幸せのカタチ【プロポーズしてきた彼氏には子供がいました】
幸せのカタチ
【プロポーズしてきた彼氏には子供がいました】
うん、うれしい、あたしもあなたと…
ちょっと待った!
え?
プロポーズ受けてくれる前に、大事な話があるんだ
な、なに?
来週、会ってほしい人がいるんだ
会ってほしい人?
返事はそのあとで…
「はぁぁぁ??」
翌週いつものカフェで会うと、サトルは男の子を連れて来た
「ツキって言うんだ」
6歳になるというそのツキ君は、サトルの横でおいしそうにジュースを飲んでいる
「ちょっと待って、サトル23歳でしょ?17歳で産んだの?」
「ははは、僕は産んでないよ」
「そりゃサトルは男だから…」
「いや、そうじゃなくて…」
「はぁぁぁ??」
「だから、前に付き合ってた人の子で…」
話はこうだった
前に付き合ってた女性は歳上で子供がいた
ほぼ同棲状態だったけど、その女性は不幸にも交通事故で亡くなってしまったそうだ
ツキ君はその女性の親戚に預けられたけど、ツキ君の誕生日にサトルが会いに行くと…
「虐待、されてたんだ…」
「それで引き取ったの?よくその親戚、許したわね」
「あっさりだったよ、やっかい払いだったのかもな…」
そりゃ、ツキ君かわいそうだし、虐待されてたなら一刻も早く引き離さなきゃだけど…
「ねぇパパ、このお姉ちゃんがパパが言ってた、大好きな人?」
「パ、パパパパァ!」
「うん、そうだよツキ」
ダメだ、頭が追いつかない…
「パパはこの人と結婚したいと思ってるんだ、ツキ、どうかな…」
「うん、いいよ、ボクこのお姉ちゃんの子供ならいいよ」
「ちょ、ちょっと…」
「ミキ、やっぱり、ダメかな…」
「いや、ダメとかじゃなくて、その、児童…相、談…じょ、と・か…?」
「うん、それも考えたけど、ツキは俺と一緒に住みたいって言うからさ」
はぁーマジかぁー
まさかサトルに子供がいたとは………
「じゃ、夕方迎えに来るから」
「う、うん…」
「パパ、またあとでね」
次の週末、ツキ君と2人で過ごすことになった
もし結婚したら、親子になるから、慣れるために…
「って言ったって…」
とりあえず何も思い浮かばなかったから、遊園地に来た
けど…
「どれに乗りたい?」
「お姉ちゃんと一緒に乗れるのなら何でもいい」
ツキ君は気を使ってるのか緊張してるのか、あまり笑わない
表情を変えず、ずっとあたしの後を付いてくるばかり
何だかぎこちない…
「そろそろお腹空いたでしょ、お昼にしようか」
「うん…」
広場にシートを敷いて、お弁当を広げた
「うわぁー」
あれ?お弁当見たら表情が変わった
「どう?おいしそうでしょー」
「これ、お姉ちゃんが作ったの?食べていい?」
「もちろん!ツキ君に食べてほしくて、早起きして一生懸命作ったんだよ!」
「いただきまーす」
「どう?おいしい?」
「うん!おいしい!」
満面の笑みで振り向いたツキ君のほっぺには、ごはん粒が付いていた
「お姉ちゃんがママになったら、毎日食べれるんだね!」
ぶはっ!
まるで迷ってるあたしの心を見透かすように、そう無邪気に話すツキ君
でも…
かわいいな
「そうだ、ツキ君、これ」
「なに?」
あたしの電話番号を書いたメモを渡した
「もしあたしとはぐれて迷子になったら、大人の人にこれを見せて」
「うん、わかった」
ツキ君は、メモを大切そうにポッケにしまった
「パパァー」
「やぁ、ツキ、どうだった?」
「うん!楽しかった!」
お弁当を食べたあとは、何だか打ち解けて、2人して遊園地を満喫した
「それにね、それにね、お姉ちゃんのお弁当、すっごくおいしかったんだよ!」
「そっかぁー、パパは料理できないからなぁ」
なるほど、お弁当に目を輝かせたのはそういうことか
前の親戚の家でも、あまり手料理食べさせてもらえなかったのかもしれない
その日からデートには必ずツキ君も来るようになった
「ミキ、わざわざありがとう、ツキがどうしてもって…」
ツキ君が、あたしの手料理を食べたいそうだ
「じゃあ、行きましょうか」
3人で彼の家の近所のスーパーに買い出しに向かった
「ツキ君、なに食べたい?」
「えーと、ハンバーグ!」
「よし!じゃあ今日はハンバーグにしよう」
「やったぁー!」
3人で手をつないでお買い物
「さぁ、できたよー」
「うわぁー、おいしそう!」
あらかじめテーブルに並べたお皿をツキ君は移動し始めた
「ボクこっち!」
自分のお皿をあたしの隣に持ってきた
「いただきまーす」
むにゃむにゃ…
食事が終わり、3人でゲームして遊んでいると、ツキ君が眠そうになってきた
「ツキ、そろそろ寝る時間だ」
彼がツキ君を部屋に連れて行こうとすると、ツキ君はあたしの手を握ってきた
「ははは、そうか、じゃあミキ、頼む」
ツキ君を部屋に連れて行き、布団に寝かせると、すぐに寝息が聞こえてきた
あたしの手を握ったまま…
しばらくツキ君の寝顔を見ていた
「アンタ、ばっかじゃないの!」
専門学校の昼休みに友達のハルに言ったら、第一声にそう言われた
「何で見ず知らずの子供の面倒をみるのよ!」
ペペロンチーノをクルクル回しながら、そう言い放つハル…
「そ、そうだけど……か、かわいいよ…」
「かわいいって…犬や猫じゃないのよ!」
「そ、そうだけど……」
「その彼と血がつながってるワケじゃないんでしょ!」
「そ、そうだけど……」
「どこのアバズレの子供か分からないんでしょ!」
「ア、アバズレって……」
「あたし達まだ20歳よ!悪いことは言わないから、やめときなさい」
「や、やめるって……」
なにをやめるのよ……
「そんなの、元の親戚にあずけて、虐待があるなら児童相談所に通報して、施設で面倒を見てもらう!当たり前でしょ!」
「そ、そう……」
だけど…
「子供よ、にんげんの!アンタ分かってるの?小学、中学、高校大学、就職に結婚!ずーーっと面倒みるのよ、責任取れるの?覚悟してるの?」
か、かくご……
「とにかく、あたしは反対!ミキが不幸になるのを見過ごせない!」
「ふ、不幸って…」
そうなるって決まったワケじゃ…
ハルが食べ終わっても、あたしのアラビアータは半分以上残っていた…
「……ちゃん、……ねぇちゃん」
「……」
「お姉ちゃん!」
「はっ!」
「お姉ちゃんの順番だよ!」
ツキ君は、にっこり笑ってトランプを差し出している
「あぁ…うん、ごめん、えーと、どれにしようかなー、えい!これだ!」
あ…
「あーやった!ババ引いたー!」
「こらツキ、お姉ちゃんがババ引いたって、言っちゃダメだよ」
「あはははは!」
「ミキ、元気ないな、大丈夫か?」
「うん、ちょっと疲れてるだけ…」
「今日はもう帰ったほうがいい、ツキ、お姉ちゃん送ってくるから、お留守番してて」
「えーもう帰っちゃうのー」
「ツキ君、ごめんね、また来るから…」
彼の車の助手席に座る
キュルキュルと鳴るモーター
低いエンジン音と共に、夜の街を走り出した
あたしの家までは車で10分ほど
ぼんやりと外を見る
流れる街の灯り
あの灯りの一つ一つに、家族がいるんだな
みんな、幸せなのかな
(不幸になるのを見過ごせない)
ハルの言葉がよぎる
「来週はミキのお母さんと会うんだな」
「…そうね」
「ちゃんと話して、結婚を認めてもらおうな」
「…そうね」
「し、心配するな、反対されたら俺がちゃんと話すから」
「…そう…ね」
また反対されるのか
嫌だな…
「あの子と一緒に暮らすなんて、絶対にダメです!」
「お母さん、声が大きいよ」
お庭で遊んでるツキ君に聞こえちゃう…
「サトルさん、あなた、まだ社会人一年目でしょ!」
「は、はぁ…」
「ミキ、あなたはまだ専門学生、卒業して社会に出ないでいきなり結婚、しかも子連れだなんて!」
「そ、そうだけど……」
「常識で考えなさい!血がつながってる親戚の家がいいに決まってるの!」
「でも、ぎゃくた…」
「なら、児童相談所に通報して、施設に預かってもらう、当たり前でしょ!」
「いやでもツキは俺と住みたいって…」
「だったら、あなた1人で育てなさいな!ウチのミキを巻き込まないでちょうだい!」
「お母さん、巻き込むだなんて…」
「女手一つで育てたかわいい一人娘が、みすみす不幸になるのを看過できません!」
「不幸…って……」
「とにかく!絶対に認めません!何なら今からアタシが児童相談所に連絡します!」
「わ、分かりました、今日はもう帰ります…」
「お母さんごめん、あたしも帰る…」
「お話しがあります!ミキ待ちなさい!」
「ツキ君が…待ってるから……」
「ミキ!」
夕暮れの車の中
重い空気がただよう
「お姉ちゃん…?」
ツキ君は少し眠そうだ
「ツキ君眠い?まだ家までかかるから、少し寝てな…」
「…うん」
後部座席であたしの右に座るツキ君は、すぐにウトウトして目を閉じた
「反対、されちゃったな…」
「うん…」
「少し時間をかけて、分かってもらおうな」
「分かって…くれるかな…」
「昔の人だから、常識とかそういうのがあるんだろうな、頭カタイな」
「む、昔の人って、頭カタイって…」
「ミキ?」
「お、お母さんが言ったことは当たり前よ!こんなの普通じゃないもん!」
「どうしたミキ…」
「ハルにも同じこと言われた!あたしと同い年のハルにも!悪いこと言わないからやめとけって!」
「…ミキ」
「不幸になるって、あたしが不幸になるの、見過ごせないって!」
「………」
「ごめん、サトル……」
涙がとまらない
そのあと、あたしの家に着くまで、サトルもあたしも一言も喋れなかった
翌日、腫れた目のまま専門学校に行った
機械のように授業を受けて
授業の後、スマホの通知を見て
連絡が誰からも来てないことを確認して…
いつも聴く音楽をイヤホンごしに流して
電車に乗って
駅に着いて
音が止まっていることに気づいて
もう一度音楽をかけようとスマホを握ったら…
ブルブル、ブルブル!
は!
「サトル…」
おそるおそる通話を押す
「もし、もし…」
『ミキ、ツキは?ツキと一緒か?』
え?
『ツキと一緒にいるか聞いてるんだ!』
「ど、どうしたの?ツキ君はいないよ」
『ミキと一緒じゃないのか!』
「サトル、ツキ君まさか…」
『いないんだ!家にいない!ランドセルもない!』
「ど、どういうこと…」
『とにかく、心当たりのとこ探すから、もしツキが来たら連絡くれ!』
「サトル!サトル!」
ツーツー
ツキ君がいない?ランドセルもない?
どういうこと?
家出?
まさか誘拐!
あわててあたしも探しはじめた
「どこ、ツキ君が行きそうな所は!」
必死に考えながら夜の街を走る
ブルブル、ブルブル!
は!
サトル?
「もしもし!もしもし!」
『もしもし、ミキさん、ですか?』
え
知らない女性の声
「ど、どなたですか?」
『ミキさんですか!』
「は、はい、そう、ですけど…」
『あの男の彼女ね』
だれ……
『ツキのポケットにあなたの電話番号が入ってたのよ』
あ、あの時の…ツキ君と初めて行った遊園地の時の…
まだ、持ってたんだ…
『ちょっと、いい加減にしてちょうだい!』
な、なに…
『あの男、自分で育てるって、たんか切ったクセに』
まさか!
『何でツキがウチに来るのよ!』
「もしもし、ツキ君のご親戚のかたですか?」
『そうよ!早く迎えに来てちょうだい!』
ツキ君の親戚の家は、電車で2駅ほどの距離だった…
「お、お騒がせしました…」
親戚の家の玄関でツキ君を引き取り、深々と頭を下げた
「まったく、人を虐待呼ばわりしたあげくにこれ?」
玄関の前で仁王立ちする親戚の奥様
鬼の形相とはこのことだ
「無責任に面倒みるなんて言うから、こういうことになるの!」
頭を下げながらツキ君を見ると…
ほっぺが腫れている
「ま、アンタもとっととあの男と別れることね」
ツキ君、叩かれたんだ…
近くの公園のベンチで、サトルに電話した
「うん、大丈夫、待ってる…」
ツキ君はランドセルを背負い、うつむいたまま…
「パパ、すぐに迎えに来るから…」
「…」
それにしても、あの親戚、サトルの連絡先も知らないんだ…
夜の公園
少し離れた所から車の音が聴こえる
街灯の薄明かりの下、2人で黙って座っていた
なんで、なんで親戚の家なんかに行ったんだろう
きっと叩かれるって、分かってたはずなのに…
「ねぇ、ツキ君」
「……」
「ツキ君は、パパのこと、好き?」
「……うん」
「あたしのこと、きらい?」
「……すき」
「なら、どうして…」
「………から…」
「え?」
「ボクがいたら、パパとお姉ちゃん、結婚できないから…」
はっ!
「ボクがいたら、お姉ちゃん不幸になっちゃうから…」
ツ、ツキ…
「ボクは、ここにいちゃいけな…」
「ツキ!」
全部言い終わる前に抱きしめた
「ごめん!ごめんツキ!」
あたしバカだ!
ツキは全部知ってたんだ、分かってたんだ!
ツキは…
もうとっくに覚悟決めてたんだ!
「あたし、ツキのママになる!」
「ほんと…」
「うん、ずっと一緒にいる、ツキといる!」
「お姉ちゃん、不幸にならない?」
「不幸になんてなるもんか!ツキがいるのになるもんか!」
「お姉ちゃん…」
「絶対に、幸せになるよ!」
「ねぇ、ママ、ママはどうしてパパと結婚したの?」
「えぇ?なに急に、どうしたのソラ?」
キッチンに顔を出し、ソラが突然聞いてきた
まだ5歳なのに、女の子はませてるなぁ
「今お兄ちゃんのお弁当作ってるから、ちょっと待っててね」
「あのね、お兄ちゃんがね、パパとママはみんなに反対されたけど、それでも結婚したんだって言ってたから」
「あぁ、ホントさソラ、最初はおばあちゃんだって反対してたんだぜ」
中学校の制服に着替えたツキがやってきた
「ほんとに?おばあちゃん優しいのに反対したの?」
「最初はすごかったぜ、アタシの一人娘を不幸にさせる気か!ってさ」
「ほらツキ、お弁当できたよ!」
「じゃ、俺行くわ」
「気をつけてね」
「あぁ」
「それとツキ!ソラに変なこと吹き込まない!」
「お母さん、今日部活だから遅くなるよ」
「頑張れサッカー少年!」
「それとさ」
「なに?」
「変なことじゃないよ」
「ん?」
「感謝してるよ」
「へ?」
「反対されたのに、結婚して俺のママになってくれたこと!」
!!!!
「じゃ、行ってきます!」
「あ、ツキ兄ちゃん、またママ泣かせたー」
「つぅ~きぃ~」
アンタはあたしを泣かせる天才か…
幸せのカタチ
おしまい




