2 顕現と孤児院と金剛
『金剛の聖女』と呼ばれるのには由縁がある。
私の鎖骨の少し下の辺りに、金剛石……ダイヤモンドが発現した。
急な事で、異常な事。こんな病気は知らないし、このまま私自身が石になってしまうんじゃないかと怖くなって、夜中に泣きながら孤児院の院長に泣きついた。
すると、院長は意地悪でもがめつくも悪人でも無かったので、内々に国王陛下にそれを知らせて、次の日には私は城で働くことになった、と王宮に連れて来られた。
金剛石は、この国では昔から最上位の魔を払う貴石として扱われているもので、位の高い聖職者などの杖にはあしらわれているものらしい。
14歳の胸元を王室の方々の前で晒すのは恥ずかしかったが、それだけ広範囲に、私の鎖骨の下には金剛石が出来上がっていた。人肌のように暖かく、柔らかいのに、何よりも硬く魔を払う貴石。
貴石は転じて奇跡とも言われているとかで、その身体の何れかに貴石を抱いた人、または発現した人を聖女、聖人と呼ぶらしい。
貴石の名前に足して聖女・聖人と呼ばれるもので、金剛のとつく聖女・聖人は、最高位……とは聞いた。王族よりも上の存在だとも。そして、今はそれを隠したいと。
聞いたけれど、まぁ、毎回顔を青くして冷や汗をかきながら私のご機嫌伺いをする陛下の態度でバレないのかな、と私は不思議に思っている。外から見ればただの不細工な下女だ。人目を憚っているとはいえ、誰かに見られたら私が鞭打ちされてしまいそうだ。
飯炊き女のルーシー、寮母のルーシーとして騎士団の面倒を見ながら存在を秘されているのも、聖女として大々的に掲げてしまうと危ないらしい。騎士団の元に居れば万が一にも守ってもらえるし、その騎士団が王宮内部にあるなら尚の事安全だ。
ただ、3年も聖女をやっていればわかってくる。私は、何も危なく無い。この国が、私を奪われたく無いだけだ、と。
洗濯物を終えて各部屋のリネンを新しい物に変え(これも奇跡で一括楽ちんをさせてもらっている)、昼ご飯の支度に取り掛かる。
非番も含めて騎士団は40名からなる大所帯だが、孤児院だって育ち盛りの子が何十人もいる大所帯だった。大きな鍋の取り扱いも、孤児院では考えられないような豪勢な食材も、孤児院時代に工夫して美味しく食べさせていた事を思えば材料がいいのだから楽な物である。
昼用に運ばれてきているのは、ベーコンの塊にとうもろこし、葉物野菜とトマト、卵が20個。芋とブロッコリー、人数分には多いようなパンと、ゴーダチーズの塊だ。
昼の時間まであと2時間ある。料理だけは奇跡を使わずに手ずから作る方が好評だ。
エプロンと三角巾をつけた私は、さっそく芋から下拵えに取り掛かった。