愛をとりもどせ!
これは、僕へのレクイエムだろうか? ピアノの音と歌声が聴こえてくる。それにしても息があっているな。もしかしたら、3年1組のみんなが歌っているのかもしれない。しかし、僕を弔うにしては明るい曲だ。何かがおかしい。
僕は瞳を上げてみた。光溢れる世界が広がっている。極楽だろうか? 違う、これは照明の明かりだ。予想通り、3年1組のみんながベッドにいる僕を囲んで歌っていた。その中の1人、うさぎ先生と目が合う。すると、彼女は叫び声をあげた。
「ハルディ君がっ、ハルディ君が目を覚ましたよーっ!」
クラスメイト全員の笑顔が、一斉に開花した。どうやら、僕は一命をとりとめたようだ。と、いうことはーー。
「こりすっ、こりすはいるかっ!?」
横断歩道を渡るときのように左右を交互に見ていると、もやし白衣こと下野が重く口を開いた。
「残念ながら、こりすちゃんの姿はなかったらしい。それにしても、一体何があったんだ? なぜ、ハルディは交差点に倒れていたんだ」
「エリーザだ、あいつにやられて。恐らくこりすはさらわれてしまったんだ!」
「そうか……。こりすは今頃、機島の下だな。しかしハルディ。勇利と引龍に感謝しとけよ。この2人が見つけなかったら、お前はただの鉄クズになっていただろう」
「ああ、2人には心から感謝する。でも、お礼は後で言う。今はとにかく、こりすを助けないと!」
僕はベッドから飛び降りた。
「はやまるなっ! 1人で行って助けられるほど、機島もマヌケじゃないっ。あの都市の住人は、全て奴の言いなりだ。そもそも、機島は死者の『生きたい』という願いを叶え、『ライトノーベル賞』という栄誉もある。下手に手を出せば、世間まで我々の敵になってしまう!」
「じゃあどうすればいいんだ? このままでは、こりすもモアイの忠実な僕だ」
「うーむ、作戦を考えるしかないか……」
誰もが顎に手を当てて思慮のポーズをとっている。もちろん、僕の頭もこりすを救うために只今フル回転中だーー。
だめだ、考えてもいい案が浮かばない。故障しそう。モアイは一応、人間の英雄だから下手なケンカは仕掛けられない。3年1組のみんなも首をひねっているので、案が浮かんでいないようだ。しかし、諦めたくはない。こりすが敵になってしまうなんて嫌だ。なんとしても名案を考えつかねば。僕はピアノのイスに座っている灼耶 と、イスの前に立っているうさぎ先生の下まで移動した。
「3人寄れば文殊の知恵っていうじゃないか。話し合おう」
するとうさぎ先生は、半分ほどピアノのイスを占領している灼耶の隣に、無理やり座った。そして、ロダンの『考える人』のポーズをとったまま、動かなくなってしまった。いや、話し合いがしたいのに……。まあいいや。
「灼耶は何か考えがあるか?」
「す、すいません。何も浮かんでいないです。でも、こりすちゃんは敵に回したくない。戦いたくない。だから、ああっ」
マスク少女灼耶は、突然うつむいてしまった。恐らく彼女の目を凝視してしまったから、怖くなったのだろう。しかし、灼耶はその体勢のまま、
「3年1組はこれまで、分裂したり野宿したりしました。でもみんなが1つになることで、全て良い方向に変えてきました。このクラスの一員であることを誇りに思います」
「ああ。もはや手段にはこだわっていられないか。みんなで乗りこんで、こりすを助けよう!」
そうだ。大切なことは、絆で結ばれた仲間を助けることだ。世間体なんて気にしている場合じゃない。
モアイの都市へ向かうため、みんなを説得しようと決心したその時だった。もやし白衣たちの研究所内に、哄笑が響き渡ったのは!
「ハッハッハ、皆さん悩んでるね!」
女性の声! まさか、エリーザか。
「ハッハッハ! もう悩む必要はないわ。名案が浮かんだから!」
「なんだよ、笑ったのうさぎ先生かよ。エリーザかと思ったじゃないか。で、その名案とは?」
「フッフッフ! ハルディ君、よくぞ聞いてくれたわねっ。つまり、相手にあたしたちの正体がバレなきゃいいのよね。木中こりすさんを助けられて、かつ敵に悟られない方法があるのよ!」
「ほう、どんな?」
僕は生唾を飲みこんだ。生徒全員がうさぎ先生を注視している。
「それはね、みんなで敵のコスプレをするのよ!」
「いやー、自信満々に言われたとは思うんですけど、その作戦はベタ中のベタ。漫画とかで使い古されてるパターンだよ」
「いいじゃない! 他に名案がないんでしょ」
「ぶっちゃけ、先生はコスプレがしたいだけなんだろ?」
「違うわ、コスプレ仲間がほしいだけよ。『コスプレ、みんなでやれば恥ずくない』」
「何ちょっと名言っぽく言ってるんだっ。そもそもさ、敵のコスプレってなんなんだよ?」
「あれよ、あれ。ホログラフのおじさんよ。みんなであの人の変装をすればいいんじゃないの?」
「モアイかよ。あいつにどうやってなりきるんだよ? 無理だよ」
恐らく、後先考えていないうさぎ先生に僕は苛立っていると、背後から声がした。
「ハルディ、無理じゃないぞ。我々には機島の毛髪がある。クローン技術を使って、奴のマスクを作ることができるぞ!」
「もやし白衣、でかした! しかし、よくモアイの髪の毛なんて持っていたな」
もやし白衣の口の端が妖しく歪む。
「フフフ……、復讐のためさ。ゲームショップで捕まり、刑期を終えた。これまでは辛酸を舐めてきたが、ようやく解雇された恨みを果たせそうだ」
なんか、恐ろしい怨念を感じるぞ……。僕の体は恐怖と、こりすを助けられる喜びで震えていた。
ここはイースター島かっ! もやし白衣いわくモアイに支配されているらしい、名宮高校がある都市の入り口に立つモアイの群れ。クローンのマスク、略して『キジマスク』だ。もやし白衣談では、このマスクには皮膚と同じくコラーゲンなどが含まれているらしいので、感触は人間だ。少々、気持ち悪いが。服は白衣と黒いチノパンなので、顔だけ覆っていればバレないだろう。でも、欠点がある。
「誰が誰だかわからないーっ」
僕は思わず叫んでしまった。
「じゃあ、せめて仲間だけでもわかるように『合言葉』を作るぞ。だから安心しろ、ハルディ」
「誰? みんな同じ顔だから……」
「下野だ。じゃあ合言葉いくぞ、忘れるな! 『こりすをとり戻せ』。いや、これだと敵にバレるか。『愛をとり戻せ』だ!」
おぉっ、なんか熱いアニソンみたいだな。
「どうだ、ハルディ。こりすが好きなお前にぴったりの合言葉じゃないか」
恥ずかしいのでスルーする。
「おー照れるなよ、ハルディ。よしみんな、群れているところを敵にみつかるとまずいから、散り散りになるぞ!」
もやし白衣が合図した途端、みんなバラバラになって都市へ進入し、ビル街に消えていった。よし、ぼくもこりすの居場所調査を開始するぞ!




