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未来への逆襲 サイボーグ少女アリスの戦い  作者: 安田座


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タイムマシンは作っちゃいけない

 夏休みの最終日。 好天に恵まれ、いや今夏最後の酷暑日だ。

 今、ここは戒厳令の街、当然、暑さに関係無く校庭には人の姿は無かった。

 広い校庭でも校舎寄りに置いてある演台に秀太が上る。 校長先生とかが長話をする場所で、だからなのか、校舎の陰になる様に計算されたと思える位置にある。

 そして、秀太がタイムマシンについての配信時に予告した日、八月三十一日だ。

 その姿を見守る様に校庭の隅に立つ女性は、同行してきたアンジェリカ。材質もデザインも嘘っぽいセーラー服だが間違いなく可愛い。

「あの人は、あなたの何なの?」

 アンジェリカに近づいて来たカナが聞く。

「武蔵の妹か。 彼は、命の恩人だ」

 アンジェリカは視線を移さずに応じた。

「あなたを助けられる様には見えないけど」

 まさに、文科系の高校生である秀太は、見た目には頼りなさしか表現できない。

「そうかもな。 だけど、俺は救われた。 制御装置が壊れ自由になった意識は、それまでに犯した罪に押しつぶされそうになっていた。

 だが、何も聞かずに全てを察し、傍に置いてくれた。 そして、生きる目的と居場所、……何より名前をくれた。 俺は、癒された」

「今まで向き合ってきたナンバーズからは想像もしてなかったけど、あなた達も女の子なのよね。 賛同していないとは言え、わたしが言える立場では無いけど、制御装置なんて本当に酷いことを……」

「女とかはどうでもいい。 それよりも、いつか同朋を救いたい。 だが、今は、この星を守ろうと思っている。 ずいぶんと命を奪ったからな。

 それに、あの侍との約束もある」

「兵馬さんね。 今の彼は、復讐なんて考えて無いと思うけど」

「あの男も、戦い続けるのなら、思いの決着は必要になるだろう」

 美女二人が会話を進める中、秀太は演台を一旦降りて、その前にカメラを設置していた。 ネットで中継するのだ。

 その間も、人の気配は一向に無い、呼びかけが無駄だったのか、そもそも見ている者が居たかも怪しいのだが。

 やがて、予定した時間が来た。

 秀太は演台にあらためて上る。配信は既に始めている。

 そして、言葉を発した。

「見てくれている皆さん。

 本当にありがとう。

 皆さまならお察しかと思いますが、俺に会うためにタイムマシンは来ないと思います。

 しかし、見えないどこかで見ているのでないかとも思います。

 そして、俺は、タイムマシンは作っちゃいけないというのが本心です。

 今を、現在を、そして、これから先を、全ての時間が過去とされてしまうのが悔しい。そして人類に申し訳ない。

 でも、それでも、タイムマシンが欲しかった。小さい頃の決意です。

 だから、作れないのもやっぱり悔しいので、使わないけど作ってやろうと思っています。

 もし、どなたか、いつか、同じ道で出合ったら、一緒に頑張らせてください。

 では、あらためて、今日はありがとうございました」

 彼は、人が来ても来なくても良かった。 道筋を作る事が目的なのだ。 だが、そうさせる理由は、この先も彼の胸にしまわれたままだろう。

「さて、続きまして、アメリカ国様お聞きください。

 個人的にやつらへの宣戦布告です。

 ご存じかと思いますが、こちらにはナンバー1が居ます。

 俺の住むこの街を、ついでに日本を守ってくれると言ってます。

 お手数ですがやつらに伝えてください。

 では、解散」

 この時、小数だがネットで見ていた者達の声は、

--「何を言ったんだ今?」

--「アメリカに宣戦布告?」

--「いや、やつらってのに伝言頼んだんじゃ?」

--「やっぱ、アホだったか」

--「まぁ、馬鹿を見れただけでも、見た甲斐はあったかも」

 などなど、皆、つまらない悪ふざけを見た時の様な感想を流していた。

 だが、この日、秀太、いや博士は二つめの戦いを始めたのだ。

 その言葉に最も度肝を抜かれたのは、彼を凡人と評価したカナだった。

「今の何?」

 驚きの表情でアンジェリカに聞く。

「俺も驚いた。 アメリカの話はしてないし、俺はもう戦わないと約束した」

 アンジェリカも内容は聞かされていなかった様だ。そして、嘘に気付かれていたのだ。

「彼は……あんなに若い頃から戦っていたのね」

 カナは、一旦は驚いたが、彼の正体を知るがゆえ、冷静に思考し納得できた。

「今度は、俺に存在意義をくれた」

 アンジェリカは、そうつぶやくと秀太の元へ歩き出した。

 カナは、その優しい横顔を見送ると、最恐の敵であったアンジェリカは、もう、味方であると、信用できると確信していた。



 同刻、校庭が見える高台から秀太を見ている男女が居た。

「こいつ何言ったの?」

 スマホを覗いていた男が言う。今しがた、配信が終わったところだ。

「ああ、わたしも良くわかりません」

 オペラグラスで学校の方を眺めている女性が適当に答える。

 公安の二人、もちろん女性は響、男は山さんだ。

 響は、秀太家に居候後、山さんにアンジェリカの正体を伝え、以降ずっと見張っている。

 ついでに秀太もマークしている。

 その時、校庭の動きと配信に夢中になっていた二人の背後にアリスが現れた。

「こんにちは」

 その澄んだ綺麗な声に振り向く二人だが、目の前に現れたまるで人形の様な容姿は、まったく知らない人物だろう。

「あ……、ああ、どうしたのお嬢さん。 いや、は、はろ~?」

 日本語で話しかけらた事も忘れた様に響が答えた。

「日本語で大丈夫よ」

 アリスは答える。

「そ、そうですか、では、あらためて、どうしました?」

「あなた方、その方の知り合いですか? あ、ごめんなさい、ちょっとお聞きしたいことがあります」

 男の見ているスマホを指さして聞く。 何者かは知っている情報である。 その先を聞くための切っ掛けだ。そして、質問に質問で返してしまった事に気付いて回答を追加したのだ。

「お恥ずかしながら、わたしのいとこです」

 横から、響が答える。

「それでは、こんな遠くで無くお近くへ行かれては?」

「ああ、ちょっと恥ずかしいので……」

「お二人はご夫婦ですか?」

「そんな、まさか~」

 響が身びり手ぶりも付けて強く否定する。

「では、どういう?」

「まて、あなたは何者だ?」

 何かを察した山は、質問で返す。

「お察しの通り、彼女……に近しい者です」

 彼女とは、当然アンジェリカの事だが、近しいの意味は人間では無いことか。

「目的は?」

「やはり、彼女の事を知ってるのですね」

「知ってると言ったら、そちらも答えてくれるか?」

 質問の応酬だ。

「わたしは、アリス。 彼を支持する者です。

 そして、彼女とは敵側に居ました。 でも、助けられた。

 その理由が知りたいのです」

「君は、まさか……」

 山の口元は、人形の様な小さな指先で押さえられた。

「わたしが、お話します。 聞いた事なので、違ってたらごめんなさい」

 山の代わりに、響が応じた。山の言おうとした『まさか』の先はタブーだと理解して。

「かまいません。 お願いします」

「彼女は、傷付き倒れていた時に、あの少年に助けられました。 その恩返しとして傍に居ると」

「それだけなのです?」

「宇宙人とか、制御装置が壊れたとか、中二な話なら……あと、わたしも一緒に住んでますけど、とてもいい娘です」

「なるほど、ありがとうございました」

「待て」

 お礼を言って去ろうとするアリスを山が呼び止めた。その手には拳銃が握られ銃口はアリスに向いていた。

「彼女の方が味方であり、わたしは敵となる……ということかしら?」

「いや、どっちも味方なのだろう。 だが、それを信じる根拠が無い」

「やっと見つけた手掛かり、簡単に返したくない時間稼ぎでしょ? こんな話をわざわざしに来た事が根拠と理解されてるし」

「わかった。 連絡先を教えてくれるか?」

「だいたい喫茶店未来に居るわ。 公安さん」

「あそこか、金髪美人の居る。 ん? 正体もバレてるんじゃねぇか」

「ええ」

「無粋な物を出してすまなかった。 では、お気を付けて」

 山は、銃をしまいながら告げた。

「ぜひ、お客様として来てくださいね。 さようなら」

 歩き出したアリスの前に、ブルーメタリックの車が止まる。

 喫茶店の金髪美人が、運転席から降りて、助手席のドアを開ける。

「どう? ちょっとは、秘密組織っぽい感じ出せたかな?」

 メグに、子供っぽく聞きながら、乗り込む。

 車は、アリスを乗せるとすぐに走り出した。

 そして、すぐに止まった。

「あの二人の映像をお願い。 音声はいいわ」

「はい」

 メグは、校庭の方に目を向けると、秀太の元に花科が近寄ってきた場面に気付いた。

 アリスよりも高性能な画像センサーを持つメグは、自分の視線に捕らえた映像をアリスに共有する。

「二人は本当に仲がいいのね……お義父さん、お義母さん。 メグ、ありがとう、車を出して」

 潤む瞳。本当は、直接会いたい思いがある、だが、可能な限り接触を避けねばならない。

 そして、気になったのは、二人にアンジェリカが加わり三人になった絵に感じる既視感。

「わたしは知っていた?」

 アリスは、無意識の様に独り言をつぶやいた。

 メグは、だまって静かに車を出した。



 秀太が、使った機材をしまい、帰り支度をしていると花科が現れた。

 配信を見て、慌ててやって来たのだ。

「戒厳令なのに、何やってるの」

 花科は、説教ぎみに言う。

「そお~んなの聞いて無い」

 秀太は、あからさまにとぼける。

「嘘つけっ。

 アンジェリカさんも、なんで止めないんですか~」

 隣で我知らずの雰囲気のアンジェリカにも矛先が向く。

「俺は、この男がすることを止める気は無い。 逆に止めようとする者が居ればそれを止める」

「わたしでも?」

「う……、あ、ああ、そうだ」

 ナンバーズ最強が動揺を示すとは、彼女を知る誰が信じよう。

「しかも誰もいないじゃない」

「この暑さだからな。 三時なんて一番暑いかも、朝か夕方にすればよかった」

 秀太は、汗を拭いながら手を動かしている。

「そうだな。 今日は、いつもより暑い」

 即座にフォローするアンジェリカは、秀太とはいいコンビになりつつあるのかも知れない。

「天候の話に逸らすなっ。

 ああもう、この人たちは」

「花科も帰るぞ、帰って反応を確認したい」

 秀太は、花科の言葉など完全に流す。いつもの事だ。

 そして、荷物を受け持とうとするアンジェリカを制しながら歩き出す。

「あ、そうそう、今度の土曜日、隕石探しに行こうぜ、そういうの好きだろ?」

 秀太は花科を誘う。

「この前のなら、山の中じゃないの?」

「俺に任せろ」

 アンジェリカは軽々と車椅子ごと持ち上げて笑顔で言う。

「え?」

 花科は直ぐに断ろうと思ったが、その笑顔を見て、一緒に行きたいと思えた。

「行こうぜ、あまり時間をかけない様にするから」

 秀太も全力で催促する。 この時の秀太は、少しだけ何かをごまかすようにも見えた。

「わかったわよ。 では、アンジェリカさんお願いします」

「ああ、任せてくれ」

「まぁ、いっか」

 花科は、ここへ来た目的を考えると釈然としなかったが、思わぬデートのお誘いに、まんざらでもなく、どうでも良くなっていた。


 一方、米国中央捜査局局長室、

 今日の配信より以前から秀太に感心を持っていた者が居た。

「彼と接触してくれ」

「なぜその様なものをご覧になっているのかも不思議でしたが」

「日本の友路町というのが引っかかってな」

「なるほど」

「先日の蜥蜴人間事件の報告書だが、

 蜥蜴人間の群れに相対した者が数名、

 救援要請をして来た組織の者と、

 別に圧倒的な強さを持つ少女の存在があった。

 少女の見当は付くが、作戦中にロストしたとも聞いた。

 そして、オポス人が去った理由が、どうもその少女を敵に回したく無いという理由ではないかと」

「はまりますね」

「そうだ、彼は少女の情報を持っている」

「わかりました。付近に駐在している者に指示いたします」

「それにしても、この少年。

 先手を打たれてしまった。

 いや、釘を刺された。 と、いうべきか……だが」

 アメリカは、彼女の実力の一端を知っている。それだけでも、現代の兵器で倒せるかどうか不明だった。

 それが日本の戦力に加えられた。合わせて、敵に回る可能性も示されたと解釈したのだろう。

 しかし、少年は、間違いなく彼女の弱味となるはずだ。 当然、うまく利用する術を考える、だが、同時に彼の思惑を知りたかった。

 ふと、前段のタイムマシンの話が気になった。

「いや、やはり、わたしが行く。 身辺調査は進めておけ」

 部下にあらためて指示を出すと、電話を掛けた。


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