少女、うっかりスライムになりたいと言ってしまう。
なんかあたしは転生することになったらしい。派手なゴスロリの女神様とあたしは話し合っていた。
「ゲームだとヒーラーやってたんだよね。だから回復魔法が使いたい。あ、でもスライムに転生しちゃうのも鉄板だからやってみたいんだよね。でもあたしって脳筋だから料理とか知識チートしてみたいなぁ。ダンジョン作るのも面白いよねえ」
「そう。記憶はどうする?」
「あー、自分に関する記憶はいらないかなぁ。辛くなりそうだし」
「つまり、貴女に関する記憶は削除で良いのね」
「うん、辛い記憶ばっかりだし、全部消してください。あ、知識チートしたいから大事な知識は残して欲しいかな」
「分かったわ。貴女の願いを全て叶えます。では、行ってらっしゃい」
「え、全て?」
◇
う、……なんだっけ、あれ、あたし誰だっけ……?
あ、そっか、記憶は消してもらったんだっけ。
あたしは死んで……? あれ、それも消されちゃったか。女神様に色々お願いしてしまった。失礼だったかも。普通は神様に自分だけ願いを叶えてもらうなんてそんな都合の良い話は無いよね。前世で友達だったからとか言ってたけど女神様もお遊びで時々人間に転生するらしい。
残念ながらその友達の記憶は残ってないんだけどね。はっはっはー!
う、うーん、記憶の消してもらい方間違えたかも?
……なんか真っ白だけどここどこだろ。
異世界の、幾千もの星の海である銀河が、いくつも存在する大宇宙を全て、しかも数万の大宇宙を支配してる神様だから、本当は一人の人間に力を与えるのは贔屓過ぎだから良くないらしいけど、友達だからってあたしだけ叶えてくれるらしい。
異世界の大宇宙の女神様が友達とかあたし凄くない?
ぜんぜんおぼえてないけどねー。どんな子だったんだろ。女神様の見た目はゴスロリ美少女だったけどあんな派手な友達いたのね、あたし。
まあ良いや。あたしは過去は振り返らない女!
……今はピンク色のまんまるい物体になってるけど。体全体がぷよぷよしてる。うーん、女神様が選んだのはスライム転生かあ。ぷるんぷるん。あたし悪いスライムだよ! 駄目じゃん!
名前とか容姿も思い出せないや。年齢すら分からない。まあ私が願ったんだけど。
オムライスのコツは玉子を強火で焼いてから玉子とろとろの段階で火を止め、チキンライスをフライパンの玉子の端側に乗せて玉子を被せてお皿の上に転がすように盛るか、チキンライスをお皿に盛ってからフワトロ玉子を乗せてパカッと割ってトローリとかけるとか、いくつか思い出すんだけどなあ。……この知識本当に異世界で役に立つのかな? あたしスライムだぜ?
……なんかこの白い世界から脱出できないな。女神様がいた世界はピンク色の可愛い感じの世界だったんだけど。
あたしの体もピンク色だ。目のない核があるタイプの少し固いゼリー状のスライムなのね。グミキャンディーそっくりだよ。
しかしどこまでこの白い世界続くんだろ。ポヨンポヨンと跳ねて進んでみる。跳ねれるタイプのスライムなのか。ポヨンポヨン。ピンクでポヨポヨであたし可愛くない?
……なんか寂しくなってきたぞ!
おーい、おーい、誰かあ!!
「うっせーぞ! ……ってなんで転生者がうちの星に来てるんだ?! あ、あのクソババアが送ってきたのか!!」
「うわあああっ、誰ですか?! あの人は友達なのでクソババアはやめてください! あたしも多分同年代だろうからババアになってしまいます!」
「うわっ、ご丁寧に記憶消してやがる! お前誰だよ!!」
「ん? 記憶はあたしが消してもらったから分からんよ」
「てめえのせいかあっ!! せめて前世の記憶無かったら扱いが分からんだろ!! ちょっと待ってろ、クソババアに聞いてみるから!」
なんだろ。凄いイケメンなんだけど、異世界のはずなのにTシャツにジーンズにスニーカー履いて、黒い野球帽を被ってるから髪色が分からない。黒かな? ジャイ○ンツファンだろうか?
目は青いけど鼻とか日本人ぽい形だな。顎は小さいからすごく若く見える。肌は白くてつやつや。羨ましい! あたしなんてピンクのプルプル肌だよ! ん? そっちのが良い? いやいや、やっぱり人間が良かったなあ。
「はあっ、はあっ……。あのババアはこの宇宙を支配してるババアで、俺はあいつからこの辺りの星を預かってる全知全能の主神、芦田とでも呼んでくれ」
なんか疲れてるね。あの女神様相手にすると疲れそうな感じだったもんね。あたしも相手にすると疲れるらしい。脳筋だからね。鍛えたらなんとかなるとか思ってる。
「ん? 芦田さん? あんたも神様なの? 全知全能なら治してくれないこのスライムボディ」
「あー、勘違いしてんのがいるんだよなぁ。俺にそんな力はねえ」
「なにそれ! 全知全能詐欺!?」
「ふざけんな! 一応俺はこの星、赤の星と隣の星、青の星に住む全ての生物の全知全能は持ってる! 地球の科学は分からんしお前が成長したらあっさり殺されるレベルの全知全能だが!」
「生物の? スライムも?」
「もちろんだが、スライムの性質を持った人間の性質を持った鳥の性質を持った鯨の性質を持ったネズミのスケルトンは存在すると思うか?」
「……盛りすぎ……ってか矛盾がいっぱいじゃない? 鯨みたいに大きくてネズミみたいに小さいって、とんち? スライムみたいなスケルトン? 意味が分からないね」
「だから。世界最大という能力と世界最小という能力、俺はどちらも持っているが同時発動はできない。だろ? しかも俺の能力はこのちっぽけな惑星二個分しか無い」
「全知全能って意外としょっぱい能力……?」
「そうなんだよ。馬鹿だから全知全能が有ってもほとんど使えねえし。分厚い辞書寄越されて開発されてない新技術について調べろって言われてるようなもんだな。思考力強化とか色々補助能力もあるんだけどいっぺんに使うと負荷が重いし、とにかく膨大な情報で処理しきれねえ」
イケメン少年は野球帽のつばを引き下げてため息を吐く。色白だから様になるなあ。でも視線恐怖症っぽくも見えるけど。
愚かさと賢さ、太さと細さ、高さと低さ、それぞれなら役には立つけど対立する能力は多いんだね。その同時使用はできない、と。そんな存在はこの星にいないから。世界を救える人もいない。なら神自身も救えない。その能はこの世界の人が誰も持っていないから。
「あー、あのクソババアから依頼が来てるからお前に与えられた能力を説明するぞ。全部だ」
「全部って?」
「お前が望んだんだろうが! ゲームだとヒーラーやってたんだよね。だから回復魔法が使いたい。あ、でもスライムに転生しちゃうのも鉄板だからやってみたいんだよね。でもあたしって脳筋だから料理とか知識チートしてみたいなぁ。ダンジョン作るのも面白いよねえ、って!」
「あたしの真似上手いね! さすがに全知全能か。うん、ヒーラーかスライムか知識チートかダンジョン作るかどれかだよね。で、その中からピンクのプルプルスライムが選ばれたんだよね?」
「アーシースライムな。あと、他も全部だ。ヒーリングも知識チートもダンジョンも」
「は?」
「あ?」
「全部混ぜたら駄目っしょ……」
「目上に、は? とか、はい? とか返すのは失礼だぞ?」
「そっちかい!」
「いや、確かにあのクソババア何考えてんだよとは思うが? お前に与えたものを聞いた時は、はい? って聞き返したわ」
「失礼だねあんた!」
「お前が言うな! 一応神! 俺この星の主神なの!」
「最近の神様はカジュアルだねぇ。向こうは全宇宙の神様だけど」
「あのクソババアに比べたら俺はチリクズ以下だ。力も知識もセンスも開発力も何もかも勝てねえ」
「そこから力をもらってるって、なんかあたしめちゃチートだったりする?」
「いや、下手したら数秒で死ぬ」
「チート無しかよ!」
「いや、チートはめちゃあるわ! お前に与えられたのはスライムボディやアカシックノートやダンジョンメイカーやお前自身の現代知識だぞ! 上手く使えばあっという間に魔王級になるわ!」
「え、マジで! 超チートじゃん!」
「上手く使わなかったら即死。スライムだしな」
「即死かぁ。あたし脳筋なんだよねえ」
「そこだけは覚えてるのか」
「いやあ、女神様との会話の範囲は覚えてるんだよねえ。アカシックノートってなに?」
「神の全知が記されたノートで取説みたいなもんだが、好きな知識を引き出せる」
え、超良くないそれ! でも知識チートって現代知識チートちゃうんかい。あ、それもあたしが持ってる分は使えるのか!
「言っとくが使えないと言えば使えない能力だぞ。料理してる時にレシピ見直して焦がしたりするだろ? 戦闘中にはまず読めないし科学知識はこの星レベル。しかも最悪なことに指定の仕方を間違えたら百万文字超えたりする。例えば水が飲みたくて、水は? とか指定したら水の効力とかどこにあるかとかが分子単位で書かれたりする。しかも現代知識の水素と酸素の化合物、とかは分からない」
「うわっ、使えねえ!」
「だが、一番近い天然の飲み水のある場所は、とか長めに指摘すると西に50メーターほど進めば清潔な小川があります、とか表示してくれる。こちらの緊急性を察知したらそのノートはわりと大雑把だけど教えてくれるぞ」
「使える!」
イケメン少年神によると、このアカシックノートは常にあたしの意識の隅っこにあって、読みたいと思ったら読めるし視界の邪魔にならないし、他人にも奪えない。ステータスまで表示してくれるらしい。ただ指定ミスをすると長々と読まなくてはならなくなったりするそうだ。緊急時ほど大まかに教えてくれるらしいけど本当の緊急時には使えないね。
見た目が赤いから赤ノートと呼ぼう。今もそこに赤いノートが転がっているのは見えている。タイトルに「AKA NOTE」とか書いてあるな。
中二病か!