だれもやらない武器輸送
五か月ぶりの更新です。なろうの「この話は完結しないかも」という注意書きがついてて、あわてました。続きます。
その後の四日間の行程は、無難な旅で、おおきな岩山の麓の街が見えてきた。
ごろごろと転がっている巨大な岩の合間を抜けて蛇行しながらつづくのぼり道を、馬と馬車の一行が進む。やがてその先に城壁のような石壁と大扉が現れた。
門の上から声をかけてきた門番との対応は、ガセル商会のホルムズ・サントさんがやってくれて、ジョーたちはその一行ということで問題なく通過できた。
石造りの家が立ち並び、長い年月で磨かれたような石畳の道には、忙しそうに行きかう人々であふれていた。炭鉱の街ザクザラートは活気がある街だった。
「商人ギルドはこの先の十字路の青い屋根の三階建ての建物です。われわれは雇い主の店に行くのでここで」
ホルムズ・サントがジョーに別れの挨拶をし、ガゼル商会の一行が分かれ道で右折する。馬上のサンジェスが手を上げてジョーを一瞥する。ジョーがはにかんだ様子で手を振り返すのを、グッテレィ・コルンが苦々しく見つめ、その様子を見てシオンヌたちがクスクスと笑っていた。
ギルドマスターは太ったドワーフだった。茶色いひげがへそのあたりまで垂れ下がっていて、顎を掻きながらしゃべるくせがあった。
登録を済ませたジョーは、例によって「勇者ご一行」として応接室で特別扱いの歓待を受けていた。
「なるほど、酒を持ってこられたのですか。量が多いときは、仲買にまとめ売りするのが一般的ですが、大きな店なら、お持ちの量を買い取ることもできるでしょう。そっちのほうが値が高く売れる。ソードレイの店がおすすめですね。どうでしょう、ギルドの紹介状をお出しするので、酒を売った後、ひとつギルドの依頼を受けてもらえませんか?」
ギルドが商人に仕事を依頼する場合の報酬とは別に、紹介状を出すということらしい。
「どういう、ご依頼なのですか?」
となりに座る兄の顔色をうかがいながら、ジョーがギルドマスターに尋ねた。兄にかかわりがあることは明白だ。駆け出しの女商人への依頼ではなく、勇者ご一行への依頼なのだろう。
「実は、困ったことになっておりまして。この町はホートレンウォージャー王国の最北の自治領なのですが、王国への税は、工業製品で納めることになっております。去年の納税の荷が、二度襲われて王都に届いていないのです。運び手が見つからず、なんとかあなたにお願いしたいのです」
この町は炭鉱の町で、石炭を大量に産出している。隣国パドラック王国の鉱山の町バラクシャーとの原料の貿易が盛んで、ザクザラートは石炭を売り、バラクシャーから鉱石を買い、それを加工する金属製品の製造を行っている。税として、その製品を納めているというわけだ。
「国からは、今年の税として200人分の兵士の装備一式を納めるよう通達が来ております。それがすでに二度も輸送に失敗しておりまして。南の森で何者かに襲われてしまったようなのですが、南の森で他の荷や旅人が襲われたという話が他にありません。納税馬車だけが襲われているようなのです。近頃は、輸送の依頼というと、ガゼル商会がほぼ独占という状態で、個人の旅商人はあまり請け負ってくれません。ガゼル商会の料金が安いので輸送の相場が下がっていますからね。だが、この納税品の輸送は、ガゼル商会が受けてくれないので、それなりの手数料での依頼にはなるのですが。森での襲撃者が何者かもわからず、王都からは催促があり、街は困ってわたしのところに責任を押し付けてきておりまして、そこへ、あなたが……その、お兄様とご一緒の旅ということでしたので」
やはり、勇者ご一行様への依頼だ。
「200人分の装備というと、どれくらいの荷になるのですか?」
「チェーンメイルが200人分で20箱。ブロードソードが200本で10箱。小盾が200個で10箱。槍が100本、これは10本束10個ですな。あとはボウガンが100個で20箱。ベルトやブーツは革製品なので、うちの製品には含まれませんから以上となります。まあ、あなたの馬車なら積めますが、余剰でほかの荷を、とお考えだとすれば、それは難しいかもしれませんな」
この依頼を受けたら、王都への片道は、この輸送だけで他の商売にはなりにくいということになる。かさばらない高価なものが売り買いできれば別だが、この街はそういう名産品がある街ではない。
「一週間ほどの旅程になると思われますが、250Gでという依頼です。ご検討ください」
ギルドマスターはスタッフが持ってきた一枚の書状をテーブルに差し出した。ソードレイというお店への紹介状だった。
ジョーはそれを手に取りながら、兄を一瞥する。これを受け取るということは依頼を受けるということだ。兄は止める様子はない。判断はまかせるということらしい。
「わかりました。まずは荷を売ってまいります。お急ぎのようですから、すぐにでも出立できるようにしますので、荷をご準備ください」
酒を売るためにソードレイという店に向かう途中、馬車を操るグッテレイが隣に座るジョーに耳打ちする。
「納税の荷だけが襲われるっていうのは、へんな話だ。情報を集めてから出発したほうがいい」
ジョーは困り顔で少し考えて返事する。
「でも、急いでいるようなので、すぐにでも出発しないと」
「じゃあ、少しでも情報集めうるために、ちょっと俺が別行動してもいいかな?」
「ええ、お願いします、是非」
手綱をジョーに渡して、グッテレイは路地に駆け込んで見えなくなった。
ソードレイはあたりでも一番大きな店で、ギルドの紹介状を読むと、ドワーフの女主人が、
「じゃ、ちょっと味見するよ」
とすべての種類の酒を、次々と、ごくごく浴びるほど飲んだ。
「プハー!こりゃあいい。そうだねえ、こんなもんでどうだい」
と、従業員が持ってきた金庫らしい宝箱のふたを開けると、中にあった砂金袋をみっつジョーに渡した。ジョーはあわてて一袋の重さをはかる。一袋が400ゴールドだ。仕入れ値は770ゴールドで、渡しに50ゴールドほどかかっているから、粗利は380ゴールドといったところだ。悪くない。
「今後もその値で引き取っていただけるなら、オッケーですわ」
「おや? お嬢ちゃん、強欲だねぇ。目先の価格交渉より、先々の利益確保かい? ギルド紹介状ないときもこの値でっていうのはなかなか言うねぇ」
あれだけ飲んだのに、酔っぱらった様子もなく、ジョーの目をのぞき込んでにやりと笑う。
「いいよ。だけど、そうだねぇ、この量はひと月分ってとこだ。うちに持ち込むならひと月に多くて一回。逆に、ずっと持ってこないのも困るから、三月に一度は持ってきておくれ。それでどうだい」
ひと月に二往復は可能だが、それで儲けることはできないということだ。逆に、三月に一度はこのルートで運ばないといけないという縛りになる。だが、父との約束のひとつき500ゴールドに、これで大きく近づくあてができることになる。
「よろしくお願いします」
ジョーが砂金袋を左手に持って、右手を差し出す。女主人はそれを握り返してぶんぶんと振り回した。
店員と共同で荷を下ろして、空になった馬車でギルドへ戻る途中、路地から飛び出してきたグッテレイが御者台に駆け上がった。
「ふう。時間かかったねぇ。紹介状があったのに、商談、うまくいかなかったのかい?」
お酒の匂いがする。情報収集は酒場だったらしい。
「いいえ。まず、女主人さんが、ひととおり試し飲みしたの。それがすごい量で、その時間がかかっただけよ。そちらはどうでしたか?」
グッテレイは手綱を受け取って、馬を急かせながら、真顔になった。
「襲われたって話は確実な情報じゃない。荷馬車が二回こっちを出発して、それぞれ数日後に王宮から督促が届いたので、荷が着いていないとわかったってことだ。二回の輸送隊の面々は全員行方不明。それらしい馬車の残骸を見たという旅人の証言で『襲われた』という結論になってる。持ち逃げを疑ってる向きもあるようだ。そういう意味でも『勇者様が持ち逃げなどしないだろう』ということで、うちにお鉢が回ってきたようだね」
「襲撃者の情報はないってことですね」
その後二人はしばらく手綱の先を見つめながら黙り込んでいたが、ジョーが空を見上げて言った。
「荷を積んだらすぐに出発しましょう。悩んでもしょうがないわ。護衛よろしくお願いします」
★★★★★★★★★★ジョーの勘定帳★★★★★★
炭鉱の街ザクザラード
1月25日
【収入の部】
<確定分>
お酒販売 1200ゴールド
<予定分>
王都への運送の報酬 250ゴールド
【支出の部】
<確定分>
商業ギルド登録料 1ゴールド
<予定分>
来月初め冒険者雇用契約4人×ひと月分前払い 80ゴールド
【残高】
<確定>
1435ゴールド 3シルバー(1ゴールド=20シルバー)
<予定含む>
1605ゴールド 3シルバー
【在庫商品・消耗品】
商品在庫
なし
保存食 16食
【メモ】
人がやりたがらない仕事は、やる!
リアルで生活環境の激変があり、更新できてませんでした。これからは早めに更新できる・・・かもです。次回は輸送中のお話。襲撃者は?




