勝利の未来を信じて
九月に入り、街は通常運転を始めた。
そんな平日の午後三時頃、喫茶店未来を、公安の二人、山と響が訪れた。
アリスの方から呼んだのだ。
店の扉には臨時休業と掲示されている。
二人がメグに案内されてテーブルに付くと、すぐにアリスが出てきて迎えた。
「コーヒーでいいかしら? ちなみに、禁煙です」
「ああ、アイスで頼む」
少しがっかりした様な顔で山が答える。
「わたしも、同じでお願いします」
少し待つと、二人の前にメグがアイスコーヒーを置き、奥に戻った。
その優雅なしぐさを、二人が目で追ったのは仕方の無いことだろう。
「美しいな」
山は、メグを見送った後にぽつりと漏らす。
「オヤジめ」
響が、罵る様に言い放つ。
「彼女は、アンドロイドよ。 美しく作られているの」
アリスは、いきなり秘密を暴露した。
「え?」
響きは驚いた様に、条件反射でメグの戻った方を見た。
「ここは、そういう事にして話を続けてくれ」
山は、その事実は特に重要では無いと判断した様だ。
「わたしは、ここを離れるの。
そこで、その御歳で独身の山さんにお願いがあります。
この二人をあなたの養子にしてください」
写真を見せながら言う。
「学校に行かせてあげたいから」
山と目を合わせてから続ける。
「あなたの事は調査済みよ、手続きはこちらでしますので、ご了承をいただきたいです」
「条件は?」
山は、表情を変えずに聞く。ただ、ここは、話の先が聞きたいのか、質問で答えた。
「このマンションに住んでいただけます。
光熱費、通信費、家での食費、ビールなどもこちら持ちで。あと、たばこは、自室だけ可ですけど。
そして、この人の正体を教えます」
兵馬の写真を指さして言う。
「さらに、家事全般はこの娘がやります」
今度はメグを指す。 だが、写真に写る姿は、金髪碧眼では無い、黒髪黒瞳になっている。美しさはそのままだが。
「付け足すと、金髪はかつらなの。悪しからず」
「それは残念だ。 ところで、あなたの正体は教えてもらえんのか? どうもその容姿が気になってな」
「山さん、ロリコンだったの? そして、金髪好き?」
響きが素でツッコミを入れる。
「そうじゃない、見た目と違いすぎるだろ」
「宇宙人ということではだめですか? 地球の味方の」
アンジェリカの正体がばれている以上、それに乗っかる方が楽だ。
「ほう。 それに類する者ってことか、いいだろう」
「ありがとうございます。 では、彼の正体ですが、なんと……」
アリスは、大げさな手ぶりで演出する。
「なんと?」
「江戸時代からタイムスリップしてきたお侍さんです?」
「は?」
「嘘じゃ無いですよ。 いろいろ教えるのたいへんだったんですから」
「そういう事じゃ無くて」
「正体教えたので、おしまい」
「タイムマシン。 あの少年が本当に作って、侍を連れて来た?」
「正体以外は秘密です」
「おい、それはなんて言うか……」
「彼も教えてくれないと思いますよ、というか良くわかって無い」
「ははは、いいだろう。 興味が出て来た」
山の心の中では、兵馬に絶対聞いてやるとほくそ笑んでるのだろう。
「では、二人をよろしくお願いします」
この後、二人を呼んで引き合わせ、定型の様な挨拶を交わした後、用事があるからと追い返した。
なお、親子開始は明後日からという事にした。
手続きはマザーが細工する事ですぐに完了できるが、山の動きを念のため一日だけ様子見だ。
部屋の内装は、既に元に戻してある。
二人の去ったテーブルには、アリスが一人残った。
目を閉じ、思案を始めた様だ。
兵馬とメグの役目は秀太の傍にいるアンジェリカの見張りだ。
アリスは、アンジェリカを知らなかった。 マザーと博士に聞いても記憶されていないと言う。
だが、彼女の存在は大きすぎるはずだ。 必ず、なにかしらの影響を与えているはず。
先日感じた既視感、博士の言った三人、記憶の操作は確実にあるだろう。
味方だったとしても、こちらに引き込むのも危険だ。秀太に近すぎる。
それに、兵馬とメグを、できれば自由にさせてあげたい。
アリスは、その時、ふと気付いた。 自分を送り出した者達の思いに。 いや、理屈では分かっていた。実感して、あらためて伝わったのだ。 いろいろな思いがこみ上げて来た。
「ああ、そういう事なのね。 ごめんなさい、博士、マザー。
そして、ありがとう。
ほんと、涙機能オフにしたい……」
感情情報は、マザーに知られてしまうのだ。
「今は、情報共有は遮断しておきます」
マザーが答える。
「……できない……はずよね」
アリスは、泣きながら答える。
マザーの返事は無かった。
アリスと武蔵、カナ、起動できた数人のアンドロイドたちは宇宙船で待つことになった。
その後に何が起こるのか?
だから、残る兵馬とメグが『見て』行くのだ。
その為には、二人は秀太の近くに居る必要がある。 そういう事にして、年齢的には高校生だし、同じ学校に転入させる。中高一貫校なのだ。
過去から来た兵馬は問題無いが、将来、秀太に作られるメグは、秀太に近づく可能性が高くなるため、姿を変える必要があった。黒髪、黒瞳はそのためだ。
喫茶店の方は、アーノルドをオーナーとし、グリーン系一体を店員として、容姿等現在調整中だ。
サリミナにもバックヤードを手伝ってもらうことになった。
博士、マザー、レッド、ファントムには、別な役目があるのだ。
その日の夕刻、喫茶店未来に、次の客が訪れた。
店の扉を同行者が開けると、白髪混じりの紳士風の男が入って来た。
打診されたのは昨日だが、タイミング的に都合がよかった事もあり、即応じた。
相手は、米軍の将校。 調査が目的だろうが、話す機会が得られれば問題無い。
アリスの目的は交渉なのだ。
マグナムは、予め待っていたアリスのテーブルに将校を誘導する。そのまま、アリスの後ろに立つ。
すぐに、店の制服姿のサリミナが、緑茶の入った湯呑と水の入ったグラスを二人の前に置く。マグナムは、アリスから離れる事はできないため、サリミナにお願いした。
サリミナが下がったところで、アリスは話始めた。
「はじめまして、アリスと申します。
お忙しいところご足労いただきましてありがとうございます」
アリスは、立ち上がり、お辞儀してから挨拶の言葉を述べた。
アリスは、青と白のエプロンドレス、大きなリボン、まさにアリスのイメージの装いであり、子供というよりも人形と表現できた。
後方に立つマグナムは、今日はスカートの長いクラッシックメイドの衣装であり、アリスのお嬢様度を増すアクセントだ。
馬鹿にしているのでは無い、常識的な場で無い演出の一つだ。
将校は、一瞬戸惑いの表情を見せてから応じた。
「こちらこそ、お忙しいところお時間をいただき、ありがとうございます。
それから、たいへん申し訳無いが、名乗りはお許しいただきたい」
「かまいませんわ。 どうぞ」
アリスは、椅子を示して着席を促す。
「失礼する。 この者は、立ったままでよろしいかな?」
「それも、かまいませんわ。 ただ、彼には耳栓をしてもらってもいいかしら? 武器は持っていただいてもいいですので」
「他には?」
護衛の男が、マグナムに渡された耳栓をしたところで、アリスは話始めた。
「無いわ。 わたしは、いちおうアメリカ人よ」
口の動きと音声は別だった。 護衛の者に読唇されない様にだ。
「あなたは、地球人なのか?」
「そう、いちおう。 でも、詳しくは話の中で」
「わたしは、ある少年に会いにこの街へ来る事にした。 すると、ついでと言ってはたいへん失礼だが、急遽、貴行らと話をする様に指示された。
だが、もしかすると、あなた方に会う事こそ必要なのか」
自問する将校に、その答えを教えるかの様にアリスは言葉を続けた。
「あなた、覚悟はありますか?」
「覚悟とは? 俺を殺すのか?」
「話を聞いた瞬間、あなたも必然的にこちら側になる」
「裏切れと?」
「敵味方とかでは無くて、立場かな、そうなっちゃうの。
ちなみに、少年には会わずに帰ると思います」
「では、先に少年に会ってからでもよろしいか?」
「そうしてもいいのですけど、話を聞けば、会わなくても良いって思うわ」
「宣戦布告したのは彼からだが……」
「あなた方に対してでは無いですよね?」
「言葉はそうだが、我々はそう取れない……、だが、いいだろう、立場のみ主張しても話が進まない」
「よかった。 できれば、彼はそっとしておいて欲しいから」
「それに、貴行らから、彼の事も聞けるのであれば問題無い」
アリスは頷いた。
「わたしは未来から来たの、年齢は実はけっこう行ってます」
「彼が作るのか、タイムマシンを」
「ええ。 やっぱり話が早いわね」
「先日の中継を見た。 その話は、はっきり言って眼中に無かったが、話が繋がるのか」
「ええ、繋がるのよ。 そして、それを事実として聞いた今、あなたは、こちら側になったの」
「どういうことだ?」
「どう扱うかはあなた次第だけど、タイムマシンが来た以上、そこまでの運命は決してるから、
彼のじゃまをしたり、これから話す未来を、少しでも変えようと動けば、必ず阻止される。
その身に何が起こるかわからない。
例えば、彼を殺そうとしても、彼の生存は約束されてるから、そうならない何かが起きる。転んで怪我するとか、交通渋滞に巻き込まれるとかなら可愛いけど、雷に打たれるとか、飛行機事故に巻き込まれるとか、誰が巻き込まれるかもわからない、発生確率なんか無視のアクシデントが襲うかも。 そうだ、アンジェリカ、えと、あの強い少女が彼の傍に居る事実は説得力あるでしょ」
「そういうことか」
「もちろん、信じて無くても同じだからお気を付けを。
だから、あなたが信じられるように、いろいろ教えます。
まぁ、既にいろいろ知ってるあなたには説明し易いけど」
「本題かな」
「そういうことです」
「お伺いしよう」
「遠い将来、宇宙人、あなた方の知ってる者達が地球を侵略します。
その時に、地球人の半数が殺されます。
これは、結果なので絶対に止められません。
でも、反抗するために私たちは来ました」
「やはり、やつらは敵なのか……実際、特に敵対的には見えず、むしろ恩恵の方が大きい」
「その恩恵は、彼らにとって問題無いものだけでしょう。
そして、『やはり』と言う事は、疑念はあったのですね」
「我々に有利な条件ばかりだったからな。
技術供与だけでなく、テロリストの殲滅まで請け負ってくれた。
強者ゆえの行動と決めつけていたところはあるが、誰だって裏を考える。
だが、それなら、なぜすぐに侵略しなかった?」
「向こうも、内情はいろいろあるみたいよ」
「味方も居ると……それは、あなた方では無い?」
「ええ、違うわ。
そして、あの少女ですけど、
我々との戦闘で制御装置が壊れて正気に戻り、傷付き倒れているところを少年に助けられた。
だから、彼を主として守る戦いをすると宣言したそうです」
「オポスに勝てるあなた達の戦力は、如何ほどなのか?」
「あの時は、運も含めてぎりぎり勝てたレベルです」
「あの時は?」
「ええ、『あの時は』です。
ここまでで、目的は達してますよね?」
「あらたな疑問は沸くが、当初の目的は確かに済む」
その後、未来の姿を説明し、交渉へと移行する。
「そこで、お願いです。
こちらの提供する技術を使って、未来で反撃するための準備をするのに協力して下さい。
誰にも気付かれずに、いえ、あなたの判断で誰かを巻き込んでかまいません。
具体的には、どこかに広い土地を用意していただくのと資材の調達。
作業は、地下に施設を作るとこからこちらで行います。
そして費用は、これから作る財団が持ちます。
その財団にもいろいろな手が及ばない様に手配をいただきたい」
「断ったら?」
「かまいませんよ。 別な方を探します。 強要する理由も口を封じる必要も無いので……
言った様に、あなたは、既にこちら側ですので」
「確かに……だが、わたしにそれほどの力があるだろうか」
「アドバイスとしては酷いですけど、敵の事を知ってる人たちは、巻き込んじゃっていいんじゃないですかね?」
「皆で、手を抜いて、負ける未来を作れとも聞こえる」
「実際、そうなんですよね。 わたしも苦しいのですが、他に方法が無いの。
数十億の人達が命を落とすのを見て来た者としてのお願いです。
犠牲になる人達の命が無駄にならない様に、それ以上の犠牲が出ない様に、そして壊れそうな人々の心を救って欲しい」
アリスの目が涙に霞む、そして言葉を続ける。
「未来の者のために犠牲になるのは、過去の者の役目だと思いませんか?」
無責任な言い様だが、決して変らない事実であるからこそ、失われる命を無駄にしたく無い思いなのだ。
「……そうだな、自分の子供や孫の為になるのなら……と、皆考えるか……
だが、重すぎる」
人類の運命を背負えと言われてるのである。
「彼女をサポートに付けるわ。 未来から連れて来たアンドロイドよ」
後方に立つ、マグナムを示す。
米軍との戦いの際の容姿はメグだったが、今は違う。現存するアメリカ人を参考に造形し直した。
「彼女は戦闘用なのか?」
「今の彼女には、あの時の者ほどの戦闘力は無いわ。ただ、人間を凌駕する能力は有している。
こちらの、まぁ、メインコンピュータとつながって、いろいろとお手伝いします。
そして、女の子としても完璧よ。 メイドとして使っても全然オーケー」
「その技術に触れられるなら、たとえ監視役だとしても構わんくらいだ」
「監視は必要無いと思っています。 それでも、あなたが約束を守ってくれるまで、あなた自身を守らないと、こちらも困りますので。
だから、盗聴とか録画とかの機能は切ってあるから。プライバシーは絶対守ります。 あ、位置情報だけは、すぐに探せるようになってるか」
「周りの者にどう説明するか……」
「ああ、それは問題かもですね。 どうしよ」
「その時は、SPとして配属できるように仕組んでいただけるか?」
「こちらの事を理解いただけてる様ですね。もちろん、お安い御用よ」
将校は、本気で言った訳では無かったのか、軽く返された事に少しだけ驚いた表情をした。
「すまない、もう一つ大事な用があった」
「何についてでしょうか?」
「あの青年についてだ」
「うちの主戦力です。 実は、意図的に話に出さなかったのだけど」
「こちらへ引き渡していただけないか?」
「それは100%できません。
今や、機密の塊、そして未来への最大の希望、彼の成長が、きっと大きな力となるはず。
だけど、あの武器の使用制限くらいなら、お受けします。 必要な場面が今のところ思いつかないし」
アリスは、兵馬こそ未来を救う鍵だと考えて居る。それは、時を越えた者として、彼だけが、時間の向きに沿っている者だからであり、運命にとってそれは意味がある事象であるはなのだ。
武蔵やアンジェリカとの因縁も、メグとの出会いも、きっと意味を持っている。
「なるほど、それ程とは……そこまで教えていただければ十分です。
ですが、今や、彼が、我々にとっては最も脅威です。
こちらも、監視を付けるなどはさせていただきます」
「それは、構いませんよ。 彼はとてもやさしいので、そこに付け込まないのであれば」
「ふむ……あと一つ聞いてもよろしいか?」
「何かしら?」
「宮本武蔵、佐々木小次郎……オポスの者から名前が挙がっていた。
彼らを『本物』と仮定して聞くが、他にも居るのか?」
「そうらしいけど、わたしも詳しくは知らないの。
そちらも、知らないって事ね。
彼らのスペックから、何かしらの偉業に関わってる可能性はあるかもだから、歴史的に怪しい話には関係してそうよね」
「そうか、ありがとう。
最後に、先日はたいへん申し訳無い事をした。部隊は別だが、国を代表してお詫びする」
将校は、頭を下げていた。
「頭を上げてください。 こちらは、全ての障害は、時を超えた代償と思ってるし、オポスには逆らえなかったでしょうから、気にしないで。
でも、謝ってくれたこと、とても嬉しいわ」
本当にうれしく思うアリスは、天使の微笑で返す。
「そちらの申し出、ノーと言う返事はできないと思うが、少しだけ検討したい。
わたしは、今はどちらも選べ無い。 臆病者だと笑ってくれ」
「わたしは、期待しています。
あなたが、ここに来てくれたこと、わたしと話をしてくれたこと、それらはもう未来に繋がったのだから」
「プレッシャーをかけるのがお上手だ」
「それでは、良いお返事を待っています」
アリスは、将校を見送ると、人形の様に椅子にもたれかかった。
「ふぅ」
と、ため息を付いてから立ち上がる。
「武蔵のところに行って来るわ」
そう声をかけて店を出た。マグナムが付き沿うが、既にメイド服は着替えていた。
宇宙船の件、武蔵からは、すぐに了解を得ていた。
おおよその準備が整ったため、宇宙に上がる日を決める相談に向かったのだ。
なお、小次郎も宇宙船の提供は了承してくれた。だが、本人は地球に残ることを希望したため、そちらにはカナが乗船する。
翌日の夕刻、
堤防の端に立つ武蔵は海を見ていた。
波の穏やかな海へ、赤い夕日が沈もうとしていた。
彼がとても好きな景色だ。後、何度見られるのだろうか。
だが、そんなセンチメンタルだったり、明日も晴れだとか考えてそうには見えないアーノルドの姿であった。
そして、そのままの姿勢で独り言の様に言った。
「十兵衛、来たか」
武蔵の後ろに十四、五くらいの少女が立っていた。
髪は漆黒で高い位置で一つに纏めている。胸は年相応か。
ラフな白のTシャツからは片方の肩が覗き、下着の紐も見えている。
スカートはタイトジーンズのミニだが、ダメージ部分が多いかもしれない。
とはいえ、普通の者で無いことは、武蔵に会いに来た事実以外にも、
アクセサリーとは思えない武骨な眼帯からも想像できた。
それでも、まさか剣豪柳生十兵衛とは言うまい。
「まさか、わたしが呼ばれるとは思って無かったぞ、しかもミャーとは」
最後のは見た目が変わってる事への皮肉だろうか。表情に笑みが含まれている。
「その名で呼ばないでくれよ…………頼みがある」
だが、武蔵は嫌味を聞き流すほどまじめに答えた。
「いいよ、わたしに勝ったらね」
武蔵よりも強いと言う自信を持つ少女とは。
「お前、それは……」
「その体では無理だろうがな」
「わかった、では」
「ん?」
「じゃ~ん、け~ん……」
「おい?」
「ぽん」
ふりむいた武蔵はチョキを出していた。
「何のつもりだ?」
「俺の勝ちだな」
にやりと笑う。
「だから、なんの?」
「じゃんけんだが?」
「まさか」
「お前出さなかったから自動的に俺の勝ち」
「そんなの無しだ」
「じゃ、こっちに勝ち目のない勝負を条件にしたのか? 天下の柳生十兵衛様が」
まさかの柳生十兵衛だった。
「お前が誰か忘れていたよ。
まずは頼みを聞こうか」
「そうかそうか、さすが十兵衛様だ」
「おい、頼みを聞いてから考えさせろと・・・あ」
「そうだ、頼みを聞くと言ったよな」
「来るんじゃなかった」
冷たく答えると、引き返そうとする。
「俺の心臓を守ってくれないか」
「どういうことだ?」
一瞬踵を返そうとした体が止まる。
「よし、話も決まった事だし、ゆっくり話してやろう」
「何が決まったか知らんが、要点だけでいい、わたしは忙しい・・・かもしれない」
「俺の心臓を譲った男を守って欲しい。 できれば鍛えてやってくれ」
「あ~、そういうのめんどくさいから、やだ」
ノーのイメージか両手を武蔵に向けてぶらぶらさせる。
「俺は、数日後に宇宙に出て、しばらく戻って来れない」
「急だな」
「だが、おそらく敵が来る」
「そうなのか? で、敵はどこの星だ?」
少しだけ興味ありげに武蔵を見る。
「事態がいろいろ動いた。 敵は、オポスも地球も含めてどっかだ」
「そんなに敵作るとは、なんて…………そいつが狙われる理由は?」
「この街が有名になってしまったからな」
「ああ、自分から相対する様なやつなのね。 弱いな」
「そういうことだ」
「でも、ちょっとだけ面白そうだな……ちょっとだけだけどな、忙しいし……」
「興味を持ってくれた様だから、もちょっと話を聞いてくれ」
十兵衛がほんの少し嬉しそうな表情でいそいそと堤防に座るのを見て、
武蔵はこれまでのいきさつを最初から話した。
「小次郎、生きてたのか」
「そこかよ」
「しかし、ターの一番か、まったく勝てる気がしないが、仕合ってみたい気はする。 まぁ、味方なら、しゃぁないな」
足をぶらぶらしだした姿は嬉しそうに見える。
「そして、そこかよ」
「それにしても、お前も隅に置けねぇな」
「なんで、そこも?」
「あいつも呼ぼうかな」
「お前に任せる」
「ふむ」
「じゃ、紹介するから付いて来てくれ」
武蔵は、街へ向かって歩きだした。
座ったまま、付いてこようとしない十兵衛に、
「ほらよ」
と、チョコを放った。ひとつ十円のやつだ。
「お」
と言って、受け取った瞬間、もぐもぐしながら包装紙を放る。
「あ」
と言って、数メートル風に飛ばされ海に落ちそうな包装紙を一瞬で追いつき掴んで戻ってきた。
「いけない、いけない」
と、言いながらも口はもぐもぐしていた。
「なにやってんだ、行くぞ」
武蔵はその姿を見て呆れた様に促した。
「おう」
十兵衛は、にこにこ顔で武蔵に包装紙を手渡してから後に付いて歩いた。
「自分で処分しろよ」
武蔵は、文句を言いながらも、渡された包装紙を丸めてポケットにしまった。
「ちなみに、今は十兵衛じゃない、まぁ十兵衛でいいが」
数日後、アリス達は宇宙に居た。
二人、アリスと武蔵は、窓の外をずっと眺めて感慨に耽っている。眼下に見る地球の美しさは永遠に見ていたいくらいだ。
「できることはやったし、後は、時が来るのを待つだけよ、地球に居る者達を信じましょう」
アリスが口を開いた。
「ああ、信じよう」
武蔵は、いつからか窓の外では無く、アリスを見ていた。アリスは、その視線に気づいているからこそ、そちらを向けなかった。
「でも、決定されている日時は、できれば、少しでもゆっくりと来て欲しいわ」
武蔵は、強がるアリスを抱き寄せ、キスしてから言う。
「俺は、あっという間に過ぎそうだ」
「あなた、わたしのこと好きすぎ」
二人は、この後、脳の老化を止める為にコールドスリープに入り、時を待つ。
勝利の未来を信じて……。
二人が眠りに就いた数年後、武蔵の船に連絡が入った。
以前に武蔵と会合を持ったグナ星人の少女からだった。
伝える内容は、グナ星人が滅ぼされたこと。
他の星人への見せしめのためと思われた。
これが、オポスが地球から引いた第一の理由だとはアリス達は知らなかった。
グナ星人は、木星付近に密かにコロニー船を展開していたが、それが全て破壊された。
グナ艦隊は規模としてはオポスの数倍あった。
それでも、オポスの宇宙軍の主力、戦闘用の人型マシーンに手も足も出ずに敗退した。
生体CPUとしてナンバーズを利用する事により単騎の殲滅力が飛躍的に高められており、
グナの自動戦闘機では、全く相手にならなかったのだ。
武蔵がオポスを離れて数百年の年月、知らない兵器が作られていても不思議では無く、
未来の地球は宇宙戦を経験するにも至っていなかった。
地球に残る者達が対処すべきハードルは飛躍的に高くなってしまった。
それでも、越えられる可能性は残っている。
そういう者達が時間を越えて来たのだ。
最後まで、読んで頂けた方、本当にありがとうございます。
そして、いったん完結です。
当初、ここまでの予定でした。
だけど、二期を検討中です。
いろいろ伏線残してあるので。
では、また。
追記(20240321)
二期は、やるとしたら、
博士=秀太と小次郎メインの話になると思います。
タイムマシンを作るまでと、過去の話(秀太と花科は小次郎に助けられてたので)。
後は、占領後のアンジェリカの戦い。
兵馬の十兵衛との特訓。
マグナムがアメリカ将校とともにアメリカで仲良くやってる話とかも。
メグさん達は、侵略されるまではほとんど日常生活レベルのネタしかないかも。
アリスと武蔵は最後あたりに戻ってくるはず。




