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スライム聖女、治療する。

 アザレアダンジョンリゾートの研究開発兼経営をしております、悪いスライムのアザレアですわ。


 いやさ、あたし何やってんの?

 つか戦争いつはじまんの?


 気を抜けないのが辛すぎる。リゾート楽しみたいのに。ブルセリオン共はしっかり覚悟しておくといいわ。あたし怒ってるからね!


 ケイシーがエアロコースターを壊しまくるしお客さんが事故に遭わないからまだ許してるけど、イリスはあたしをエンジェルスライムの箱に押し込みたがるし変な芸を覚えたスライムの駆除に悩まされるし、ユキメは刃物館でこもってお客が怯えて減ってるし、カルさんは好き勝手し放題だし、ブレイズさんやリゼさんやログさんは好きに遊んでて全く緊張感無いし河童(サンシャイン)は畑をカルさんに荒らされて泣いてるし!


 あたしだけ戦争に備えて緊張しっぱなしなのよ?!


 あ、コースター楽しい。ユキメの料理美味しい。イリスにテイムされそう。カルさんたちとキャッキャウフフ♪


 何か見ましたか? それはたぶん幻影です。


 とにかくあたしだけ心労を重ねているわけですよ! 理不尽だと思いませんか?!


「お前が一番遊んでないか?」


「この施設楽しいですー! 変態もいないしー!」


「ログー、ウォータースライダーに行こうー!」


「みんな楽しんでて良いんじゃないですか? モンスターですし」


「アザレア、遊んでる」


「コースターの改装お願いします!」


「新作料理試してみてくださいませんか?」


「カルさん、キュウリ返して!」


 な? 悩んでるのあたしだけだろ? 遊んでる? それは幻視だよ君。あー、ずっとこのダンジョンにこもって開発とかしていたーい。


 幻聴だよ?


 まあそんな安全でアホな暮らしはいつまでも続くはずもなく、ついにコーシン領でスタンピードが起こった。

 何故かカルさんや河童のサンシャイン以外全員で出撃することになった。リゾート開発を邪魔するやつらを許せないらしい。帰ってきたらお買い物コーナーに本屋なんかも増設するつもりだ。レアな本や手書きの本すらコピーできるからね。でも儲かってくると馬鹿な(やから)も増えそうだ。何度か戦争になるかも知れないとみんなとの話でよく出てくる。特にエリオールは経営権を寄越せとか他の貴族が言い出す可能性が高いので最悪カルさんのご登場も有り得る。できるだけカルさんには頼りたくないんだよね。あの人の存在そのものがチートだもん。

 ログさんは帰ってきたら本屋を経営したいと張り切っている。領地は良いのかな? まあ王様が遊んでるし良いのかな。モンスターフラフラしてるなぁ。もともと代官だから別の人を派遣するだけで済むらしい。トップのカルさんが「いいよ~」と言ってるから良いんだろう。


 さて、コーシン領までリゼさんのテレポートで移動した。

 状況としては自然発生型のモンスターが城壁外に集まりだしているらしい。兵士で対応できるレベルのようだがそろそろ騎士団や冒険者も出るような事態になっているらしい。


 あたしはとりあえずトラップを設置して他は仲間に任せ、傷付いた兵や冒険者たちを癒しに行く。はっきりいって多少の群れならゾンビアタックで終わると思うんだよね。


 落とし穴をいくつか設置して指揮官のログさんに場所を教えておく。その後、仮設診療所になっている建物に移動。イリスたちも強くなったので大丈夫だろう。一人一人がグレーターデーモンに勝てるくらいは強いと思う。


 仮設診療所は開戦初期のわりにかなりの怪我人がいた。命を落とした人もいるらしい。近寄っていってリザレクションをかける。

 がばりと起き上がる死んでた人。ちょいホラーだわ。


「どこか具合の悪いところは有りますか?」


「へ、平気です。全快です」


 周りの人たちは一瞬何が起きたのか理解できずに固まっていたがすぐに事態に気付いて「うわあああっ!!」と一斉に叫んだ。鼓膜無いから良いけどちょっとうるさい。感知が疎かになりそう。

 その場にいる骨折しているらしい人たちもまとめてエリアグレーターヒール。また喝采が上がる。

 回復した人たちに怪我人を集めさせてエリアグレーターヒール。治りきらない人にはエクストラヒール。毒や石化をしている人にはキュアオール。一般の病人まで来てめんどくさくなったのでエリアキュアオールを開発した。どんどん来なさい!


 そのうち外の状況が動いたようで怪我人に騎士や冒険者も混じりだした。ゾンビアタックの始まりです。死んでも生き返って敵を倒し続けることをゾンビアタックと言います。

 リアルゾンビじゃないので何度も死ぬ方は堪ったもんじゃないとは思うけど、自分達の町を自分達で守りきれるならそれで良いよね。逃げても構わないし。自己責任でしょ。

 なんか大怪我して帰ってきた冒険者の中にお漏らしネズミのガランとか混じってた。男を見せてこい、エクストラヒール!


 泣きながら突撃して行ったらしい。どういう涙かは分からない。イリスに手伝いに回るよう念話で伝える。以心伝心テレパシー、便利。

 スライムたちもかなり活躍しているらしい。死んでも食われなければ蘇らせられるので仲間で連係して食われないように立ち回ってもらう。

 大型ドラゴンとか出たらさすがにヤバいかも知れないが自然発生してすぐの魔物は馬鹿だからリゼさんで対処できるらしい。うちのダンジョンで遊んでたんだから強くもなってるだろうし、安心かな。

 だけどよほど激化してるのかアザレアダンジョンの仲間にも怪我人が出始める。まあそれでもブレイズさんが超強いらしく戦線が後退したりはしていないらしい。あの人Sランクなのにうちに(こも)ってたからな。弱かったら叩き出すわ。ちなみに二つ名は炎血のブレイズらしい。中二臭い。戦場のスライム聖女は意味が分からないけど。

 そのうちリゼさんとも連携が取れるようになって無双しそうだ。あたしの出る幕が無さそう。


 ま、まあここにいる助かった人たちは喝采を上げてくれているから良いか。そのためにやってるわけでもないけど、嬉しいものは嬉しいね。


「どんどん連れてきて、急いで!」


「はい!」


 別に全員にリザレクション掛けるのでも回復しながらならいけるけど、そもそも死なせない方がグレーターヒールくらいで済むので楽だ。エリアグレーターヒールになるとリザレクションと変わらないくらいの魔力消費だ。出力調整もできるけど、三百くらいは魔力を使う。


 時折休憩を入れて魔力ポーションをもらって飲む。こういうアイテムもコピーして大量にダンジョンで出したいな。なにせカルさんいるしお客さんも日毎に増えている。カルさんがいる以上問題を起こす貴族なんかいてもあっさり解決する。水戸○門常駐状態だね。問題なんか起こるはずがない。他の魔神が襲ってきてもダンジョンの力を多少貸してあげれば追い返してくれそうだ。まあ魔神はそんな暇なことはしないらしいけどね。


 しかし本当に戦場は大変みたいだ。怪我人がどんどん増えている。敵の強さが増しているらしい。これが天海嘯スタンピードなのだとか。

 本当ならどれくらい死んでたのか分からん。こんなのが世界中で一度に起こっているのだ。……青の星、許せないね。たぶんこんな悲惨な事態になってるって知らないんだろう。知っててやってるならあたしも魔神様と乗り込むわ。


 とにかく他の回復要員やイリスもこちらで回復をやってもらい、動ける冒険者や騎士で役に立てない人は怪我人の搬送をしてもらう。あたしの周りに血みどろの怪我人の山ができてはエリアグレーターヒールを繰り返す。たまにリザレクション案件もあってキツい。前回の戦争の時ってハイになってたんだろうか。明らかに今回より使えてたのになぁ。

 後ろ髪から触手を後方に伸ばしてスライムボディを先端に作り、器の形にして魔力ポーションを注いでもらいつつ回復、なんて荒業をやってみた。みんなポカーンとしている暇は無いよ?

 あ、あたしがスライムなの知らなかったのか。


「彼女こそ、Sランク冒険者、戦場のスライム聖女、アザレア」


 イリスが説明して立ち直った人たちはようやく再起動した。でも一部讃えてる人とかいるけど。動いてね!






 次回、いいからヒーリングだ!

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