新たなるダンジョンマスター(sideブレイズ)
私はバンパイアのブレイズ。Sランクの冒険者にして、ギルドマスターをしている。
魔物しかいない赤の星、争いはいくらでも起こるし、殺しあいもザラだ。私闘は負けた方が悪い。誰も罪に咎めたりしない。
紛争もよく起こる。勝てば官軍だ。それは勝てそうなら喧嘩を売るだろう。小規模の町だから侮って攻めてくる奴もいる。……今のエリオールを攻めてくる奴等は逆に気の毒だがな。
そのスライムが訪れた時、俺は一瞬で気づいた。Sランクに届きそうな化け物が魔力も隠さずに訪れたのだ。普通なら気づく。気づかなかったアホが一人泣きを見たが、まあそんな雑魚は赤の星では生きられない。
非常に興味が湧いたので俺が試験官をすることにした。
一口に言うと酷かった。魔物の中の魔物と言って良い。戦い方が斬新に過ぎるし、相手の背後から尻を狙うなど……。さすがに慈悲が無さすぎて自分が間違ってる気さえする。
そのスライム、アザレアはとてつもない魔力と慈悲の無い戦略でドラゴンに準ずる魔物、マンティコアさえも蹂躙して、生き埋めにして見せた。マンティコアもタフな魔物のはずだが、さすがに生き埋めにされると何の反撃もできないようだった。
このスライムがSランクになったら二つ名を付けなければならないのだが、第一候補は生き埋め虐殺スライムだろう。……それが何故ああなったのだろう。答えは分かっている。俺が彼奴の持つ魔法を把握しきれていなかったのだ。
だが、大した苦戦もしてないのに回復魔法をあそこまで使えるなどと、誰が思うだろう。登録職業がヒーラーというのも彼奴の小粋なスライムジョークとやらだと思っていた。完全に間違っていた。
彼奴が去ってから一月ほど経った頃、最近増えている山賊が実は傭兵団の一味ではないかとの意見が出た。斥候を向かわせると、敵は既にいくつもの陣地を作りこの町を狙っている事が分かった。至急領主のシュレイを呼びつけ作戦会議を始める。俺自身は爵位を持っていないが一応伯爵の三男なので奴は俺には敬語を使うし、呼べば来る。
状況の不味さを把握したシュレイはすぐに騎士団を動かすことに決めた。エリオール騎士団にはドラゴンもいる。如何に敵が強い傭兵でも早々この町は落とせない。
だが、敵の目的がただの略奪なら、市民を傷つけないで勝つのは難しいだろう。何としても先手を打たねばならない。カウンターに戻り冒険者たちに緊急依頼を出す。緊急依頼はもちろん参加しないことも許される。所詮我らは魔物だ。強制などしない。面倒だからな。
そこにたまたま奴が、アザレアが現れた。しかも隠してはいるものの魔力が更に高まっていた。
こいつ、やはりダンジョンマスターか!
ダンジョンマスターはダンジョンの吸収する濃密な魔力の中で生活しているために魔力が飛躍的に高まる。仲間の方の三人、ケイシー、ユキメ、イリスの三人も明らかに強くなっている。
この緊急時だ。それはとても有り難いことだ。モンスターは力が全て。こいつらが良心的なのは全くもって有り難いことだ。酷いとこいつらが略奪に加わっているだろう。ぞっとしない話だ。
アザレアを乗せて参加させる。何やら乗り気だが、大丈夫か?
いや、嫌な予感がするだろう、こいつがノリノリとか。嫌な予感しかしないな。
戦闘が始まる前、アザレアの配下の一人、ケイシーが俺のいる陣地に来た。……嫌な予感しかしない。あろうことかこの雌犬、「悲報です」とか切り出した。どんなジョークだ、と身構えたものだ。笑わない自信がなかったが報告内容は笑えないほど苛烈だった。あのスライム先行しやがった。開戦は夜なのに状況をほぼ終わらせている。やりすぎだ。これはもう開戦を早めるしかないな。
シュレイをすぐに騎士団に向かわせた。開戦だ。
開戦してすぐにB拠点が陥落、C拠点、E拠点は苦戦しながらも士気は高まった。敵は混乱を始めた。当然だな。
C拠点は砦跡地を使われていたため未だに苦戦しているが、アザレアが到着。何故か報告をする者が「聖女アザレア様が到着、戦況は覆りました!」と、嬉しそうに報告してきた。聖女? 誰が?
まあアザレアがいればC拠点は大丈夫だろう。何故か報告を聞いた冒険者たちの士気が異様に上がり、俺も戦いやすくなったのであっさりE、D、そしてCから来た異様に士気が高い騎士たちと合流してA拠点まで一息に落としてしまった。手強い者もいるはずだったんだが、士気の高さは侮れない。
いったい何が起こったのかはシュレイからの報告が来るまで分からなかったが、聞いても分からなかった。死者蘇生?
お伽噺にしても有り得ないだろう。確かに魔法は万能だ。魔力があれば。
もし今回のアザレアがしたことをお伽噺にするなら相当に端折らないと子供さえ鼻で笑いそうだ。一人で戦況を作ってしまったのだから。
そもそもB拠点の物資と指揮系統を開戦前に奪い去る。そこから有り得ない。彼奴だから有り得ると思えるが「あーー」とも言いたくなる。
次にB拠点の殲滅。高々四人で何やってんのお前ら。しかも戦ったのはほとんど二人らしい。アザレアが多重の落とし穴で敵の逃走経路を塞ぎ、ケイシーが空から火の魔石で爆撃。逃亡した兵も追撃した兵も落とし穴で全滅。殿のアザレアが指揮を失い追いかけてきた兵も殲滅。有り得ないのに有り得てしまう。だってアザレアだもの。
なんか変な声が出た。
そして、挙げ句に人化し、死者を蘇らせ、その姿の儚さと強力な回復魔法から騎士団皆が聖女と呼び始めた。どんなジョークより笑えるわ。虐殺スライムが聖女とか。だが、二つ名を考え直さないと駄目だろう。
シュレイとも相談した結果、戦場のスライム聖女という色々混ざった二つ名に落ち着いた。
どうせこれからも色々やらかして聖女だと思うものは減っていくと思うが、そもそも俺たち魔物が聖女とか。ジョークにしても酷すぎる。
ああ、アザレアが酷くないことなど無かったわ。
功績を見ればSランク認定は待った無し。シュレイも俺も認めているんだ。領主とギルドマスターが認めればSまでは上げられる。
たまたまギルドに素材を持ち込みに来ていたケイシーに伝えアザレアを呼び出させる。ダンジョンマスターなのだからダンジョンに隠るのは構わないが連絡手段は欲しいな。通信機をくれてやるか。
アザレアが来たので昇格と二つ名を伝えると、すごい微妙な表情。だろうな。俺も微妙だと思う。
だがもうこいつはSランク。これからもどんどん力を付けて有名になってもらわないと困る。ギルドなんて究極的には名声で持ってるんだからな。
カル・ダモン様にも連絡はしている。すぐにアザレアはあの方の襲撃に遭うだろう。
その時にあの珍妙極まりない酷いスライムがどんな反応をするか、想像するだけで笑えてくるな。
どうかカル様の襲撃前にダンジョンを解放してもらいたいものだ。そんな楽しそうなシーン見逃したくないじゃないか。
カル・ダモン様はかなり長命だが、醤油や味噌を流行らせたり料理を自分でしたり、冒険者ギルドを作ったり孤児院を作って子供たちと遊んだり青の星に飛んでいって帰ってきたりと、アザレアに負けない珍妙な……失礼、奇抜な方だ。
カル様とアザレアの出会い。ワクワクせずにはいられない。どんな無茶をやらかすだろう。どんな珍妙な事が起こるんだろう。仕事を辞めても観に行きたいわ!
新たなるダンジョンマスターアザレアよ、早くダンジョンを解放してくれ!
次回、やっとダンジョン解禁!




