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6 雨、休日

 せっかくの休日なのに、外は予想通りのざんざん降りだ。


 質素な部屋の窓から外を眺めていると、昨夜あったことが嘘のように演習場で泥まみれになって剣を交えているガウェイン様が目に入った。


 王宮からの侍女たちが、今日は洗濯が無いのに10人きっちりやってきた。


 私は、金剛の聖女でありながら、実際はあると言われているお金を持っていない無一文の、10人分のタダ働きをして身を隠している不自由な下女だ。


 この泥だらけになった彼らの服を洗うのは、明日泥が乾いた後の私の仕事だと思うと気が重い。


 同時に、昨夜の話に気持ちが少し浮かれている私もいた。


 さすがに男所帯でトイレまで一緒は避けるべきと思ったのか、トイレは部屋の中にある。今日は一日部屋から出ないので、誤魔化す化粧も眼鏡もしていない。


(ガウェイン様についていけば……)


 考えれば考える程屈辱的な今の状況から抜け出し、貧しい想像力でしか考えられなかった隣国に向かい、多くの人を助けることができるかもしれない。


 冷戦状態にあってろくな食糧支援もせず、私という聖女を派遣して優位に立とうともしないこの国の王室を、ガウェイン様は疑っているという。


 私が孤児院の前に捨てられていたのは赤子の時だ。ルーシーと書かれた紙が籠の中に一緒に入っていて、私は孤児院で普通の、ルーシーという女の子として育った。


 私の出自はどこ? 産まれた国は? 本当はどこにいるべきだったの?


 疑問は尽きないけれど、孤児院での生活は貧しく、楽しく、辛いこともいいこともあった、ごくありふれた日常だった。


 ガウェイン様は、詳しくは今夜私の部屋に来て説明すると言っていた。私が寝るのは最後で、起きるのは一番最初だから、徹夜になるかもしれない。


 『飯炊きさん』とか『飯炊き女』と呼ばれて、なるべく神力で存在感を薄めて生活して、それでも聖女の扱いとして男所帯に置いておくというのも、王室は何を考えているのか。


 考えるよりも順応する事に慣れていた私は、一度考え出したら止まらなくなってしまった。


 この国は今のところ瘴気に襲われていない。騎士さんたちの雑談からも、辺境にすら魔物の1匹出てきてないという。


 特に被害が酷いのが、冷戦状態にあるグランドルム王国というのも気にかかる。ローリニア王国は何をしているのだろう。


 馬鹿の考え休むに似たり、ともいうが、休日だから休んでいるようなものでもいいだろう。


 強くなる雨を眺めながら、私はやがて、枕を抱えてベッドの上でうとつきはじめた。


 夜中には訪ねてくる。私が知りたい事が、どう行動すべきなのかの指針が。


 少なくともせっかくの聖女を下女として扱う国よりは、役に立つ国の話を信じたい。


 私に政治的な事は分からないけれど、少なくともそうありたいという気持ちは、持っている。


 やがて、薄暗い天気に雨の音で、私はいよいよ眠ってしまった。

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