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旅の始まりへ

ゲムマむけのソロプレイ用ゲームの設定を使った小説です。

自身が最強で、装備も天下一の勇者は、妹のためにいろいろ手伝おうとしますが、ダメ出しを喰らいます。

 はたして妹は旅商人になれるでしょうか。

 勇者ブラウジット・パーカーの実家は、裕福だった。

 酪農中心の農家だったが、働き手になるはずの長男が勇者として世界を救う旅に出ているということがあったため、近隣の農家は率先してブラウジットの実家を手伝ってくれた。そのため、かえって労働力が充足していたのだ。

 家の前の洗濯物と花壇に挟まれたスペースに分厚い木のテーブルと、丸太を半分に切ったベンチがあり、そこに家族四人全員が揃っていた。

「旅商人になりたいだと?」

 語気を荒げたのは父親のサムだった。

「あなた、ちゃんと話を聞いてあげるって決めたでしょう? 頭ごなしに叱ってはだめ」

 母親のシンシアがなだめる。

「お兄様が大魔王を倒して、この世界は救われたわ。人の国は滅びの運命から逃れられた。世界を旅して物流に携わりたいの。昔、村に来てくれた旅商人さんのように、品物を世界中に届けたい」

 18歳になったばかりのジョセフィンは、か細い声を張り上げるようにして言った。語尾が震えていたが、決意はしっかりしていた。

 ふた月前に大魔王バーゴンを倒して、国々に報告してまわる旅を終えて実家に戻った勇者は、妹の隣に座っていた。知らない者が見れば、娘の両親に結婚の許しを得るために挨拶に来ているように見えただろう。

「俺が世界を救う戦いを全うできたのは、ジョセフィンのような夢を持った人々が、その夢をかなえられる世界を作りたかったからだ。父さん」

「大魔王は滅びたかもしれん。だが、世界中の魔物を全て倒したわけではなかろう。旅はやはり危険だ」

 父親は頑なだった。

「だから、俺がいっしょに行くってば。信頼できるガードが雇えて、安全に旅ができるようになるまでは、俺が守る」

 単独ではこの世界最強であることを多くの人が認めている勇者の言葉だった。本来なら、これが決め手になるような条件提示だった。だが、

「確かにお前は世界最強だ。それは誰もが認める。古龍も大魔王もお前に敵わなかった。だが、それは相手を倒す力だ。か弱いジョセフィンを守り切れるかというと、別だ!」

 相手の数が多かったら、広範囲に効果を及ぼす攻撃を受けたら、飛び道具で狙われたら、と、いくらだって命の危険は想定できる。

「お父様、この世界が危険で、自由に旅もできないままだなんて、それじゃあお兄様は何のために大魔王を倒したの? わたしのように夢を持った人たちが、夢をかなえられる世界を作るために、戦ってくれたんじゃないの?」

 父親がすぐさま言い返す言葉を見つけられず、詰まったところへ母親が畳みかける。

「あなた。この娘の言うとおりじゃなくて? それにブラウが付いていれば大丈夫よ。いざとなったら荷物や装備を捨ててジョセフィンだけを逃がすことくらいできるでしょう?」

「ああ、母さん。そのときは俺の馬で逃がすよ」

 勇者の馬がどんな馬なのかは、世界中の人々が知っている。いざというとき、逃げることに集中するなら、その馬に追いつけるモンスターなどいない。

 父親は、完全な反対をつらぬくことをあきらめ、条件を出すことにした。それも達成が難しい条件を。

「では、一年だ。一年で旅商人として独り立ちできることを見せてみろ」

この世界の一年は364日。一年は十三月。ひと月は四週間。一週間は七日だ。今は年末。十三月の二十六日。新年は三日後だ。

「来年一年間。まず、ブラウジットが資金を百ゴールド出してやれ。それ以上の金銭的な援助はだめだし、ジョセフィンを手伝っている間の生活費はジョセフィンが出せ。その百ゴールドを元手に十二カ月で資金を増やしながら、販路を開拓し、顔つなぎをして人脈をつくり、装備やスタッフをそろえる。最後の十三月の収支で五百ゴールドの利益を出すんだ。それができたらみとめてやろう。十二月の末までに仕入れていた商品から出た利益は含めてはだめだ。資金に含めるのはかまわないがな。それと、ブラウジットが手伝ってやるのも十二月までだ。十三月はおまえが雇ったスタッフとだけでやるんだ」

「五百ゴールド」

 一家四人が一年間不自由なく生活できるほどの金だ。それだけの利益を一月で。

 町から町への行程が一回二、三日だとして十回ほど売り買いができる。一回あたり五十ゴールドの利益が必要になる。

そこまで計算をして、ジョセフィンは力強く頷いた。

「わかりました。やり遂げて見せます」

父親は、まだ何か言いたげだったが、母親が先に話をまとめる。

「がんばってね、ジョー。そしてブラウ、しっかりサポートしてあげてね」


「最初の輸送手段はロバね。ロバに荷物を二箱運ばせて、引いて歩きます」

兄からもらった百ゴールド入りの革袋の口を開いてのぞきながら、ジョセフィンは、最初の装備のための出費を計算した。

「それなら俺の馬、アンドロメダに運ばせればいい。二人乗っても二箱くらい運べるぞ」

 兄は、なるだけ役に立ちたがったが、その提案は常識はずれだった。

「お、お兄様のアンドロメダって、天馬じゃないの! 伝説のユニコーンペガサスでしょう?! 荷物を運ばせるなんて、恐れ多いわ! 天罰が下ってしまう」

 かつて大魔王を倒す旅の途中、天界に最も近い天空城へ行った勇者が、城主からの難題を達成して手に入れた天馬アンドロメダ。普段は普通の「りっぱな」白馬の姿だが、戦闘時には角と羽根が生え雷を操り、突風を起こして敵を薙ぎ払う。

「あちこちの町を一回りするまでは、情報収集と顔つなぎの旅だけど、試しに商品も運んでみます。まずはこの地方の特産品として、どこに持って行っても仕入れ値よりも高く売れる物を二箱分運びます。

年が明けたら、村まで仕入れに行きましょう」

 かつて村へ訪れた旅商人たちを真似て、おおきな勘定帳を手にして、さっそく買うものと出費予定額を書き込み始めた。


★★★★★★★★★★


12月28日 クロッサ村出発前


【収入の部】


<確定分>


兄からの出資   100ゴールド


<予定分>


なし


【支出の部】


<予定分>


商業ギルド登録料   


商品2箱仕入れ 


ロバ1頭と馬具1式 


保存食20食程度


60ゴールド程度    



【残高】


<確定>


100ゴールド


<予定含む>


40ゴールド程度


【在庫商品】


なし

次回はいよいよ出発です。まずは、はじめて遠出する妹と、地獄のような戦いの旅を続けてきた兄の、でこぼこ旅から。

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