ピンチで変身、それがヒーローだ!!!
もやし白衣の言った『軽装モード』。なんのことやらわからない。聞き返してみるため、僕は、空中からもやし白衣に尋ねた。
「どういうことだ?」
「いつもの雪ダルマのような体は、鉄の鎧。つまり、重装モードだったわけだ。その鉄の鎧が、あのときメカレックスに砕かれてしまった」
「そうなのか? だったら、何で空を飛んでいるんだ。背中に羽があるわけでもないし、ジェットパックを背負ってるわけでもない。それに、僕はメカレックスから脱出した感覚は、一切なかったぞ」
「軽装モードのお前には、背中にオン/オフと書かれた赤いスイッチがあるんだ。オンにすると、電磁波がバリアーのように放出し、ハチソン効果によって空も飛べる。恐らくメカレックスの口内にいたとき、何かに当たってスイッチがオンになったんだろう」
「そうかーっ。それにしても僕、細身になったな。顔もイケメンかな?」
「いや、顔は雪ダルマのままだ」
「バランス悪っ。しかし、生きたいと願ってよかった。僕もある意味、再生だな。まずは、黒タンクトップ! 鋼鉄のパンチをおみまいしてやるっ」
「あっ、ちなみにパンチの威力は、重装の4分の1。だいたい、僕のパンチ程度……」
「もやし白衣のパンチ……、弱そう。そんなんで、みんなを守れるかーっ!」
「フフッ、ハルディ。君には、軽装なりの必殺技があるっ。その名も、エレキトリックビーム!!! 説明しよう。強烈な電流を、敵に向かって放出するのだっ。ただし、一発ごとに1時間充電しなければならない……」
「いやいや、なにその副作用はっ! ほとんど一発しか撃てないじゃん。もっと、こう、電磁波で波動とか出せないの?」
「いや、電磁波はなんとなく陰湿だろ。電気のビームの方が派手でいいじゃないか!」
「たった一発で、みんなを守れるかっ!」
「確かに、考えてみれば……」
「最初から考えとけっ! ……まあいい。くらえっ、黒タンクトップ! エレキトリック……って、どうした?」
頭痛かな? 黒タンクトップのみならず、サイボーグたちやメカレックスまでもが、頭を抱えつつ悶えだした。そして、クラスのみんなもうめき声をあげている……。モアイは、ピンポン玉のように目を丸くして、
「どうした? メカレックスよっ。さあ、炎を吐いてハルディを燃やし尽くせっ!」
メカレックスは、完全に無視してのたうち回っている。
「言うことを聞くんだ、メカレックス! くそっ、まさか電磁波を浴びて、狂ってしまったのでは……」
「そうでしょうね。メカレックスは捨て置き、あたしがハルディを捕らえてみせます!」
「さすがエリーザ、電磁波が効いていないな。頼んだぞ!」
だがその時。メカレックスが吐いた地を走る熱線が、モアイめがけて猛進した。
「ドクター機島、危ないっ!」
エリーザは仁王立ちをして、紅蓮の炎からモアイごときを守った。彼女の体から、噴煙があがる。すると、珍しく血相を変えたモアイが、
「エ、エリーザっ! 大丈夫かっ。お前に壊れられては困る!」
「ド、ドクター機島。……大丈夫です。それより、逃げてください。メカレックスはあたしが、失敗作ともども葬ってみせましょう!」
エリーザは、メカレックスめがけて突撃をした。いわゆる同士討ちというやつだな。これは……、チャンスだ。ここで、エリーザとメカレックスへエレキトリックビームを出せば、みんなを救うことができる。エレキトリックビームの力をためるぞ! しかし、集中したいけど耳に響く、エリーザの悲痛な叫び声。そして、モアイは逃げようとしていない。いや、敵はどうでもいい。今はモアイの計画を阻止するため、集中しなくては。
「ああっ、熱いっ!」
エリーザの悲鳴だ。大丈夫だろうか? いや、彼女は僕を裏切ったんだ。雑念を振り払おう!
「ああっ、炎が、身体に!」
雑音に耳を傾けるなっ、僕! 集中だ。
ついに、力は溜まった。勝負は一発だ。だけど、エリーザを助けるためメカレックスにビームを放てば、モアイに加担するようなものだ。意を決した僕は、両掌を下に向けた。照準はメカレックスと、エリーザだ!
「今までいろいろ教えてくれて、ありがとう。さようなら、エリーザ……」
ためらってはいけないんだ。大切な人のみを必ず守る。それが大事さ!
「ああーっ。だ、誰かっ、助けて。熱いよ、苦しいよ……」
エリーザの悲鳴を聞いているだけで、とてつもなく辛い。
(楽にしてあげることも、優しさなんだ)
僕はそう思い、無言でビームを放った。
それは、標的の腹部をしっかりと穿った。メカレックスのお腹をーー。
僕はすぐに降り立ち、エリーザの下へ駆けよった。彼女はおぼつかない足どりで、こちらに向かってくる。
「ハ、ハルディ!」
「エリーザっ!」
僕はエリーザを抱きよせた。それからすぐに彼女は口を開く。
「ハルディ。あたし、ドクター機島を守った。でも、あなたがいる限りあたしの任務は終わらないっ! お願い、消えてっ」
僕は悲しかった。命を助けても、エリーザはインプットされたことに忠実だから。僕が黙っていると、
「いつまでもくっついていないで離れてっ。あたし、あなたと一緒にいるのが嫌なの、嫌なのっ、嫌なのっ!」
思わずエリーザから身を引いてしまった。何もそこまで嫌わなくても……。うつむいている僕を、モアイが名指しした。顔をあげて睨みつけてやると、モアイ像みたいな顔の眉間にシワを作って、睨み返してきた。
「ハルディっ。汚らわしい手でエリーザに触れるなっ!」
「なんだとモアイ! エリーザを助けることもできないくせに、口が悪いぞっ」
とはいえ、僕も今となっては何もできない。せいぜい空を飛び回れるくらいだ。もし、今エリーザに攻撃されたらヤバい。そう思っている僕に近づいてきたのは、実害のないサイボーグのこりすでよかった。いや、安心はできない。なぜなら、今や彼女も敵だから。
「ハルディ、エリーザのモデルは私のおばあさま。つまり、おじいさまことドクター機島の奥さん」
「こりす、余計なことをっ!」
いつも気色悪く微笑んでいるモアイが、阿修羅のような顔になった。だが、奴は急にしゅんとなって、
「エリーザ。いや、後に私の妻となる枝理は、AIを使って世界征服を目論んだ男の娘だ。結局、枝理の父の計画は明るみになり、彼は刑務所に入った。当然、枝理への風当たりは強く、彼女はいつも1人ぼっちだった。私も元々研究肌の男なので、一匹狼だ。だから、波長があった」
モアイの寂しそうな声色は、初めて耳にする。僕はうつむきながら聞くことにした。
「我々はすぐに結婚した。だが、枝理は病弱だったため、子供ができず。やがて、病状も悪化の一途を辿ることとなった。私は病院を駆け回ったが、どこも看てくれない。犯罪者の娘だからだ」
泣いているのだろうか、誰かが鼻をすすっている。モアイは続けた。
「……ある冬の夕暮れ。私が、いつものように病院探しから帰宅すると、雪が降るにも関わらず、枝理は外に出ていた。私が叱ると、彼女はこういった。『私の人生はもう、雪のように溶けていくだけ。最後に何か残したくて、雪だるまを作ったの。名前は、ハル。かわいいでしょ』それが、彼女の最後の言葉だった。皮肉なことに『ハル』と名がついた雪だるまは、春には跡形もなく消えた。私は、彼女のダイイングメッセージを悟った。忘れてほしいのだ、と」
僕はモアイに同情して、こらえきれず顔をあげてしまう。しかし、モアイは嬉々とした顔色を覗かせている。
「それから、私は思い出のつまった家を壊した。私も世界征服の一員だと風刺されるのが嫌でな。もくろみ通り、世間は私の行いを高く評価し、私の研究は実を結んで賞をもらった」
恐らく、モアイは高揚感に包まれているのだろう。不気味な笑みを浮かべている。
「いい気分だったさ。おかげで枝理との思い出も忘れられ、私は孤独ではなくなった。だが、下野のバカがある邪魔者を造り上げた」
「それが僕というわけか。枝理さんの『ハル』にちなんで、ハルディか」
「そうだ。お前を見るたび、私はあの冬を思い出す。たかが1人の女のため、無駄だと知りつつも病院をかけずり回った、あの頃を。どれだけ虚しかったか、どれだけ絶望にうちひしがれたか! ハルディ、お前は存在してはいけないっ」
「フッ、モアイ。お前は変わったんだな。女性のためかけずり回ってた頃は立派だが、今は自分1人じゃ何もできない無能だっ!」
「なんだと!」
「枝理さん……。いや、エリーザを犬のように扱うなっ!」
「犬? 違うな。人間に忠実、それがロボットのはずだ。ゆえに、私もエリーザが壊れたら困る。それに人もロボットも皆、支配されて生きている。ならば、人もロボットも同じ理念の下、1つにしてしまうべきだ。そうすれば孤独な人間は生まれない。統率がとれて、だれもが美しくなれる」
「それは幻想だ! 相談員をやって思い知った。みんな、それぞれ違う悩みを抱えながらも、精一杯生きている。サイボーグだってそれぞれ違う悩み、理由で自ら死を選んだはずだ。だから、人もロボットもみんな違う。それを認めあい、尊重しなければならないっ!」
おもいっきり叫んだまではよかったが、僕の口は縦に大きく開いた。なぜなら、エリーザに頬を殴られたからだ。くそっ、モアイめっ。なにがなんでも僕をスクラップにするつもりだな。エリーザの攻撃は、さっきより苛烈だし。
「ハルディ、お願いっ! 壊れて、壊れてっ。壊れてぇっ!」
エリーザ、僕はサンドバッグじゃない! 飛びそうな意識を必死に引き戻すことができるのは、うさぎ先生やクラスのみんなの笑顔が浮かんでくるからだ。
「ハルディ、しぶといわねっ! 壊れてって言ってるじゃないっ。砕けて、消えて、ぶっ壊れてっ!」
みんなの笑顔、みんなの笑顔……。でも現実に戻れば、ついこの間まで1つ屋根の下で暮らしていた家族に、壊されかけている。だが、今やエリーザは敵だ。そう、思わなければ……。でも、何でこんなに悲しいんだろう。エリーザは、まるで僕のすべてを否定するかのように殴ってくる。
「壊れて、砕けて、消滅してっ!」
エリーザのストレートが襲い来る。もう家族で戦うのはたくさんだ! こりすだって敵だし……。
ものすごい勢いで接近してくるエリーザの拳! このままではスクラップになってしまうだろう……。
しかし、僕には当たらなかった。なぜなら、こりすが僕の前に立ち塞がったからだ。




