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ナンバーズ襲来2

 とある山奥の森、兵馬が妹の墓を作った場所に、兵馬の弟、州馬は立っていた。

「この刀は……」

 兵馬が挿した刀を見てすぐに理解していた。

「まさかこの下に、いや、日和か……くっ、俺は何もできなかった」

 苦渋の表情を浮かべて座りこむ。

「すまない、俺が、俺が弱かったばかりに……いや、あいつは強いとか弱いの問題では無かった……

 お前の同行を許した事に後悔すべきだな、悔いても……」

 涙が止まらなかった。

 しばらく泣き続けるが、ふと、

「あの時、兄さんは生きていた、なぜじゃまをした?」

 州馬はメグが仇だと思い込んだままなのだ。

「どこに居るのだ」



「Bエリアに人です」

 レッドは、アリスに報告する。同時に映像を送っている。

「これは弟さんだろうね。メグに連絡して兵馬さんに伝えてもらって」

「了解です」

 レッドは指示を受けるとすぐにメグに連絡する。

 弟の情報を得た兵馬はメグを伴ってすぐに現地へ向かった。未開の山中の移動はやはり時間を要する。急げば人肌は傷だらけになってしまうだろう。それでも兵馬は、かなりの速さで移動していた、多少の傷は無視だ。メグは兵馬の傷を心配しつつも彼の速さに合わせてついて行く。

 墓標の前に立つ州馬が視界に入ったところで兵馬が声をかけた。

「州馬っ」

 気付いた州馬は、二人に向かって走り寄ってきた。

 右足の動きが少しおかしい、動きからして神経系にも異常があるのだろう。

 そして、距離が詰まっても勢いを押さえずに刀を抜いてメグに斬りかかる。

「日和の仇っ」

「よせ」

 察した兵馬が前に立ち制止する。

「兄上、本者か?

 あの時もなぜ止めた、なぜそいつと一緒に居るのですか?」

「落ち着け、この人はあの女とは違う、味方だ」

「篭絡されたのですか?」

「何を言ってるんだ」少し声が上ずる。

「もしや武蔵も、やつも居るのでしょうか?」

「ああ」

 正直に答えてしまったが、少ししまったと思った。兵馬らしいが。

「やはり寝返ったのか」

「いや、武蔵も味方だ」

 正直すぎて、さらに火に油を注いでしまう。

「そういう事ですよね」

「勝手に納得するな」

「あのっ、よろしいでしょうか?」

 会話が続き膠着状態となったのを見計らいメグが割って入る。彼女にしては少し声は大き目だ。

「お前の話など不要だ」

「州馬様、まずは、私の話を聞いてくださいませんか?」

 真っすぐに立ち、胸に手を当て、もの静かに語り掛ける。

「あ、えと、わかった。まずは話を聞こう」

 確かに戦う気の無いことは理解できた。兄を疑う事にも抵抗があった。だが自分が動揺していることにも内心驚いていた。

「ありがとうございます。わたしはメグと申します」天使のほほえみは効果ありすぎの様だ。

「まて、俺が話す」

「いや、この方の話をお聞きしたい、俺だって争いが本意では無いのです」

 言葉を交わしたことで、興味はメグの方に向いたのだろう。

「ほう」

 兵馬は少し不満気だ。

「お二人とも、落ち着いてください」

「はい」同時だ。

 それから、メグはこれまでの経緯を要約して話した。

「そうか、日和は……」

「お役に立てず、申し訳ありません」

「いえ、兄を助けていただいただけでも、ありがたいです。

 そして、遅くなりましたが、あの夜はすみませんでした」

「お気になさらず。兵馬様にあなた様の分もたくさん謝っていただきましたし、事情は把握しております」

「ありがとう。

 それにしてもあの化け物を倒せたのは、すごいな」

「偽物だ、それに聞いた様にもっとたいへんな事になってるがな」

 その時、

「兵馬さん、戻れそうかな?」

 一緒に付いてきているドローンからアリスの声がする。

「ああ、もう大丈夫そうだ」

「お手数かけるわね」

「しかし、用件は俺にか?」

「まぁ、二人になんだけどね」

 兵馬は自分の用件など些事だと理解していた。もし話が付いていなかったとしても、メグが自分について来ている以上戻る選択をする。

「了解した。

 州馬、お前も一緒に来ないか?」

 そして提案する。

「すみません、俺は、お世話になっている方のところへ戻るつもりです。 体調がおもわしくなく、放ってはいけない」

「そうか、俺の手は必要か? お前、足も悪くしてるだろ?」

「今は大丈夫です」

「それでは、居場所を教えてくれるか?」

「はい、この山を降りると小川があるのですが、その近くの畑の傍にある一軒家です」

「わかるか?」メグに振る。

「はい、該当一軒あります」

 メグは即時に答える。

「近いうちに寄らせていただこう」

「兄上は、どちらに?」

「町のマンション、あ、この建物です」

 メグが答え、紙にメモをして渡す。

「では、俺は行きます」

「ああ、会えてよかった、本当に……」

 兵馬はなんとか涙は抑えた。

「俺もです」

「またな」

「では、お達者で」

 弟との別れを済ませメグに向き直る。

「待たせたな。俺たちも戻るとしよう」

「はい」

 二人は急ぎホームへ向かった。



 州馬は別れた後、森の途中、立ち止まって空を見上げて泣いていた。先ほどは空元気だったのだろうか。

 そして空に向かってつぶやく、

「覚悟はしていた。あの時、既に息絶えた彼女は腕の中にあったのだから」

「兄上、俺は何をすればいいのだろう。あなたも同じだったのでしょう?」

「人類を守るってなんなのです。仲間達、いやたった一人、妹さえ守れなかったのですよ」

「おおおぉ」

 森に響く叫び、そして立ち尽くし、また涙していた。

 妹の死という事実の重さは、のしかかる様に体を重くする。

 しばらくの間そこを動く事ができなかった。



 兵馬とメグが戻るとアリスは要件を話した。

「せっかく弟さんと会えたのに、急かしてごめんなさい」

「それで、どうした?」

「空母が近づいてきてるの」

「くうぼ? …………敵が動いたのか?」

 兵馬が思案しているのを見て少し待ってみた。

「ええ、だから念のため戻っていただいたの」

「弟の状況も居場所も分かった。今は十分だ」

「あなたを巻き込んじゃった側が言うのもあれだけど、こういう時、一緒がいいですよね」

「こちらとしても、一宿一飯どころでもなく世話になっている立場で言うのもあれだが?

 のけものは嫌だな」

「じゃ、みんな家族って事で一緒にがんばりましょう」

「ああ、お願いする」

「とりあえず、空母とか飛行機とかお勉強からですね」

 メグが少し嬉しそうに補足する。

「ああ、お願いする」

 同じ返事でも、表情は残念になっていた。

 その日、空母は港から五キロの位置まで近づいて停船した。そのまま、特に動きは見られなかった。



 数日が過ぎた。

 州馬は、助けてもらった老婆の家にそのまま居候していた。一文無しなため、お礼として畑の手伝いを請け負っている。今日も畑仕事に出ていた。

 そんな折、数人の男たちが老婆の家に訪ねてきた。

 この家に関係のありそうな身なりでは無く、それどころか一般人とも思えないドギツイ色の厳ついスーツ、そしていかにもな顔、その筋の者と容易に想像がつく。



 その日、空母に目立った動きもないため、兵馬とメグは州馬の元を訪ねることにした。

 二人は、お世話になっている方について、なにも聞いていなかった事を後悔していた。お土産を、何にすればよいか困ったのである。一軒家であるため複数人は想定できるが、年齢、性別によっては嬉しくないものもある。住所は分かっていることから、公共の機関のデータベースからこっそり取得することは可能だが、それは恩人に対して失礼であるとの見解だ。

 二人が仲良く贈り物を探す光景は、傍から見るとどの様な関係に見えるだろう。片時の平穏を楽しむ二人には、他者の視線など意味を成さないのだろうが。結局、体が悪いとのことだったのでフルーツ盛り合わせに決定した。

 お土産選びに時間がかかったが、想定していた事体のため、目標到達時間の午後三時には余裕があった。舗装はされているが信号の無い道を、二人はのんびりと歩く。二人は、毎日一緒に歩いている。買い物だけでなく、森の中も見て回った。このカップルはその平和な日常をともに味わっているのだ。

 目標の家が視界に入った時、急にメグが走り出す。

「兵馬様もお急ぎを」と声をかけて。

「どうした? とりあえずわかった」

 メグの様子から、兵馬も後を追って駆け出す。走る速度はメグの方が早い。全力の様だ。



 老婆の家では、先ほど来訪した男たちが暴挙を働いていた。テーブルがひっくり返っているだけでなく、割れた食器らしきものが散らばっていた。そして、どすの利いた声でしゃがみ込む老婆へ向かって言う。

「そういえば、娘が居たよな。金払えねぇなら、娘連れてくぞ」

「それだけは、ご勘弁ください」

「あと、分かってると思うが警察に連絡するんじゃないぞ」

「お待ちください」

 到着したメグが男たちへ声をかけた。

「お、ちょうど娘が帰ってきたか」

 メグを娘と勘違いした様だ。

「この婆さんがどうなってもいいのか?」

 男の一人が老婆の髪を掴んで引きずる。

「お放しなさい。なんてことをされるのですか」

 その容姿と言い様から、娘で無いことはすでに分かったろう。

「じゃぁ、あんたが言うこと聞いてくれるか? お前もこの家の関係者ってことでいいんだよな?」

 男は得意の凄みでメグに要求する。

 メグは状況から”よくあるパターン”と認識した。

「そうです」と答える。

「こんな娘は知らないよ。あんたも早くお逃げ」

 お婆さんが必死に声を出す。

「本人がそうだって言うからいいんだよ。だまってろ」

 そういって老婆を足蹴にする。

「お前、動くなよ、動けば婆さんなぐるぞ」

 今蹴っておいて尚暴力をふるうのか。

「ひどいことを」

「あんた、あたしのことはいいから、お逃げなさい」

「だまってろって言ってるだろうが」凶荒な声で殴るふりをする。

「待ってください。おっしゃるとおりにしますので」

 メグは応じる返事をした後、

「お婆さん、わたしは大丈夫ですから」とやさしく声をかける。

「へっ、言うじゃねぇか」

 言いながら、腕をつかむと同時に胸をもむ。メグは動かない、表情も変えない、その目はリーダーらしきものに向けられていた。

「いいねぇ、その強気、それに相当な美人さんだ」

 その間に手下に腕をガムテープで固定され、シャツをはだけさせられると、そのたわわな胸があらわになった。

「おお」男どもは感嘆を声に出す。

「こっちへこい」

 そのまま車へ連れて行こうとする。

 その時、突然手下二人は同時に倒れる。小さな石が二つころがる。頭にぶつけられたのだ。その投擲者は当然遅れてきた兵馬だ。

 メグはすぐにリーダーへ近づき、体当たりで突き飛ばす。もちろん手加減はしている。そして問う。

「この方のお借りしている金額を知りたいのですが?」

「このあまぁ」

 といきまくところへ、兵馬のこぶしがとぶ。

「あ、お待ちください。暴力は……最後で」

 兵馬が殴る前に注意しておくべきだったと思った。実際、暴力は使うつもりは無い。

「しかし……」

 と兵馬は悔しそうに答えると、メグの姿を見て怒りの眼をリーダーに向ける。そのまま腕のガムテープをはがした。

「に、二百万だ」

「あたしが、借りたのは百万だ」

「り、利息だよ。あたりまえだろうが、ボケ」

「法的上限の利率で再計算させていただきますので、詳細を教えてください」

「俺は知らねぇ、事務所に聞きに来い」

「わかりました。後日、お支払いにお伺いしますので、本日はお引き取りください」

「わかったよ」言いながら、逃げる様に車へ向かった。

「お前ら急げ、ばかもんが」そして八つ当たりだ

 兵馬は車が出ていくのを確認してから家に入ると、玄関には誰もいなかった。奥へ進むと、メグがお婆さんを介抱していた。

「大丈夫でしたか、お二人とも」

「あんたがた、あんな事して大丈夫なんか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「あんたがたが強いのはわかったが、相手は……」

「相手が誰であれ、対応方法はありますので、安心してお休み下さい」

「……見ず知らずのあなた方にご迷惑をおかけするわけにもいかないのじゃが、娘に危険の及ばない様に力をお貸しくださらないでしょうか?」

 お婆さんは、少し思案してから頼みごとを切り出した。

 メグは兵馬を見る。

「困ってる人を助けるのに理由は無いが、ここに知り合いがお世話になっていると思う」

「そうか、どこか雰囲気が似ていると思ったが、あの人のお知り合いか」

「ああ、知り合いというかあれは弟でな」

「おお、それはそれは。 あの人がおるときはやつらは絶対に来ないんじゃ、一度たたき出されたからの」

「なるほどな」

「今は、あたしの代わりに畑に行ってくれておるよ」

「そういう事か」

「四時頃には戻ると思うが、畑に行きなさるかの?」

「いや、やつらが見張ってるかも知れない、ここで待たせていただけないだろうか」

「お茶も出せんが、ゆっくりしてってくだされ」

「何かお手伝いすることはございませんか?」

「いやいや、迷惑ばかりかけれん」

「遠慮なさらなくてよろしいですよ」

「もうすぐ娘も戻るけ、ちょっと待っててもらえれば」

「なに!」

 その内容から兵馬は嫌な予感を覚える。

「もしかすると」メグも察する。

 その時、電話が鳴った。固定電話だ。

「わたしが出ますね」

 おばあさんを制してメグが出る。要件を聞いて電話を切る。

「間違い電話でした」

 と笑顔で伝えた。

 先ほどの二人の会話を聞いていた老婆が話す。

「土地は、作物の収穫が終われば手放すつもりじゃ。そうすれば借りたお金は返せる」

「我々へのお気遣い、ありがとうございます。返金は必要かと思いますが、法外な金額は必要無いと思います。私の軽率な行動で、心配事を増やしてしまったかもしれませんが、ここはお任せ下さいませんか?」

「ああ、正直、今は頼るしかできませぬ、本当に申し訳ないですじゃ」

「すいません、やはり私たちは先に畑の方に行ってみますね」

「そうなさるか」

「はい、用事を思い出してしまいましたもので」

「気にせんでええよ」

「では、先ほどの件はこちらで処理いたしますので、後日あらためてお伺いさせていただきます」

「それでは、またな」

 よくわからないが察した兵馬はメグに合わせる。

「いつでも来なされ」

 老婆は手を少し上げて見送ってくれた。

 外へ出たメグは、畑の方では無く街に向かって歩き始めた。兵馬も合わせて歩く。

「娘を預かったので、そこを動くな……とのことです」

「なるほど、外道め」

「ですので、先にこちらから向かいます」

「そうしよう」

 二人は走り出す。地図データによって場所は分かっている。メグは走りながらアリスに事情を知らせた。

(「そういうことね。武蔵に頼んでみましょうか? 暇だろうし」)

 アリスの返事だ。 

「お願いします」


メグとの通信の後、店に居た武蔵にアリスは命令した。

「あの子たちの場所だと街に着くのに時間がかかりすぎるの、お力をお貸しいただけないかな?」

「了解だが、好きにしても大丈夫か?」

「ええ、非合法相手だから、なんとでもなるわ」

「そうか、じゃ、まかせろ」

「あ、できれば、やっぱ地球人レベルでやって欲しいかな」

「わたしが同行します。女性が捕らわれているとのことですし、それにやりすぎ無い様に……」

 今日はカナも店に来ていた。いつもは宇宙船に籠ってなにかしらの作業をしているらしい。

「助かるわぁ」

 アリスの本心だろう。

 そして、武蔵とカナはすぐに店を出た。



 武蔵が到着してから数分後、

「おい、もういいか?」

 武蔵がそこのボスらしき者の胸ぐらを掴んで持ち上げた時、背中側、窓の方から聞き覚えのある女性の声がした。

「あちゃ~、見つかったか」

 武蔵は振り向かずに応じる。

「お前、うかつに出回らない方がいいんじゃないか?」

「先に忠告しといてくれよ」

「見つけたこっちが恥ずかしかったわ」

「お、おい、お前、よくわからんが、助けてくれ」

 ボスらしき者がおびえた声でわめく様に助けを求めた。その見知らぬ美少女がナンバーズ、地球人の敵と知らずに。もちろん、ナンバーズは言葉を無視して構えていた銃を撃つ。

「くっ」

 武蔵が苦鳴をあげる。弾は武蔵の背中にあたっていた。そして、

「来るなっ」

 と大声で叫ぶ。娘を連れて廊下に出ていたカナが、様子をうかがいに入って来るのを制したのだ。武蔵の制止にカナは足を止めた。その目の前を銃弾がかすめる。

「うわ」っとすぐに廊下に下がる。

「お前に要は無い、ほんとに引っ込んでていいぞ」

 窓の少女は銃口を武蔵に向けなおす。

「しかし、もしやと思って撃ってみたら、大当たりだ」

「なんでこいつを狙った?」

 武蔵が庇わなければボスは頭を撃ち抜かれていただろう。

「お前の代わりにやってやろうと思っただけさ、まさか庇うとわね」

 わざとらしく言う。

「こいつは関係無いだろ」

 といいながら、その当人は当身で気を失わせる。

「そうだね、でもこれで、この辺に倒れてるやつ全員人質みたいなもんだな。さて、いちおう聞くけど一緒に来てくれる?」

 あたりに銃を向けながら言う。

「う~む、困ること言うなよな。 だが、なんで俺を連れ戻す?」

 困るといいつつ、余裕が無いようにも見えない。

「説得はしてみる様に言われてるので、い・ち・お・う」

「どうしたものか、行く気は無いが人が死ぬのも避けたい」

「それの方がわからない、そのへんのゴミ放っておけばよいものを」

「そうだよな~」

 武蔵の返事を了承ととったわけでは無いだろうが、ナンバーズは、何かを察したのか外を見る。

「おや、外のやつに気づかれた様だよ」

 そう、事務所は三階、その窓枠に立っているのだ。

「おい、お前」

 下から声がした。

「ん?」

 まさか声をかけられるとは思っていなかった様だ。

「また、会ったな」

「また?」

「ああ」

 あらためて肯定する。

「気安いな地球人」

 と、下の者に気を向けた一瞬。武蔵は手近にあった椅子を投げつけた。

「おっと」

 椅子を交わす様に窓から飛び降りる。高さは気にしていないのだろう。

 椅子の直後に武蔵も窓を飛び出ていた。勢いで椅子を追い越し拳を握ってナンバーズに向かう。

 対したナンバーズは空中で銃を撃つ、武蔵はそれをかわすため体勢を変え失速した。

 そして、二人とも当たり前のように着地して対峙する。

 ナンバーズは、さらに着地と同時に侍に向けて銃を撃った。兵馬はわずかに横にずれてかわす。

「なに?」

 人間にかわされたことに驚いたのだ。

 その瞬間、兵馬の反対側からメグが仕掛けるが、プラズマブレードは空を切る。しかし、本体にダメージは無いが、セーラー服の一部が塵と化す。プラズマブレードはその特性ゆえに、影響範囲が広い、明確な刃では無いのだ。

「くっ、なにが起こっている?」

 自慢のセーラー服にほころびが発生したことにうめき、状況を疑問視する。

 武蔵一人を相手にしていたはずが、いつのまにか包囲されていた。

「武蔵殿、こいつは違うのか?」

 仇かどうか確認したのだろう。

「ああ、お前には関係ない」

「それでも、あなたの敵なら、敵なのだろう」

「武蔵の仲間だと?」

「まぁ、違うと言うても、意味無いか」

「ふん、まぁいい、仲間の居ることが確認できた」

「ん?!」

 武蔵は与えてはいけなかった情報だと悟った。

「またな」

 別れの挨拶の後、背を向けて歩き出す。思い出したように振り向き、

「ああ、米軍の空母に居るから、気が変わったら来い」

  この少女は、ナンバーズ8、エリカ・ダークウッドだ。現在の指揮官と言ってもいい存在が、なぜ空母から出て来たのか。

「行くかっ」

 武蔵は、その背中に吐き捨てる様に返した。

 エリカは、そのまま歩いて去って行った。皆が、見送る形になっていたところへ。

「あとは、わたし達が引き受けるわ」

 傍に隠れて見ていたアリスとアーノルドだった。

「来てたのか」

「お、お願いした立場ですから」

 この時、ほんのりと頬が赤いことに気づく者がいたかどうか。なぜか、あわてて後ろに立つアーノルドに向き指示を出した。

「アーノルド、お願い」

 アーノルドは、彼にとっては狭い入口を通って事務所に入って行った。

「兵馬さんたちは、お家まで連れてってあげて」

「了解している」

 それが優先事項だ。そして、

「とりあえず、あなたは手当しないと」

 武蔵に呼びかけた。

 そう、先ほど銃弾を受けていたのだ、以前兵馬をかばい銃弾を受けた時もそうだが、急所にあたればやはり致命傷になるが、筋肉の鎧であれば再生にそれほどの時間を要しないらしい。ただ、中に残らない様に弾は先に取り除いた方がよいとの提案だ。

「あれ、妹ちゃんは?」

 助けた娘は傍らでメグが見ている、そしてカナがいない。

「追わせた」

「危険じゃないの?」

「そうだが、あの物言いが気になったのでな」

「まぁ、あなた方の事情もあるでしょうしね」

「あ、そんなに考えて無いぞ」

「あなたらしい」

「ははは」

 武蔵が笑い。

「ふふ」

 アリスがほほ笑んだ。

 そこへ州馬が足を引きずりながらも走ってきた。

「大丈夫か?」

 兵馬が心配する。

「おまえか?」

 横で泣いている娘をみて州馬は武蔵に向けて言う。

 それを兵馬が制するように答える。

「勘違いするな、この方のおかげで全員無事だ」

「すみません、焦ってしまいました」

 州馬はすぐに武蔵へ詫びる。 武蔵が敵でないことは理解はしていたのだ。

「いろいろ含めて気にしなくていいぞ」

 武蔵も州馬の存在も当然聞いている。

 州馬に気付いた娘もすぐに立ち上がってすがりついていた。

「怖い思いをさせたな」

 娘は声も出せずに泣いていた。州馬は娘を気遣う。

「私たちのせいです。配慮が足りませんでした」

 メグが謝罪する。

「事情がわかっていなかったのだから、仕方の無いことです」

 州馬が答えた。

「でも、どうしてここへ?」

 兵馬が聞く。

「お婆さんに聞きました」

「ちゃんとご説明した方がよかったですね」

 メグは気を利かせたつもりだったが、機械の浅はかさと感じた。

「いえ、やさしさゆえでしょうことは理解されていますし、気にされていませんよ」

「ありがとうございます」

 事体が落ち着いたと見た武蔵が州馬に話しかけた。

「俺の話を聞いてくれるか? あの時のことだ」

「いや……もう聞きました。 心の整理はつきませんが、理解はできましたので」

「そうか」

「今回の件の礼は言わせていただきます。本当にありがとうございました」

「こちらもいろいろ世話になってるのでな、お互い様よ」

「それに、あなたたちは、とても良い人なこともわかりました」

「そんな事はいいから、早く連れて帰ってやれ」

「ありがとうございます」

「ありがとうございました」

 州馬と娘はお礼を言って家に向かって歩き出した。

「お前の弟、良いやつじゃないか」

「ああ、自慢の弟だ」

「顔は弟が上だな」

「そうですね。小次郎殿には及ばないでしょうが」

「なぜ小次郎? ああ、お前でも皮肉を言うんだな」

 兵馬はにやりとして、

「では、俺たちも彼女を送っていきます」

 と、メグに目くばせする。

「はい」と答えてメグが付き従う。二人は、州馬達に走って追いついた。

 残った二人、武蔵とアリスは目を合わせて、すぐにそらした。

「き、傷、そうそう、消毒もしましょう」

 どもったことにさらに焦りつつ手を動かした。

「あ、ああ……お願いする」

 なんとなくぎこちない二人であった。


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