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貴族に絡まれて。

 スタンピードがまた始まったわね。うーん、不思議なのよね。たまにものすごい強い魔物が来るのよね。天海嘯(そらつなみ)自体が不安定なのは分かるんだけど。

 マンティコアでもこの星の人は対応できないし、そこはカリーナとかがギリギリ対応はしているんだけど、あのエルダードラゴンって本来はドラゴンが千年も年を重ねないと進化できない生物なのよ。おかしくね?


 何かとてつもなく嫌な予感がするわ。今すぐどうこうなる話ではないけど、何か強烈な恨みのようなものを感じる。

 天海嘯(そらつなみ)は二つの星がお互いを確かめ合うような儀式的な意味があるのかも知れない。この双子星の軌道は星の意思で整えられている部分があるのかも知れないわ。ここは地球のあった世界じゃない。この世界の魔法物理学が存在し、天体までも動かしている。


 魔法は前世の物語でもそうだが「意思で物質が生産されたり動いたりする」という物理世界では有り得ない現象だ。つまりこの世界の魔力はより強靭な意思に作用するが魔力量については保存法則のようなものが働いていて、世界はなんとか安定しているのだ。

 そうでなければ、例えばカルさんのような強烈な存在によって世界は如何様にも書き換えられてしまう。


 あの子に限った話ではないけど、宇宙を支配するほどの意志が存在したとして、世界の滅びなんて許せるだろうか? いや、許されるならそもそも魔法世界なんて存在できないんだ。


 ある意思に対しては必ず対抗する意志が生まれる。殺そうとすれば殺さないでという意志が発生する。

 この魔法の世界はそうやって存在を保たれている。

 だからこそ、猛烈に嫌な予感がするのだ。


 カルさん……、今何してる?


 ともあれ、二回目のスタンピードが始まった。はっきり言って人間ってどうやってこの天海嘯(そらつなみ)に対抗していたんだろうと思ったが、そこに魔物召喚という事実があるのだ。

 赤の星の魔物は強靭だし、それを召喚という強制的な接続契約により、魔物と人間のパイプを繋いで青の星の人間もある程度強靭になっている。なのでスタンピードを乗りきれているのだが、それは魔物を使い捨てている側面もあるのだ。


 悔しいことにそうしなければ人間が生き残れないのも事実。だけどあたしみたいな魔物がこの星を支配的に振る舞って歩けば人間は良い気がしないのも事実だろう。

 使役という形があるからその不安は取り除かれている。


 あたしとルシアの関係は思ったよりも不安定かも知れないわ。


 まあそれは今は良いわ。傷ついた人が流れてくる。さっさと治すわよ!


「ってクレス! さっそく死んでんじゃないわよぅ!!」


「いや、ごめんねアザレアさん。アザレアさんがいると思ってちょっと無茶しちゃったんです」


「弱いんだから人に頼りなさい! あんた連係とか下手なんじゃないの?!」


「そうかも知れません」


「連係しなさいよ!」


 まあ弱いとは言ってもこの子魔王級に強いのよね。どんな暮らしをしてたらこの青の星で十五歳でここまで強くなるの?


 なんか有るわね。この子冒険者なら間違いなくSランクだわ。魔力にして五千。騎士でもまず居ないはずだわ。Aランク冒険者を二倍も上回ってる。十五歳でよ?


 あー、なんか完全人化のせいかむしゃくしゃするわ。なんでこんなに理不尽が次々と絡まって来るのかしら!


「では行って参ります」


「気を付けなさい。さすがに心配だわ。あのね、食われて存在が取り返せなくなったらさすがにリザレクションできないからね?」


「分かりました、指一本置いていきます」


「おいい! さっそく無茶する気じゃねえか!!」


 あらはしたない、とか言ってる場合じゃないわ! この子ぶっ飛んでるわ!


「まず無茶するんじゃないわよぅ!!」


「あはは、分かりました。でも今回のスタンピードは手強いので各国も大変でしょうねぇ」


「んんん? やっぱりそうなの?」


「エルダードラゴンとか出ないわけじゃないけど……そうそう記録にあるわけじゃないんですよね。数十年に一度街が滅んだりする時に出てくるくらいです」


「まああたしにしたらただのトカゲなんだけど」


「うわはははははっ! もう、聖女様は無敵ですね!」


「赤の星ならあたしより強い人が十四体はいるわ」


「本当ですか! 赤の星怖い!」


 そうね、本当だわ。赤の星怖すぎるやろ。まあ実際の戦闘力ではないんだわ。スライムのあたしをジルドさんが殺しきれるかと言ったら難しいと言うしかない。ジルドさんの魔力が五万だとして、あたしと戦ったらどうなる?

 シミュレーションしてみよう。


「よし、シミュレーションとはいえようやく戦えるな!」


「ジルドさんって絶対カルさんに勝てないわよね」


「勝てないから挑まぬ理由はない!」


「魔神様方って優しすぎよね」


 シミュレーションなので意思疏通なんてできないけど、あの人の強烈さで生かされているのは不思議だと思わない?

 たぶんカルさんとかアナさんとかはジルドさんが可愛いのだわ。


「ジルド・バッシュ、参る!」


「落とし穴ずどーん」


「おわあっ!」


 あー、やっぱり落とし穴に落ちる魔神なんかいないわよね。想像だけど。魔神級が踏み込むなら魔力の壁でジャンプするステップのスキルが必要なのよ。地面が耐えられないから。

 んー、あたしは油断しているのかしら。ジルドさんになら勝てる気がするわ。たぶん頭とか腕とか何度も破壊されるけど、あたしはスライムだよ?

 ……スライムって尋常ならざる生物ね。


 ジルドさんはたぶん信じられない速度で物理的に襲いかかって来るわね。あたしに物理なんて効かないわ。ほら、全然負けない。頭を砕かれた瞬間には触手を刺し込んで毒を流し込む。たぶん少しは揺らぐわよね。痛みに強そうだから神経毒とか合成したいところね。

 うーん、あたし強くなりすぎなのよ。ジルドさんには勝てる気がしてる。誤りだわ。魔神なら隠し技の一つや二つどころではない、それこそ無数の技を持ってるはずよ。


 そんな風にシミュレーションしていると、クレス君はいなくなってるし、なんかズカズカと騎士が押しいってきた。


「なんですかのっ! 今は忙しいんですがのっ!」


「スライムが聖女とか言い張っていると聞いてな。無礼討ちにするために来たのだ」


 うわあ、また強烈な阿呆が来たな。殺そう。

 おっと、いかんいかん。あんまり暴れるのはまだこの星のことが分からないから危ないわね。でもまあ貴族ってこの星で知ってるのはクレスとかカリーナでしょ?

 甘く見てしまうのよね。でも報復に町一つ滅ぼすことも有るらしいのよ、この世界の貴族。馬鹿よね?


天海嘯(そらつなみ)が起こってるときによくそんな余裕が有るわね」


「貴様か?」


「貴方は阿呆だわ。断言してあげる」


「っ、よろしい、死にたいようだな」


 あたしは一切抵抗しないことにした。ついでなんで全身をオリハルコンで包んでも良いんだけどね。でもね、この前の貴族の攻撃もぷるぷるするだけで無効だったし、あたしに人間の攻撃なんて効かないわ。クレスとかカリーナは別よ。刺さると思うわ。意味無いけど。


「貴様ら、かかれい!」


「うおおおおっ!」


「ぷるぷる」


 効かないわ。全く効かないわ。雑魚過ぎ。


「貴方ってどこの貴族なの? 名乗ったら?」


「な、なんでっ?!」


「斬れないわよ、あんたらくらいじゃ。玉ねぎも斬ったこと無いんじゃない?」


「人質を取れ!」


「あんたバカなの? 名乗れと言ってるのよ」


 これ本当にダメな奴ね。あたしのこと全然調べてない。阿呆だわ。阿呆も阿呆だわ。

 魔物差別主義者にはあたし、地獄を見せるわよ。


「ぐはは、抵抗はするなよ?」


「最初からしてないのだけど?」


「ぐぐ、魔石を使え!」


「はいっ!」


 あら、火の魔石?

 あたし火の魔石ぐらいじゃ吹き飛ばないわ。しかもこの星の魔石人間を吹き飛ばすくらいの劣化品。うーん、どうしたらこの人たち学習するのかしら?


 ドカン、と、派手に音がしたものの案の定傷一つ付かず、……こいつらはもう良いわね。魔力をちょっぴり漏らしてあげる。






 次回、スライム天使アザレア「貴族クラッシャーアザレア」


 いつも通り酷いスライム!




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