侍の決意、武蔵の決意
海から戻った御一行。 アリスは、まず小次郎の部屋にお土産を持って行くことにした。
車中でテレビ等をチェックしていたが、有力な情報は全く得られなかった。関係者が通報して警察が動いている程度である。マザーからも、街には特に変化の無いことが報告されている。つまり、誘拐事件については特に何もできないのであった。
ただ、時間はあまり置かずに次の動きがあるのは確実だろう、そこで、小次郎に事情を説明して協力を要請しに行くのだ。お土産の効果は不明であるが、手ぶらよりはきっとましである。
アリスは、階段を使って上がる。一階分上がれば済むのもあるが、小次郎の部屋が非常階段のすぐ横だからだ。そして、自分の体を動かすのが好きなのだ。偽物の体だからこそかもしれない。それにしても、小さな体が短いスカートも気にせずひょいひょいと上って行く姿は小学生そのものに見える。
ドアの前につくと、背伸びをしてピンポンを押す。
「どなたでしょう?」
すぐに小次郎が応答した。サリミナが不用意に出ることは無い。
「アリスです、車をお借りしたお礼を持ってきたのですが」
アリスはインターホンに向かって話す。カメラ付なので名乗らなくても分かるだろうが、枕言葉的に名乗ってしまう。いや、アリスの背では頭しか映っていないかもしれない。
「鍵は空いてますのでそのままどうぞ」
「了解」
アリスは自分で扉を開けて入ると、”線”の前でサリミナが出迎えていた。
鍵は小次郎が開けてくれたのだろう。
「すいません、扉を開けて差し上げられなくて」
サリミナが申し訳なさそうにしている。
「仕方ないわ、そうね、境界線をもちょっとだけ近づけようかしらね」
話ながら奥へと進むと、リビングのソファにわざとらしく座っていた小次郎がアリスの方を向く。
「こんにちは、車ありがとうございました」
アリスはさっそく要件の一つを伝える。
「いえいえ、持ってるだけですから、遠慮なく使ってください」
車だけではない、このマンションの部屋も、不老の小次郎がどの様に社会に紛れているかは謎な部分だ。アリスがそこに踏み込むことは無いのだが。
「小次郎様、お土産をいただきました」
サリミナはお土産を両手に持って駆け寄る。
「そうか、気遣い無用ですのに」
「まぁ、お土産渡すまでが海水浴ですから」
「よくわからないですが、了解しました」
この後、サリミナに席を外させてから、アリスは海での件を話した。
「居場所はばればれですから、陽動も簡単でしたね。娘さんには申し訳無いですが」
「ええ、もしかするとご協力をお願いするかもです」
「そうですね、わたしでお役に立てそうでしたら」
「ありがとう、今度はもちょっと高いお土産を持ってくるわ」
「サリミナの好きそうなのでお願いします」
「そうね~、小次郎さんは知ってるの?」
「え?」
「サリミナの好きな物」
「いえ、あなたは知ってるものとばかり」
「なるほど、そういう事か」
「え、なにが?」
「皆まで言わなくてもよいです」
「え、あ、はい?」
「やっぱ小次郎さんはやさしいですわ~」
「そ、そんなことは無いですけど、なにが?」
「ふふ、じゃ、またね」
「あ、はい」
アリスはにやにや顔で手を振りながら出て行った。
小次郎は、少し間の抜けた表情で手を振っていた。今の会話の内容を反芻し解読しようとしているのだ。
「小次郎様」
アリスが帰ったことに気付いたサリミナが声を掛けた。
「は、はいっ」
びっくりした様に返事をする。
「どうかされましたか?」
「あ、ちょっと考え事をしていただけですよ」
「わたしはお役に立てますか?」
サリミナの顔を見ると、心配そうな表情がわかる。
「では、お茶を入れてください」
「かしこまりました」
サリミナがお茶を入れにキッチンに向かうのを見送り。
「まぁ、いいか」
とつぶやいた。
小次郎邸に日常が戻った。
海から戻ったナンバーズ8は、拉致した娘を空母に連れて来ていた。
「人質を使って、相手の正体を探りに行きますよ~。
これ、海で彼らと一緒に居た娘よ」
米軍将校に対してストレートに軽い表現で伝える、いや命令する。
気を失っている娘を見せながらだった。
その提案に米軍将校は困惑した。一般人を巻き込むなど軍のする事ではない。まして人質とは、受け入れられるはずもない。
「外交問題になります」
「どうとでもなるでしょ?」
だが、将校の今までに無いその表情を見て、
「ま、わたしも鬼じゃないし、ふむ、じゃ、おたくの女兵士で代用しよっか。向こうは誰でも同じだろうから、筋書きだけあってればいいや。だから、その娘は放しちゃってOKよ」
先日の武蔵の態度で人質が有効なのは分かっている。誰かには意味が無く、彼らの眼前でさらう事に意味があった。人質変更も想定の範囲内だ、ついでに目の前の者達に妥協した様に見せられる。
「それであれば……」
こちらは、まさかのありえない譲歩をされたと判断するしかなく、これ以上は反抗ととられかねない。
喫茶店にはいつものように武蔵が来ていた。
「武蔵殿、俺に修行をつけてくれないか?」
兵馬が思いつめた表情で願う。
「そうしてやりたいが、俺はな、実は剣術というのはからっきしなのさ、単純に身体能力で戦えば十分だったからな」
武蔵は申し訳なさそうに答えた。気持ちは分かるのだ。
「多人数相手に、刀を左右別々に持って振るうのもたやすかった。それが、いつのまにか二刀流ってことになってただけだ。それから、お前は人間としてはほぼ限界値まで鍛え上げられている」
「海で俺は殺されなかった。その価値も無いと判断されたのだろう」
「まぁ、特訓とかに付き合ってやるのはかまわんが、一朝一夕で強くはなれんのも判ってると思うが」
「力が必要なんだ」
「多勢に無勢、どのみち少しくらい強くなっても圧倒的な物量相手には変わらんぞ、ナンバーズ一人倒せれば良いわけでは無いからな」
「それでもこのままでは、なにも守れない」
「なんでお前が守らないといけないんだ?」
「守れなかった大切な人が多すぎて、このままでは侍として生きられない」
「お前はすごいな、なんかそう思える」
兵馬は少し考え、武蔵の目を見て言う。
「いや、本心はきっと彼女を守りたいんだ」
「こう言っちゃなんだが、彼女はロボットだぞ?、作り物だ」
「俺の命は彼女のために使うと決めた。作られた者とか何者だとか関係無い、彼女を失うことが怖いんだ、一緒に居たいんだ。なぜそこまでの思いが沸くのか、自分でもわからない」
だが、武蔵は兵馬の眼をあらためて見て。
「すまん、俺も言うことが違った様だ。おかげで気付けたよ。 俺も同じだと思う。 だからこそ提案する。本来勧めるべきことでは無いが……」
「何かあるのか?」
「俺たちと同じになる気はあるか?」
しばらくして、
「ちょっと二人で散歩してくるな~」
武蔵は、そうアリスに伝えて、兵馬を連れて店を出て行った。
「珍しいわね」
アリスは少し違和感を感じつつも、息抜きだろうと勝手に判断した。
だがその日、武蔵と兵馬は戻らなかった。
店を出て数分後、武蔵の宇宙船に、その主と兵馬は居た。
カナは基本的にここで待機しているので、あわせて三人はテーブルを囲んでいる。武蔵が話し始める。
「お前の仇、前にちょっと話したかもしれんが、あいつの元になった者は、ある星の唯一の生き残りでな、助けたのは皇帝のやつなんだが、気に入ったらしくて傍に置いている。その星は進化が遅かったのか人の体を成した時には、星の方が寿命を迎えていた。地殻変動の影響で様々な災害が発生し、気付けば一人だったらしい。
ただ、過酷な環境で狩猟を生業としていたからか戦闘能力は強化もされてないくせに俺たちに匹敵するほどだった。だから、俺たちの様に、まぁ一般人が強化されたのとはわけが違う。
さらに、俺たちは自分のクローンを禁止しているんだが、違う生物であるあいつは例外としてクローンを作れる事にしたのさ。そして、大量に作って、先兵として使う。殺りく兵器としての命、命をもて遊ぶにもほどがある。
そして、大量生産すると、低い確率だが良品ができる。そいつらを不老に改造して番号で管理している。それがナンバーズ。
ナンバーズの性能は、ばらつきが大きく出ていて、中にはオリジナルを超えるのが居る。正確には、あえてばらつきを大きくして、超性能を狙って作るということなんだが。
で、おまえが倒したのはそのナンバーズの一人だ。こうなってしまったので教えるが、おまえの仇がナンバー1だ。最強というか、桁の違う強さだ。あれが来た時点で俺もおとなしく帰るしかなかった」
武蔵が一息ついたところで、黙って聞いていた兵馬が答える。
「理解できていないが、とにかくナンバーズは強い、しかもたくさん居て、俺の仇は化け物というのはわかった」
「まぁ、そういうことだ」
「確かに、俺一人がどうのという話では無いのも感じるが、俺に力をくれないか」
「そのつもりだ。だからここに連れてきた。俺たちは、特殊な心臓に入れ替ることで体を強化している。それをお前にも施す。人間じゃ無くなるということだ。やめるか?」
(このままでは地球に策があるとも思えん、だが、お前は一条の光になる可能性がある)
「お願いする。 皆の命を繋ぐ手助けになるなら、人間に拘る必要は無い」
「わかった」
「だが、あなた方も俺は人間だと思っている」
「そうか……カナ、準備できてるか?」
「兄さん本当によいのですか?」
(俺も守ってやりたいやつができたからな、たとえかすかな可能性であっても信じたい)
「ああ、頼む」
武蔵はアリスの顔を思い出していた。一緒に居たのはわずかな時間、特に強い関係を築いた訳でも無い、相手の気持ちも知らない。それでも、守ってやりたかった。自分でも不思議だった。だからこそ、兵馬の思いが伝わった。もちろん地球を守ろうと思っていたのは嘘では無い。だが、命を懸けるほどの決意があったかは自分でも疑問のままだ。
「こいつは強くなる。誰よりもな」
自分が来なければ今の事体、アリスに危害の及ぶ可能性も無かったのではとも考えていた。その罪滅ぼしと言い訳して、今後の可能性にかけることにしたのだ。もともと妹の命を守るのが目的の逃避行だ、自分の命など惜しいなどと思いもしない。
そして、武蔵の言う心臓はここには無かった。つまり、武蔵は自分の心臓を兵馬に託すという決断をしたのだ。
前日、兵馬たちが海へ着いた頃、
小次郎は、喫茶店に居た。外の扉には”CLOSED”と札が出ている。
鍵はかかっていなかったのか、扉が開き人影が入ってきた。先日店に訪れ武蔵と話をした者だ。
「来ると思ってたよ」
「鍵開いてたぞ」
「僕が入るために開けた」
「お前の店だったのか?」
「いや、留守番みたいなもんだよ」
「武蔵はいないのか?」
「あいつは、遊びに行ってるよ」
「余裕だな」
「余裕かは知らんが、あいつなりに考えがあるようだぞ」
「まぁ、お前でもかまわん」
「なんか偉そうで気に入らんな」
「最近、癖でな」
「悪癖だぞ、治した方がいい」
「努力してみよう」
「ところで、ミサイルはやり過ぎじゃないです?」
「こちらの関知することではないが、実際それをしのいだ」
「僕も聞いてから驚きました」
「何が起こっているんだ?」
「まだよくわかりませんが、好都合って感じです」
「そうか、では帰るとしよう」
「コーヒーでもどうです?」
「CLOSEDと書いてあったが」
「入って来たじゃん」
「今回は、コーヒーを飲みに来たんじゃない」
そういって扉を開ける。
「そうですか、では”また”」小次郎が声をかけた
「ああ、”また”」
「次は、コーヒー飲んでくださいよ」見送りながら言葉を投げた
「ふ」と訪問者は小さく笑った様だった。
八月十七日夜、
街の方から山方面へ向かう軍隊があった。大きめの装甲車両一台と歩兵を乗せたトラックが五台。部隊は、道の両側が田畑になり少し進んだところで、五十メートル先に人影を確認した。
白いワンピースが車両のライトで照らし出された。そして金色の髪が輝く。近づくにつれ、顔が明確になる。メグだ。昼間であれば、周りの畑の緑にマッチして映画でみたことのあるような清楚な少女を思わせただろう。麦わら帽子でもあれば完ぺきだったかもしれない。
メグの十メートルほど手前で先頭車両は止まった。各トラックからは、直ぐに歩兵部隊が降車し配置に付く。周辺に向かって行く部隊もあった。 指揮官がゆっくりと降り、歩兵の前に出る。
それを待っていたかの様に、メグはお辞儀をしてから、天使の声で伝えた。
「御用件をお伺いに参りました」
その言葉に司令官がさらに前に出て応じる。
「我々は、日本政府の要請により君たちをテロリストとして殲滅するために来た」
日本政府の部分は詭弁だろう。
「我々はテロリストではありません。こちらから危害を加えることもありません」
「では、おとなしく投降していただけますか?」
「それもできかねます」
「それは、困りましたね」
言いながら、手で後方へ合図をする。すると、兵士たちが人質を連れて来た。海でさらった娘ではないことはメグにはすぐに分かった。当然、近い体形の者に衣服を着せている。だが、記憶していた各数値と全く違うのだ。娘には目隠しとヘッドホンがされている。
「どなたでしょう?」
「交渉のための人質だ」
開き直っているのか、そのままの答えだ。
「では、質問を変えさせていただきます。なぜ、その方を?」
「答えないと話が先に進まんかな?」
「こちらの言いたいことを、お分かりということですね」
「わかった。あなたの想定された方は既にお帰りいただいた」
「そうなのですか」
――「やはり繋がっては居た様ね」アリスが悔やむ。
「君たちが抵抗する場合、この方が抵抗したものとみなします」
指揮官も後に引けるはずも無い。
――「やられた、あのひとは向こうの人間だわ、だけど、こちらとしてはどうしようもない」
――人質なんて正規の軍人のやる事ではないでしょうに、
――こちらの力量がわからない、もしくはファントムの一撃を見てまともに戦いたくないって感じかな
――いや、後ろにやつらがいるなら、米軍はあてにしてないってことかも?
――実際、どちらも私たちが何者か知りたいのでしょう。
――でも、知られる訳にはいかない。まぁ、でも、これは確かに効く。
――人類の未来と天秤にかけるなら見殺しだけど、やれることはやらないと納得できない。
――誰も殺さずに済ませられるか。
――こちらが動けばおそらく敵もなにか仕掛けてくるはず。
――戦力が足りなさすぎる。
武蔵も小次郎も兵馬もいないのである。
その時、
――「時間を稼いで欲しいと妹さんから連絡がありました」 レッドが報告する。
――「何か策ありと思ってこっちもあてにさせてもらおうかな」 アリスはその報告に反応する。
――「とにかく、彼女を無事に解放する選択肢で行動しないと」
――「米軍だけならなんとかなりそうですけど、どこかに居るでしょうしね」
――「オポスじゃないのがある意味やっかいですね。うかつに手を出せないし、存在と所在が測れない」
――「身代わりを立てましょう。メグお願いできる?」
「もちろんです」
――「お色気作戦はあなたにしかできないから、残念だけど」
――「ですよね~」 レッドが、自分の胸に手を当て、アリスの胸のあたりに視線を向けて言う。
「了解しました」
メグが答える。
――「素直なんだか、ぼけてんのか」
「今は、戦闘モード?ですので」 上官の指示は最優先で実行する。
――「そういえば、そうだった」
メグに戦闘モードは無いが、作戦を立てた際にそう決めたのだ。
――「妹さんとまだ話せる?」
後はメグに任せて、直ぐに次に移る。
――「繋げます」
状況と作戦を説明した。
――「なんですって?」
アリスの表情に影がさした様に見えた。うっすらと涙も。
――「そんな……」
何かを決した様に
――「では、これから言うとおりにしてください」
「裸にして胸でもいじってやりなさい」
指揮官のインカムから非人道的な指示がでる。装甲車に乗っているナンバーズからだ。
「いや、そこまでは……」
「やらないの? 今回、なんか反抗的よね」声のすごみに圧倒されたわけではない、彼らもまた人類のためと信じているのである。ミサイルを消滅させる得体のしれない相手よりも、恐ろしくとも今は味方の方が重要なのは当然かもしれない。
その時、メグが提案する。
「私たちは敵ではありません。ですが、そちらも引き下がってはいただけないのでしょう。しばらく検討する時間をください」
「交渉する余地はあると取らせていただいてよろしいでしょうか?」
「はい。 ですので、その前に人質をわたしと変わらせていただけませんか?」
「応じなさい」 インカムが指示を出す。
「いいでしょう」 指揮官が答える。
「さて、うまくやれよ。向こうも何も考えずに交代する訳無いからな」
インカムの声主の後方に控えた三名の真ん中が言う、装備は違うが全員同じ顔だ。
「あの、今の指揮権は私にあります」
インカムは焦っている様に見える。
「ああ、そうだったな」
どうでも良さそうに真ん中が答える。
「そろそろ向かってください」
指揮権を主張したナンバーズが指示をする。
「二人は残しておくか?」
「いえ、作戦通りでお願いします」
「了解だ」
そう答えて三名は装甲車を出ていった。
気配が無くなるのを待って、
「力だけのくせに」
と歯ぎしりをしながらつぶやいていた。
「応じていただいて、ありがとうございます」
メグはお礼を言うと服を脱ぎ始めた。武器を隠していないことを示すための演出である。普通の人間、いや普通とは思えない美女であった。
「……あなたを拘束した後に人質を解放する」
時を忘れたかのように一瞬間を置き、指揮官は指示した。
「それでかまいません。信じます」
「両手を挙げてゆっくりと歩いてこい」
メグは指示に従い、兵士たちに拘束された。
「人質を解放しろ」
指揮官は約束を守り指示を出してくれた。しかし、
「指揮官さま、お待ちください」
「他に要求があるのか?」
「人質の方ですが、開放せずに保護していただけませんか?」
「どういうことだ?」
「あの方は、本当に私たちと関係ありません。ですが」
「ですが?」
小声で問う。
「解放後になにか危険が無いか心配です」
ナンバーズの口封じか、暇つぶしか。
「ふむ、なるほどな、あり得るかも……か」
彼女は米軍とは違う敵を相手にしているのである。
「かまわないが、君が来た意味が無いのではないか? それに、今とあまり変わらんぞ、こちらに置く以上拘束は解くわけに行かない」
「無関係の方に人質という立場は申し訳ありませんので」
「俺たちは誰と戦おうとしているんだ」
「少なくとも、私たちはあなたがたの敵だと思います。今は」
指揮官は声の大きさを戻して
「わかった。では交渉再開だ。君に話せば通じるのだな?」
「はい、このマイクがお声を拾います」
そして、メグは用意された椅子に拘束された。指揮官は目の前に立ち、その左右に数人の兵士が銃を構えて立った。
「宮本武蔵という男を探している。本名かどうかは不明だが」
――「ふむ、とりあえずそっちからか」
アリスはミサイル破壊の件が最初で無いのはなぜだろうかと思った。
――「うちのバイトと答えて」
アリスの指示を受けてメグが答える
「私たちと一緒に喫茶店で働いています」
「どこへ行った?」
――「兵馬さんと出ていってから、一緒に居たわけじゃないからなぁ」
――「今日は会っていないと答えて」
「今日は、お会いしていません」
――「あ、こっちにも来たみたい」
――「早いけど、マグナム起動、そっちはなんとかしてちょうだい」
――「あ、あれは撃てないからね、念のため」
「申し訳無いが、抵抗しないでいただきたい」
急に発した反抗の意志、メグの声、雰囲気が変わっていた。
「なに?」
と、指揮官は言葉を帰すが、すでにメグ=マグナムに後ろ手に関節を極められていた。
「何が起こった?」
椅子も拘束具もどんな力がかかったのか、異様な形に変わっていた。周りの兵士がようやく銃を向ける。
「わたしの力であればこの男を殺して君たちを殲滅するのはたやすい。銃も無意味だ」
マグナムが力を加えたのか、指揮官の表情が険しくなる。
「お前たち……指示あるまで……待機」
言いながら、後方の装甲車の方を見た。
「あんたどういうつもり?」
指揮官の見ている方では無く正面に既にナンバーズは立っていた。マグナムと目を合わせている。あんたとはマグナムのことだ。赤光を放つ瞳は闇夜には異様さを増す。
「お前を倒す」
「おもしろ~い」
「他の者は離れていた方がいい、それから、事体が変わってしまったため、おとなしくできずすまない」
と言いながらマグナムは指揮官を放した。
「ああ、そうね、離れてなさい。 いや、もう帰っていいや」
ナンバーズも同意見とは。
「全員撤退」
言葉の意味をそう判断した司令官が叫ぶ。撤退行動は訓練のたまものかさすがに早い。
皆が離れたところで、マグナムは肩の後ろに手を回す、すると肩甲骨の横辺りが開き、中から筒の様なものが出た、それを掴む。 逃げた兵士からは、その動作も何が起こったかもわからなかったろう。
一振りすると、それは伸びた。警棒の様だがナンバーズ相手に武器となり得るか。
「こうくるとはね、人質なんて最初から意味なかったじゃん。まぁ、想定通りだけど」
「お前の番号はいくつだ?」
「武蔵のおしゃべりめ」
ナンバーズは持って来ていた武器を肩に担ぐ、剣らしいが大きい、少女サイズの体にはさらに大きさを増して見える。
「十番以降か。それに、名前は無いのだろ」
「生意気な人形、武蔵は後まわし、あんたを壊すことにする」
「兵隊さん方は、もっと離れろ」
マグナムがあまり離れていない兵士達に言う。彼らもどうしていいのか混乱し中途半端な班もいるのだろう。
「行きなさいよ」
ナンバーズは兵士達に目を向けて低い声で言う。
「全員撤退急げ」
責任から一番近くに残っていたのだろうが、指揮官が再び叫ぶ。機嫌を損ねる方がまずい。やさしさと思った兵士も居たかもしれないが、はっきり言ってじゃまなのだった。めんどくさいことも含めて。
「この前は、武蔵ともう一人男がいたと報告があったけど、あんただけで大丈夫なの?」
「ああ、今は戦士だからな」
「戦士とはね。 さっき、眼の色とか言葉遣いとかが変わったのはこけ脅しの演出? でも、これは楽しくなるかもね」
「人質は居なくていいのか?」
「あんた一人みたいだし、面倒だから全部逃がしてやっただけ、多少は愛着もあるしね」
全部、そう、兵士も皆人質に成り得るのを知っているのだ。
「愛着?、何様なのでしょう」
「人形に言われたく無いけどね」
「それに全員が人質か、お前たちの屁理屈に付き合うのはこれっきりだ」
「地球人の味方じゃないの?」
「敵だよ、今回はお前達に合わせてやっただけだ。この状況になっただろ?」
「口の減らない人形ね。一体で何ができるのか知らないけど」
「意外とおしゃべりなんだな」
「そうね、いつも退屈してるから」
「普通に生きてれば、退屈しないかもしれない」
「普通ってのは、戦いが無いってことを言ってるだろ? それが一番退屈だ」
「他の事を知らないからだろう」
「知る必要無いからな、戦ってれば十分満たされる。ああ、そうかお前も戦士だったか、じゃ、戦士様もこっち側じゃないか、他人を説教してるつもりだろうが、実際は戦いたいんだろ?」
「わたしは平和を眺めてるのが一番好きなんだ。一緒にしないで欲しいな」
「無意味な言葉の応酬もそろそろ飽きたから、お前倒して向こうに行くわ」
「無理な相談だ」
マグナムの返答を合図の様にナンバーズが斬りかかる。それを受け流し、プラズマブレードを振るう。それは、警棒サイズにプラスされたプラズマの影響範囲でさえかすることも無かった。
倒すのには時間を要するかもしれないが、気を抜けば負けるのは容易かもしれない。ナンバーズの言うように一人での勝算はあるのだろうか……