先払いって?」
「交渉の結果、持ってきた金貨が余っていますの。そこも予定外で。それと、もうひとつ予定外のことがあって・・・」
ジョセフィンが小首をかしげて、エリザベスの言葉の続きを待つ。
「輸送用の追加の馬車や馬は、レンタルになさるのはいかがでしょう。購入して、使い終わってから売るよりも、お安くなりますわ。・・・つまり、この街へもう一度、馬車を戻しにくる、ということを、ご検討いただくことになりますけれど」
言い終えてからエリザベスは、やや眉を寄せて、ジョセフィンの反応をうかがうように言った。
「ええ。たしかに、そっちのほうがいいですね。実は、今回持ち込んだ品は、どれも高く売れたんですよ。もっと仕入れてきてほしいっていうお話もいくつかありました。もともと、次はこちらへ向かうつもりでしたから」
エリザベスの表情が明るくなる。
「まあ、良かった。実は、交渉の一部で、ジョセフィンさんがこの地へもう一度来られるように口添えを依頼されまして」
「あ」
各地の領主たちがジョセフィンたち『勇者様ご一行』を呼び込みたがっている話はエリザベスから聞いていたので、ジョセフィンは納得いった。ここの領主も同じ、ということだと。
エリザベスが出発できるのは明日ということだった。未来の夫であるサミュエルの手配で、300人分の兵士の装備が揃うのが昼ごろになるということらしい。ジョーのほうは、その時間までに自分の商品の仕入れと、2台目の馬車と馬を用意すればいいということだ。
グッテレイたちが別行動で馬車の用意をしようかと言ったが、朝から行くのは彼らのための新装備購入なのだからということで、一行はぞろぞろと団体で店へ入った。
店の中にはガラスケースのほか、壁や天井に至るまで、さまざまな武具が展示されている。
「ふむ」
ブラウジットがそれらを見回す。彼にはアイテム鑑定のスキルが備わっているので、見回しただけで、この店の品すべての能力が把握できた。
「予算はどうするんだい?」
「今回の仕入れ予算と当面の旅の経費を除いた分。だいたい2500ゴールドです」
兄は渋い顔だ。店の主人も照れたような困り顔をしている。
「魔法の装備って高いんだよ。まあ、まずは防具で防御力アップが優先かな。ご主人、そのレザーアーマーとそっちの盾、あとバレットビーを10匹くらいつけてもらって、妹の予算内で収まらないかな?」
「勇者様の鑑定眼はさすがですね。ただ、バレットビーはあいにく6匹しか在庫がありませんので、魔法のダガーをひとつおつけするということでいかがでしょう」
ブラウジットは妹にむかって笑顔で頷いた。
レザーアーマーと盾は魔法の防具で、通常のものよりも防御力が高く、びっくりするほど軽い。レザーアーマーはグッテレイ、盾はドボラ・コーンが受け取り、今の装備とさっそく取り換えた。バレットビーは魔力で操る赤い蜂で、普段は宝石箱の中で宝石に擬態している。魔力で指示を与えると、高速で飛んで敵を追尾して攻撃し、命中すると鉄の鎧も貫通する。ただ、攻撃を終えると、野生に戻ってしまう率が高く、回収率が低い消耗品的なマジックユーザー向けの飛び道具だ。シオンヌは常時20匹ほどをベルトに付けた宝石箱で飼っていて、一日一度、魔力をエサとして与えて手なづけていた。この店のようなマジックアイテムを扱う武器店で取引されていて、一匹あたり10ゴールドくらいが相場だ。
バレットビー四匹分として提案された魔法のダガーは40ゴールドで手に入る品ではないから、得な買い物ということになるだろう。ダガーはハートミン・ウェルが受け取った。魔法を帯びた武器でないと当たらないモンスターもいるから、予備武器として持っておくためにだ。
結局、パーティの攻撃力はほとんど上がっていないが、防御力は底上げされた。
第一歩としては満足すべきだろう、とジョセフィンは思った。
★★★★★★★★★★ジョーの勘定帳★★★★★★
2月19日
【収入の部】
<確定分>
300人分の兵装 300ゴールド
運搬装備の準備金 100ゴールド
<予定分>
馬車(馬含む)レンタルの保証金返品時 110ゴールド
【支出の部】
<確定分>
馬車(馬含む)レンタル料 25ゴールド
馬車(馬含む)レンタルの保証金 110ゴールド
仕入れ
銀食器 6箱 186ゴールド
美術品 3箱 216ゴールド
魔法装備
レザーアーマー、盾、バレットビー、ダガー 2500ゴールド
<予定分>
来月初め冒険者雇用契約4人×ひと月分前払い 80ゴールド
来月初め商人手伝い雇用契約4人×ひと月分前払い 60ゴールド
【残高】
<確定>
1098ゴールド 1シルバー(1ゴールド=20シルバー)
<予定含む>
1068ゴールド 1シルバー
【在庫商品・消耗品】
商品在庫
銀食器6箱
美術品3箱
その他
保存食10人5日分
【メモ】
わたし決めました。
グッテレイさんたちの装備に投資して、旅の目的地や行程も冒険者の成長を意識して選択すること。
みなさんに強くなってもらって、お兄様がいなくなっても旅の安全を確保できるように。
そのために、しっかり儲けなくちゃ!




