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天使を助ける少年

 街のはずれ、夜の道、先ほどホームを襲撃した敵の一人、少女が大鎌を杖代わりにふらふらと歩いていた。あの爆発からどう生き残ったのか、血だらけな姿からは、そうとうな傷を負ったことは分かる。だが、山の中を含めて数キロは移動している。

 少女にとって幸いかそれとも……さすが人口の少ない街だ、他に歩いている者に出会うことも無かったのだろう。

 違った、そんな街を歩く人物が他に居た。以前にタイムマシンに関する動画を作っていた少年、秀太だ。彼は、日課の夜の散歩中だったのだ。

 秀太は少女に気付くと、

「花科、感謝するぞ、ほんとに居るとは知らなかったぞ、悪魔! 金髪は反則気味だが」

 知り合いの少女の名を口にしたのは皮肉と現実逃避だったかもしれない。

「見ら……れ……たか……っ……」

 少女も秀太に気づき視線を向ける。

 秀太は、その視線に殺気が付いてる様な気がなんとなくした。

「なんか、やばいかも」

 だが悪魔は「くっ」と苦鳴をもらしてバタっと倒れた。

「おいおい、ものすごく展開がべたじゃねぇ?」

 秀太は数秒だけ思案して、

「夢の可能性も捨てきれないが、どっちにしろこの状況はオタクとして見過ごせるわけないだろう。否、人として」

 と言いつつも二メートルほど手前まで駆け寄っていったん止まった。

「もしもし? そのかっこはコスプレですよね?」

 戦闘服や大鎌はコスプレ以外に想定しようが無い、そして返事は無い。

「それにしてもすげぇ可愛い、やっぱ悪魔あらため天使で」

 さらに数秒ながめ、

「あ、怪我してるんだった」

 重要なことに気づき近づいた。そして、

「おや?」

 血の付いた服に思えたが、燃えた部分や破れている部分から覗く肌を見てみても、血が出ているような傷は見あたら無かった。彼女も超回復の持ち主なのであった。

「こいつは、いよいよ夢っぽくなってきたなぁ、それならそれで覚める前にいろいろ……

 ……いやいや、夢じゃねぇって、まぁ血もコスプレの演出だよな」

 言葉ではいいかげんなことを口走りながらも、手の方は、的確に動いていた。血のついていない部分以外に傷が無いか、骨の折れている場所はないか等の確認である。事実目の前で倒れられたのだから、なにか異常があるはずだと思った。

「う~ん、これはやっぱり、あの、ありがちな」

 思案するようなポーズをとり、

「腹減ったってやつか」

 どうしても中二病的思考に逃げてしまう自分に気づきつつ、

「とりあえず訳ありっぽいから、うちに運ぶか」

 そこで困ったのは大鎌である。刃を触ってみたが、ほんとに斬れそうなのだ。

「本物かなぁ、コスプレ用でこれはちょっと」

 とりあえず、女の子を担いで一緒に持てる大きさ重さではなかった。

「大鎌とは、またやっかいな得物使ってますねお嬢さん、後で取りに来るから置いてくよ、大事なものだったらかんべんな」

 意識の無い相手に向かって苦情交じりに説明してみる。返事は無かった。本気で気を失っていると納得できた。

「腹減ったじゃなくて、血が減った……かな」

 お姫様だっこができる体力などは持ち合わせていないので、とりあえず背中に担いでみた。

「やべぇ、あちこちやわらけぇ」

 女性の体に触れるなど、小学校でもあったかどうか思い出せない秀太であった。また、一人の少女の顔が浮かんだ。

「これは人助け」

 と、つぶやき、よろよろと歩を進めた。



 兵馬はメグをかついでマンションに戻ってきた。

「兵馬さん、ありがとう」

 先に戻っていたアリスがお礼を言う。

「ああ、その、武蔵殿は……」

 兵馬は申し訳なさそうに事情を説明しようとした。

「知ってるわ、大丈夫よ」

「そうなのか、本当にすまない」

「あ、えっと、大丈夫と言うのは、あの人は死んでないから」

 その言葉に兵馬はすぐには言葉がでなかった。

「ほ、本当か?」

「まぁ、前のままってことは無いけどね。とりあえず、安心して」

「そうか、それは、ありが……た……い……」

「な、なに泣いてるのよ」

 兵馬は、よほど安堵したのか嬉しかったのか涙を流していた。

「さぁ、メグも治さないとだけど、ここでは完治は無理そうね」

「アリス様、腕以外は機能しますので、まずはお休みください」

 メグは、アリスの方が心配であった。彼女も昨夜の戦闘から徹夜であった。

「わたしがやっておきますよ」

 台所から、レッドがお茶とおにぎりを持ってやってきた。兵馬の前に湯呑を置きつつ、

「粗茶ですが……と出しておいてなんだけど、お水の方がよかったかな?」

「いえ、お茶がありがたい」

「お侍さんも、食べたら寝なさいね」

 お母さんである。レッドも見た目は小学生くらいだというのに。

「俺は大丈夫だ」

「今、戦力はあんただけなんだから、万全に近づけておいて、メグのことも心配しなくていいからね」

「了解した」

「あ、おにぎり、まだあるけど、要る?」

「起きたらいただけるか?」

「あいあい、それじゃ奥の部屋使ってね、おやすみ。メグはこっち来て。アリス様はとっとと寝室へ」

 レッドは一通り仕切ると、メグを連れて別な部屋へ向かった。


 レッドは、メグの応急修理をしながらマザーに話しかけた。

「マザーはどう思う?」

「小次郎殿ですか?」

「そう、実を言うとね、わたしはこれまで疑うべきかなと思ってたのだけど」

「今日は見なかったですね」

「でしょ」

 ここで、ファントムが割って入った。

「小次郎殿は、恩に報いる方では無いでしょうか」

 ファントムは自爆したのでは無かったか?

 そこには、三十センチくらいの恐竜のおもちゃが居た。実は高性能なミニロボットであり、バックアップしてあったデータをそこへと入れたのだ。とはいえ、彼の宿命か移動はできない。

「恩? ブルーの件に対してかな」

「ええ、ブルーさんを預けたことも含めてと、武蔵殿とのいきさつもですし、それに、私はそうあって欲しいのです。侍として」

「なんと、あなたが希望を言うとはね。 まぁ、敵対する機会なら、これまでもあったしね。あと、よくわかんないけど、恩とか義理堅いのは侍じゃなくて、やじきたとかじゃないの?」

「違うので?」

「たぶん」

「もう少し勉強させていただきます」

「ファントムはテレビ見すぎ」

 レッドがいつもの様にツッコみを入れる。

「今はCPUに余裕があるので学習しているのです」

 彼は、見ると言っても目で見ているわけでは無い、データとして処理しているのだ。

「じゃ、時代劇じゃなくて、現代のを見なさいよ」

「それも並行して見てます」

「テレビ見すぎ」

「ちなみに、ネットから拾ってきていますのでテレビでは無いですよ」

「意味は一緒じゃない」

「我々はマシンですから、正確さは大事です」

「希望を語るやつがマシンとか正確とか……わかんないやつ」

 皆、話の流れがおかしいと思ったが、結論には異存無さそうなのであった。

「まぁ、いっか」

 レッドは、作業を続けた。


 しばらくして、レッドは傍らに”置いた”ファントムに話しかけた。メグは、作業のため機能停止中である。

「ねぇ、ファントム」

「なんでしょう? レッドさん」

「さっきのやつ、ほんとは知ってたでしょ?」

「なんのことです?」

「じろちょう?」

「弥次喜多ですね」

「そうそれよ」

「結果オーライです」

「なんなんだか」

「レッドさんも似たようなものです」

「わたしも、小次郎さんはブルーに必要だと思う」

「アリス様はほんとにお優しいですから」

「だからこそ、私たちは本来の目的を第一にしないと」

 ファントムは唯一稼働する首を動かしその小さな顔をレッドに向けてから、

「私は運命に甘え過ぎなのかもしれません。先の道は良い方に続いていると」

「あんたらしい。 でも、運命の奴に悪い方にこき使われるより、こっちがよい方に利用できるならいくらでも甘えたいでしょ」

「あと、レッドさんもテレビ見すぎですよね」

「わたしは、恋愛ドラマとお笑いがメインだけどね。時代劇はアリス様が好きだから見てるだけ」

「趣味はあいませんな」

「残念ね」

「今度、一緒の映画でも見ませんか?」

「なんかデートのお誘いみたいね」

「そういうのも良いかと思ったのです」

「わたしは、恋愛映画ならいいわよ」

 ファントムは一考してから答える。

「アニメでもかまいませんか?」

 その返しかよと言う顔でレッドは答える。

「考えておくわ」

「おやさしい」

「そういえば、わたしの時は音楽をかけてくれないのね」

「今回は、わたしが癒されている側と思いましたもので」

「わたしだって癒されたかったかもよ?」

「なるほど、前のファントムさんは気が利いたのですね」

「そういうとこは変わってるはずないと思うけど……そうね、あなたはあなた」

「お気遣いできず申し訳ありません」

「なんちゃって。 じゃね、メグをよろしく」

 作業が終わったのか、レッドは、ぽんぽんとファントムの背中をたたいて部屋を出た。


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