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手を叩く

 エリーザ、今までの優しさはすべて、偽りだったのか……。断腸の思いだ。僕は床に両手をつき、(こうべ)を垂れた後咆哮した! 教室中に轟く声一つ。そして、もう一つ叫び声が聞こえてきた。それは、こりすのものだった。僕が顔をあげると、反うさぎ派たちがこりすに向けて消しゴムを飛ばしていた! こんなところで落ちこんでいる場合かっ。こりすを守るって誓ったじゃないかっ!


 僕はこりすの前まで移動して、仁王立ちした。その時、僕とこりすの半径約1メートル以内にバリアーが出現した。すると反うさぎ派たちは口を揃えて、


「無駄だ、こりすを守ったところでなんになる。こりすのみでなく、お前も爆弾で木っ端みじんになるのだからな!」


「お前たちだってそうだ! こりすを攻撃してなんになるっ。モアイに見捨てられたんだ。お前たちも爆弾で消し飛ぶぞっ!」


 僕の声は聞こえているはずだが、返事がない。集団シカトか? ならば、喋るまで何度でも説得してやる。


「お前たち、消しゴムを投げるのをやめろっ。今こそ、クラス一丸となり探さないと、まとめて吹っ飛ぶぞっ! モアイに見捨てられて悔しくないのかっ」


「くどい、我々はドクター機島の忠実な(しもべ)。捨て石になる覚悟はできている」


「なに、お前らっ。命が惜しくないのか? 意思もないのか。それじゃあただの鉄の塊だぞ」


「それは違うな。我々は鉄ではない。人間を改造したサイボーグだ。お前とエリーザ以外、人間ベースのサイボーグさ」


「なぜだっ、なぜモアイ、いや機島は人間をベースに?」


「それは我々も知らない。恐らく崇高な理念ありきゆえだろう」


「知らない? もしかして、爆弾の場所も知らされていないのかっ」


「もちろん。我々は、失敗作の一網打尽計画しか知らされていない」


 なんだと!? それならこうしちゃいられない。逸る僕だが、親うさぎ派のみんなはこりす以外、もうすでに爆弾を探している。中でも動きがすばやいのは、うさぎ先生だ。念仏のようになにやら呟いているので、近づいてみた。


「ああっ、あたしロボットだったのね……。でも、たとえなんだとしても、死にたくないっ! 彼氏もいないのにっ。SMプレイも満足にできていないのに……」


 なんてストイックな。嘆きつつも、素早い手の動きで掃除用具入れを探している。発言から想像するに、私欲が彼女を動かしているのだろうが、これは頼もしいぞ。


(よし、僕も探すぞ)


 と意気込んだその時だった。


 うさぎ先生に迫る魔手、いやムチ。彼女のおしりをひっぱたいたのは、反うさぎ派の生徒たちだ。もちろん先生は馬じゃないから、叩かれてもスピードアップしなかった。それどころか、ムチを無視して無口で恐らく無心になって探している。爆発して無になることを恐れているのだろう。しかし一向にやまない反うさぎ派のムチが、おしりを打つ。あのドSなうさぎ先生が反撃しない!? 口は、さっきと同じ小言を呟いているが。いや驚いている場合かっ、今助けるぞ先生っ! 僕は先生のおしり前に仁王立ちし、代わりにムチを受けたがノーダメージだ。余裕が生まれたので体を彼女へ向けた。


「うさぎ先生、小言を復唱するほどの生への執着に、心を打たれた。僕がここでムチを受けるから、探してくれっ!」


 だが、僕の声すらも聞こえていないようで先生は無視をしている。


 ふと、頭上に気配がした。見上げると、ムチを持った反うさぎ派の金髪ロン毛男子が、うさぎ先生のおしりを叩いた。絶叫する先生。されど、捜索の手は止まず。歯ぎしりをしてうさぎ先生をにらみつけた男子は、1人叫ぶ。


「煩わしい! 人間ベースなら痛みを感じるはずだっ。こうなればもっとうち据えてやる!」


 おしりを3度も打たれた先生! 酷いことをっ。それでもうさぎ先生は手を止めなかった。


「バカなっ、痛くて苦しいはず……」


 うさぎ先生の手が止まり、代わりに口が動く。


「プールは熱くて苦しかったでしょ。ごめんね、先生が必ず爆弾をみつけるから。どうか、許して」


「爆弾をみつけるだと!? 余計なことをするなっ」


 先生のおしりにムチが飛ぶ。


「およそ、あと1分だ。あと1分で貴様ら失敗作は、皆消滅する。ドクター機島の計画を妨げる真似をするなっ」


「あたしはっ、あたしはそんな計画のために、みんなを失いたくない。3年1組は、絆で結ばれていると信じているから!」


「フッ、ならばむしろ喜べよ。我々も、失敗作も、共に木っ端みじんだ。3年1組皆、死ぬときは一緒だ」


 教室中に反うさぎ派たちの哄笑が響き渡る。肩を落とし、泣き崩れるうさぎ先生。


「あと30秒くらいかな。もうみつからないだろうから先生にいいことを教えてやるよ。人間ベースのサイボーグは皆、元々自殺した人間だ」


 なっ、そうだったのか。


「ドクター機島は我々を憐れみ、再び蘇らせて下さった。我々は、嬉しかった。悲しみという感情のないロボットとして、再び生を与えられたことが。そう、我々だって本当は生きたかったのだ。あの方はその願いを叶えてくれた。だから、今度は我々があの方の願いを叶える番」


「お前たちがモアイの願いを叶える? どういうことだっ」


「ハルディ、冥土の土産に教えてやる。爆弾は、我々の心臓に仕込まれている。我々は、これを使って果てるともかまわない!」


 そうか、爆弾は彼らの体内に。どうりで探してもみつからないわけだ。僕は拳を反うさぎ派の連中に突きだした。


「なら、力ずくでお前らを停止させ、中の爆弾も止めてやる!」


 突撃開始! 後ろからうさぎ先生の制止を促す声が聞こえるが、無視しよっと。僕の拳と金髪ロン毛の拳がぶつかる!


「無駄だ。もう時間がない」


「いいや、僕たちは生きてやるっ。大切な人たちも死なせはしない!」


「フン、悩み相談員がえこひいきか? だから貴様は失敗作なんだ」


「うるさい! モアイにいいように使われてる人形よりはマシだっ」


「自殺したとはいえ、我々は生きたくて仕方なかった! その願いを叶えてくださったあの方は、温情に満ちている」


 金髪ロン毛の拳が僕の頬にヒットした! 僕はホワイトボードまで吹っ飛び、叩きつけられた。頬から吹き出たオイルを拭う。強い一撃、それは生きたいという意志を叶えてくれた、モアイに対する感謝のような気がした。


「なんだよお前。人形じゃないじゃないか。生きたいってしっかりとした意志があるじゃないか!」


「うるさいっ、あと10秒!」


 僕は金髪ロン毛の言葉に怯まず、立ちあがった。


「10代で自殺か? ……よほど辛かったんだろう。苦しかったんだろう」


「あと8秒、7、6、5」


「でも、生きたいと願っていたということは、生きていればいずれいいことあると思っていたんだろうな。生きていれば、小さくても幸せを実感できる瞬間があるから。でも、サイボーグとして体内に爆弾を仕込まれたりして……。モアイのいいように命を弄ばれて……。誰にも気づいてもらえなかっただろう小さな命は、1人ぼっちで苦しんだろうな。蘇っても、命を操られ苦しかったろう」


 言いながら、僕は反うさぎ派の集う場所まで歩を進めた。


「4、3、2……」


「今まで悩みを聞いてあげなくて、ごめんな」


 一瞬、反うさぎ派生徒たちの表情が曇った気がした。


 ついに、カウントは0になってしまった……。僕は瞳を閉じる。思い出すのはあの日、いじめっ子と引龍が仲直りをし盛んな拍手が鳴り響いた。皆が、1つになったあの日ーー。


 まてよ、とっくに時間は過ぎてる。恐る恐る瞳を開けてみると、反うさぎ派の面々は涙を流し口を揃えて言う。


「ドクター機島、ごめんなさい! 我々はやっぱり生きたいですっ。爆弾はその一心で止めてしまいました!」


 思わず笑んだ僕は拍手をしながら、


「よし、自分の意志を言えたな」


 すると、うさぎ先生と親うさぎ派のみんなからも拍手が起こった。あの日と同じように。よかったな、うさぎ先生。3年1組には、こんな温かい絆があるじゃないか。それは、もうじきやって来る冬の寒さにも負けないはずだ。

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