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未来への逆襲 サイボーグ少女アリスの戦い  作者: 安田座


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20/28

ナンバーズ無双

 秀太の部屋にナンバーズが入ってきた。秀太のシャツを着ているが、まさに裸ワイシャツ状態だ。

「おはよう……だったか」

 ナンバーズが声をかける。

「おお、おはよう。

 朝飯は、一階のテーブルに置いておいた」

 勉強していた秀太が答えた。

「すまないな、俺もそういうのをできる様になりたいな」

「量を倍にするだけだ、大した手間じゃない」

 一人暮らしの秀太は、当然食事は自分で用意する必要がある。方法はいろいろあるが、自炊も当然できる。

「そうか」

「そういえば、昨日の夜、河原で誰かと話をしてたか?」

「ああ」

「知り合いか?」

「いや、知っている人物ではあるが」

「へぇ」

「宇宙人?」

「そうだな、彼はここに長いが」

「ほう」

「詳しく知りたいのか?」

「いや、ちょっと気になっただけだけどね」

「そうか」

「ちなみに、実はこの街宇宙人だらけ?」

「いや、俺のいた部隊と武蔵ともう一人、そして、昨日のやつが小次郎、それくらいだと思う」

「意外と居るなっと思いつつ、武蔵と小次郎って、本物?」

「本物とは? クローンかということか?」

「あ、いや、ええと、ああ、実は物語の登場人物なんだよ。本当に居たかとか、そこはよく知らない」

「その人物かは知らんが、小次郎は地球時間で数百年は居るはずだ。そして、武蔵はここに来ていたのを俺が一度連れ帰った。だから、本物ということかもな」

「なんですと」

 秀太は変な声とポーズで驚いた。

「どんな物語か今度教えてくれないか」

「いいぞ。 それにしても俺、昨日の人見たことあるような気がする。今度見かけたら、サインお願いしよう」

「どうだろうな、俺を見て、もう他の土地へ逃げたかもしれない」

「うを、お前そんなに嫌われてたのか……って、あ、ごめん、機械のせいだったね」

「かまわない、どういう状態であったにしろ、自分でやったことに対する責任は感じている」

「お前かっこいいな」

「口に出してしまう時点で、弱いと思うがな」

 こんなにも根が正義の者を殺人兵器として扱う者が本当に居るのなら、とんでも無く許せ無いと秀太は思った。

「真面目だなぁ」

「ああ、すまない、勉強の邪魔をしてしまったな」

「いやいや、俺が話をふったから」

「俺は朝食の前にシャワーを浴びさせていただく」

「ああ、好きにしてくれ」

 秀太は、部屋を出て行くナンバーズを見送った。


 そして、彼女との出会いを思い出していた。ホームが襲撃された夜、秀太は傷ついたナンバーズを助けて連れ帰った。

 秀太は、学生の身分でありながら一軒家で一人暮らしをしている。科学者の両親のおかげでこの街では豪邸と呼ばれるほどの家だ。その両親はともに外国に行っており、戻ってくることはほとんどなかった。

 連れ帰ったナンバーズは、異常な速度で回復していた。

 そして、次の日の昼近く、

「ここは、どこだ?」

 秀太のベッドで目覚めたナンバーズが、その横で机に向かって勉強していた秀太に聞く。

「お、目覚めたか。ええと、ここは俺の家だが、”ここはどこ?”ということは、”私は誰?”も追加するか?」

「俺は……」と言って頭を押さえた。

「おいおい、記憶喪失とか、ありがちな展開がほんとに追加できたか、まさか」

「いや、俺が俺になっている」

「なんじゃそりゃ、そして”俺っ娘”?」

「制御装置が無くなっている」

「ほう?」

「そうか、あの爆発で部分的に吹っ飛んだということか」

「ほうほう」

「おおお……」

 両手を見つめて感嘆を漏らし、秀太に向いて言う。

「まずは助けてくれたことに礼を言う、お前の事はかすかに覚えている」

「どういたしましてだ」

「あのまま放置されていれば、捕まっていろいろされていたことだろう、命も無かったかもな」

「ああ、なんとなくわかるかもしれない」

「お前は、どうしてそういう機関に俺を渡さなかった?」

「なんとなくわかるって言ったろ」

「そうか」

「まぁ、元気になってよかったな」

「ああ、本当に助かった」

「日本語うまいな?」

「攻める星で必要な言語は入れられてる」

「入れられてるんだ……」

「だが、知らない単語の方が多いかもしれん」

「そうなんだ。 で、これからどうするんだ?」

「さて、どうしたものか、やる事が無くなった」

「え?」

「俺は、逃亡者を倒しに来た」

「へ?」

「それは、俺の意志ではない、強制されていたのさ」

「ああ」

「だが、制御装置が無くなったから自由になった」

「なるほど」

「決めた」

「はやっ」

「俺は、俺を助けてくれたお前のために生きよう」

「え?」

「目的が欲しい」

「強制が嫌だったんだろ、じゃ、自由に生きればいいじゃん」

「では、何をすればいい?」

「う~ん、あんたみたいな美人さんはモデルとか?」

「意味がわからん」

「うを、お前はまず一般常識から思い出さないとだな」

「お前に任せる」

「わかったよ、目的見つかるまでなら面倒みてやるさ」

「世話になる」

「いいのかなぁ、これって同棲じゃん」

「どうせい? なんにでも、必要なら俺を自由に使ってくれ」

「それって、どういう?」

「言葉の通りだ」

「言葉の通りはやばいだろ」

「お前は何を言っている」

「う~ん」

 秀太は少し頭を抱えて、

「今のは置いといて、ちなみに名前はなんて言うんだ?」

「名前は無い、ター・ナンバーズ1と呼ばれていた」

「なにそれ? 番号で管理されてるみたいな?」

「そうだ、ターというやつのクローンで一番強いということらしい」

「そいつはすごそうだが……ん? クローン?」

「負けたがな」

「逃亡者ってやつにか?」

「いや、竜の様なロボットだ」

「え? なんか、リアルの次元では想像の範囲外になってきたぞ」

「嘘は言っていない」

「そうなんだろうな」

 ナンバーズは部屋の中を見回し、棚に飾ってあるモデルガンを見つけた。44マグナムだ。

「これを借りてもいいか?」

「ああ、構わないよ。弾入ってるから気をつけてな」

「弾が入っているなら都合がいい」

「ん?」

「これを俺に向けて撃ってみてくれ」

 そう言って、手に取っていたモデルガンを秀太に手渡しながら、自分の眉間を指さす。

「そんなことできないよ、人に向けて撃つのは禁止されてるんだ」

「俺は人じゃ無いし、大丈夫だ」

 ものすごく自信満々に言うので、よけられるのだろうと秀太も折れてしまった。

「う~ん、まぁ、ここまでの話を信じるついでだ。ほんとに撃つぞ」

「ああ、来い」

「うちま~す」

 そう言って引き金を引く。

「はにゃ」

 プラスチックの玉を額に受けて、その痛みのためか手で押さえる。

「あ、おい、大丈夫か? てっきりよけるのかと……」

「それは何だ?」

 ちょっと涙目で聞く。

「エアーガンだけど?」

「エアーガン?

 弾丸を打ち出すものでは無いのか?」

「プラスチックの玉っころを空気の力で飛ばすんだ」

 このくらいという感じで人差し指と親指で数ミリサイズを表現して見せる。

「そういうことか、わかった、ではもう一度頼む」

「やだよ。可哀そうだもん」

「俺が可哀そう?」

「女の子の顔にぶつけたなんて、俺一生後悔するぞ」

 ナンバーズがちょっと頬を染めたのは、失敗が恥ずかしかったのか、女の子扱いに照れたのか。

「それはすまない。では、これを撃ってみてくれ」

 そう言って、ベッドのまくらを指さし横に座る。

「これで最後だからな」

「ああ」

「じゃ、うちま~す」

 そう言って撃つと、玉は枕に当たって転がるはずが、消えて無くなっていた。

「ここだ」

 と言ってナンバーズは手を開いて見せた。

「え? つかんだの?」

「ああ、造作も無い」

「ぷっ」

 自慢気な顔は、さっきの姿を思い出すと、逆に笑いがこみあげてきた。

「なぜ、笑う?」

「いや、すごいよ」

「そうか、さっきのは実弾が出ると思っていたが来なかったので、気を抜いてしまった。遅れてくるとはな……」

「実弾でもつかめるの?」

「ああ。 まぁ熱いから、ほとんどの場合は武器ではじくがな」

「それを見せたかったのか」

「そうだ」

 実際そうなのだろうし、最初のエアーガンの玉も、これまでなら造作も無く掴んでいただろう。それほどに、今は気が緩んでいることに本人は気付いていなかった。

「ん~。 強いのはよくわかったから、もうするなよ」

 秀太は、ナンバーズの少し赤くなったおでこに人差し指を当ててから言った。

「お前がそう言うのなら」

「まぁ、武勇伝は、今度、もっと詳しく聞かせてくれ」

「ああ、いつでもかまわない」

「話を戻して、名前を考えよう」

「好きに呼べばいい」

「顔に似合った可愛いのがいいよな」

「お前、俺を可愛いと言うな」少し照れた表情をする。

 秀太はその表情を横目に見ながら、話を逸らす様に元に戻した。

「ター子は間抜けすぎるな」

 これは絶望的なセンスかもしれないが間を繋ぐためと照れ隠しで、思考は別だった。

(いや、クローンと言ったか、それにせっかく自由になったのなら、全く関係無い名前がいいな)

「ああ、じゃ、アンジェリカでどうだ? 特に意味は無いが」

 実は意味はある。見た目もそうだが、第一印象も含めて彼のイメージとしての天使だ。

「かまわない」窓の方に顔を向けて答えた。

「苗字は、俺と同じにして、ハーフの親戚ってことにしよう」

「おい」

「ん?」

「ありがとう」見た目年齢相応の笑みであった。

「お、おお?」

 さっしの悪い秀太でも、彼女が嬉しかったのはよくわかった。

 そして自分もまた少し照れていた。(やべ、やっぱかわいいかも)

 こうして、ナンバーズ最強の戦士、いやアンジェリカはそのまま秀太の家に居候することになった。


 八月二十日、

 秀太の家に、久々の訪問者があった。学校で変人扱いの彼には、家を訪問してくる友人はいない。唯一訪ねて来るのは、幼馴染で同部員のこの少女のみだ。

 門は開きっぱなしで、そのままバリアフリーに改造された玄関先を進み玄関の扉を開けて勝手に入る。

 秀太を呼ぼうと声を出そうとした瞬間、「何者だ」と女性の声がした。

 声の主が廊下の先に立っているのに気付いたのはその時だった。

 視線がそこへ向いた時、頭をタオルで拭きながら全裸で立つ女性であることがわかった。

「もしかして客人か? いらっしゃい」

 この家の住人ですがなにか?と見ず知らずの全裸女が言う。

「き、きゃ~」

 少女は思わず悲鳴を上げてしまう。あまりにも想定外だったのだろう。悲鳴を聞いてか慌てた様に、ガタゴトと音を立てながら秀太が二階から降りて来た。廊下の奥を見てあちゃ~とリアクションして少女に向くが、金縛りの様に固まっている少女を見て、

「あ、あの、その、こ、これは……」

 直ぐに説明文が浮かんで来なかった。

 それを待たずに、

「ごめんなさい」と言って金縛りをやぶった少女は車椅子を翻した。

 秀太も慌てつつとりあえず言葉をかけた。

「待てって、ええと、話を聞かない?」

 少女は止まり、そうっと振り向いて小さく頷いた。

「よし、家に入ろう」

 秀太はそう言って、車いすの手押し用グリップを持つと、手慣れた感じで家の中へと誘導した。玄関入ってすぐの部屋は、土足OKの広いリビングとなっている。両親は外人も来るかもしれないと言って、家を建てる時に、そういう部屋を設けたが、玄関回りもそうだが、この息子の幼馴染に来てもらうことを想定していたに違いない。

 そこに押し込むと、

「ちょっとだけ待っててくれな」

 いそいそと部屋を出て行った。

「え、ええ」

 少女はそれを見送りながら返事を返した。

 しばらく待つと、

「お待たせ」

 と言って、秀太は金髪の美少女を連れて入って来た。当然、服は着ている。

「えと、どなた?」

「拾った」

「え?」

「拾われた」

「え? え?」

「じゃねぇ、とりあえず連れて来てみたが、なんて説明すればいいんだ」

「俺は、こいつに助けられた。その後も世話になっている」

 助け舟を出すかの様にアンジェリカがフォローを入れてくれた。

「そうなんだ」

「そうそう、俺が助けた」

「だから、こいつのためならなんでもすると決めた」

 助け船は黒船だった。

「そんなこと言わんでいい~」

「やっぱり、わたし帰りますね」

「いや、待て、ちょっと考える」

「主よ、この方とはどういった関係だ?」

「あ、あるじ?」

「また、めんどくさくなった……」

「あるじって、も、もしかして、メイドさんをやらせてるとか?」

「おお、その発想は無かった」

「え?」

「あ、いやいや……こいつは、俺の友人だ」

 少女を親指で指しながら、アンジェリカに向いて言う。

「そうか主の友人であれば、失礼はできんな」

「で、なんの話だっけ?」

「その人は誰?」

「え~と、これから、俺の理解している内容を話す」

「はい」

「嘘は絶対に言わない」

「はい」

「お前だから話す」

「は、はい」

「とりあえず、アンジェリカは黙っててくれ」

「ああ」

「さて、話は八月十七日の夜になる……」

 秀太は正直にこれまでの経緯を話した。少女は静かに聞いていた。

「あ、え、え、え……ええと……」

「アンジェリカ、これを」

 そう言って、近くにあった果物ナイフをひょいと投げた。少女があっと声を上げる。

 アンジェリカは、軽く受け取り、

「これをどうすればいい?」

「わるいけど、どこか切ってみてくれる? あんまし痛くないとこ」

「わかった」

 アンジェリカは躊躇無く、腕を少し切って見せた。腕に赤い筋とそこから漏れてくる赤い液体がはっきりとわかる。

「え?」

「ほんと、すまんな」

 秀太はそう言いながら、アンジェリカの腕を伝う血を拭きとった。

「ほらな」

 傷が有る筈の肌には跡形さえも無かった。

「ほんとだ」

「手品じゃないぞ、疑うなら自分で試すのもありだが」

「そ、そんなことできる訳無いじゃない」

「これで、三番目くらいに嘘っぽい話は証明した」

「他も本当なんだ」

「後は、アンジェリカに聞いた話だけど、俺は信じた」

「主よ、今更だが、恐らくその方が気にされているのは、そこでは無いと思う」

「え?」

「あ、ああ、もういいです」

「いや、あなたは主の大事な方の様だ」

「へ?」

「見ていればわかる。 俺は、嘘をつく必要が無い。 できれば、信じて欲しい」

「大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」

「ん? いいの?」

「悪い人じゃ無さそうだし」

「そうだろ」

「だけど……」

「だけど?」

「やっぱ、大丈夫」

「おお」

「で、本題」

 少女は真面目な顔になった。

「本題?」

「用も無しに来たと思ってたの?」

「ああ、そう言えば、何用?」

「一緒に夏休みの宿題をしようと思って来たの」

「ああ、そういう事か、かまわんぞ」

「ふぅ」

 やっと、少女も落ち着けた様だ。

「アンジェリカ、俺たちここで勉強するから」

「わかった」

 そう言ってアンジェリカは部屋を出ていった。

「先に教えておいてくれたらよかったのに」

「いや、あの流れをどうやって先に教えるんだよ」

「それもそうね。でも、理解はしたけど、信じていいものか……宇宙人って……」

 と会話を続けていると、「飲み物を持ってきた、入るぞ」と扉が開きアンジェリカが入ってきた。

 手に持ったトレーには氷の入ったドリンクが二つ乗っていた。

「おかまい……な…く……」

 だが、その恰好に少女は驚いた。

 そして、秀太はもっと驚いていた。

 似合い過ぎるメイド服の金髪美少女がそこに立っていた。

「おま……な…んで?」

「これだろ?」

「そうだが」

「いつものとこにあったから、着てみた」

「どうして、そういう」

「さっき、それっぽく聞こえたが」

 そう言って、アンジェリカは満面の笑みを見せた。

「いや、よりによって今じゃなくても……じゃなくて、着なくていいです」

「やっぱり、そういう仲なのね……」

「あ」

 秀太のCPUは、向いてない処理に追いつけず、ついにフリーズしたのか、呆け顔で動かなくなった。だが、その後、秀太が動かない中、二人の少女は楽しそうに会話し、少女は笑顔で帰って行った。

「良い娘だな」

 アンジェリカは、秀太に向かってほほ笑む。

「お前、いがいと笑うんだな」

 アンジェリカの問いかけに、ようやく動きを再開した秀太は問いかけで答えた。

「そうか? そうかもな」

 笑顔である。

「今は、それで十分だ。彼女とは仲良くしてやってくれ」

「ああ、言われるまでもないがな」

「お前、ほんとに宇宙人なんだよな」

「お前たちの分類ではそうだ」

「そうか」

 宇宙人というくくりは、地球人との対比だが、既に宇宙に出ている知的生命体達にとっては、そんなくくりに意味なんて無いのだろうと思った。

「俺も宇宙人に……」

 秀太は、ぽつりとつぶやいた。



 翌、八月二十一日、

 また、秀太の家に訪問者があった。ただでさえ訪問者の少ない、いや、通販の荷物の配達は茶飯事だが。なんと、そうでは無い訪問者の連日の訪問だ。しかも、またしても女性である。おへそが見えそうで見えない丈の黄色のTシャツに、短くカットされたジーンズ、素足にサンダル履き、背中に迷彩柄の大きめのリュック、手で大きなキャスター付き旅行バックを引いている。玄関の前に立ち、呼び鈴を押す。

 すると、玄関のドアがすぐに開いた。

 髪は水がしたたる程度に濡れ、バスタオルを裸の体に巻いた金髪の少女、アンジェリカだ。

「いらっしゃいませ」

 この家の住人ですが何か?と、訪問者にとっては予想外の美少女が言う。

「あ、ええと、あ、いえ、ええと」

「秀太の知り合いか、中に入って少し待て」

 この家の住人ですが何か?と、また、訪問者の予想外の美少女が言う。

「は、はい」

 訪問者は、玄関に入り、緊張しているかの様に直立姿勢でたたずむ。

 アンジェリカは、そのまま二階に上がって行った。

 どたどたと、階段を下りてくる音とともに、

「お前は服を着なさい、そして、そこでじっとしてて」

 と声がした。

 階段の途中で、玄関に立つ女性の姿を見て秀太は、

「あちゃ~」

 と頭を抱えた。

「こ、こんにちは、お、おひさしぶりですね」

 と訪問者はどもりながら答える。

 その姿を見たからか、秀太は開き直った様に言う。

「なんで、響姉が?」

 そう、この女性、以前に街に訪れていた公安の者の一人だ。知り合いの家があると言っていたのは秀太の家だったのだ。

「こっちに用事ができたので、しばらく部屋をお借りしようと……」

「え?」

「お父様から聞いてないですか?」

「ぜんぜん」

「そんなぁ」

「でも、いいよ、知らされて無くても、もう来てるんだし」

「いいの?」

「もちろん」

「で、でも……」

「ああ、彼女か」

「彼女さんも住んでるとこに、ちょっと、ねぇ」

「何言ってるのさ、あの娘は、居候なだけだよ」

「同じ様な?」

「ま、後で説明するから、上がって居間でくつろいでて」

「はい」

「そのかしこまったやつ、やめて、違和感半端無い」

「なんか、出鼻をくじかれて、ペースが……」

「でも、響姉はその方がモテるかもね」

「ガキのくせに生意気言うな」

「じゃ、また後でね」

 秀太は、二階に上がっていった。

「居候って、あれが? ありえないでしょ?」

 響は、そう言いながら、居間へ入って行った。勝手知ったる家なのだろう。


「なんか昨日も同じ事があった様な……」

 秀太は、そうぼやきながら。

「アンジェリカさん、昨日も言ったけど、ピンポン鳴っても出なくていいからね」

 昨日、娘の帰った後にお願いしたのだ。

「ちょうどシャワーを出たところで鳴ったものでな、つい」

「こういうパターンはそうそう無いと思うけどね」

「そうか」

「でも、超低確率の偶然が重なるのは嫌いじゃ無い、

 運命的な意味を感じるだろ」

「ああ、よくわからんが」

 秀太は、アンジェリカが、自分にとって重要な何かを与えてくれそうに感じていた。

「さて、彼女は俺の親戚なんだけど、今日から一緒に住むらしい、紹介するから一緒に来て」

「わかった」

 二人は、居間へ向かった。


「おまたせ」

 秀太とアンジェリカが部屋に入ると、

「は、はわ、ゆう……う………」

 響はアンジェリカに向かって右手を出して言う。

「ん?」

 アンジェリカは、不思議そうな顔で秀太を見つめる。英語も解るがどっちで答えるかの確認か。

「響姉、日本語でおけ」

「え?」

 そういえばさっき日本語で話していたのを思い出した。

「はは、緊張しすぎだよ。で、アンジェリカ、これは握手と言って、握り返せばいい、そっとね」

「わかった」

 そう言って手を握る。

「よろしくね」

 響はようやく挨拶できた。

「さてと、昨日、花科にも同じ話したんだけどね」

「ああ、花科ちゃん、会いたいなぁ」

「また、そのうち来るでしょ」

「あの娘、何も言わなかった?」

「う~んと、ちゃんと説明したら友達になって帰って行ったよ。

 響姉にも、これからするけど」

「え、あ、はい、お願いします」

 そして、いきさつを話して聞かせた。

「うそ?」

 まぁ、そういう反応だろうという反応と表情が帰ってきた。

「そう思うよね」

 秀太は予想していたのだろう。

 だが、響きはその予想とは違う思考となる。

(ちょっと、本当なら、いきなり当たりを引いてしまったのでは? ど、どうすればいいの? 山さんに報告すべきだけど、なんかいろいろまずいことになりそう。というか全てが本当なら、殺される?

 少し様子を見てみるしか無いか……

 見た感じ、悪い子では無さそうだし、秀太の花科ちゃん一筋は変わって無さそうだしね)

 響は少し考えて、

「な、なるほど、分かりました。 居候が一人増えて申し訳無いけど、これからよろしくお願いします。 アンジェリカさん」

「ああ、こちらこそ」

「部屋は、一階のお母さんの部屋でいいかな?

 長期なら、空き部屋使っていいけど、家具も何も無いから」

「ええ、どこでも」

「二階の客間は、アンジェリカ用なんだ」

「もしかして、ご両親には秘密?」

「秘密というか、言ってないだけだけど……いや、言えないでしょ」

「まぁ、いろいろな意味で……」

「でも、ちょうどよかった」

「なんで?」

「俺、女の子のこと分からないんで、世話してあげて」

「そういうことね。任せなさい」

「お世話になる」

「もう、お友達だし、お世話とか堅苦しいのは無しで、一緒に生活していきましょう。

 秀太、気を使わせてごめんね」

 響は、やっとお姉さんらしい雰囲気を出せた。

「なんのことかわからんけど、俺、受験勉強忙しいんで、気を使ってね」

「あ、はい」

 そういう年齢な事も忘れてた様だ。



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