隣接世界と神(sideアナ・グランスグレイン)
この世界は何時できたのだろう。この世界を作ったのは誰だろう。どうも神はこの世界を作った存在ではないらしい。いや、この世界の基幹部分までは作られたらしいが、細やかな造形などは自然に生まれてくるものなのだという。
この星の主神、芦田にはあたしもカルちゃんも会ったことがある。時には味方として、時には敵として。
カルちゃんは芦田の作る料理や道具に非常に興味を持っていた。それは他の魔神たちもだ。あたしも彼と話し合い、長い生涯でも知り得なかった多くのことを知ることになった。
彼は言っていた。仮説ではあるがこの世界の物は隣接した世界の人や物の情報や思念が魔力に干渉して造形しているのではないかと。根拠を聞いたが詳しくは教えてもらえなかった。それが隣接世界感応仮説だ。
ただ、魂の世界という物理とはかけ離れた情報世界と私たちの世界が相互干渉の関係にあり、その魂の世界は他の世界とも関連しているのではないか。異世界からこちらに飛び込んでる魂の情報が世界に魔力をもって干渉しているのではないか、と、言っていた。
あたしはとても長い時の中を生きているため、ときおり不思議なことに出会った。生命の新種が生まれるいくつかの瞬間だ。
例えば青の星では生命は徐々に進化していった。しかし赤の星では突然新種が魔力の中から発生した。
あたしもいつも全てを見ていたわけではないのだが、世界を魔力で覆い全てを見つめていた時期に、そういった現象を確認している。ただし、逆に青の星で突然魔力の塊から新種が生まれたり、赤の星で自然進化したりも確認できた。魔力がある世界では魔力だまりから命が生まれるのは、それらの現象から明らかだ。
そういった生命の発生、進化に、確かに混在した意識、情報による介入がある形跡が見えた。
明らかにこの新種は既存の他の種と共生関係に有りそうだ、とか、初めからこの世界の生き物の生態を知らないと形作れないだろう種が生まれる。
偶然の可能性も無くはない。その既存の種の魔法として新種が生まれる可能性もある。これだけを根拠にしては言えないが、しかし芦田のことがある。
芦田はまるで初めから知っていたかのようにこの世界の食物や調味料を扱っていた。たぶん芦田は異世界からの転生者なのではないか。だから隣接世界感応仮説にたどり着いたのではないのか。
しかし、それに気付いた時には芦田は主神として神界を作り、引きこもってしまっていた。今は何をしているんだろう?
何度か神界へのアクセスを試みたが、漠然と、更に複雑に存在している上に芦田の妨害も有るらしく、アクセスは不可能だった。その過程でかなり複雑な魔力のコントロールができるようになったが。
芦田はなぜ引きこもってしまったのだろう。カルちゃんやあたしを放置して。
漠然と世界を見て、また長い年月が過ぎた。と、言っても数百年。あたしの生涯から言えば瞬きほどの時間が経過した頃。
カルちゃんの領地に、新しい命が突然発生した。種族としては普通の、新種ではないアーシースライムだが、何故か生まれたばかりなのに確信めいた行動をする。
あたしが見ていたことで何らかの影響を与えた可能性はわずかに有ったが、ダンジョン内ではないのだ、そこまで大きい影響が出ることは考えづらい。いったい、このスライムは?
途中で魔力圧が高まり、ダンジョンの中を覗けなくなった。カルちゃんの報告ではどう考えても芦田と同系列の、しかも見たことのないものを次々に作り出しているという。一度訪れなくてはなるまい。カルちゃんに先に真実を知られると不味いことになる可能性が有った。
魔神、カル・ダモンは、青の星を恨んでいる。
芦田のことは愛していた節がある。あたしも彼には心を奪われていたから分かるのだ。だが、天海嘯の原因である青の星を消したいと彼女は考えているようだ。
仮に青の星の生物を消し去ったとしても、この世界には魔力がある。またなにがしかの命が突然生まれてくるだろう。
なので、星そのものを消す。
だが、彼女はそれが難しいとも、それにより芦田が悲しむだろうことも分かっている。だから手は出さない。
しかし彼女、アザレアちゃんの存在はその二つの壁を破壊する可能性が有った。
芦田と同郷の存在ならば芦田に興味を持たれ、もし青の星を破壊しても悲しみが和らぐかもしれない。
もし芦田と同郷なら、星を破壊する術を知っているかも知れない。
だが、実際に出会ってみて分かった。彼女が訪れた元の世界の技術は、驚くほど芦田のものと変わらなかったのだ。つまり、同年代の同郷から訪れていると予想できた。どう言った理由か幾つかは推測が立つ。
芦田のいた世界の時間の流れがあたしたちの世界と違う説、もっと違う平行世界からアザレアちゃんが来た説、などだ。
ただ、これは救いでもある。芦田でも星は破壊できなかったのだ。彼女の知識でも無理だろう。
確かに彼女の知識は新しい。しかし、枠を外れてはいない。星を破壊する知識までは無いだろう。
……しかし、面白いものを作るわね。温泉のプールとかエアロスライムで走るトロッコ擬きとか。楽しいー!
これあたしのダンジョンでも作る! 早速目的も忘れて引きこもり、配下に温泉を引かせ、あたしのイメージを伝え様々なものを作らせた。楽しいー!
やっぱり芦田の故郷の知識は最高ね!
うっかりハマっているとアザレアちゃんがうちのダンジョンまで遊びに来た。あ、忘れてた。
アザレアちゃんにはしっかり言っておくこと、聞いておくことがある。
まずはカルちゃんが青の星を恨んで破壊しようとしていること、そしてアザレアちゃんが転生者かどうか。
もしかしたら彼女はカルちゃんと敵対する可能性が有った。あれほど愛されているのに敵対したらカルちゃんはとても悲しむだろう。あたしにとって最も大切なのはカルちゃんの心なのだ。
あたしは世界を覆う魔力で、ある意味カルちゃんと繋がってもいる。カルちゃんの悲しみはあたしの苦しみだ。それは避けなくてはならない。
いざとなればあたしの力をアザレアちゃんに渡すなどの対策が必要になるかもしれない。今まで見ていたアザレアちゃんはしっかりとモンスターだった。しかし、芦田は言っていた。自分は人間なんだと。
とてもそうは思えないほど強くて残忍だったけどね。最後は神にまでなったし。
もしアザレアちゃんが青の星に渡れば、人間に同情するかもしれない。逆にカルちゃんに協力する可能性もある。
あたしはそれをこれから、見極めねばなるまい。
あたしとしては青の星を破壊するのは何か不味いと感じる。長く生きた生物の勘だ。たぶん間違ってはいない。大きすぎる力は世界に影響を強く与える。
あたしはいつか、星が弾けるのを見たことがある。ずっとその弾けた星は光り続けていたが、ある日真っ暗になった。
星が弾けて輝いていた間に空は青く輝き、赤の星ではあたしやダンジョンに守られている生き物以外が死に絶えた。
遠くで輝く星でもそうなのだ。あんなに近い青の星を破壊するのは、どう考えても危険すぎるのだ。
それならばあたしの選択肢は、カルちゃんを説得して止めること。そのためにアザレアちゃんに全てを打ち明け、彼女に力を貸す。
そして、天海嘯、必ずや止めて見せる。そのためにアザレアちゃんに知恵を借りよう。彼女の良く分からない知識が、何かのきっかけになるかもしれないのだから。
だが、あたしは知らなかった。アザレアちゃんの知識はカルちゃんとあたしに絶望を与えるものだと。意外とことが起こるのはそうは遠くない日であると。
アザレアちゃんが、まさかあんなことになるとは。
赤の星編、終了です。
次回より青の星編。ストックをチャージしますのでチャーハンを食べてお待ちください。山盛り作りますから!




