怪しいスライム、作戦会議する。
コーシン領代官、ログ・コーシンさんはサキュバスらしい。イリスみたいな人だろうか?
案内されてログさんの部屋に辿り着くとおかしな声が聞こえてきた。
『あ、あの、どうしてもここに座らなくては駄目なのですか?』
『サキュバスの領主ならば当然です! さあ、この豚野郎と罵ってください!』
『え、ええっ!? こ、この子豚やろう!』
『子豚では有りません、豚野郎です!』
あたしはリゼさんの方を見た。リゼさんも困惑してこちらを見ている。
「帰る?」
「帰りましょう」
「あ、待って帰らないでくださーい!」
あたしとリゼさんが身の危険を感じて帰ろうとすると、バターンと扉を開き、白いフリルたっぷりのドレスを着た薄い青髪青眼のとてもお淑やかな感じの、人間なら十四才くらいの見た目のサキュバスが飛び出してきた。
「ログ・コーシンです! 今回はご助力頂けるそうで有り難う御座います!」
「あ、もう帰りますんで結構です」
「コーシン領は安泰だと報告しておきます」
「やめてぇー! 帰らないでー!」
変態が出てくるのかと思ったらまさかの被害者だった。でも巻き込まないでほしい。
まあそういうわけにもいかないので室内に招かれるまま入る。調度品が少ない。机の前後左右に四つん這いの男性が、いや、上半身裸のマッチョがいる。
「えと、この人たちは……」
「我々は人ではありません! ソファーです!」
「実家に帰らせて頂きます!」
「帰る前に一言豚野郎と罵ってください!」
「嫌だあー! 帰るぅー!!」
「テレポートします!」
「やめてぇーー! 駄目ぇーー! 帰っちゃ駄目ぇーーー!!」
ログさんの必死の泣き入れ。さすがにマッチョソファーに座る気にはなれないので浄化魔法クリアを使ってから床に直に座って話し合う。マッチョソファーがぶつくさ言ってるが「放置プレイ」といったら何故か黙った。怖いので考えない。
「今回もブルセリオンたちはこの領地の人材や物資を狙っているようなのです」
真面目な話が始まったがマッチョソファーが気になりすぎて頭に入って来ない。この人材は奪われた方が良い。
「あ、今どけます。聞き分けのないマッチョさんはお仕置きしますよ!」
「アイ、マム!」
おお、マッチョ一斉に逃げた。実はログさん実力者なのか?
「彼らは何故かゴカイが苦手なのです」
「ゴカイ?」
「釣り餌です。私は釣り好きなので平気なのですが、何故か投げつけると彼らは逃げ出すのです」
そりゃ裸にゴカイ投げつけられたら逃げるわ。マッチョでなくとも。マッチョがはけたところで話が続く。
「全く、先代の趣味で集められた兵がああいう真面目なのにどこか箍が外れた人ばかりでして……」
「気持ちは分かるけど作戦会議ね。気持ちは分かるけど」
愚痴なら一時間くらい余裕で言いそうだよこの人。仕方ないけど。
「今回の敵の策は三重に有るらしいのです。まずは第一に天海嘯によるスタンピード、二つ目は拠点です」
「拠点?」
「どうも旧騎士団練兵所を奪われたようです」
今回は建物の中で戦うのか。厳しめかも知れないな。あたしの一番の戦術と言えば土の中からの攻撃だもんね。
建物の中で戦うならスライムは壁や天井に張り付いての奇襲がある。ある意味最もメジャーで王道なスライムの戦い方だろう。リアル系のファンタジーではいきなり天井から降ってきて強酸で溶かしてくるスライムはダンジョンで最も危険なモンスターのひとつだ。
「そして三つ目ですが、敵に魔王級の用心棒が付いたらしいのです。それも厄介で知られる無郷のアルスアグレウス」
「……奴ですか」
「知っているのからいで……リゼさん」
「らいで? 無郷のアルスアグレウスは拠点を持たないまま様々なダンジョンを渡り歩き魔王級となり、あらゆる戦場で傭兵として参加、虐殺を繰り返してるというグレーターデーモンの男です」
「やっぱり強い人はデーモン種が多いねえ」
「スライムでそこまで強くなったアザレアさんの前で言うのもなんですが、デーモン種は優良種族なので実力者の半分はデーモンですよ。ドラゴン種なんかにはなかなか勝てませんが」
「ドラゴンはチートだよねえ」
今はまだドラゴンと戦わなくて済むらしい。ただ天海嘯がもう少し進むと出てくるので今回はタイミング的に遅いのでドラゴン込みのスタンピードの可能性が高いそうだ。飛ぶ奴は苦手だ。アースドラゴンとはいつか戦うことになるのかな?
「戦い方だけど、あたしがスタンピード起こしたやつらを一割くらい殺すからあとは回復に回して欲しいの。敵拠点は一階だけ殲滅したら壁や柱を破壊して倒壊させてできるだけ地面で戦いたい。だから空中戦対策はそちらにお願いします。その用心棒のグレーターデーモンはあたしに回してください」
「この人軍人ですか?」
「ダンジョンマスターですよ。ちょっと策略家みたいですが」
「もしスタンピードしたモンスターを本当に一割も削れるのならその作戦に異論はありません。むしろお願いします!」
「私も協力します。敵拠点は私が潰しましょう」
リゼさんが拠点撃破班か。この上ない安心感があるな。今回も虐殺者の称号が輝くことになりそうだ。この称号なんか能力付加有るのかな?
……一方的な戦況になると回復力二十%アップ? あたしが異様にスタミナが有るのってスライムボディとこの称号のせいかも。
まあいっか。スタンピード起こったらまた虐殺しないと駄目なのは間違いないし。あらかじめ罠張りまくっておこう。
「では早速……晩御飯ください」
「あんたそればっかりや!」
「あ、分かりました、すぐに用意させます!」
「あんたも健気だね!」
その後晩御飯になった。地元の魚を使った料理たっぷり。お刺身も出たし茶碗蒸しまで出た。ただ、全体的にタンパク質が多かった……。何故かは問うまい。
◇
さてさて。そろそろ天海嘯期なのであちこちで誘拐事件の話が聞こえてきています。こんなのが毎年起こるならそりゃ赤の星のモンスターたちが青の星の人間に良い感情を持つはずがないですね。皆さんはどう思いますか? あたしはハラワタ煮えくり返ってるよ! 小さい子とかもいなくなってるんだよ。それで、青の星では奴隷。
……あたし青の星なんて行きたくないと思ってたけど考え変わったわ。一回は文句言ってやりたい。でも世界戦争とかしてたら人道とか言ってられなくなるのも分かる。勝たなければ奴隷だもの。でもだからあたしが戦争を終わらせてやるわ。地を這うしか能がない人間なんてあたしの敵じゃないし。
まあ今回の敵はモンスターです。奪いに来る奴は殺す。あたしの真理は変わらない。
スタンピードが起こるまではと何故かログさんも連れてあたしのダンジョンに来ています。このダンジョン、アザレアダンジョンとか聖女ダンジョンと呼ばれているらしい。聖女ダンジョンってなんじゃ。
一応ログさんの配下とは通信機で連絡を取れるようにしてある。ダンジョン産のレアアイテムらしい。いくつかコピーさせてもらって仕組みを解析してもらった。まあ赤ノート先生なら余裕ですよ。
「素敵な場所ですね」
「水着は持ってきましたか?」
「はい! 楽しみです!」
「アザレアちゃんあそぼー」
「カルさんのんびりしてるね~」
ログさんは大興奮してるから早速シャワーを浴びてもらう。そしてウォータースライダーに放り込む予定だ。カルさんはこの施設の本当の楽しみ方を理解したようだ。湯治場だからね、ここ。ダンジョンだけど。のんびりしてたまに遊ぶのが良いんだよ。
まあメインは温泉と料理、たまにリゾート施設を使うのが良いんだ。でもアトラクション一つくらい増やしたいな。スライダーだけは何故か増えていくけど。
次回、スライム、戦争……しない。




