私の救世主(sideルシア)
私はひどく病弱だった。ハイエルフというエルフの王族となれる種族であるのに魔力離脱症というとても厄介な病気だったのだ。
私はエルフの王族候補。魔力操作自体はエルフ一上手かった。弓も上手い方だ。でも、それは良くなかったんだと思う。十五才になった時、私は魔力の無い落伍者としてエルフの村を追われた。まあ私の暮らしていたモリーは、数百人しか住んでない田舎だ。王族だハイエルフだなど、どうでも良かったんだろう。問題の種にもなり得る存在だ。
もし万単位のエルフがいる、かのテンジュの都なら私は保護されていたはずだ。
でもその末に王族として縛られるつもりもなかった。
ちょうど良い機会なので私は冒険者になることにした。昔から冒険物語には憧れていたのだ。
薬草の知識はあるし、弓も小鳥くらいは獲れるのだ。なんとかして病を克服すれば私にも未来は生まれるはずだ。
その日は変な日だった。
まず最初に小さな子供が転んだのを助け起こした。怪我をしていたのでヒールをかけてあげた。私の魔力は枯渇したがその子のお母さんが屋台をやっていて売り物の串焼きをくれた。ああ、私お腹空いてたんだ。美味しい。その人に冒険者ギルドを教えてもらった。着いたら貴族に絡まれた。
ハイエルフと言っても王族の資格があると言うだけで、私はただの村娘。逆らえぬままスキル鑑定を受けた。
私が持っていたスキルはかなり多岐に渡ったが、その中にスライム召喚というスキルがあった。本来はスキルは他人が覗いてはいけない。なのに貴族はそれを覗いて私を馬鹿にする。だから受付の猫人のお姉さんはかなり怒っていた。
そのあともいびられたが私は逆にその使ったことの無いスキルを使いたくなった。
実は私は昔からのスライム好きなのだ。家の裏でスライムを見つけ、一瞬ビックリして怖くて震えたのだけど、何か変。
そのスライムはぷるぷる小刻みに震えるだけで動かなかった。
水分が足りないかお腹が空いているのかも、と思い、私はその子に水と硬くなって捨てるだけのパンを与えた。そうするとなつかれたらしい。近づいてきてぷるぷる震えた。可愛い。
思えば彼女の世話をしていた時にはこのスキルは発生していたのではないかと思う。アザレアによるとスキルの発生時期は十五才には定まっておらず、鑑定するのがその時期とこの国で決まっているだけらしい。
と、言うのも、スキルは努力次第で発生するからだ。安定するのが十五才ごろというだけのことらしい。
そして、そう、アザレアだ。私が咄嗟に使ったスライム召喚。何の因果かちょうど天海嘯期であり、強力な存在を召喚できる時期。だけども。
人の形をした、準魔神級の、しかも回復特化で聖女とさえ呼ばれる存在を召喚できるなんて誰が思うだろう。これを単にラッキーと呼ぶのはいささか無茶があるように思う。神様がミスしたくらいあり得ない出来事だった。
でも彼女のお陰で私は魔力も増えた。魔力離脱症は彼女を召喚した瞬間に消し飛んでいた。膨大な魔力と回路が繋がったからだ。
さらに彼女は私に絡んできた貴族を土に埋めていた。魔力が低い私だが魔力を見る力はある。彼女を殺そうとして何度も剣を振るったのだから返り討ちにあっても当然だが、彼女はしばらく落ち込んでいるようだった。優しいのだ、アザレアは。
天海嘯スタンピードの時には、アザレアを信用して私はかなり無茶な戦いをした。うっかり一回死んでしまったがアザレアが蘇らせてくれた。そもそもクレスとか言う貴族はアザレアをあてにして何回も死んでる。でもやはり普通は死んだら終わりなのだ。アザレアに諭されて二人で青くなる。アザレアが居なかったら二人とも終わってたのだ。
アザレアは私が召喚したのだから私のものだ。そう思っていてもやはりアザレアは召喚術式に細工したらしく全く思うようには動いてくれない。ばかりか、イリスとか言うサキュバスといつもベタベタしている。私のだから! 私のだから!
ちなみにイリスも召喚術式に細工したらしく全くクレスの言うことは聞かない。人のことは笑えないけど。
授業中はイリスは教室にめったに来ない。なので私がアザレアを独占している。ノートを取りつつもちもちする。この服の部分もスライム体なので手触りがツルツルだったりする。
アザレアは異常なレベルで魔法に詳しくて先生が舌を巻くレベルだ。私がいまいちイメージできない部分を魔法で再現してくれたりする。隣の席の女の子も先生の方じゃなくアザレアを見ていたりするし、先生もアザレアを教材がわりにする。
アザレアは私のだから貸しませんよぅ!
いろいろ教えてくれるのでAクラスでは人気者のアザレアだが、魔物や亜人が嫌いな貴族は多く、他クラスの貴族たちにアザレアは絡まれたらしい。命知らずもいたものだ。気にくわないからと何でも噛み付いたら怪我をする、くらいのことを貴族は学ばないのだろうか?
結果は散々に叩きのめされ精神を折られまくった貴族たち。十人が平民に落ちたらしい。下位貴族の親たちはサリナ学園長に泣きついたらしいけど蹴られた。アザレアがしっかり書類を残していたからどうしようもなかったようだ。
さらに平民に落ちる契約をしていなくても親が反魔物なのに子供がスライムを聖女認定するのは体裁が悪いと、家を出される生徒も何人かいたらしい。結局残った生徒は十人もいなかった。学園どころか王都ウーゴ全体が震撼する出来事となった。
やりすぎスライムのアザレアは罰で全員でモチモチした。気持ちいい感触がたまらない。あんまりやると触手でぺちぺち反撃してくるけどそれも気持ちいい。全力でやられたらたぶん砕け散るんだけどね。
この事件以降アザレアの監視が強まることになった。被害者をこれ以上出さないためには必要な措置だろう。まあ喧嘩を売ってくる貴族はほとんどいなくなった。
だけど今度はアザレアは王都のSランク冒険者全員と戦いたいとか言い出した。さすがに自由にさせるわけにはいかないのでカリーナや王子様と王女様も連れて冒険者ギルドに向かう。
王女様はたぶんアザレアをモチモチしたいだけだと思うけど。
王都のギルドはかなり規模が大きかった。学園の校舎ほど有りそうな三階建ての白い建物に入る。
「たのもー」
アザレアはやる気満々なようだ。Sランク冒険者の本気が見れそうである。そもそもアザレアってどうやったら倒せるの?
「核を破壊するか完全に乾燥させるかかなぁ」
「無理そうだよぅ」
とにかく私では勝てなそう。風はわりとアザレアに対して相性が良いらしいのだが、削りきれる気がしない。そのうち少しはダメージを与えられるようになるだろうか?
「Sランクと試合がしたい? ……Sランクは暇じゃないんだよ?」
ギルドの受付嬢さんはすごく辛辣だ。まあそれはそうだろう。でもすぐにソラ王子が取りなして、受付嬢さんもすぐに態度を変えた。
だけどたまたま居合わせたSランクさんはアイモルネーさんという人だけだったようだ。なんとカリーナの師匠らしい。
「師匠ー、このスライム揉んでやってくれない?」
「もっちゃりもっちゃり」
「物理的にではなく」
アイモルネーさんは無口だけど面白い人のようだ。アザレアの頬をもっちゃりして幸せそうだけどすごい魔力を感じる。
「試合? 私が揉まれる側?」
「いやー、人間の意地を見せて欲しいなー」
「厳しい訓練の復讐?」
「どんだけビビってるの師匠……」
とりあえずSランク冒険者は多彩なスキルを持ってるから、多少は良い勝負ができると思うんだけど、やはり強い人にはアザレアの強さが分かってしまうんだろう。
「魔力一万八千有るからたぶん全力で魔法とかやられたらあたしも死ぬと思うわよ。シールドで受けるけどね」
「アザレアが戦略次第で負けちゃうのぉ?」
「なくはないわよ。ただあたしも戦略はあるわよ」
どうやら少し面白い戦いになるみたいだ。
アザレア「私は無敵よ!」
牛「もおぉ~(牧草の中にスライムがいるわね)」
アザレア「あっ、ちょっ、おま、ウシ、スライムで水分補給?!」
牛「もお~(むしゃむしゃしてやった。反芻はしている)」
アザレア「……核が無事で良かったわ……」
この世界の生物はスライムで水分補給するらしい。




