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四面楚歌のエリミネイト

 じっとしていたらスクラップだ、こうなったらがむしゃらに走るしかない。教室にいる親うさぎ派のみんなに助けを請うんだ! 命がかかってるんだ、もはや廊下を走らないというルールを守る必要はない。全速力、光速で教室に戻って助けを! 2段、3段、4段飛ばしっ。くっ、階段が邪魔でまどろっこしい。


「ちょっ、待ってよハルディ君っ。置いていかないでっ!」


 くっ、うさぎ先生も……。いや、彼女は味方だ。落ちつけ、僕。今うさぎ先生を見捨てたら、スーパー教職員たちになにをされるかわかったものじゃない。


「よし、うさぎ先生! おぶってあげるから僕の背に飛び乗ってっ」


「えっ、でも、ここは階段よ」


「いいから早く! すぐ後ろまで校長たちが迫ってきているっ」


「わ、わかった」


 名前通りの跳躍で、うさぎ先生は僕の背にピッタリとくっついた。彼女の腕は僕の首を抱きしめているが、人間と違って苦しくない。すぐにシスター・うさぎ先生のおしりを両手で抱えると、僕は彼女の跳躍力が乗り移った気がした。階段を5段、6段と飛ばして2階へ。3階に続く階段もあっさりと上りきった。ここまで来れば……。僕はため息をついた。するとうさぎ先生が、


「あーん、おしりが痛いよーっ! いつまでも抱えていないで離してっ」


「ああ、ごめん」


 その時、突然蹄鉄(ていてつ)のような音がしたので僕は振り向いた。すると、校長たちがリズミカルかつスピーディーに1段ずつ上っている。驚異的なスピードだ! とても常人とは思えない、超人的な動きだっ。


「うさぎ先生、おしりはもう少しだけ我慢して! 校長たちがもう迫ってきたからっ」


「ええーっ、そんなぁ……」


「泣き言はやめてくれ! 校長たちのスピードは並み外れているっ。僕も本気で走らないとっ!」


 階段をサクッと上りきったので、あとは廊下を走って3年1組までの、およそ50メートル走を終えるだけだ。今、風になるーー。しかし、


「フフフ、ハルディ君。両脚を掴んだよ」


 や、やけに体が前に進まないと思ったら、校長に後ろから掴まれているじゃないかっ! スーパー教職員に続いて、反うさぎ派たちが続々となだれ込んでくる。万事休すか!? ついに、僕とうさぎ先生は囲まれてしまった……。こりす、エリーザ、親うさぎ派のみんな……。これで、お別れかもしれない。こりす、悩みに負けずに、幸せに暮らせよ。引龍、怖じるな。押田、乱暴するな。灼耶、赤面症に負けるな。ミソノ、いい人見つかるといいな。勇利、結局いいやつだったな。最後に、さようならくらい言いたかったよ。覚悟を決めて、スリープ状態に入るか……。


「おい、絶対救ってやるから諦めるんじゃねえぞ! ハルディっ」


 なんだ、妙に騒がしいな。今の声は……、押田!


「……ハルディを救う」


 それに引龍! いつのまにか僕は押田に、うさぎ先生は引龍に背負われていた。


「押田、僕を助けたら卒業できなくなるぞ! 相手は校長だっ」


「へっ、教師が怖くてヤンキーがやってられっかよ。それにしても相変わらず情けないな、ハルディ」


「うるさいな。でも、ありがとう。それより反うさぎ派の奴らは?」


「ああ、勇利と俺の子分が消火器をぶちまけて止めている。俺も派手にぶちまけてやったけどな」


 どうやら、いつもは迷惑な押田の乱暴に救われたようだ。


 僕が胸を撫で下ろしていると、教室についた。僕はようやく床に下ろされ、入室する。室内にはこりすと灼耶のみがいる。早速僕の下に、彼女たちが駆け寄ってきた。


「ハルディさん。大丈夫、ですか?」


「こりす、心配かけたな」


「いえ。でも無事でよかった、です」


 こりすに、モアイからスクラップ指令が下されたことを告げるべきか?


 このまま助かっても、もう研究所には戻れない。だがいずれにしろ、モアイの親戚で僕とは家族であるこりすは、苦しむことになるはずだ。やはり、ここできっちりとお別れを言おう。曖昧なまま大切な人と別れたくない。そう決意し、こりすをまっすぐ見つめたーー。


 こりすは震えている。彼女の目線の先は恐らく廊下の方だ。僕が振り返ってみると、笑みを浮かべるバーコード頭の校長がっ!


「フフフッ、追いついたぞ。観念するんだな、ハルディ君。妨害していた君のお仲間の生徒たちは、皆蹴散らした。では……、スクラップの開始だっ!」


 校長がそう告げた瞬間、工具を持った反うさぎ派の連中が僕に襲いかかってきた。相手は多数、確実に捕まるぞ! 背水の陣だっ。


 だが、無駄だとしても抵抗してやる。せっかく出会えた大切な人たちともう会えなくなるなんて、嫌だ!


 迫りくるドライバー、ハンマーをバリアーで弾き返す。のけ反った2人の反うさぎ派生徒。しかし、安心はできない。後続する大勢のドライバー使い。いずれ僕の体力が尽きてバリアーは破られてしまうだろう。焦る僕に、何者かが語りかける。


「フフフ……。防戦一方だね、ハルディ。いつまでそのバリアーが持つかな?」


「だ、誰だ?」


 どうやら、バリアーを知る人物のようだ。僕が辺りを見回していると、教卓の前に白い影が現れた。それも1つじゃない、2つだ。じっと見つめていると、だんだんと姿がはっきりしていく。1人はモアイ、そしてもう1人は……、エリーザっ。なぜだ、まさかエリーザまで僕を消しに来たのか!?

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