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未来への逆襲 サイボーグ少女アリスの戦い  作者: 安田座


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21/28

サリミナ無惨

 八月二十一日夜、

 小次郎宅に忍び込む者が居た。

 ベランダ側にあるリビングのサッシが静かにスライドすると、音もさせずに入りこむ。

「何者だ?」

 問うたのは小次郎だ。音では無く、気配に気づいたのか、だが出迎えた姿はパジャマである。

「ナンバーズの姉とでも言っておこうか」

 侵入者が小次郎に向かい合ってから答える。

(「ナンバーズじゃない? 僕を知っていて単騎でか? そして見つかっても逃げない自信、とするとかなりの実力か……」)

 ナンバーズよりも大人びた容貌、一回り大きな体、自分の知るナンバーズとは違うのだろう。

「ナンバーズとは別と言いたいのか? この前、ちょっかい出すんじゃなかった」

 昨日の散歩での件とは関係無い気がした。殺すならあの場で容易だったろうからだ。

「この前? なんのことだ?

 まぁいい、お前の命をいただきに来ただけだからな」

(「確かに、空母の件も、ただの刺客に必要な情報では無いな」)

「そういう話なら武蔵のとこにいけよ」

「わたしの知ったことではない」

 侵入者は襲撃者となって斬りかかる。体の大きさに似合わず速い。

「速い」

 小次郎が驚きを口にする。

 続けざまに両手に小刀を持って素早く斬りつけてくる。

「剣が無ければ手も足も出ずか」

 小次郎もうまくかわすが細かい切り傷が見る見る増えていく。

「くっ」

 その様子をリビング横の寝室でスリープモードのサリミナはカメラにとらえていた。そう主が血みどろに成って行くのを見せつけられていたのだ。それでも小次郎は絶対に起動しないだろう。サリミナは、助けてアリス様、助けてマザー、助けて姉さま……通信機能は切れているため、ただ、願っていた。

 その時、エマージェンシーモードへ移行というメッセージとともに即時起動した。これは、震災、強盗など家族へなんらかの危害の及ぶ可能性のある際の機能である。本来、そのためにモニターやセンサーは生きていたのだ。だが、サリミナは動かない。起きても自分が対処できる相手で無いことは判っている。自分にできる最善を待っているのだ。

「お人形さんごっこが趣味とはね」

 サリミナを見つけた襲撃者が卑劣な笑みを浮かべて言う。

「ああ、そうだよ。だが、もうそんなことはどうでもいい」

 小次郎は、不本意ながらも、ごまかすためにただの人形趣味と肯定する。

「おや? 今顔色が変わったか?」

 サリミナに再度視線を向ける。

「それは、大事な趣味の一品だ、壊されたくないからな」

 襲撃者は、勝手に趣味を深堀する小次郎に違和感を覚えたかもしれない。

「お前を殺したら火を付けるつもりだから、宝物と一緒に逝けるさ、喜びな」

 その時、

「こらっ!!」と可愛い大声がした。

 侵入者を恫喝したのはスリープしていたはずのサリミナだった。

「おい、いいから逃げろっ」

 小次郎はサリミナへ悲鳴の様に叫ぶ。

「逃げます」

 言いながらサリミナは扉の方へ走る。

 しかし、彼女には自分では出られない線がある、エマージェンシーモードでも破れない絶対の壁である。人の命よりも重い未来の機密保持は最優先事項だ。襲撃を想定していたならば逃げるという設定もあったのかもしれないが、残念ながらそうなってはいない。それでも、扉、いや線に向かう、そして線の直前で、

 襲撃者が「ざ~んねん」といいながら、サリミナの胴を横なぎに斬り裂いた。サリミナの小さな体は無残にもあっさりと上下に分かれて転がった。

「これで、ゆっくり相手をできるな」

 小次郎に向き直り、舌なめずりをしながら言う。

「貴様、ゆるさんぞ」

「涙? あの噂の小次郎さんが、ああ、そうか、この人形はお前の嫁だったか?」

 嫌味たっぷりに笑う。

「ああそうだ、おれの嫁だ、最後のな」

 襲撃者は最後の意味を小次郎のあきらめと取っただろう。

 その時、扉の開く音がした。サリミナが上半身だけで手を伸ばして開けたのだ。胴を斬られた際に上半身の転がった位置は、走っていた勢いにより線を越えた先、扉の前であった。

 そして扉から頭が出たところで、

「ねえ……さま」と声をしぼりだしていた。

「まだ動くのかよ」

 襲撃者はサリミナの頭部に向けて止めの剣を降ろした。

 しかし貫かれたのは小次郎の体だ。サリミナの頭部をかばうように覆いかぶさり、その体を抜けたところで剣は止まっていた。

「や……めろ」

「ん? 何をしている? 今、なんか言ったのか?」

 襲撃者は剣に力を入れて押し込む、小次郎で止まっていた剣はサリミナの頭部も貫いた。

「あああ、きさま、許さんぞ……」

「そんなに大事だったのか、冗談かと思ったがほんとに嫁だったのかよ、そいつほっといて、俺に攻撃してればよかったんじゃないのか? ははは、ほんとの馬鹿だな」

 その時、

「おい」

 メグ、いや耳の後ろに角が出ている、マグナムが非常階段に立っていた。下着姿であるのは急いだためか。

(サリミナが破壊されました、回収を)マグナムはすぐに状況を伝える。

 玄関を出ていた襲撃者は、声の方へ向き対峙する。

「誰だい?」

 マグナムへ問う。

 その会話を断ち切る様に怒りの声がした。

「こいつは僕が殺る」

 刀を手に戻った小次郎だった。狂気の表情と血みどろの姿は殺人鬼の側に見える。

「人間では無さそうだな。ふむ、奇襲が失敗となれば、ここまでか」

 襲撃者は、小次郎を無視してそうつぶやくと、ベランダへ走り手すりを足場に海の方へジャンプした。その跳躍力とあわせて、仕込んであったのか背に翼が開き、グライダーの様に海風を掴んで上昇する。

「待て」

 小次郎が叫ぶ。

 だが、マグナムは追い掛けようとする小次郎を制して、

「小次郎殿は、その子と一緒に居なさい」

 そう言って後を追って跳ねる。

「あら、付いてくるの」

 気付いた襲撃者が空中で振り向いてにやりとした。

 マグナムは裸同然、追跡は可能なのだろうか。

「いや、仕留める」

 答えたマグナムが両手を大きく開いたのはバランス調整か、そして目は赤く輝き、胸部が開き、光る。

 そして襲撃者は消えていた。

「追うつもりなどない」

 マグナムは襲撃者の消滅を確認するようにつぶやくと、応急修理で出て来た影響か、ただ力尽きたのか、撃った体勢、大の字のまま海に落ちた。



 扉の前でサリミナの体に縋り付き泣く小次郎。彼にとってサリミナはそれほどの重さとなっていた。

 そこへ駆けつけたアリスは、小次郎とサリミナを見て、一緒に来たレッドに指示を出す。

「急いで部品を集めて、できれば歯車一個残さず」

「生き還るのか?」

 二人に気付いた小次郎が希望の目を向ける。

「ええ、任せて。ただ、100%かどうかは部品次第よ。残念ながらカスタム部品のストックは自信が無いわ」

 そう、サリミナは特注品なのだった。

「頼む、お願いだ、なんでもする」

「落ち着いて、そこまで思いこまなくていいから」

 アリスがさとす。

「本当か」

「だから任せてって、保証期間中よ。 あ、レッド、塵も一緒でいいから箒も使いましょう」

 雑なもの言いだが実際そうなのだろう。なお、レッドは黒髪のかつらをかぶっていた。普段、アリスのロリっ子が大人びた口調を使うのに違和感を覚えていたが、今は大きな頼りがいを感じた。指示を受けたレッドは器用に扉周りの回収を済ませた。大きめの部品は小次郎が集めてきた。

「サーチしましたけど、この辺に残っているものは無いです。わたしは階下や周辺を調べてきます」

 飛び散った部品が無いか可能性のある範囲も捜索するのだ。実際、修理の意味だけではない、この時代に存在しないはずの部品は可能な限り回収したいのだ。

「そうね、とりあえず、これでやってみましょう。

 最重要部品は緩衝材に守られてるから、本気でつぶされない限りは大丈夫。問題は記憶装置だけど、これは運ね。最悪ボディ側のキャッシュのどこか生きてれば戻せる分もあるかもって感じ……。

 できれば元通りにしてあげたいわよね」

「ああ、可能であれば今夜寝る前までの状態でお願いしたい」

「そうね。で、あなたは大丈夫?」

「僕は、もう治りました」

「なんでそんなにまで……あ、話は今度でいいわ、心は重傷そうだしね。 それから、言葉をいろいろ間違ったわ……そう、サリミナを治療します」

 その取り乱し様、本当にやさしい人なのか、過去に何かがあったのかもしれないとアリスは思った。

「報告は朝になるから、それまで寝てなさい。寝てなさいよ」

 今までの小次郎からは想像のつかない不安そうな表情に対して、

「いい、寝るのよ」

 と、強い口調で念押しをしたが、きっと効果は無いのだろう。



 マグナムは、波の中に立ち上がった。体に打ち付ける波も壁にあたるかの様に砕け散る。握られた両拳は怒りなのかもしれない。しばらくすると、背中から放熱フィンが出てきた。熱くなった装備を冷やすためなのだが、ハラハラと広がっていく姿は、まるで翼の様だ。

 羽を広げた天使は月明かりに輝きながら、疲れ切った様に、そのままゆっくりと海岸へ向かう。エネルギー残量も気にせずに撃つのはマグナムの特性なのだろう。

 海岸に上がると、丁度。

「マグナム、平気? こっちは完了したわよ」

 とアリスの連絡を受けた。

「大丈夫です。 お手数ですが、車でお待ちください。急いで向かいます」

 放熱が完了したのか背中のフィンがハラハラと背中に戻り、あわせて耳の後ろの角も収納された。メグに戻ったのだ。そして、防潮堤をジャンプで越え、申し訳程度に設置された監視カメラを避けつつマンションの駐車場へ走った。駐車場はマンションの地下にあり、すでにアリスは助手席に座っていた。

「お疲れさま」

 アリスは、ねぎらいの声をかけつつ用意していたタオルと服をメグに渡す。

「ありがとうございます」

 これからホームへ向かうのだ。ホームには工作室がある。ただ、2シーターのこの車はこういう時には非常に不便だと思い知る。

「回収したサリミナは申し訳ないけどトランクに入ってもらってるわ。ああ、やっぱ車買わないとよね」

「了解しました。暖気運転をしますので、少しお待ちを」

 悲しいかなエンジンの暖気運転が必要とは、実時間では七十年近くたったクラッシックカーであった。

「マザー、ドローンを上げて周囲の警戒範囲を広げてください。グリーンは関係ありそうな部品を工作室へ」

 その間にアリスはホームの者に指示を出す。

「すでにドローンは上げていますが、特に目立った点はありません」

「次の襲撃を想定して動きます。レッド、侍さんも起こして協力要請を、申し訳無いけどとりあえず待機で」

「侍殿は起きてますよ。 待機してもらってましたけど、引き続き待機了解とのことです」

「ありがとう」

「武蔵は、連絡方法がまだ無いのよねぇ。昼は来るからあれだけど」

 独り言をつぶやくアリスは、どうやって連絡先を聞こうか悩んでいたのを後悔していた。

「今はおいといて。 では、行きましょう」

「はい、エンジンもOKです」

 地下駐車場出庫ランプが回ると、ブルーメタリックの車は軽快に出てきた。この年代では、もうほとんど見かけないリトラクタブルライトは、ある意味未来から来たように見えなくも無かった。


 一時間ほど後、アリスたちはホームの工作室に居た。ここには、彼女たちをメンテナンスするための設備もそろっている。

 アリスは、サリミナを治すための操作をしながらマザーに話しかけた。

「小次郎さんがなんで狙われたのかな? この前、居なかった時に何かあったのかも?」

「本人に聞けるタイミングではありますね」

「う~ん、どうしよう。人間関係難しい、それに……」

 アリスは少し黙った後にグリーンを呼んだ。

「グリーン、後お願いできるかな、私は少し休みます」

 そう言って工作室を出た。



 小次郎宅が襲撃されていたころ、武蔵は自分の宇宙船の中に居た。小柄な人間らしきものとテーブルを挟んで話をしている。先日、米軍の後の電車で訪れた少女だ。

「あんたたち、今は手を出さないでくれるか?」

 武蔵の言いようでは、第三の勢力を思わせる。

「意外とたくさん来てるみたいですけど、大丈夫なんですか?」

「ああ、なんかいろいろと想定外で面白い。が、これ以上混乱させたくもない」

「そんな理由ですか」

「あんたらも、まだ動きたく無いのが本音だろ?」

「そうなんですけどね。 ぶっちゃけ、そろそろ僕も何か報告せねばまずいので、とりあえず会談を企画させてもらっただけなんで、かまいませんけど」

「まともっぽい理由が欲しいと」

「そういうことです」

 武蔵は腕を組んだ。イメージに合わないが何か考えているのだろう。

 そして、思いついたのか両手で膝を打ち、

「”武蔵に秘策在り”ではだめか?」

 何それ?と相手が聞き返すと横で聞いていたカナは思った、が、

「ぷっ、秘策って……まぁ、いいでしょう」

(「そんなんで、いいんだ……」カナは呆れた)

「これから、どうするんだ?」

「はい、いったん街を離れようかと思ってます」

「そうか」

「ホテル代も馬鹿にならないもんで」

「お前ら、金もいっぱい持ってそうだがな」

「まぁ、僕は下っ端なんで」

「せちがらいのぉ」

「では、お暇させていただきます」

「ちょっと待っててくれな、船を寄せる」

「お手数かけます」

 堤防の端に二メートル角くらいの大きさで厚さの無い光の四角が現れると、そこから武蔵と妹、そして会談相手の少女が出てきた。宇宙船は見えない状態で、その付近に停泊しているのか、それともお客を下すタイミングで移動してきたのかは不明だ。

「また、時間をおいてから来ますんで、その時はよろしくです。あと、次は顔が変わってないとありがたいです」

「おお、気を付けるよ。また遊びに来てくれ、じゃな」

 そう武蔵は兵馬に心臓を託したのでは無かったか。そのまま死を迎える覚悟の武蔵であったが、アリスが自分同様に脳をアーノルドに換装したのだ。アーノルドの心臓部は現在待機中である。

 笑顔で会談相手を見送る武蔵たちは、その時、空の端で何かが光ったのに気が付いた。マグナムの砲撃である。

「何か……あったかもな」

 笑顔は失われていた。



 アリスはサリミナの修復をグリーンに任せ、寝室へ入りそのままベッドに倒れこんだ。疲労した脳は、思ったよりも眠りに向かわなかった。目を閉じると、その日起こった出来事が浮かんでくる、そして、それが引き金となって、これまでの事が後悔となって押し寄せていた。

「ここまでに、父を救えず、ファントムを失い、ホームも半壊、マグナムだって起動は想定外、メグもサリミナもあそこまで傷つかせて・・・あの人も失うところだった。

 わたしは何一つうまくできていない。

 それどころかみんなをゲームの駒の様に使い捨てにしてる……もう一度やりなおせたら……いや、違う……これからどうすればいいの?」

 涙があふれて来た。

「もうあきらめてもよいのですよ」

 マザーだ。

「そんなことできるわけないでしょう」

「後は、レッドが引き継ぎます」

「頼り無いわたしはいらないってこと?」

「そうです」

「はっきり言うのね」

「ええ、ただ、頼りないのではなく、甘いからです」

「甘い?」

「あの未来を知って来ているのですから、すべてを犠牲にする覚悟が無ければならないのです」

「え……」

「分かっているはずです。ですので、ここまでのあなたは合格点でした」

「……」

「でも」

 マザーにもためらいがあるのか、続きの言葉はしばらく出てこない。

「でも?」

「あなたを送り出したお二人は、あなたに辛い思いをして欲しいと思っていたわけでは無いのです」

「どういうこと?」

「メグに心をという目的であれば、幸せを求めて動かれるでしょう。それはあなたにとっても幸せなのではないかと。まさか、この時代において既に敵の動きが表立ってあること、そして巻き込まれてしまうことは想定外だったのです」

「運命の収束によるいろいろな危機は想定されていたのでは?」

「想定されていたのは、あなたのお父様を救えない可能性のみです」

「甘いのは、お養父様とお養母様じゃないの」

「結果ではそうなりますね。運命は現代の事態を未来に分からない方向に収束されたのでしょう」

「想定外だからわたしは不要なんだ」

「違うのです。あなた様の幸せが第一なのです」

「それで合格点ということか……わたしは犠牲の全ての内に入って無かったから……話が違うじゃない……

 未来を救うためには、全てを……私を含めた全てを犠牲にするのではないの?」

「今後は、争いに関係の無い場所で幸せに生きていただきたいのです」

「どうして。 わたしは幸せを望んでいるわけじゃない。 本気であの未来を救えるならなんでもしてやるって思ってここに居る。 でも、常に誰かを犠牲にして、もっと良い方法があったのではって、どうしていいのか……」

 少し間を置いて、マザーは答えた。少しの間は、その性能においては、どれほどの処理をしたのだろう。

「これまでのあなた様は合格点と申しましたが、大変失礼致しました。 わたくしには与えられた命令のみしか見えておりませんでした。 その涙、言葉は、”人類”の為……

 あなた様のご意志を改めて支持いたします」

「え?」

「ご自分を信じて立ち向かってください、そして、我々が今後も付き従う事をお許しください」

「こんな頼りない自分なのよ?」

「我々はその姿を信じています」

「それじゃ、レッドは?」

 その時問いの対象レッドが割り込む。

「マザーはまどろっこすぎるのよ。アリス様の代わりなんてできる分け無いし」

「え?」

 アリスは、レッドの割り込みに困惑する。

 レッドはそのまま続ける。

「私たちは無条件にアリス様第一だったけど、これからはアリス様の思いを実現することを第一にしますってこと」

「今まで、みんなは……私のためなんて、未来はあきらめていたの?」

「優先順位です。それに想定外ですしね」

「わかったわ、これからは迷わない。 それから、わたしが生き残れば勝ちとか思ってるなら、その考えはあらためてください。 わたしの意志は、確率が低くとも未来を救うこと、たとえわたしが倒れても。

 そのために全員で努力し、考えますよ」

「それが、あなた様のご意志なら」

「言うこと聞かない子は機能停止にしますからね」

「お言葉を刻みます」

「マザーはお母さんだから子供をあまやかし過ぎなのよね。だから今の話で信頼を失わないであげてくださいね」

 レッドが補足した。

「じゃ最初から設定に忠実だったのよね。 でも、だからこそ嘘がある訳では無いし、今の私を信じてくれるなら……あらためて皆を信頼します」

「私にも涙を流す機能が欲しいです」

 マザーは機能があれば嬉し涙を流したことだろう。

「わたしは何度いらないと思ったことか」

「何度も泣かせて申し訳ありません」

「自分で出した結果よ。だから、いつか喜びの涙で使ってやる」

「でも、そのために無茶はしないでくださいませ」

「それにしても、このもやっとするのは、きっとお養父様が最初に絡んでいるからでしょうね」

 アリスの涙は消え、心にあらたな決意が生まれていた。そして、すぐに眠りへと落ちた。

 既に空は白くなりつつあった。長い夜は明けたのだ。


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