煉獄から天国へ
僕が目覚めたらあまりにも光が眩しくて。ここが人間のいう天国か?
そうか、僕はあの部屋で炎に包まれて……。
澄みわたる青い空。そして、目の前にはこりすとモアイ。
「こりす、ここは天国……だよな」
僕の問いかけに全く反応することなく、こりすは俯いている。やはり、僕らは死んでしまったのだろう。
「あーあ、結局、三人ともスクラップか。モアイもスクラップなのは笑えるけど!」
僕の言葉にモアイは怒った。眉間にシワが刻まれている。
「アホいえっ。わしらは死んでなどいないよ! ハルディ、君にはバリアー機能がついている。己がピンチになったときにしか出せないから、失敗作なんだけどな」
「フンッ。誰だよ、僕を設計したのは! それよりこりす、助かったんだぞ。喜びなよ!?」
「いえ、喜べません。本は、友達は皆燃えつきてしまいましたから……」
うなだれるこりすの肩に僕は手を置いた。
「本の物語は多くの人に感動と勇気を与えるためにたくさん刷られている。別に君だけを励ましている訳じゃない」
僕は現実を諭したつもりだったが、こりすの瞳が悲哀に満ちていく。
「ハルディさんっ、酷いです! そんな皮肉に満ちた言い方しなくたって……」
「いや、事実だ。本の物語は皆に読まれるためだ……。しかし、君の物語はたった一つだ。そのたった一つの物語を終わらせてしまわないように、今後は僕が励ましてあげるからっ!」
「でも私、一人が好きだから……。やっぱりいい……」
「内向的でも寂しいとき、辛いとき、泣きたいときがあるだろう」
「うっ、それは……」
「見守ってあげるよ。人は一人では生きていくのが辛いだろうから……」
こりすの瞳からたくさん涙がこぼれ落ちた。嬉しそうな顔してるのに、泣くんだね。
「ハルディさん……、ありがとう。私、これからも自分らしさを貫いて無理をしません! 機島のおじさんもありがとう。また3人で集まりたいね!」
こりすの呼びかけに、モアイはいつもの妖しい笑みを浮かべて答えた。
「3人? 私とハルディは賭けをしたんだ。負けたハルディはスクラップにする。会うときは2人だ」
そんな……、終わった。『短い間ありがとうございました』って、みんなにあいさつせねばなるまい……。
「……そんなのありですか?」
こりすの震える声が聞こえた。
「おじさん! そんなのありですかっ。あなただって、ハルディさんに命を救われたんですよ! 終わってたかもしれないあなたの物語はまた紡がれていくのにっ、それなのに!」
こんな真剣な顔つきをしているこりすは初めてみた。でも、僕は嬉しかった。こりすがいきいきしてるから。それはモアイも同じだったようだ。
「ハッハッハ。内向的な君にも大切な仲間ができたようだな。私は嬉しい。また、ゆっくりと2人お茶でもしたいものだ……」
焼け跡にモアイのうるさい笑い声が響き渡る。それから、奴は立ち上がると、
「ハルディ。今回だけは見逃してやる。だが、もしもこりすちゃんを泣かせることがあったら、その時はスクラップだ」
くーっ、まだスクラップを諦めていなかったか……。
立ち去っていくモアイをにらみつけた後、僕はマイナス思考に陥り俯く。
すると、手元に紙切れが落ちていることに気がついた。
それは、燃えた小説の一部のようだ。
「友達を助けてくれてありがとう」
小説のセリフ。それを読んだら、僕も元気が出てきた。