3時限目・社会いや、数学?
3時限目開始前の小休憩。2時限目の数学からずっと、教室内はカエルの大合唱並みにうるさい。自習って何、遊ぶ時間なの? それなら、ボーッとつっ立ってるだけ損をした。そういえば、初日にうさぎ先生が、『生徒たちはみんな悩みがあるから騒いでいる』って言ってたな。それが本当なら、僕は教室内にいる生徒のおよそ2割くらいしか、悩みを解決できていないことになる。こりす、灼耶、勇利、引龍、押田、ミソノ以外の生徒数人にもこれまで助言をしてきた。だが、未だにそれ以外の生徒とは、会話すらもまともにしていない。季節は初秋。早くしなければこの子たちが卒業してしまい、僕はスクラップの憂き目にあう。どんな方法でスクラップにされるだろうか? 以前もやし白衣が言っていた、『モアイの思想は危険』というのも引っかかる。でも、一応モアイはライトノーベル賞をとって、人類の進歩に貢献してる。だから、特に恐ろしい奴でもないはずなのだが。僕は嫌いだけど。
「ちょっとハルディ君、聞いてる!? 故障したのっ」
「うわっびっくりした! うさぎ先生、そんなに大声出してどうしたの」
「どうしたって言いたいのはこっちの方よっ。あなた自習の時、ちゃんと生徒たちを見ていた?」
「えっ、ボーッとしてたけど」
「ちょっと、何やってるの!? 自習も授業の一環なんだから、遊んでる生徒は叱らないと」
「ええっ、自習って遊んでもいい時間じゃないの?」
「違うわよっ! それよりホワイトボード見てよっ。落書きだらけじゃない!」
うわっ、気づかなかった。『みなさん、数学は自習です』とうさぎ先生の書いた文字の下に、byうさぎπと書いてある。えっ、うさぎパイ? それとも……。とにかく、うさぎ先生はご立腹だ。
「誰? この落書きしたのっ。正直に手をあげなさいっ!」
先生怖いよ。もううさぎ先生って名前やめて、猛獣先生でもいいんじゃ……。そんな猛獣先生の迫力を前に、犯人は怖じているのか誰も挙手しない。ただ、さっきとはうって変わって全員がきちんと席についている。
「あなたたち、書いていいことと悪いことがあるわよ!」
先生の言うことはごもっともだ。
「うさぎパイよりうなぎパイの方がおいしいわよっ!」
そっち、怒ってた理由、そっち? 好みの問題だろ。僕が心の中で密かにつっこみを入れていると、押田が口を出した。
「ちげえよ、食い物じゃねえよ。胸の方だよ」
なるほど、名探偵コナ……いやハルディ。ついに犯人がわかったぞ。
「そう、犯人は押田君ね」
ちくしょう、僕が言おうと思っていたのに。うさぎ先生めっ!
「ちっ、バレちゃしかたねえ」
ついに白状したな、押田。
「なんでこんな落書きしたの? もしかして、あたしの胸に、興味があるのかな」
いや、うさぎ先生。そこは叱ろうよ。押田も悪いことしたんだから。
「もちろんある」
押田も落書きの時は名のりでなかったくせに、こういう時だけは素直だな。って、これさっき国語の授業で懸念してた、歪なラブロマンスの始まりじゃないのか? 僕は危惧し社会を始めるよう促そうとすると、先に押田が声を発した。
「うさぎ先生の胸で、円周率の授業をお願いしまーす」
「調子に乗るんじゃないわよ! 今は社会の授業。そんな良俗に反する行為が許されるとでも?」
「うっ、卒業がかかってるから反論できない」
おおっ、うさぎ先生、よくぞ言った。見るのもかったるい生徒と教師の歪なラブロマンスを、見事阻止してくれた。見直したぞ。
「でも、動き回ってるからなんだか暑くなってきちゃった。制服脱ごうかしら。みんな、特別に円周率の授業をしてあげる!」
前言撤回します。しかし、僕もなんだかドキドキしてきた。うさぎ先生は白昼の教室内で、堂々と襟元のリボンを外す。次に彼女が手をかけたのは、カッターシャツのボタンだ。それを、1つ1つゆっくりと外していく。いよいよ胸のおでましかーー。と思いきや、スク水を着ていた。そうか、今朝見た青い下着は、これだったんだな。確かに、これなら堂々と円周率の授業ができる。最後にスカートを脱いだ先生は、両人差し指を青い胸の辺りに据えた。よく見ると、スク水って身体のラインが丸わかりだな。先生、両手で胸をなぞる。
「ここまでで、一周。この円周率は、3.14。つまり……π」
先生、何してるんだっ! 男子生徒全員が鼻血を垂らして、後方の壁まで吹っ飛んでるよ。彼らを保健室につれていかないと。あっ、保健室の担当はうさぎ先生だった。きっと、適切な処置をしてくれるだろう。
男子たちの鼻にティッシュを詰め、再び教卓に戻る先生。措置はそれだけ? 教室中に巻き散らかされた血、男子はグロッキーだ。だが、彼らはすぐに立ち上がった。まるでゾンビだ。鼻栓ゾンビ集団は、よろよろと自席に戻っていった。スク水姿で床をモップがけする先生。ところで、社会の授業はいつ始まるの? キーンコーンカーンコーン。終わった!




