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スライム、敵陣を壊滅させる。

『良いですかアザレア様、それはもう戦争が終わってますからね?』


『えっ、そう?! 敵兵ぜんぜん減ってないけど?!』


『兵糧と武器を失った兵が推定二割、これはもし戦死者ならば普通後一割で全滅と呼ばれるレベルです。もちろん死んでないので後方支援はできます。が、相手にとって不味いことにこの兵たちは敵方の足を引っ張るだけなのです。殺されそうになったり餓えたりすれば周りはそれを助けようとするでしょう。その兵の面倒を見ようとしたらそこにかなりの兵や物資を割くことになります。そうすればまともに戦えるはずもありません。こちらの騎士や冒険者が精強なのに敵方は大混乱。地下にはまだ魔物の中の魔物が眠ってる。どうやって傭兵団が勝てるのですか』


『無理ですね』


 無理だった。開戦前に終わらせちゃった。やっちゃったね。ブレイズさんに連絡取らないとだけどE拠点遠いよね。作戦も壊してる気がする。それは良い気味だけど。シュレイさんの残念そうな顔が見れないのが残念だわ。はっはっは。


 んー、だけど夜の開戦まで暇だなー。先に動いたら駄目だよね。敵陣を壊滅したりは駄目なんだろうか?


『アザレアさん、私がひとっ飛び行ってきます』


『あ、うん、念話で視界を繋いでおくね。シュレイさんの顔見ててね』


『くふふっ、それは楽しそうです!』


 ケイシー良い性格してるよね。まあブレイズさんとシュレイさんの二人のあたふたしてるのが見れたら良いか。あたしたちはケイシーの帰りを待つことにした。





 ケイシーが味方の拠点にたどり着くとそれだけで騒ぎになった。冒険者が統率取れてるはずがないわね。でもケイシーって遊んでただけなのにめちゃ強いよ。Aでもおかしくない。


「アザレアさんの使いです。ブレイズ様はいらっしゃいますか?」


「ケイシー、ここだ! 何か有ったのか?!」


「悲報です」


「なに!」


 ケイシー……本当に良い性格してるよね。ブレイズさんは何故か口許を手で抑え、シュレイさんも焦ってるな。


「B拠点の敵物資は全て我らがアザレアさんが奪い、部隊長の炎のホムラはアザレアさんに土に埋められ窒息死しました」


「はえ?」


「は?」


 この人たち失礼だな。まあ分かるけど。そんな結果出せる人、普通はいないよね。


「なぜそんなことになった」


「アザレアさんが先行しました」


「あーー」


 なにその反応、ブレイズさん酷い。あれ、見られてないのに「酷いのはお前だ」って目で見られてる!?


「そ、それのどこが悲報なのですか?」


「敵方の……」


「あーー」


 面白いなこの二人! 二人して額を押さえて天を仰いでる。でもこれで終わりじゃないからね。


「この後の方針を聞きに参りました」


「そうだな。武器を持った兵はまだいるのだろう? 構わないからできるだけ削ってくれ」


「良いのですか?」


「そいつらは生き残ったらどうなる? 山賊だ」


「報酬は」


「払う払う! がめついなお前!」


 いや、ケイシーもかなり酷いよね。まあ良いや、どうせやる気だったし。ケイシーが帰ってきたら落とし穴で敵陣を囲んで火攻めと行こう。


「どうせ悪いこと考えてるアザレアに言っとけ。慈悲は見せんで良いと」


「必要ありますか?」


「ない気がする」


『おい、お前らああああッ!!』


 ムカつく! 慈悲あるわよ、ヒーラーなんだから!

 でも敵陣の壊滅ね。開戦を早めるらしいし、ちょいと忙しいわね。


『行ってくる』


『おき、を、つけ、て……!』


『ユキメ笑いすぎ!』


『くぷぷっ』


『可愛いなイリス、コノヤロー!』


 いかん、なんかテイムされてるな。

 さて、どこまでやれるか分からないけど。


 その後あたしは敵陣を囲むように落とし穴を掘っていく。おまけに逃走経路も落とし穴だらけだ。頑張るぞ!





 イリスに視点を借りながら穴を掘っていく。敵陣もいつまでも動きがないはずがない。あたしは落とし穴を一ヶ所だけ掘らずに経過を見ていた。案の定敵陣がにわかに騒ぎになり始めた。ケイシーも帰ってきて経過を聞いている。


 まずは物資が一切無くなっていることに気付いた兵が部隊長に報告に行くが、部隊長は土の中。当然捜索するスキルなど無い。

 そこで副長に報告。副長は実際にすべての物資が無くなっていることを確認。直ちに部隊長に報告するために野営トイレまで探すがどこにも隊長がいない。これ、パニックになるよね。

 パニックには陥ったが副長は本陣(A拠点)に状況報告と応援要請。しかし本陣が兵を動かすことはできないだろうと思われたが……伝令が落とし穴に落ちて死んだ。しかもB拠点の誰もが気付かない位置で。そう、既にB拠点を囲んでいる落とし穴で掘られていなかったのはなんと救援要請するA拠点方面。斥候を殺すためだけの酷いスライムの罠!

 誰が酷いスライムやねん!


 もちろん斥候が人知れず死んだ後に罠の欠点は全て埋められた。掘るのに埋めるって変だね。


 人間なら間違いなく眉を潜めたくなる、虐殺の始まりだ。


 でもあたしスライムなのよね~。全部殺すから。そこで見ていると良いわ。





 空から、炎の弾丸が降ってくる。ケイシーが炎の魔石で爆撃しているのだ。慌てて逃げていく人たちは落とし穴に落ちて全身を串刺しにされる。


 誰がベ○コンやねん! いい加減にしろ!

 さすがにアメ○カ軍には勝てんわ!


 逃げて、逃げて、逃げた先には既に串刺し死体の落とし穴。飛び越えるのは無理な距離。

 身体能力に優れた男は見事飛び越えたがそこに落とし穴。ぐわー!


 慈悲? 貴方は誰に慈悲を乞うているのか。神? 貴方と神はそれほど親しかっただろうか?

 はっきり言おう。見ず知らずの人間を助ける神はいない。神にそれを乞うのは神に奴隷になれと言うに等しい。救われる? あるわけないだろ。あたしは有ったけどね。


 例え晒される暴虐が悪魔の技でも、神が人を救う理由は無い。己を助けないものは神も助けない。神には慈悲は無い。そんなものを願う感情はゴミ箱に捨てておけ。


 滅び。


 そこにあったのは一体のスライムが起こしたには、あまりに苛烈な、死であった。


「ひいいいっ! 何故だ、何故俺が死なねばならんんん!!」


 そんなもの、「お前が他人を殺したいと思った」それ以上の理由が必要有るのか?

 助けを求める声がする度、あたしの心が汚される。無力は罪じゃないが逃げて死んだら救われたかも知れんだろ? 試していないものは分かるはずもない。罪の量は人により違う。


 お前に助けを求める価値など無いだろう。厚かましいにも程がある。お前たちは奪いに来たのだ。だからあたしが奪う。


 その愚かしい脳髄が自分は特別じゃないという当たり前の現実を受け止めるまで。


 死ね。死ね。死ね。


 あたしの心はスライムになって明らかに不変になっている。


 どうせ世界の全てのものは、数億年の旅の果てに光の塵になって消え去る。そんなもん、真理だ。





 ん? なんか変な夢を見ていた気がする。

 怒りのままにいろんなものをぶつけたのに全部現実だったような。


 現実が残酷なんて当たり前だよね。そこに晒される方はたまんないけど。


 なんかいっぱいストーンスパイクした気がするわ。……大虐殺じゃね、それ!?

 うわ、うーん、……ゴブリンもオークも魔獣もデーモンも何もかも残ってないわ。

 何故かあたし炎の中にいるし。なのに燃えてない。土属性だからかな? でも何故か。


 なんであたし人間の形になってるの? 分からん。人化成功したか。あんまりお上品ではない真っ白いゴスロリっぽい服を着て、……見た目も十才前後か。ロリぃ。


 意味が分からんことにあたしの魔力は全快している。……敵は全て死んでいる。燃えている。


 あたしは何をした?


 今もなお、頭の中に酷い声が響いている。


『殺せ、殺せ、殺せ』


『どうせあたしたちはいずれ死ぬ』





 なら、悪には、制裁を。






 次回で第一章の一部が終わる感じです。

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