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赤の星から来た準魔神級スライム(sideソラ・メイシャー)

 僕はメイシャー王国第二王子、ソラ・メイシャー。まだ王太子ではないが一応嫡子である。……王位など兄に譲りたい。


 かねてから聖女認定をクラカント伯爵家に求められていたスライム、アザレアが王都の学園にまで来た。父や兄からはその資格があるか見定めるように言われている。

 戦闘力に関しては天海嘯(そらつなみ)で発生したエルダードラゴンを一撃で倒したとか、拠点を得ようとかなりな戦力でアルノー村を襲ったアグニア帝国軍を巨大化して蹴散らしたとか、あまりにも凄まじい話が入ってくる。極めつけが死者蘇生、リザレクションを使えるとか、にわかには信じがたい話ばかりだ。


 本人の周りに凄まじい魔力が満ちていることは分かるが、見た目は可愛らしい幼女だ。服装がフリルの多いドレスなので人形にさえ見える。肌触りももちもちだ。

 しかし決闘で二十人以上の貴族を一方的に蹂躙し、死者蘇生の実演までしてみせたらしい。噂の真実味が増す。


 そして今日、ついにこの目で彼女の実力を測ることができる。Sランク冒険者、アイモルネー。

 彼女は神撃のアイモルネーと呼ばれる、女性では最強の物理戦闘力、魔法攻撃力を持っている人だ。長めの金髪に緑の瞳、身長は僕が見上げるほどに高い。肌は白く、露出の多い革鎧が少し扇情的だが、本人は軽いから着けているらしい。弟子のカリーナがビキニアーマーなのも同じような理由だそうだ。

 しかし彼女の武器は長柄のポールハンマーだ。けして軽くはない。そして魔法とあの武器を組み合わせた高速戦闘が彼女の売りだと言う。彼女にもエルダードラゴン退治の実績は有り、アザレアの力を測るには充分な存在と言えよう。


 ギルド裏の闘技場に向かい歩きつつ二人の力量差を見積もる。アイモルネーの方はぼんやりして見えるが、先程は少しアザレアの魔力に引いていたようだった。魔力自体はアザレアの方が倍ほども強い。

 しかし人間と魔物ではスキルの質が違う。そのために同じ魔力だと人間が勝つことはよく有るのだ。アザレアの持つ未知のスキルが恐ろしくはあるのだが……。リザレクションを使うということはその他のスキルもそのレベルの難易度でおかしくない。


「ほんとはもう二、三人いて欲しいんだけどね~」


「少しは楽しませる」


 試合はギルドマスターのアランが取り仕切る。王族の僕たちやSランク冒険者のアイモルネーに対する配慮だろう。Sランク冒険者は本来それほど大切に扱われる存在だ。それを二、三人相手にできるとはずいぶん大きく出たものだ、と、思ったのだが。


「おらあっ!」


「ぐあっ!」


「殴ったーーー!?」


 アザレアは一直線にアイモルネーに飛び掛かりメイスで殴り付けた。なぜ打撃武器を持ってる相手を殴りに行く? しかも持ってるのはオリハルコンに雷撃属性を付けた国宝級のメイスだ。まともに受け止めたアイモルネーはすでに痺れてしまった。

 すぐにウインドヒールで傷を癒したが、いきなり手玉に取られている。ハンマーで受けるとダメージが大きいので回避に回るしかない。うかつに攻められなくもなってしまった。


 Sランクに対して相手の得意技で突っ込んで上回るとか、すでに半端じゃない。アイテムの性能もあるだろうがとっさに優位な状況を作った判断はすごい。他にも武器を隠し持っているだろうし、それだけで戦術がいくらでも組めそうだ。


「エアハンマー」


「おっと、風は厄介ね!」


 アイモルネーも魔法戦に切り換えたようだ。ハンマーを振り回す度に高圧の空気の弾が次々とアザレアを襲う。技の多彩さこそが人間の英雄、Sランク冒険者の強みだ。


「ショートジャンプからのー、アイアンナイフシュートシュートシュート!!」


「うっ! はあっ!!」


 何が起こった。突然消えたアザレアがアイモルネーの背後を取りナイフを数本投げつけ、アイモルネーは振り向き様に攻撃を斜めに流すようにウインドシールドを展開した。それでも逸らしきれずにナイフが掠める。毒でも塗られてたら終わるな。


「し、痺れる、麻痺毒?」


「塗ってた!」


「おらあっ!」


「キュアパラライズ……エアハンマー、ウインドシールド、ウォール」


 アザレアはメイスを振りかぶる。対するアイモルネーは凄まじい防御魔法の展開速度だ。アイモルネーの戦いはタフさが信条のようだ。アザレアは奇策だらけだが。格上なのにまるっきり容赦がないな。


「ウインドウエポン、エアハンマー、ウインドボム、身体超強化、……神撃!」


「うっ!?」


 アザレアが初めて怯んだ。まるでレーザーのように組み上げられた風の魔法が限界まで強化された筋力で叩きつけられる。激しい嵐が土を巻き上げてアザレアの姿が見えなくなる。

 と、急にアイモルネーが膝を突いた……いや、土の中に脚が太ももまで飲み込まれている!

 あの一瞬でアイモルネーの足下にまで穴を掘り触手で無理矢理引きずり込んだのか! 埋まったところで地上に飛び出しメイスでタコ殴りに行くアザレア! なんて酷い戦法だ!


「おらあっ! せいいっ!」


「く、ウォール、ウインドバリア、ウインドシールド、ウォール……」


「そこで埋まってなさい! 上空にショートジャンプからの~、メテオランス!」


「う、うわああっ、ショートジャンプ……!」


「お、直撃は回避したわね! ショートジャンプくらいは使ってくるか、なるほど!」


 なんとかメイスを結界で防ぐアイモルネー。しかし次のアザレアの一撃で闘技場全体に爆風が渦巻く。なんて戦いだろう。これはアザレアが本気でやると大災害になるのでは?

 本来の得意技の回復が全然使われていないのに……。魔神が国を滅ぼせるというのは本当らしい。


「はあ、はあ、はあ……ま、参った」


「ん? もう終わり? まあ試合だからいっか」


 Sランク冒険者が根を上げる体力も凄まじい。スライムだから疲れないんだろうか? アザレアが言うにはスライムも水分が抜けたりすれば疲れるらしい。土属性だから火には強いが乾燥には弱いんだろう。しかし軍隊で仕留めようとしても被害が広がるだけだろうな。勇者をパーティーでぶつけないと駄目だろう。アイモルネーに少し話を聞いておく。


「アイモルネーさん、どうでしたか?」


「めちゃくちゃ余裕で手を抜かれて、あれ」


「そこまでですか……かなり容赦なくも見えましたが」


「魔力量のわりに攻撃魔法を使った回数は少なかった。防御もほとんどしてない。神撃を躱した時はたぶん一瞬で落とし穴を掘っていた。足下をぼこぼこにされたらさらにキツかった。炎の槍を投げられたら受けがない」


 そういえば物理的に殴りにいってたなあ……。足下がぼこぼこになってると常にステップを使わないと駄目だしアザレアの方は整地もできる。アザレアはまだアイモルネーのやってた複合魔法も使えるはずだ。あのメテオランスというのがそれだったのかな。威力がすさまじかった。炎の槍……持ってるんだろうなぁ。国宝級を何本も……。一本売ってほしい。

 アザレアもアイモルネーに近寄り話しかけた。


「なかなか楽しかったわよ。連続魔法もすごかったけど連結して一つの技に変えるのは良いわね。ちょっと焦ったわ」


「でも躱された」


「人間なんだからパーティーで挑めば良いのよ。あたしはこれでも強い方の魔王だもの」


「大魔王アザレア……」


 大魔王か、確かに。Sランク冒険者が遊び相手みたいだった。後日Sランク冒険者を数人集めてもらえると良いのだが。ギルドマスターのアランに相談してみるか。面白そうだ。


「Sランクは気難しいですから集まるかは分かりませんが、面白いと思ったら動くでしょう」


「神撃のアイモルネーが敗れたと聞けば数人なら集まりますか」


「逆に大人数じゃフレンドリーファイアを気にして動けませんからねえ。それぐらいが良いかと。さて、誰が来れば面白いかな」


 とにかくこのすさまじい結果をレポートにまとめておかないと駄目だな。兄さんも父さんも信じるだろうか?

 Sランク冒険者数人分の強さの魔物。アザレアは聖女なのか、はたまた災厄なのか。父さん……陛下はどう判断を下すだろう?


 最近は邪神教団の動きが大きくなってきているし、カリーナによれば魔神復活が近いと主神アシーダ様からアザレアに神託があったそうだし、魔神と戦える戦力を早急に整える必要があるだろう。その中にはきっとアザレアも入る。入ってもらえるのか?


 彼女が青の星の人間に失望しないよう、陰で動かなければなるまい。






 ストックも尽きましたのでしばらくお休みします。


 酒場にて。


カリーナ「師匠、おつかれーっす! かんぱーい!」


アイモルネー「かんぱーい。死ぬかと思った」


カリーナ「やっぱり師匠でもダメっすかー」


アイモルネー「私の十倍強い」


カリーナ「そこまでじゃないっしょー。かなり強いとは思ったけど」


アイモルネー「やけ酒。ゴキュゴキュ……」


カリーナ「ちょっ、師匠飲み過ぎ……」


アザレア「あ、二人ともお疲れー!」


アイモルネー「神撃」


アザレア「え、ちょ、おうわあーーー!!」


カリーナ「なんで私までーーー!?」


 神撃は不意打ちで食らうとアザレアでもわりとヤバいらしい。




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