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決意の真っ赤な炎

 僕が店長を探している最中、入り口は不気味なほど静まりかえっている。しかし、沈黙は銃撃音によって破られた! まさか、犠牲者が出たのではないだろうか。


「こりす、エリーザ、灼耶!」


 僕は店長探しを中止した。一刻も早く入り口にたどり着きたいからだ。その一心で僕はひた走る!


 入り口に駆けつけると、ハンドガンを見つめてほくそ笑むもやし白衣がいた。


「ほう、最近のモデルガンは造りがいいな。リアルな音だ」


 見回すと、誰一人撃たれていない。誰だよ、もやし白衣にモデルガンなんて渡したの。


「ねっ、いい音でしょ」


 もやし白衣の隣で苦笑いしてるのは店長! モデルガンはあんたの仕業かっ。


「いやーっ、モデルガン気に入ったのであれば、さしあげますよ」


「フン、いらない。俺がほしいのは、店長、あんたの隣にいる巨乳メイドだ」


 もやし白衣は、紅潮するミソノをまじまじと見つめている。このままではミソノが危ない。僕はもやし白衣の背後に回りこみ、リモコンを手から叩き落とした後羽交い締めをした。後は、もやし白衣をいかに反省させるか……。


「フンロボット、甘いな。俺はこの店に『合言葉で反応する爆弾』をしかけた。つまり、腕を離さなければ、合言葉で爆破だ!」


 くっ、なんて周到な。動機は卑しいくせに。仕方ない、両手を離そう。もやし白衣が、籠から飛び立つ鳥のように自由を得た瞬間、僕の体はフリーズした。


「やはり、機島のロボットは危険だ。停止して、破壊せねばなるまい!」


 停止リモコンを手に、ほくそ笑むもやし白衣。右手にモデルガン、左手にはリモコン。それからモデルガンを放り投げると、ポケットからドライバーを取り出した。どうやら、解体されてしまうみたいだ。まさか、モアイ以外にスクラップにされてしまうとは……。恐らく、体内のレアアースを取り出して売る気だ。


 まずい、後頭部にドライバーが当てられたっ! ああっ、そこには大事な回路がっ。力が、抜けていく……。僕はその場にへたへたと膝をつき、うなだれる。その時、銃声と灼耶の絶叫が聞こえた。まさか、灼耶が撃たれてしまったのではーー? くそっ、体が自由なら……。灼耶の安否が気になる。


 どよめく観衆、灼耶の名前を呼ぶこりす。しかし、灼耶の声は聞こえない。僕は停止スイッチのせいでうつむいたままだ。1つ気になるのは、何かが踏みつぶされているような音。これはなんだろう。気になるのに、体が動かないーー! 僕は後頭部をつつかれて、力も入らずにずっとうつむいているーー。


 待てよ、僕はうつむいている。それはつまり、首が動いたってことだよな。フリーズした体が動いたということだなっ! 僕は試しに顔をあげてみると、首が動いてもやし白衣が視界に入った。いや、もやし白衣なんてどうでもいい。灼耶はーー? 停止リモコンを踏みつぶしている。そうか、さっきの妙な音はこれだったか! 彼女のおかげで僕の体は自由になった。僕が安心したのもつかの間、灼耶の額に銃が突きつけられた! 目が泳ぎだし、顔が完熟トマトのように真っ赤な灼耶は、両手をあげている。撃たせるかよ! もやし白衣は僕に背を見せているから、こちらに気づいていないはずだ。もやし白衣を殴るっ! 僕はその一心で駆け出した。


「ロボット、突撃してくることは予想ずみよ。今こそ、合言葉に反応する爆弾を起動させる! 合言葉いくぞーっ」


「言わせるかっ!」


 僕は飛び上がり、もやし白衣の顔を殴ろうと押し倒したが……。


「合言葉『機島はモアイ』! ふははっ、すべて消し飛べっ」


 もやし白衣、僕に気づいていたか。勘のいいやつだ。だがーー。


「何故だ、何故爆発しない!?」



「残念だったな! 僕とお前の周りにバリアーを張ったっ。声はバリアーに跳ね返されて、外の世界には届かないっ。もやし白衣、覚悟っ!」


「ひええっ、許してっ」


 僕は下にいるもやし白衣に、マジ殴りを放った! 奴は白目を剥いて気絶している。僕はすぐさま、功労者の灼耶へ駆けよった。しかし、彼女は怯えている様子だ。そうか、周囲に人がいるから、また質問責めされるのかと思っているかもしれないな。僕は野次馬たちに退散を促し、灼耶に感謝した。


「灼耶、ありがとう。あの状況で、よく停止スイッチを壊してくれた!」


「いっ、いえっ。あの人、ハルディさんの解体に集中してたので、右手からリモコンを奪い、踏みつけました!」


「いやー、灼耶がいなかったらスクラップだったよ」


「いえっ、そのっ、大したことは……」


「灼耶は大したことしたよ。よくあの状況で。僕は嬉しいよ!」


 僕が灼耶の手を握ると、彼女は「あぅっ」と漏らした。僕は再度「ありがとう」と、彼女の手を強く握った。するとーー。


「いっ、いえっ。感謝するのは私の方ですっ!」


「何で、君は僕を助けてくれたじゃないか! 感謝される側……」


「ち、ち、違いますっ!」


「どうして?」


「私、高校に入ってからずっと1人でした。赤面するから、昔の友達もいなくなり、孤独だったんです。でも、ハルディさんはこんな私でも誘ってくれた。嬉しかった!」


「いや、それはね。僕が失敗作だから、スクラップを免れるため……」


「違いますっ! ハルディさんは失敗作なんかじゃないっ。私のかけがえのない方ですっ! わたしのような、赤面する変な人も買い物に誘ってくれる、優しい方ですっ」


「灼耶……、それは違うぞ! 君は赤面する変な子じゃない。ロボットのため、勇気を持って行動できる優しい子だ。おかげで僕は助かった!」


「でも、私っ、赤面してみんなから『変だ』って嫌われて、異性から好きだと勘違いされて、また嫌われて……」


 僕は灼耶を強く抱きしめた。


「……辛かったんだな。いつも、1人きりで悩んでたんだな」


「はい、赤面する私は正直、嫌いです」


「いや、僕は灼耶のこと嫌いじゃない。最初は正直嫌いだったけど、今は助けたい。君も居場所を見つけたから、僕を助けたんだろ? かけがえのない仲間を見つけたから、僕を助けたんだろ」


「は、はい」


「灼耶、赤面症は治療で治る。君の心の傷も僕が癒す。だから、自分を嫌いとか言わないでくれ。君の目の前には、もう居場所があるから。赤面したから出会えた縁だろ。そう思うと、赤面する自分も悪くないだろ。だから、自分を愛するんだ」


「自分を愛する……。できるかな?」


「できるさ。灼耶は強い。それに困ったときは僕たちがいるさ!」


 灼耶はまっすぐ僕を見つめている。その瞳には、真っ赤な決意の炎が宿っている気がした。

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