魔法使いと魔女の夫婦の息子は最近魔法使いに成りたいらしい
前提として30歳まで童貞なら魔法使いになれる世界のお話です。多くの魔法使いと魔女は世間に公表せず生活しています。
私達、魔法使いと魔女の夫婦の間に生まれた息子は最近魔法使いに成りたいらしい。
この春、幼稚園に通い始めた4歳の息子は園で一番仲のよいマサキ君と一緒に魔法使いになるそうだ。園のバスを待つ間に私よりもかなり若いマサキ君のママに教えたもらった。
世間にはもちろん互いの両親にも(私の母親は疑っているかもしれないけれど)私達が普通の人間ではないことは隠して生活している。なので、息子が自分の両親の秘密を知るはずもなく、したがって魔法使いの父親にあこがれるはずもなく、急に魔法使いになりたいと言い出した息子に私達は困惑した。
幼い子供の話は要領を得ないことが多い。しかしそこは世間の親達が使う子の言いたいことを察することが出来る魔法を使って話をまとめる。
この火曜日の夜、息子は夢の中で迷子になっていた一人の魔法使いを森の中から助け出したそうだ。彼からお礼に一つだけ望みを叶えてあげようと言われたが、息子はその夜の夢では望みは言わなかったらしい。一つしか叶わないならよく考えてから返事をすると言うと魔法使いは一週間後の夜に再び会おうと約束した、らしい。
息子は園に通いだして早々に何が気に入られたのかマサキ君という少しやんちゃで元気な男の子に友達宣言を受けた。おっとりして恥ずかしがりやの息子は宣言当日、彼の勢いに怯えに近い戸惑いを見せていたので親としては園に通わせることを少し心配したが、もともと兄貴分的要素があったのだろうマサキ君は何事もとろい息子の面倒を良く見てくれた。行動力があって物怖じしない(彼の母親は落ち着きがなく、自分ににて無作法になるのではないかと心配してるが)マサキ君に息子は憧れや尊敬に似た感情を持っているらしい。
息子は早速翌日の水曜日に親友のマサキ君に相談した。魔法使いが願いを一つ叶えてくれる。何を望めばよいのか。マサキ君は息子に何が一番欲しいか尋ねた。
最近お金の存在を知った息子は「何でも買えるからお金」と答えた。しかしマサキ君は彼のおばあちゃんが「お金では買えない物がある」と言っていたと反論したらしい。(母はマサキ君のおばあさんを見習おうと思う)
マサキ君なら何を望むのかと息子が尋ねるとマサキ君は日曜に放送しているテレビの戦隊ヒーロー、ガウガウレンジャーレッドになりたいと答えた。息子はその後の放送の変身ライダースタッグビートルが好きなのでそこはどちらも譲らず砂場での言い合いになったらしい。
それが2日前お迎えの時のハナちゃん先生からの連絡事項だった。二人が砂場で今にも砂をかけ合うつもりでそれぞれが砂を掴んで一触即発の場面でしたと。すでに仲直りをし、当の本人たちは今まで以上に仲が良くしっかりと手つなぎ状態で一緒に帰る、一緒にご飯を食べて寝ると言い張った。
(マサキ君と喧嘩したら負けて泣かされるのは間違いなくどんくさい息子の方だ。わかっているのだろうか。それに二人はどっちの家に一緒に帰るつもりなのか)
いくらも間をおかず迎えに来たマサキ君のママからの提案があった。今日お互いの家にそれぞれ帰るなら土曜日は二人一緒にガウガウレンジャーとライダースタッグビートルの映画祭りに連れて行ってあげよう、と。(数分後「バイバイ。また明日遊ぼうね」と笑顔で別れる二人の現金さに母はびっくりしたよ)
私は知らなかったが、その時すでに魔法使いに言う願い事は『マサキ君と二人で魔法使いになる』と決めていたらしい。願う本人が魔法使いになれば、望みは一つどころか二つでも三つでも際限なくなるし、それが友達と一緒ならば何をして遊ぶにしても楽しいだろう。
二人の成りたい者はヒーローだったはずだか、魔法使いへ変更したこの節操のなさと秘密にした方が良いと思われるやりとりも聞かれればあっさりしゃべってしまう軽率さはやはり魔法使いには不向きと思われる。
幼い二人は何事も世の中そう簡単にうまくいかないことをわかっていない。魔法使いになれるのは30歳の誕生日以降なのでそれまでは魔法を使えないのだ。さらに魔法使いになるためには不可欠な条件がもう一つ。
母として息子には自分の将来は自分で決めて欲しい。のだが、しかし幼い息子の夢の中で勝手に迷子になって出てくるような半端な魔法使いに息子が(の友人もマサキ君もそうだが)30歳まであれを出来なくするような魔法を安易にかけてもらっては困る。
例の魔法使いに息子が会うのは4日後だそうだ。息子が会う前に話しをつけようと夫婦で決めた。魔法使いとしての彼の将来も考えると息子との約束を安易にたがえさせるのもまずい。保護者としては現時点で息子を魔法使いにすることは許可できない。二十歳になった時点で息子にその資格があり、本人が望むのならばと保留の条件を伝えてみようか。