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陽動作戦

 アリス、兵馬、メグ、アーノルド、武蔵、カナは海に来ていた。

 昨日、時間稼ぎの陽動作戦として街を離れて見ようと武蔵が提案した。

 季節柄、海に決まったのは流れ……である。六人での移動のため、ワゴン車を小次郎に借りた。

 ワゴン車が海水浴場隣接の駐車場に着くと、アリスが一番に飛び出した。

「海っ!」

 目が輝いている。そして、空気を大きく吸ってから、

「ほんと何十年ぶりかしら」

 小学生の体で言う台詞では無いが実経過時間としては事実であった。

 その間、海だけではなく自然を美しく感じる時間などなかったのかもしれない。

「海はマンションの近くにもあるじゃないか?」

 武蔵がツッコミを入れてみた。

「砂浜が無いから、それっぽさが違うでしょ」

「まぁ、嬉しいのはいいことだ」

 武蔵も満面の笑みだった。

「俺も久々に見る砂浜は心が躍る」

 兵馬の感想だ。

「お前も、まだまだ子供だな」

「そうかもな」

 この時、夏の日差し、海風、仲間との時間、皆が浮かれていても仕方なかっただろう。

「さて、みんな、水着レンタルに行くわよ~」

 さっきまで小学生全開だったアリスが仕切り始めた。

「みずぎれんたる、とは?」

 兵馬が聞くのはお約束か。

「そうきたか。まさかお侍さんがたは、ふんどしで泳ぐと思ってます?」

 アリスはお約束のボケに対応した気分だろう。

「あ、そうだな、たしかに今はふんどしでは無かった」

 武蔵も兵馬と同じずれであった。

「いや、そっちに取らないで」

「ふんどしを借りにいくのか? あまり気がのらんが」

 兵馬はさらにずれていく。

「あ、もう考えなくていいからアーノルドに付いて行ってちょうだい。時間が惜しい」

 車内で説明しておけばよかったと後悔した。

「そうか、なんかすまない」

 メグはそれを眺めて、くすくすと笑っていた。子供っぽいアリスも、常識が備わっていない侍も愛おしかった。

「メグ、笑ってるけど、兵馬さんの教育はあなたの担当でしょ」

「そうですね」

 特に悪かったという風も無く答え、またくすくすとしていた。笑いのツボが設定されているのかもしれない。

「じゃ、行くわよ、着替え終わったら、更衣室の入口前付近で集合」

 この後、海の家に行き、水着レンタル後、更衣室へとなる。

 男女別れてから三十分ほど後、男性陣は揃っていた。そして彼らはすでに二十分ほどは待っていた。

「ここでいいんだよな?」

 しびれをきらしたか武蔵がぼやく。

「アーノルド殿がおられるので」

 よくわかっていない兵馬が答える。

「そうだな」

「もうすぐだそうです」

 アーノルドが答えた。

「了解だ。それにしても暑い」

「気温三十七点六度です」

「温度計も付いてるのか」

「はい」

「湿度は?」

「四十五%です」

「おお、おもしろい」

 暇つぶしだろう。

「アーノルド殿もなんでもできるのだな」

「風速は?」

 武蔵が続ける。

「アーノルドをいじらないでちょうだい」

 後ろからアリスが怒ってる風に声をかけた。

「お」

 皆そちらを振り向く。

 武蔵はアリスの水着姿をしばらく眺めて、

「やっぱ子供だな」

 とぽつりと言ってしまった。

「大きなお世話よ、遺伝子的には将来保証されてるんだから、今はいいのっ」

 ぷんぷんしながら言葉を返す。

 少し遅れて、メグとカナも来た。

「お待たせしました」

「ごめんなさい、ちょっと時間かかっちゃった」

 武蔵は、二人の水着姿をしばらく眺め、

「すばらしいなぁ、メグちゃん」

「ありがとうございます。その様に作られておりますので」

「そ、そうか」

 それ以上広げられない返しに少し困る。

「お三方もそうだが、ここは肌の露出が多くて目のやり場に困るな」

 兵馬は照れ顔で言う。

「遠慮せず見ておくといい」

「いいかげんなこと教えないで、よそ様を意識して見るのはだめだからね」

「ああ、ではお三方を見させていただこう」

「いや、メグだけにして、お願い」

 アリスは頭を押さえて呆れた風に答えた。

「よくわからんが、わかった」

「あ、ありがとう」

「わたしは見てもOKですよ。メグさんは次元が違うので比較されても気にしません」

 カナも十分に美しい体形であるが造形された者を相手にするのは分が悪い。

「そうか、了解した」

「なにを了解したんだか」

「皆そろったし、そろそろ行くか」

「なんであんたが仕切るのよ」

「そりゃすまなかった」

 小学生に叱られる大人の構図であった。


 アーノルドは先に移動し、借りて来たパラソルを二つ広げ、陰にシートを敷いていた。端に荷物を置き、皆が近づいて来ると彼はその場を離れた。

 アーノルドは、筋肉質の大きな体もそうだが、サングラスをかけるとある意味一般人離れして見える。アリスからは目立たない様にと言われているが、残念ながらとっても目立つ。

 彼が離れた目的は、怪しい人物がいないか等を調査するとともに、ドリンク類の調達、そう、簡単に言うと人間離れした使いっ走りだ。

 アーノルドが戻るのを待たずに、アリスは皆に向かって言った。

「いいこと? 遊びに来てるわけじゃ無いからね」

「もちろんだ」兵馬がまじめに答える

「だが、遊んでる様に見えないのもまずいんじゃないか?」

 武蔵は、まるでこれが正論だとばかりに反論をする

「言っておかないと、そう言う考えの若干一名が暴走するんじゃないかと」

「一名って、特定されてないか?」

「あ~、自覚あるなら大丈夫かも?」

「とはいえ、お前ら、海水浴ってどうすればいいか判ってるか?」

 武蔵は、お前らといいつつ兵馬に向かって聞く、もちろん話をそらすためだ。

「海で泳ぐのではないのか?」

「海に入って水をかけあったり、一緒に走ったりとかですかね?」メグが答えた。

「ぷっ。やっぱりな」

「え、違うのですか?」

「お嬢さんくらいの見た目だと、海に入らず傘の陰で寝てればOK」

「俺もか?」

「お前は、日に焼かれてればいい」

「海に入らなくていいのですか?」

「海に入るんじゃないのか?」

 メグと兵馬が同時に返す

「ああそうだ。そして」

「そして?」

「お前はときどきお嬢さんにサンオイルを塗ってやる」

 さっきまでカナが塗っていたサンオイルのボトルを渡す

「それは、は、肌に触れてもいいということなのか?」

「もちろんだ」

 もちろんメグにサンオイルは不要だ。そして、カナも修復能力があるため本来不要だ。

「ところであんたは?」

 アリスは不機嫌な表情で武蔵に問う。

「俺はビールを飲む」

「やれやれ、この人、適当なこと言ってるだけだから、気にしないで」

「間違っては無い……よな?」

「でも、兄さんも初めてじゃないですか」

「「え」」

 皆が唖然とする。まぁ、よく考えたら彼がこの時代で海水浴に来たことが無いのは明白だった。

「あんたが提案……もしかして来たかっただけ?」

「おお、悪いか」

「悪くないわ」

「そ、そうか」

「アリスさんは、意外と兄さんに甘くないです?」

「そ、そんなことないわよ。今回は陽動として効果有りそうだったから、同行させてもらってる訳だし……」

「なんの話でしょう、ごまかしてるのが余計に何か勘繰ります」

「まぁ、今日は適当に遊んでればいいのよ」

「やっぱ、そうだろ?」

「う~ん、あんたと同じ考えとは思われたく無いっ」

「ひねくれ者だなぁ」

「兄さん」

 強めの口調で妹が割って入る。

「なんだ?」

「そういうのは、ツンデレって言うらしいです」

「ほほう」

「デレてませんっ。 それに時間軸的に、その言葉も死語よ。きっと」

 顔を真っ赤にして否定する。そして、

「あ」

 アリスは、兵馬とメグが居ないのに気付いた。

 二人はとっくに海に入っていた。

「アーノルド」

 アリスはアーノルドに声を掛ける。戻ってきていたアーノルドは、即、浮き輪を手渡す。

「わたしも行く」

 浮き輪を受け取って駆け出した。

 はたして、メカ娘達は海の感覚がわかるのだろうか。日焼けは気にすることは無いが、そもそも水は大丈夫なのか?特に海水は・・・誰もそこには触れない、未来の技術はそんな古代の悩みなど対策済みだろう。

 それに、今は、ただ楽しめればそれでよかった。


 そんな普通に遊ぶ一行を、全室オーシャンビューを売りにするリゾートホテル、そのスイートルームから見つめる影があった。

「まさかただの海水浴とはね。陽動作戦に引っかかるとは、俺もたいしたこと無いわ~」

 武蔵の移動を確認し、あわてて付いてきた。逃走の可能性も考慮してではあった。

「でも、陽動する必要があるということは理由もあるということ、う~ん、昨日トラブルでもあったということかしらね? やっぱ、兵隊さんに追跡させて、俺はあっちへ行くべきだったか。 でもでも、百パーセントそうだとも言えないし、来ちゃったからには、つっつくくらいはしないとよね」

 そうつぶやいた時、皆から少し離れた兵馬に近寄る人影が見えた。

「あ、良いこと思いついた」

 口元はにやりという形をとるが、その若い美貌には妖艶さがともなっていた。ナンバーズ8だ。



 兵馬は、海からいったん出て釣りをしていた、浜辺の端の方にある岩場に腰掛け、釣り糸を垂れている。エサは付けていない。メグたちは昼食の準備をするらしい。武蔵はサマーベッドでいびきをかいている。この、自然しか見えない景色が妙に安心できるので、のんびりとしていた。

 しばらくして、

「お一人ですか?」見知らぬ娘が声をかけてきた。年齢は二十代前半といったところか。

「知人らと来ているが、今は離れてここにいる」

 振り向いて答えるが、少し視線が泳ぐ。

「そうなんだ」

「俺になにか用か?」

「いえ、たいしたことではないのです。ただのナンパですよ。先ほど歩いてるのを見て・・・」

「難破? 俺で答えられるかわからないが、話を聞くのは問題ない」

「ありがとうございます。やさしいんですね」

 その時、

「こんにちは、彼女といちゃついてるとこ申し訳無いわね」

 少し大きな岩の上に立つきわどい水着姿の娘も声を掛けてきた。

「ち、違いますよ」

 兵馬の関係者と思ったか、先に声をかけた娘はあわてて否定する。

 兵馬は、その会話は無視して、娘を背後に誘導しながら、

「おまえは、あの時のやつか?」

 強気の口調で言ってみたが、動揺の表情が隠せていない。

「どうでしょう?」

 にやりとした瞳は侍では無く少女を見ていた。

 兵馬はあわてて、

「すまないが用事ができた。難破については人の多いところへ行って聞いてくれないか」

 相手が一人とは限らないし、そもそもナンバーズ相手に、他人を守りながら立ち回れるとは到底思えなかった。それどころか生き延びられる自信さえも無い。

「”私”は一人よ、それにその子に用ができちゃった」

「なんだと、この娘は今あったばかりの他人だ。関係無い」

「用があるのは、そ・の・娘。だから、あなたが関係無いことになるわね」

「貴様」釣り竿を女に向けて構えてみる。役に立つとも思えないが、自分へ標的を変えさせたいのだ。

「なんのつもり?」

「貴様など、この釣り竿で十分だ」挑発を続ける。

「じゃ、あんたを排除してからにしよっかな?」

 そのとき疾風が吹いた。

「その方に御用でしょうか?」

 女の首筋にプラズマブレードの柄を押し当てて問う。メグだ。

 プラズマブレードの刃は出していない。民間人の前での殺生を避けたいということか。いや、メグに殺生はできないからだ。

「ほう」

 ナンバーズは少し関心したとでも言う風に言葉を漏らし、表情を悪鬼に変えて言う。

「だが、用事があるのはそっちの娘だと言ってるんだがね。人形はでしゃばらずに飾られてればいいんだよ」

 その迫力の向かう先、娘がすくむ。

「そちらのお嬢様がどなたか存じあげませんが、あなたへの行動に変更はありません」

 反対側の手で、もう一振りのプラズマブレードを兵馬に放る。兵馬はすぐに釣り竿を放してブレードを構える。

「まぁ、でも、ちょっと不利そうなんで帰るね」

 余裕ありありで言うと、メグの手をあっさり振りほどき、跳躍して大岩を越えた。そのまま姿は見えなくなった。

「大丈夫か?」

 兵馬が娘を気遣う。娘は何が起こったのかも、今の状況も理解できていない様で、ただ怯えていた。

「助かった」

 メグへも礼を言う。

「いえ、申し訳ありません。私こそ油断しておりました」

「陽動だと言うことを忘れていたわけではないが、皆と離れるのは迂闊であった」

「まさか、こんな時と場所でしかけてくるとは思っておりませんでした」

「そうだな、ここの景色が見えたので来てみた。自然しか視界に入らないから、とても落ち着けたのだがな」

「次は、落ち着いて来られたらよいですね」

「ああ」

「ところで、そちらのお嬢様は、お友達になられたのでしょうか?」

 娘は、まだ事体が把握できず怯えていた。

「いや、知らない娘だが、難破について話があるそうだ」

「ナンパでしたか、それはお邪魔をいたしました」

「声をかけられた直後にさっきのやつがきた」

 何かを察したのか少しあわてた風に答える。

「そうなのですか、では、そろそろお手を離されるのがよろしいかと」

 いつの間にか手を握っていたらしい。

 兵馬は「あっ」と言いながら、あわてて手を放す。

 そして、その手を放した瞬間、上空に飛行物体があらわれ三人の上に影を落とした。

 三人が見上げると、あきらかに地球上のものではない形状をしている物が浮いていた。他の方向からは見えない様になっているのか、浜辺の人々には目立った動きは無い。

 その浮遊物体から重力を無視した速度で複数の影が落ちてきた。それが人型をしていることを認識できた時、影は兵馬とメグに襲い掛かっていた。

 そして、一体が無関係の娘に手を伸ばす。兵馬はかばおうとしたが、影に阻まれどうすることもできなかった。影達は少女を連れてジャンプし飛行物体に消えた。

「レッド、状況確認、飛行物体を追跡、お願い」

 すぐにメグは指示をしながら。

「兵馬さまっ」と駆け寄る。

「姉さま、飛行物体、消失しました」

 レッドからもすぐに報告が返ってきた。

「ああ、関係の無い人まで」

「すまない、俺はほんとに迂闊過ぎだ」

「迂闊だったのは、俺だ。すまん、間に合わなかった」

 必死の形相の武蔵が立っていた。

「みんな、いったん戻って」通信でアリスが呼んだ。



 皆は神妙な面持ちで集まっていた。その横で、アーノルドが撤収作業を進めている。

「あの状況、俺たちを楽に殺せたはずだった」

「本命はあくまで武蔵ってことでしょうね。まだ、こちらを探ってるのもあるかもだけどね」

「ほんとに申し訳ない」

「向こうの目的はどうあれ、私たちは可能な限り抵抗しましょう。ホーム籠城は苦しいしね。無責任だけど、連れ去った以上、命は保証されていると思いましょう。そしてここは、運命をあてにするわ、人が死ぬほどの関りになるのなら、きっとなにかしらの強制があるはず。私たちがうまく立ち回れる保証なのか、超自然現象によるものなのか、それは出たとこ勝負だけど……良い方向につながると思って動くだけよ。

 そして、彼女には本当に申し訳ないけど、今回の件、陽動の目的は果たせた。マザーから準備完了の連絡があったわ」

 言ったアリス本人も含めそれが良いとは誰も由とできずに黙る。

「なんか複雑な心境ですね」

 カナが代表して発言した。

 そして、

「絶対に助ける」

 兵馬の言葉に、皆、静かに頷いた。

 そして、海水浴場が女性の行方不明によって大騒ぎとなる中、一行はこっそりと後にした。しかし、その後、女性の行方不明についてはほとんど報道されなかった。


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