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9 『金剛の聖女』の秘密

「え、じゃあ私、お隣の国の生まれなんですか?」


「そうだよ。聖女や聖人は血で継がれる。この国は聖女・聖人の異性との交わりを禁じているから、そもそも生まれる理由が無いんだよ」


「へぇぇ……、じゃあ、何で」


 この国で探していたんです? と聞こうとして、ハッとした。


 孤児院の院長は、悪人でもあくどくも酷い人でも無い。そして、聖女や聖人について王宮に即座に知らせたという事は、聖女や聖人について知っているという事。それも、詳しく。


 王宮に委ねた後、必ず見張りはついたはずだ。けれど、私はおとなしく国王陛下の意のままになっていた。見張りが緩んだ隙に、隣国になんとかして私の存在を教えたかもしれない。孤児院出の子は、いろんな国で生活しているから、どうとでもなる。もちろん、危険はあっただろうけれど。


 私の下女として扱われる運命を早々に院長は悟ったのだろう。なるべく早く、王宮の目をかいくぐって隣国に報せを出したと聞いた。冒険者になった孤児院の出の一人が、王宮に飛び込んできたのだと言っていた。


「でも、私が兵舎に入った時にはガウェイン様はもう騎士でいらっしゃいましたよね……?」


「そこは、私が説明しよう」


 まずは今までの非礼を詫びたい、と先に告げた騎士団長が、厳格な顔をさらに厳しくして私に頭を下げた。騎士団長は私のことをずっとルーシーと呼んでくれていた一人だから、そんなに気にしなくてもいいのに、と思った。


 いや、そもそも『飯炊き女』と呼ばれるようにしてきたのは自分なのだから、誰に対しても気にしないでください、以上の事は思っていないし言わないのだけれど。


「まず、ガウェイン殿を兵舎に招いたのは私です。私の実家は公爵家で、分家の伯爵家に数代前に隣国から姫が嫁いできています。その関係で、養子としてガウェイン殿を伯爵家に引き取らせ、5年前……彼が16歳の時に騎士団に入団させました。もちろん、そこは実力で」


「では、騎士団長はもともと……?」


「冷戦とは言っても、もはや理由すら忘れ去られた関係です。私は平和を願って騎士になりましたので、多少は……王室に思う所もございます」


 公爵家と言えば相当高位の貴族だったと思うけれど、それでも王室は絶対なのか、と逆に感心してしまった。


 貴族が束になれば和平も結べるだろうに、何故隣国といつまでも敵対していたいのか、私にも分からない。きっと、騎士団長にも。


「そして3年前、ルーシー殿が兵舎の寮母として入られてから……まぁ、あの、気付いていらしたかは知りませんが……それまで王宮の侍女が10人掛かりでやっていた仕事を、14歳の少女が熟して見せる。必ず何かあると思ってはいましたが……『金剛の聖女』様だと知ったのは、昨夜、ガウェイン殿が知らせてくれたからです」


「俺もいつもめした……ルーシー様のことを軽く扱ってすみませんでした。えぇと、俺達騎士団の面子は、聖女が見つかったら隣国に行く事にあらかじめ決めてたやつらなんです。皆本来、平和を願って、というのが騎士になった理由なんで、隣国が滅びに向っていくのを見て居ても立っても居られないって感じで……。それで、あー、知ってますか? この国で魔法が使えるのは『聖人の血を引いている』王族だけなんですよね。それも、もう大分薄いんで、まともに使えるのは陛下くらいという噂で」


「それで、明らかに人の技では無い家事をこなすあなたが聖女じゃないかという疑いはずっとあったのですが……料理の手際を見ていると、判別がつかず」


「昨夜、貴女の胸元が光り、私がそこに相まみえたのは偶然では無かったと思っています、ルーシー様」


 説明を受けながら、なんとも座りが悪い思いをしていた。様、と呼ばれることに慣れていないし、急に名前で呼ばれるのも恥ずかしい。金剛の聖女、というのは私の名前じゃないような気もするし……難しいものだ。


「なんとなく、理解したと思います。すみません、あんまり教養がなくて……。その、じゃあ、隣国についたら何をするんですか?」


 彼らは顔を見合わせてから、私に全員で視線を向けた。腰が引けるが、馬車の座椅子はそう広くないので、気持ち少し後ろに下がっただけだ。


「貴女を、まずは『聖地』に送り届けます。他の馬車の騎士たちはこのまま瘴気の濃い場所に向って魔物を狩ります」

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