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14 『金剛の聖女』と『橄欖の聖人』

「せいいき……って、なんですか?」


 移動中の馬車の中で、私たちの護衛をしてくれている騎士団長と茶髪の騎士さんは眠っている。今は夜、強行軍にも疲れが出る頃だろう。私とガウェイン様は、何故かあまり疲れを感じていないけれど。


「聖女と聖人の暮らす土地ですね。王国なので全ての権限は王家にあります。聖女や聖人は何不自由ない暮らしを約束され、いわゆるシンボルとして国王よりも上の存在として在ります。こういった、国の危機に民草を救う、それが使命である故に、です。この国には何十人という聖人や聖女がいて、それぞれ子を設けることもあれば、独り身で過ごす人、愛する人が市井にいてその方を聖域に招き子を設ける人と様々です。私は、橄欖の聖女と一般人の間に生まれた聖人となります」


 一体、その人達は何をして過ごすのだろう。瘴気が濃くなった時に顕現して、そのまま聖域で生まれ育ち、祈り、瘴気を祓って……普段は暇じゃないんだろうか。


 それならまだ、私は下女のように働いている方がマシだと思えてしまう。


「貴女の考えていることも分かりますよ。何をして過ごすのだろう……、基本的には顕現する前の子供は自由に教育を受け、貴族の子のように育てられます。そして……貴女は金剛の聖女が産んですぐ、母上を亡くされました。その時の産婆が殺され、聖域より貴女は盗み出され……、そういった者を調べるために、橄欖の聖人になる素質があった私はローリニア王国に派遣されました。聖人として顕現すれば、聖女である貴女と引き合うからです。聖人と聖女は、国で最も大事にされる存在であるがために、国の為に最も尽くす存在でもあります。私は、そう教わって育ちました」


 では、ガウェイン様はお父さんとお母さんと引き離されて、敵地であるローリニア王国に一人やってきたというのか。


 私は……実の親が亡くなっているという事実は、そんなにショックではなかった。元から孤児院で育ったのだし、そうかもしれないし、捨てられたのかもしれないと思っていたから、そこは別にあまり強いショックを受けはしなかった。


 ただ、私を攫う為に殺された人がいた事や、ガウェイン様の人生を狂わせてしまった事、そっちの方がよほどショックだった。

 

 思わず瞳から涙が垂れる。私に泣く資格などないのに、おこがましいのに、袖で拭っても拭っても垂れて来る。


「わ、たし、なんと言っていいのか……ごめんなさい、……ごめんなさい、ごめん、なさい」


「謝らないで。貴女に悪い所がどこかありますか?」


「……分からないけれど、私のせいで、色々と悪い事が起こったのは確かです」


 ほろ苦く笑ったガウェイン様の瞳は、月光の下でもやはり青か緑か判別の付かない不思議な色をしている。これが、橄欖石の色だとしたら、きっと綺麗な石に違いない。


「ルーシー様。見つけるのが遅れて、本当に申し訳ない。貴女に甘えて今は聖域ではなく、国内各地を回っているけれど、貴女の知恵のお陰で助かっている者は多い。冒険者と農民や市民では価値観が違う。魔物が食べられると言っても信じない者もいただろうし、冒険者たちは耐性があっても魔物のわずかな毒で苦しむ市民もいたかもしれない。貴女は、貧しい孤児院で育った故の知識と、騎士団で我々の面倒を見続けてくれたが故の料理の腕を併せ持った、素晴らしい聖女だ。……貴女のことは、かならず聖域まで守り抜きます。もう少しだけ、我が国を助けてください」


 私の手を取って誓うように甲に口付けるガウェイン様から目が離せないまま、言われたことに私はただ、頷いた。


 その行動の意味を理解はできなかったけれど、ショックを受けた以上に心臓が高鳴って、何も考えられなくなってしまったのだ。


 少し眠りましょう、と言われて、私は彼の肩に寄りかかるようにして目を閉じた。


 睡魔はすぐにやってきた。

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