機島の陰謀とエリーザの心境
疑心暗鬼になった僕はエリーザを見つめていると、モアイが話しかけてきた。
「ハルディ! ホログラフを使って見物に来てみたが、この有り様か……。生徒全員の悩みを聞くという立派な目標があっても、半数の生徒から嫌われていたら、どうしようもないよな。所詮失敗作か。スクラップだな」
「なんだと! 僕には大切な人がたくさんできたんだっ。そう簡単にスクラップにされてたまるかっ!」
「大切な人、か。では、君を慕っていない者は大切じゃないんだな?」
「い、いや、それは……」
「君の使命は生徒の悩み相談員だったはずだ。えこひいきなく、平等にな。それができないならスクラップしかあるまいっ! 行けっ、生徒たちよっ。失敗作を解体せよっ!」
な、なんだ? モアイが合図をした瞬間、反うさぎ派の生徒たちの目が赤く光だしたぞ。
「さあ、生徒たち。鉄の拳を一斉におみまいしてやれっ!」
忠犬のごとくモアイに従う反うさぎ派たち。まるで操られているかのように。鉄の拳はバリアーでノーダメージだったが、彼らはなんでモアイに忠実なんだ? そうか、さっき階段を上る際の異常なスピード。僕はモアイをにらみつけ、吠えた。
「おい、もしかしてこの生徒たちって、ロボットなんじゃないのか?」
「ほう、なかなか賢いなハルディ。そうだ、彼らはロボット。ちなみにここにいる私以外は、皆ロボットだ。人の形した者すべてな」
「なっ、なんだと!? じゃあ、こりすも灼耶もうさぎ先生も……」
ショックだった。みんながロボットだということより、大切な人たちが僕に嘘をついていたことが……。
僕はこりすの前まで歩を進めた。
「なんでだこりす! なんで黙っていたんだよっ」
しかし、出会った日のようにこりすは返事をしなかった。なぜなら彼女は、自らの両掌を見つめてわなないていたからだ。
「そ、そんな……。私、ロボットだったなんて……。血は赤いし、皮膚も柔らかいのに……」
なぜかこりすも知らないようだ。モアイの可々大笑が教室中に響きわたる。
「ハッハッハッ! その子は人間であると、脳にあるシステムにインプットされているのだろう。自らが人間だと信じて疑わないはずだ」
「なぜこりすだけ人間とインプットされているんだ!? だまされ続けて生きているようなものじゃないかっ」
「こりすを造ったのは私ではない。バカな部下よ。こりすだけではない。望月うさぎ、ハルディに味方する生徒、そしてハルディ。君も部下が造ったのだ。そして、君以外はなぜか人間とインプットされているようだ」
「それ本当かよ? 設計図を見せてみろっ」
「残念ながら設計図は破棄されている。ゆえに煩わしい。設計図なくば停止スイッチが造れないからな」
「僕の生みの親は、以前ゲームショップの強盗未遂で逮捕された、もやし白衣のことか?」
「もやし白衣? 強盗未遂……。ああ、下野のことか。そうだ、あいつは腕だけはよかったがつまらんロボットを造りすぎた。なぜならお前たち下野の作品は、私の命令に従わない失敗作だからな」
その言葉は、僕の逆鱗に触れた。モアイに向けて鉄拳を繰り出す! しかし、ホログラフなのですりぬけてしまう。
「そう憤るなハルディよ。下野はかつて、私の右腕だった。だが、ある時私の理念と合わないと言いだし、勝手に新しいプロジェクトを立ちあげてしまった。そして、失敗作をたくさん生みだした。そう、今この教室中には、失敗作が集まっている。5分間の時限爆弾があらかじめセットしてあるこの部屋で、大切な人たちと死ねたら本望であろう」
「なんだと!? 卑劣なっ」
「なんとでも罵るがいいハルディ。私は君に感謝しているのだ。今まで、ここにいる失敗作どもは欠席、早退でこの教室からいなくなることが多かった。しかし、君のおかげで彼らの欠席、早退はなくなった。おかげで、こうして失敗作を一網打尽にできるっ。爆弾のスイッチオン!」
大変だ、このままではみんな消し飛んでしまう! 僕はエリーザのホログラフ前に立ち、
「なあ、エリーザっ。頼むっ、助けてくれ! このままでは、こりすも灼耶もうさぎ先生もいなくなるっ。僕たち家族じゃないかっ。モアイを止めてくれっ!」
僕は精一杯懇願した。すると、真顔だったエリーザが破顔した。
「ハルディ、あたしがなんのためにあなたに仕事あげたか知ってる? すべてこの日のためよ。失敗作を、一網打尽にするプロジェクトのため。あたしはドクター機島に造られた。失敗作のあなたたちを助ける義理なんてないわ」
それが、最後に聞いた言葉だった。エリーザとモアイは笑みを浮かべつつ、教室から姿を消した。
「そんな……、エリーザ」
僕は、ただただ立ち尽くしているのみだった。




