当然、騒ぎになって。
はあ、あたしに自重は無理なのよ。特に回復で自重はしない。あたしの前世はリザレクションでも取り返せないのよ。だから。
自重はしないわ。ちょっと手に負えないという敵は倒しても良いとクラカントさんに言った。ちなみにクレステッド=クラカントというらしい。
「気軽にクレスと呼んでください、アザレア様!」
「様は止めてくれるならね」
「アザレアさん!」
なんなのこの犬型イケメン。尻尾がないのにケイシー並に尻尾振ってる幻視が……。あたし幻視見やすい体質なのかしら?
まあ命を数度救ったけどこいつ良く今までの天海嘯乗りきったわね。初陣らしい。十五歳……嫌な予感しかしないわ。伯爵家三男なので大したことはないとか言ってるけど、周囲の反応から上位貴族なのは間違いないわ。このファスタを含むいくつもの町を支配していて、王家とも繋がりがあるらしい。逆にヤバいのに目を付けられたわ。まあ邪魔はしなさそうだけど。
「はあ、スタンピードこっちは長く続く感じね。あんまり無理すんじゃないわよ」
「ハイッ!」
良い返事して走っていったわ。完全に犬ね。ペットって思おう。アルトくんもだけど童顔で女顔系統のイケメンってなんか気軽に付き合えるのよね。あたしガチムキはブレイズさんくらいしか付き合えないわ。
女の子の方が好きだけどカリーナはちょっと苦手だもの。そういえば関係ないけどサンシャインは元気かしら。河童には癒しを感じるわ。
少しスタンピードが落ち着いてきたけど、天海嘯スタンピードは三ヶ月続く。しかも何故か終わりの方ほどハードになるのよね。どうも赤の星と青の星の中間に魔力溜りができて、それが最後に降ってくるらしい。自然現象だから仕方がないけど、これじゃ文明も進歩しないわよね。
なんかお金もらえたのでルシアたちと良い宿に向かう。
「ルシアたちはどう? スタンピード乗りきれそうかしら?」
「カリーナさんと連係が上手くいってるから調子良いよぅ」
「うん、ルシアの弓は強力だ。すごく助かってる。狙いも良いしな」
へえ、スライム並の魔力だったのにやるわね。小鳥を落とせるのだから器用なのね。
「そういえばルシアと同じ年の貴族の子がいたわよ」
「クレステッド様だねぇ、アザレアと話題になってるの」
「ふう、どうやったら来たばかりのスライムがあんな上位貴族といきなり仲良くなれるのかね」
「四回くらい蘇生したからじゃない」
あれ、カリーナ、なんで死んだような目をするの? そんな目をしたいのはこっちだわ! 最初から回復は自重しないって言ったわよ! でもあいつは死にすぎよぅ!
だいたいカリーナも貴族じゃないの? ちょっと詰問してやろうかしら!
「ん、私は辺境伯家の五女だが」
「あっさり言った!」
「いや、なんかけっこう有名になっちゃってて。私のお兄様や御姉様にはSランクもいるからな」
「すごい武闘派家系! さすが辺境伯!」
辺境伯って国境を敵から守る伯爵家で、戦争なんかの場合には公爵家を上回る発言権を得たりするのよね。そもそも軍備積んでも国防だから誰も文句言えないから貴族の成り立ちから言って逆らいづらいらしいわ。この世界でもだけど強さって正義なのよね。
はあ、この町貴族多いのかしら。土の中にも三人いるし。えへっ。
「貴族が集まっていると言うか、スタンピードで名を上げたい貴族の子女や高位冒険者、つまり元貴族や子女が集まってるんだよ。ここファスタは魔の森が近いせいか毎回酷いスタンピードに遭うからな」
「それに平民も減るから貴族に触れあいやすくなってるわけね」
「貴族様は怖いよぅ」
まあルシアはこんなでもハイエルフだからね、貴族に拐われそうよね。いや、親しい知り合いを拐われたら王族でも潰すけどね。やっぱりパワーオブジャスティスよねぇ。
「……アザレアまた酷いことを考えてる」
「エスパーなの? 貴女とブレイズさんはエスパーなの?」
「ものすごく悪い顔してるから誰でも分かるよぅ」
くそ、ルシアにまでバレてる!
完全人化の弊害ね! え、スライムの時からバレてたけど?!
変にくねくねしてたのかしら??
宿に着いた。ここはAランクのカリーナが、ちょっと良い仕事をクリアした時にご褒美で泊まる宿らしい。外観はもちろん綺麗だわ。どれくらい綺麗かと言うと赤の星のダンジョンの隣町エリオールの、壊されまくるから常に新品のギルドみたいね! 例えが不穏!
白い彫刻の入った石壁にゲームに出てきそうな唐草模様の鉄扉。どういう作りなのかカリーナの引き方が軽そうね。中身が特殊な構造になってるのね。高そうな扉だわ。
執事風の男性が「ようこそ……」と言葉を詰まらせる。ここはファスタの宿り木って名前らしいわ。ここで宿の名前を言われるんじゃないのかしら?
しばらく時が止まり、宿の中で寛いでいた人たちがゆっくり全員あたしに目を向ける。はえ?
ドンッ、と地震が起こったかと言うほどの大声、大歓声。あれえっ?!
何故かクレス君を助けたことがすでに話題になりまくっている。まああんだけ助ければねえ。あたしの容姿もピンク色が入った白ゴスで目立ちまくるし。あ、ギルドでもやらかしてた!
戦場のスライム聖女の献身、クレス様の人ならざるものとの許されざる恋、ドラゴン殺しの最強のヒーラー、赤の星から来た救世主、とかとか、いやね、話が突然に大きくなりすぎよ。これ、なんか情報操作入ってるわ。一日二日戦っただけなんだけど?
ああ、この町でやけに差別が少ないのはそういう派閥だからなんだわ。だから貴族家が情報操作しなくてもある程度そういった情報を一般市民が回してしまう体系ができてるんだわ。
とりあえず軽く手を振って執事さんに守られながら、何故か最上級スイートの部屋に入れられたわ。メイド付き。うちのアザレアダンジョンのカルさんの部屋並みよ。最上位魔神と同列は恐縮するより怖いわ。まあ、あの部屋普通にあたしも使ってたから普通かな、と思ってしまう自分の感性は恐ろしいわね。お金足りなくなるわ。
なんか話題になるから今回は無料らしい。怖い。
布団がフカフカなのに眠れなかったわ。あたしスライムだから眠らなくて良いけどね。
あ、ご飯はトマト中心のあまり酸っぱくない、はちみつとガーリックのドレッシングをかけたレタスのサラダ、ブルーベリー系の甘いソースをかけたドラゴンステーキとカリッと揚げた白身の魚にお好みで甘酸っぱいソースかレモンをかけていただく感じ。シーズニングが香り高くて、デザートは柔らかいフルーツをミルク系ソースで固めたもの。まあ全部美味しかったわ。
「わ、わたしこんなの初めてだよぅ」
めっちゃルシアは泣いてるわね。鼻水出てるけど可愛いわ。この星に、ってかルシアのとこに来れて良かったわ。
「私もこんな高級な部屋には泊まらないが?」
「儲けたわね!」
あれ、カリーナも喜んで口元はひくひくとつり上がってるけど目は酷い奴って言ってるわね! ちなみに次のスタンピードまで泊まることにしたわ。お金はできた。なんかエルダードラゴン全部もらえてクレス君がその場で買い取ったからね。すげえなお金持ち。
「アザレアと付き合うのは本当に楽しいな。ブレイズさんとやらもおんなじ気持ちなんだろう」
「人の世界だと問題起こしそうでは有るけどねー」
「やめてよ?!」
まあ自重はしないけど気を付ける。有名になった方が魔神と戦うチャンスは増えそうだもんね。
そうなんだよねえ。このスタンピードも長いのにそのあとは学園に行って、二人とスカイを鍛えて、ダンジョン作って、ダンジョン潜って、魔神倒して帰る方法も見つけて。青の星でやること多すぎだわ。
そしてカルさんとアナさん、二人の心も、必ず助けるわ。
それから数日後、またスタンピードが起こるんだけど、さっそくうるさい貴族が絡んで来はじめる。
良いわよ、あたしを楽しませて見せなさい。
次回、スライム天使アザレア「パワーオブジャスティス!!」
暴力だけあればわりと解決する。




