どこだ、家政婦!
第二章~歪な親子~
それにしても、家政婦はどこへ? 危険人物をいつまでも野放しにしていては、またこりすが危険に晒されるんじゃないかーー。
暗澹とした気持ちを抱えて、2回目の職員玄関。
ユキダルマシンの僕は、靴を履く必要がないので経済的。
ブラシで靴状の足を磨いていると、外がやけに騒がしい。
僕が玄関先まで出てみると、馬のようにアスファルトを思いっきり蹴りながら走る人が!
うさぎ先生だっ。それにしても、なんで黒のボンテージ姿?
「ひーっ、遅刻しちゃうよぉっ。ロボットさんも急がないと遅れちゃうわよ」
僕は腕時計をついつい二度見してしまう。
「ああっ。家政婦のことを考えてて時の流れの残酷さを忘れていた!」
僕は先行して走るうさぎ先生の後を急いで追う。
しかしーー。
「しまった! あたし外靴のまま中に入っちゃってたっ」
うさぎ先生、いきなり立ち止まるのはやめてくれぇええ。ロボットは急に止まれないんだ!
激突し、前のめりに倒れる彼女。同時に倒れた僕の顔は、なんとうさぎ先生のおしりに―ー。
まるで、いい生地を使っているシュークリームのような柔らかさ。
突如、うさぎ先生のうめき声が!
「うっ、うぅん。ロボットさんって意外と積極的なのね……」
急に恥ずかしくなった僕は、おしりから顔を離す。
すると、うさぎ先生はすくっと立ちあがり……、僕にビンタしてきた!
やっぱり怒っているのだろうか?
「こ、このままじゃ遅刻しちゃうじゃない!」
そっちかい! モアイにぶたれたことのない頬をさすり、玄関へ引き返すうさぎ先生の後を追う。
『廊下を走るな』と書かれた貼り紙。気づけば、僕たち職員がルールを破っている……。
などと考えているうちに玄関についた。
下駄箱で履きかえているうさぎ先生の横に僕は立ち、彼女を眺めている。
「よし、履きかえ完了っ。急いで教室に行くわよ!」
僕は頷いて、先生とともに再び風になった―ー。
走る僕、追う先生。海岸ならいい絵になっていただろうに。
だが、ちょうどその時、校長とエンカウントした!
「こら、君たち! 『廊下を走るな』と貼り紙してあるだろう。見えんのかっ!」
僕は急ブレーキをかけたのが間違いだったらしい。
立ちどまった僕の背にうさぎ先生が激突した!
押し倒されて床に寝そべる僕の上に、うさぎ先生が乗っかってる。
背中にマシュマロみたいな胸の感触が……。
はっ、前方から殺気!
「君たち……、廊下を走った挙げ句、くっつきあって……。反面教師になりたいのかね?」
「あっ、いえ。これは安全な組み立て体操を実践していまして……。落ち葉、組み立て体操『落ち葉』です」
破顔中だが、目が笑っていない校長に言い放つうさぎ先生。
「言い訳するな!」
「ご、ごめんなさいぃ」
「全く、次からは気をつけなさい!」
ようやく校長は去っていった。
うさぎ先生は気が抜けたのか、ちょっとセクシーなため息。
少しテンションがあがった僕は、
「よーし、うさぎ先生。ここは疲れ知らずの僕がおぶってあげるよ!」
「ほんと? 頼もしい」
「はははっ、では行くよ」
キーンコーンカーンコーン……。
僕は再び時の流れの残酷さを思い出した。
とはいえ、教室には否応なしに行かねばならないな。僕は顔をあげると、……スカート?
ヒラヒラ舞う布から見えるこの脚線美は誰のーー。
「おはようごさいます、ハルディさん」
柔らかい声、こりすだ!
僕も「おはよう」と爽やかに返すが、彼女の表情は暗い。
放火事件は昨日だから、無理もない。
こりすはよほどショックだったらしく、研究所に泊まれという僕の誘いを断り、一人ホテルに泊まったようだ。
モアイいわく、内向的な人間は辛いことがあると、外向的のように人に話すのではなく、一人きりになりたいようだ。
こういう話を聞くたびに、僕の頭はショートしそうになる。
……いやいや、よくよく考えたら、うさぎ先生が乗っかってることと、こりすの見えそうで見えないスカートに話しかけてるから、煩悩でショートしそうだ。
うさぎ先生の腰に両手を回し、僕はゆっくりと立ち上がった。
それから先生をおぶると、こりすに尋ねた。
「昨日は眠れたか?」
「あんまり、いろんな葛藤があったから……。でも、ハルディさんと話がしたくて、今日は登校しました」
嬉しくてショートしそう……。
「ああ、なんでも話してくれ。それと、僕のことはハルディでいいし、タメ口で頼む」
「あ、あのね、です。家政婦の居場所なんです、だけどね」
「日本語おかしいだろ!」
「敬語以外慣れなくて……」
「まあ、少しずつタメ口に慣れてくれればいいよ。それより、家政婦。わかったのか?」
「いいえ。でも、心当たりのありそうな人がクラスにいる、ます」
「クラスに、どういうことだ?」
「家政婦は結婚しているます。つまり、その子供がクラスにいるます」
「なるほど、その名前はっ、ぐわぁ!」
僕の丸く白い後頭部になにやら衝撃が! そこには大事な回路があるのに……。誰だよ!?
「ねえ、完全に遅刻なんだけど! クラスに用事があるならさっさと向かってよねっ」
「うさぎ先生、後頭部はやめて!」
言ってる側から後頭部にダメージ……。何度も打擲されたら、走り出すしかない!
再び廊下を走ることになったサラブレッドな僕。
だが、すぐに校長に見つかり叱られたのは、因果応報だろうか?