表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/22

15 ずっと貴女が好きでした(※ガウェイン視点)

 14歳の少女は何もしらないような顔で、それでいて何もかも受け入れた顔で、酷い化粧……だと思うが、それと眼鏡で顔を誤魔化してきょとんと騎士団の男たちの前に立った。


「本日より兵舎で皆さんのお世話を仰せつかったルーシーです。よろしくお願いします」


 別におどおどした態度でも無い。襟のあるキチンとした服を一番上までボタンを留めてあるが、あまり服を持っていないのかいつも似たようなものを着ている。


 生地が薄くなってくるとつぎはぎをして、成長期だろうから次の服が支給されるまでその服を着る。


 やたら目を引く、なんだか気になる、そんなつもりでいたが、周りは真逆だった。


 『飯炊き女』とか『飯炊きさん』とか呼んでいる。私と騎士団長だけが、彼女を『ルーシー』と呼んだ。男所帯に醜女の化粧をしたとしても、ここまで若い女性に無関心でいられるものだろうかと首を傾げた。


 そもそも最初から違和感だらけではあった。


 これまで兵舎の世話をするのに王宮の侍女が交代で10人体制でやっていた仕事を、いきなり14歳の少女が何の引き継ぎも無しに手際よく1人でこなす。たまの休みにはまた侍女たちが押し寄せて、仲間たちは誰が可愛いだのと話したりしている。


 誰もその事に違和感を抱かない。侍女用のお手洗いはあったが、女性用の風呂も無い。彼女は兵舎で暮らしていたから最後に残り湯を使っていたが、風呂場はいつもピカピカに綺麗で、お湯も綺麗な温かいものが沸かされている。


 侍女たちがいた時より待遇がいいくらいだ。毎日清潔な服にベッド、風呂に、何よりご飯が美味しい。


 彼女は『飯炊き女』と呼ばれるのを嫌がらなかった。もっとずっと大量の仕事をしているのに、全く愚痴もこぼさず、騎士団員の胃袋をがっちりと掴みながら、ふとした時に気配を消してしまう。らしい。


 私は『橄欖の聖人』だからか、彼女がやがて態と気配を薄めている事に気付けた。騎士団長も公爵家の人間で王家に血が近いからだろう。彼女を彼女と認識できるのは、つまり、ある程度神力や魔法に馴染んだ人間だけだ。


 だけれど、彼女が金剛の聖女だという確信は無かった。私が知っている聖人や聖女は貴族や王族と同じ暮らしをするのが当たり前で、結びつかなかったのもある。


 私が気にしてしまうのは、やがて彼女が好きだからだと気付くのにそんなに時間はかからなかった。


 聖女かどうかは関係ない。彼女のひたむきなところや、笑顔でなくとも明るいところ、仕事の手際のよさ。


 ルーシーの元を離れるのは寂しかったが、金剛の聖女は必ず顕現している。私が顕現したのだから、探し出さなければならない。そして、祖国に連れて帰らねばとも。


 全く金剛の聖女というのはすごいもので、私は秘密裏に仲間を集めながら毎晩探し回ったのに、こんなに近くにいた。


 憤りもあった。彼女は、こんな扱いを受けるような存在ではない。冷戦の最中だとしても、これまで何度も祖国からこの国に聖人や聖女を派遣して浄化をしていたというのに、国王は彼女が国を出ることを嫌って許さなかった。


 そして下女のように扱う。全く、見つけられたのは幸運でしかない。


 彼女が本気で存在感を薄めた時には周りの人間は彼女にまつわる記憶まで無くしかけていた。それ程強力に自分を消すのは流石に危ないと思ったのか、それはすぐに治ったが。


 私の好きなルーシーが『金剛の聖女』だと知って、私は無意識に跪いた。


 彼女に助けて貰わなければ、もう国は滅びる一歩手前であったし、彼女を連れて帰って大事にできる事に安堵もした。


 ……まったく、私の好きな人は、聖女としての役割を果たした後も『飯炊き女』をやめはしなかったけれど。


 そこも、私が彼女を好きな理由かもしれない。


 全てが落ち着くまでこの気持ちは隠しておかなければと思うが、今自分の胸元で眠る彼女の顔を見ていると、その細い体や手脚で逞しく生きる彼女への愛しさが溢れてくる。


「おやすみ、ルーシー」


 だから、そっと。寝ている前髪の上から唇だけを寄せさせて欲しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ