スライム聖女、狙われる。
今回のスタンピードは最初にあたしが敵をもっと駆逐しておくことにした。鉄ナイフの雨が降る。回収は後回しだ。くすねたらオリハルコンナイフも額にプレゼントだ。数は覚えてる。ケチ臭いけど。
だいぶ敵が増えてきたところであたし一人じゃカバー仕切れなくなってくる。大規模な百メートル立方くらいのストーンスパイクで広範囲を駆逐してから一旦帰還、あたしは回復に回る。
敵の進撃が二筋に別れたことで対処が容易になったらしく、怪我人は前回より少ない。それでも後半になると前回より天海嘯の影響が強いらしく、敵も強くなっているようだ。強敵にはブレイズさんやログさん、リゼさんの貴族三人が当たっているので対処ができているのだが、とにかく数が多いのだ。巨人のお姉さんがまた無理をして死にそうな大怪我で帰ってくる。治せるからと言って無理をするなら致命傷以外治さないでおくからね? 無理は良くない!
今回は事前準備をしっかりしているので魔力ポーションを二百本くらい診療所に回し、あたしも体内でポーションを吸収しつつ回復する。なんかあたし、もう無敵じゃない?
急所もオリハルコンで固めて靴に隠してあるし。魔力もカルさんほどではないけど回復しながらなら戦えるし。
今のあたしはたぶんだけどカルさんの十分の一くらいの強さはあるよ。まあカルさんのテクニックとかには全然及ばないから一万回戦っても一回も勝てないと思うけどね。桁が違う。
回復だけしてようかなぁ。ヒーラーだしね。でも魔神様が酔狂で襲ってきたら困る。
今回もさすがに終盤は無間地獄のごとき回復地獄だ。
そんな中で敵対的な魔力を感知した。やめてよ忙しいのに。
緑の髪に赤い目の人間型魔物、デーモン種の魔力波長だけどかなり強い。たぶんグレーターデーモン種。
「何か用? 忙しいから早くしてね」
「兵が尽きぬ原因を探りに来たが貴様が原因のようだな」
「はあ、落とし穴」
「うぬっ!?」
ありゃ、途中で宙に浮かばれて足だけしか固められなかった。
ちなみにあたしは魔力が届く範囲なら自由に落とし穴を掘れる。今でも自分を中心にして数百メートルなら余裕よ。ただ掘る量が多いと魔力足りなくなるけどね。今なら最大で四十メートル立方くらいかなぁ? 遠くにその規模だと掘れないかな? めちゃ疲れると思う。自分に近い位置の方が魔力を使わないのよね。あ、強い魔力を持ってると妨害は受けるけど土と親和性がないと魔力は通りづらいので、かなり強い相手でも防げないよ。土魔法使いなら防げる可能性はあるね。
鉄ナイフシュート。受け止められたか。ああ、足も抜かれた。
「貴様っ! 名を名乗れ! 奇襲ばかりしおって!」
「はあ? ばっかじゃないの?」
ストーンスパイク、鉄ナイフシュートシュートシュート。お、少し掠めたか。
「自分から名乗るもんでしょうよ。だいたいあたしの名前なんかここにいるみんな知ってるわ」
あたしの言葉に周りの人たちもそうだそうだと囃し立てる。それだけでこいつが部外者なのが分かろうと言うもの。まあ殺意ぶつけてきた時点で容赦する気などない。
「俺の名は」
「ストーンレイン」
「うおっ!?」
「最近の戦場で名乗りを上げる馬鹿はいないと言うよ。鉄ナイフダースでプレゼント。そこ、落とし穴」
「き、貴様あっ!」
「敵対してきたのはそっちだっての。死ね」
馬鹿は馬鹿だね。たぶんこれだけ躱せるのだから幹部なのは間違いないだろう。殺してから大食い秘書のリゼさん辺りに首実検してもらえば良い。
「くそっ! メガファイア!!」
「アイアンインゴットシールド」
この技、インゴットシールドは手持ちのインゴットをその場でシールドに加工する。カルさんならオリハルコンインゴットシールドでも貫いてくるよ? だから桁が違うんだってば。
「手品はお仕舞い? 鉄ナイフシュートシュートシュートシュートシュート……そっち落とし穴。常時飛ぶほど魔力無いんだね」
「くそっ、貴様、搦め手ばかり!!」
「戦争でしょ? 馬鹿なの?」
「死ね」
「グハッ!?」
後ろに回っていたイリスがオリハルコンメイスで頭にクリーンヒット。まさか決闘のつもりだったの?
頭が砕けたのでそっちは回復して代わりに心臓を潰す。収納してお仕舞い。
……周りが声もないと思ったら全員ドン引きしてるよっ! またやり過ぎたかな?
本当にそのうち聖女とか呼ばれなくなるわ。
とにかく今は怪我人量産状態だし回復回復、ほらみんな動く!
「魔物は強者が正義だろ」
「ほんとそれな」
「アザレア様を手伝わないと!」
「動け、動け、動け!」
うん、やはりモンスターは強者に従順だ。どんどん回復していく。ポーションを体内で消化してるから、魔力が無限に有るように見えるだろうなあ。
死んでる人も運ばれてくるんだけど潰れたゴブリンとかグロい。まあリザレクション。
「おおー!」
「奇跡だ!」
「さすがアザレア様!」
「聖女様!」
みんなが讃えてくれてイリスが満足そうだ。名声広がりすぎてヤバかったりしないかね?
あたしはダンジョンに隠るぞ? スライム隠者。ハーミットだけどピンクです。
白いゴスロリドレスで戦場を駆け抜ける。そろそろ終わりっぽいので前線に。すごい絵面な気はする。
また今度はデカいのが残ってるね。首がたくさんあるドラゴン。八岐の大蛇だかヒュドラだか。この星本当に妖怪も多いからね。九尾の狐の尻尾が三本~五本のとかろくろ首みたいな人もいたし。
まあいいや、ヒュドラでも大蛇でも倒し方はおんなじでしょ。
「特大落とし穴ー」
「そこは頭をハネるところじゃないのか」
「ブレイズさん暇なの? 埋めた方が早いじゃん。飛べない竜はただの豚なんだよ?」
「せめてトカゲと言ってやれ」
飛べないのは豚と昔から決まってるんだよ?
かなり大きかったから二十メートル立方くらい一辺に穴掘って疲れたよ。あとよろしくね。
ブレイズさんは苦笑しながらドラゴンに向かっていった。あ、首実検してもらえば良かった。ヒュドラよりこっちの方がてこずったもんね。
やっぱり飛ぶ敵は厄介だ。飛ばなければただの豚だけど。戦闘機は倒せるか微妙だけど、いや、勝つ方法は有るけど、戦車はね。下に落とし穴掘って落とすだけ。
戦闘機はスライム形態で進行方向前面に石礫バラまいてやればたぶん勝手に落ちると思うんだけど。バードストライクとかヤバいらしいし。向こうが勝手に音速で突っ込んでくるしね。
やっぱりモンスターは怖いね。スライムストライクは嫌だけどね。ボーリング球に見えなくはない。半透明だけど。まあたぶんミサイルは当たらないでしょ。核ミサイルはダンジョンに逃げ込むよ。魔神様だと地球くらい滅ぼせるかも。
また雑魚をオリハルコンナイフを投げて仕留める作業が始まるよ。怪我人の回復もしないとね。
そうして今回の状況も終わった。
リゼさんやログさん、ブレイズさんが集まったところで襲ってきたデーモンの首実検。
「ブルセリオンの配下の一人、煉獄のゲリオンですかね?」
「頭が血塗れなのに傷が無いのは何故?」
「イリスが頭を潰したから首実検のために蘇生してから心臓を潰し直したんだよ」
「二回殺したわけか」
あ、三人とも酷い奴だって目をしてる。そろそろ慣れてきたぞ。
「まあアザレアが酷くなかったことなど無いからいいんだがな」
「さすがに傷つくよ? スライムハートはプルプルなんだよ?」
「ダイヤモンドは砕けない」
「何かのタイトルみたいに言わないで!」
「まあそれは置いておきましょう。結論はアザレアさんが酷いで」
「酷い!」
「確かに酷いですわね」
ぐぬぬ。ログさんまで。まあこいつ、練乳のゲリなんとかは幹部でも一二を争うくらい強いらしい。敵の片腕をもいだようなもの。それはイリス、良い仕事したね。
「それじゃ倒したのはイリスということか。イリスたちはそろそろAランクで良さそうだな。エミリアに進言しておこう」
「あ、それはお願いしようかな。あの子達、頑張ってるからね。若干遊んでるだけの時間が長いけど」
「アザレア様のダンジョンは面白いですからね」
「ご飯も美味しいですし」
この腹ペコ秘書め。まあそろそろご飯にしたいね。またパスタ食べに行ってもいい。
結局今回は襲撃は有ったものの、まだ敵も本腰じゃないと言うことで帰ることにした。パスタは食べたよ。
次回、スライム、ちょっと強敵と戦うよ!




