表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来への逆襲 サイボーグ少女アリスの戦い  作者: 安田座


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/28

置き土産

 辛くもオポスを退けてから数日、何事も無く時は進み、

 ついに、

 八月三十日。

 火星からの増援の到着が予想される日となった。


 その日の朝早く、武蔵の船にオポスからの通信が入った。

 カナが応じる。

 その通信モニターに映るのは、紫色の長い髪の女性だ。

「久しぶりですねカミョルナ」

「こちらこそと言いたいところですが、あなた達の顔は見たくないです」

 どうやら顔見知りの様だが、カナは厳しい態度で答えた。

「事情が変わりました」

 相手は、カナの態度など気にもかけずにたんたんと続けた。

「事情ですか?」

「1(ワン)がそちらについたのでしょう」

「そうですね」

 未確認な話だが、相手がそう解釈してくれているので遠慮なく肯定した。

「どのみち意味も無くなりましたから、とりあえず引き上げましょう。

 まぁ、あたしたちに時は関係無いのですから」

 やはり、武蔵の死を確認した、もしくはその情報を得ただけで十分ということだろうか。

「そうでしょうね。 でも、それをわたしに伝える意味あります?」

「無いですね。 だから、小次郎に伝えなさい」

「ああ、そういう事ですか」

「あいかわらず生意気な娘。 まぁ、次に来るのは、地球の時間で言うと数十年後ですから、もう会わないかもしれませんね」

「会いたくないですし、わたし、もう逃げますよ。 小次郎さんも連れて行こうかなぁ」

「あの男が、あなた程度について行くとは思えませんけど」

「そのまま返しますよ」

「ふん、我々が去れば、その間にグナあたりが来るかもしれませんから、とっとと逃げればよい」

 グナとは別な星の者を指すのだろう。

「彼らは、好戦的では無いかと」

「地球人は、そうでは無いでしょ?」

「地球側がしかけると?」

「我々が居なくなると考えれば、簡単にわかるでしょう」

「!」

「あと、ラビッシュ達は置いて行きます。 せいぜいがんばって駆除してください」

「え?」

「それともう一つ」

「そんな……」

「プレゼントもあります。そのうち届きますのでお楽しみに」

「いらないです」

「では、お元気で」

「あ、待って、あなたたちの目的は……」

 カナの言葉の途中で通信は切られた。



 アリスは、マンションの一室をオペレーションルームに改装していた。

 監視モニターが複数並んでおり、街の様子などを監視できる。

 もちろんホーム側でレッドが頑張っても居る。

 その時間は、当番制なのか、そこに居たのは武蔵だ。

 画面を、なんとなく眺めていた武蔵が異常に気付いた。

「ちょっと待て、なんだこの数は……」

 合わせる様に、カナから連絡が入る。

「皆さん聞いてください」

「どうした?」

 武蔵が応じる。

「兄さん、さっき、連絡があって……」

 カナの連絡は先ほどのオポスとの会話についてだ。

「そういう事か……」

 武蔵の慌てた声が大きかったのか、アリスが部屋へ入って来た。

「どうかしたの?」

「モニターを見てくれ」

「え? なにこれ? さぼって映画見て……たわけじゃないわよね……」

 驚きの瞳は画面に固定されていた。

「こいつらのことは、ラビッシュと呼んでいる。

 ターのクローンを作るときにできる失敗作だ。比率的には、だいたい、ラビッシュ90%、ソルジャー10%、そしてたまにナンバーズレベルができる。まぁ、百万体作ってナンバーズレベルは三体くらいだが。

 ナンバーズレベルに達しなかったのがソルジャーで使い捨ての戦士になる。心臓がそのままだからナンバーズとの差はさらに大きい。

 で、ラビッシュは兵士にもせずにクローンを作るのに再利用される」

「どうしてそんなにも生を冒涜できるの……」

「それから、さっき、やつらから通信が来たらしい。

 カナが言うには、いったん帰るから、ラビッシュを放棄したと」

「撤退は小次郎さんの予想通りか……でも、この数……」

 画面で見ている分には、浜辺に止めどなく上陸する姿が映っている。

「迷惑な話だが、ソルジャーとかナンバーズを放棄されるよりはましだろう」

「特徴は?」

「あんまり強くは無いが一般人では厳しいだろうな、性能のばらつきがあるから、けっこう強いのも混じってたりするしなぁ。

 あと、見た目でわかると思うが、うろこがあって硬い」

「見た目って、とかげっぽいけど・・・」

「ああ、ターは竜が進化した人なんだ。 だから、培養に失敗すると人の形になれずに、ああいう蜥蜴人間みたいになる」

「鎧とか着せたら、ファンタジー世界のリザードマンって感じ。

 ……彼らも被害者なのよね。なんとか助けられないのかな?」

「やつらは、雑食のうえ知識を入れられて無いから、ほっとくと食欲に任せて人を襲うだろう。

 当然、言葉も理解できないから説得も無理だと思ってくれ」

「そんな……人を食べるって……」

「そして、処置をされていない体では長くは生きられない」

「どうして、そんな酷いことをできるの」

「言い訳だが、クローンには反対している者もいる」

「あなたもなのね」

「ああ。 だが、この状況になれば、見過ごせない」

「でも、私たちが攻撃されてるわけでも無いのに、戦って命を奪う権利があるのかしら。 当事者はアメリカのはずだし、街を守るのは警察とか軍隊の案件よね」

「俺は当事者だ」

「でも、あんたは逃げればいいのにどうして地球人を守る側にいるの?」

「そのために来た。

 そして、今は関係ない人間を襲わせるわけにはいかない」

 その中でもアリスの比重が大きくなった事は口にしない。

「そうね、私たちに出来ることがあるなら・・・出来ないことを言っててもしょうがないか……」

「俺は行く」

 その時、

「あ、あれは……」

 アリスが指さすひとつのモニターに、ラビッシュの群れからいくつもの血しぶきが上がっている画面があった。

 アンジェリカが戦っているのである。

 ものすごい勢いで、ラビッシュ達が倒されるが、上陸してくる数の多さには間に合っていない。

「やはり、俺も行ってくる」

「待って、こちらの方にも来たみたい」

 マンション付近の海岸を映したモニターに上陸してくるラビッシュの群れが映っていた。

「俺と小次郎で向こうの加勢に行くから、こっちはなんとかしてくれるか?」

 いつの間にか、後ろに小次郎が立って居た。

「やつらが帰ったのなら、ここを頑張れば平和な時が来ますね」

 小次郎がアリスの背中を押してくれた。

「わかったわ」

「では、行こうか」

 武蔵は、小次郎に声をかけて部屋を出る。

「武蔵っ」

 アリスが呼び止めた。

「なんだ?」

「あんたは弱いんだから……無茶しないで」

「情けないがそうさせてもらうよ、さっきはかっこいいこと言ったがな。 それに主力の小次郎ががんばってくれるもんな」

「僕も無茶しませんよ、サリミナが待っているのでね」

 アリスの不安げな顔に、そう笑顔で答えた二人は、めずらしく仲良く出て行った。

 見送るアリスは、この二人が無理をする事は止められないと理解していた。

 だから、自分も動く。

「マザー、アメリカ空母にも連絡して協力をお願いしてください。 本来、責任は彼らにあるはずです。

 メグ、侍さんと一緒に向かってください。 とにかく、街へ入られない様に」

 アメリカが動くと殲滅されることは分かっている。 だが、他に方法を思いつかない。

 そして、マンション前の海岸の防護はやはり二人頼みだ。



 アンジェリカは、ラビッシュの群れを相手に孤軍奮闘していた。

 そこに武蔵と小次郎は到着した。

「おい」

 武蔵が声を掛けた。

「誰だ?」

 アンジェリカは声だけで応じた。

「あぁ、えぇと、姿が変わったが武蔵だ」

 そう、見た目がアーノルドなのだ。知る訳が無い。

「わかった、遅かったな」

「あっさりか。 ところで、なんでナンバーズが戦ってる? 共食いだろ」

「俺は、主の居るこの街を守ることにした。 可愛そうだが同族だろうが関係ない。

 それに、ラビッシュはどうせ長くは生きられない。助ける方法も無い」

「主って、お前、反逆じゃないのか?」

「俺は、制御装置が壊れて自由になった。 自由だと思う」

「それで、主を変えたと?」

「そんなとこだが、話は後にしないか」

「了解だ」

「おい」

 なぜか、すぐに、アンジェリカが呼び止めた。

「話は後にするんじゃなかったのか?」

「俺のことは、アンジェリカと呼べ、主にいただいた名前だ」

「そうか、よかったな」

 武蔵はアンジェリカの表情から、そう答えていた。

「ああ」

「じゃ、充てにさせてもらうよ、アンジェリカちゃん」

「ふふ」

「なんか可愛くなっちゃって、どうなってんだ」

「恋だな」

 小次郎は適当につないだ。

「小次郎はそういうことばっか考えてるのな」

「もちろんだ」

「あらら」

「でも、今のお前も似たようなもんだろ」

「そうだな、恋する三連星ってとこか」

「恥ずかしいこと言うなよ」

「それにしても、またなんか変なかっこしてるよな。 アンジェリカちゃん」

 そう、白いワンピースは、まだ普通かもしれない。それに白い羽根も、まだ有りかも知れない。

 だが、猫の耳としっぽが付くと目指すものが見えない。

「似合ってるからいいんじゃないか」

「天使ってやつだろうか、猫分が謎だが・・・」

「うちのサリミナにも似合いそうだ」

「はいはい、うちのね」

 そんな悠長な場合では無い。

 ラビッシュ達も、三人を本能で敵として認識したらしく全てが襲いかかっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ