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第四話:生贄令嬢はキッチリ「慰謝料」をいただいていく


「…………慰謝料……ねぇ……」


 皆が寝静まる夜中……(わたくし)は公爵邸の宝物庫におりました。貞蓮(ていれん)の記憶が、「婚約破棄と虐待に近い育成環境に対する慰謝料と、今までしてきた分の仕事のお給料を貰うべき!!!!」と主張するんですもの……。

 公爵邸の宝物庫、入り口や窓からの侵入を防止する魔法がかけられているのですけど……室内に直接転移してしまえば、それらの防御も無駄、ですわね。

 私、スキルは使えなかった身ですけれど、魔力は豊富にありましたの。おかげで、魔法は人並み以上に使えるようになりましたわ。

 おかげで、短距離とはいえ転移の魔法や、生半可な魔力では構築が難しい無限収納の魔法が使えますのよ。

 ……まぁ、魔力の多少も大事ですけれど、神の祝福である「スキル」に重きが置かれがちなこの国では、あまり意味のないことではありましたけど……。


「…………なんだか、今までの私の扱いを思い出したら、このくらい貰って当然……という気がしますわね。これからを生き延びるためにも……!」


 宝物庫の中は、お金だけでなくヴァイエリンツ公爵家に代々伝わる宝石や装身具、武器・防具などなど……ありとあらゆる「宝物」で埋め尽くされていた。「宝物庫」という文字通りですわね。

 それにしても、暗視の魔法のお陰で、灯りがなくても周囲が見える……というのは便利ですわ。ついでに、外に音が漏れないよう、「防音」の魔法をかけておかないと……!

 山のような収集物に手あたり次第「鑑定」の魔法をかけて、価値のある宝石や宝飾品をそれなりに。それと、金貨を2袋。型の古い……でも、装飾に宝石がふんだんに使われたドレスを「無限収納」に詰めていく。

 これだけ頂いても、パッと見ただけでは無くなったことにも気付かないんじゃないかしら?

 そのくらい物が溢れていますのよ、この宝物庫……。

 本当に、私の魔力が豊富でよかったわ。そうじゃないと、こんなに便利な無限収納を構築できなかったでしょうから。

 そうそう。宛がわれていた私室の家具も収納していきましょう。何かの役に立つかもしれないし。

 ――……そう。貞蓮の記憶を取り戻した私の頭に、ふと延命のアイディアが思い浮かびましたのよ……!

 名付けて「千夜一夜計画」!

 美味しいものをお取り寄せして、黒竜を……邪竜を餌付けしてしまおう……という感じですわ!

 え? 生贄になることから逃げたりしないのか、って?

 私が逃げたら、また別の娘が生贄に選ばれてしまいますもの……それは、その娘が気の毒でしょう?

 私なら少しは足掻けそうなスキルを持っていますし、多少なりとも生存率は上がるのではなくて?


「まぁ、この計画も上手くいくとは限りませんけど、何もしないよりはマシですものね」


 最後に手に取ったお母様の形見の指輪とドレスとを収納し、私はほっと溜息をつきながら防音の魔法を解いた。あとは黙って部屋に戻るだけ……。

 目を瞑って魔力を集中させて…………次に目を開けば殺風景な私室の中に立っていた。

 宝物庫の煌びやかさを見たあとでは、ずいぶんと質素に……もっと言えば貧相に感じてしまう。


「……本当に、私の扱いを如実に表した部屋ですこと……!」


 フカフカとは言い難いものの、それでもまぁ寝られないわけではない硬さの寝台に身を横たえた。ギシギシと軋む寝台は、どう考えても公爵家の令嬢の家具には相応しい気がしませんわね。

 ……先ほどまでの私なら、「役立たず」にはこれだって十分贅沢品だと思っていたんでしょうけど……今ならそれもどうかと思えますわ……。

 「それだけの魔力があるなら、黙っていないでやり返してやればよかったじゃないか!」

 目を瞑った私の脳裏に、誰かの声が木霊する。

 ……そう言われるのは尤もなことですわ。私も、もし機会があるのでしたら昔の私に言ってやりたい言葉ですもの!

 …………でも、昔の私は……お母様を亡くした私は、自分を押し殺してでもお父様の愛情がほしかった……!

 「良い子」にしていれば褒めてもらえるのではないかと……愛してもらえるのではないかと思っていましたのよ……。


 思い返せば、お爺様と亡くなったお母様だけでしたわね……私を気にかけてくれたのは……。


 え? 今はどうかって?

 私、家族に愛を求めるのはもうやめましたの。期待しても無駄な人間というのは、どこにでもいるものですわ。

 せいぜい家族ごっこを楽しめばいいと……心からそう思っておりますの。

 私は私で、私の思うままに生きていきますわ……!


「……そうだわ……! お爺様に今回のことをお知らせしておかないと……!!」


 うとうとと眠ってしまいそうになった私の脳裏に、まだやり残していたことが思い浮かぶ。

 幸い、愛用の紙とペンは先ほどの無限収納にいくつか在庫が入っている。慌てて跳ね起きて、若干ガタつくライティングデスクで急いで手紙をしたためた。

 まずは、今まで育ててくださったことに対する最大限のお礼と、とうとうスキルを行使できるようになったこと。

 そして、今回の婚約破棄と花贈りの「花」に選ばれたことの顛末を、なるだけ事細かに書き記す。

 きっとお父様のことだから、お爺様には何も伝えてはいないのだろう。

 今夜この手紙を送ったところで、お爺様が止めようとしてもきっと間に合わない。

 それでも、きちんと伝えておきたかった。

 今思えば、お爺様が私を気遣ってくださったことが、どんなに嬉しかったか。

 私自身を見てくださったことで、どれだけ心が温かくなったか。

 家族から……お父様から愛されないことを嘆くばかりで、お爺様の愛情を上手く受け止められなかった孫娘でごめんなさい。

 その罪滅ぼしではないけれど、私は邪竜の許へ行ってまいります。

 これ以上、哀しい生贄(ぎせい)を出さなくて済むように、邪竜を手懐けてきたいと思います!


 魔力を込めた手紙を空に飛ばせば、それは闇夜に浮かぶ白い鳥の姿となって王都へと飛んでいく。


 だからお爺様、悲しんだりはなさらないで?

 私、頑張って足掻いてみたいと思いますわ!


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