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「惑星少女・灼髪のマーズ」
つい声に出して、待ち受け画面上部に記された文字を読んでしまった。その文字の下には、灼耶と同じく赤髪ロングだが、5歳くらいのアニメ少女の画像が。しかも、服装まで赤いゴスロリ衣装だ。このスマホの向こう側にいる少女の頬も赤いぞ。もしかして、これが本物の灼髪のマーズか? 灼耶に問いかけようとしたとき、彼女は僕の掌から強引にスマホを奪いとる。そして、また背を向けてしまう。僕は改めて問いかけることにした。
「なあ、その待ち受け画像だけどさ。もしかして、それが本当の惑星少女・灼髪のマーズでしょ。だって、よく考えてみれば惑星が少女なんて設定は、現実世界で無理があることくらい世間知らずな僕でもわかる」
指摘すると、灼耶はすぐにふりむいて、
「ち、ち、違います。私は、私は本物の」
「僕は君の悩みを聞きにきたんだ。正直に話してもらわないと困る」
僕は灼耶の肩に右手を置いた。だが彼女「ひぃっ」と驚いて、僕を化け物でも見ているかのようなひきつった目で、凝視している。慌てて肩から手をのけると、灼耶は力なくその場に崩れた。
「ご、ごめん。おどかしてしまって。でも、僕も君に正直に言わなきゃいけないことがあったよ。実は、僕は失敗作なんだ。悩んでる生徒を救えなければ、スクラップにされてしまう。だから、君を救えなければスクラップだ。でも、人間は難しいね。失敗作なんていないのに、みんな何かしらの悩みを持って生きている。繊細な生き物だ。だから悩んでるのは君だけじゃない。正直に話してほしい」
灼耶は冷静になったようで、うつむきながら語る。
「ロボットのあなたに話したところで、私の悩みが解決できるとは思えません」
彼女は、机の横にかけていた鞄を持ちあげた。そして、机の上に置いた。帰るつもりか? そうはさせない。だが、僕の見当違いだったようだ。灼耶は鞄を開けると中を物色し、手帳を取り出した。それを開いて僕に突きつける。
「これは、日記?」
「そうです。中学時代のものです。私はかつて、生徒会長をやっていました。大勢の前で発言し、先生からも信頼されていました」
「それは嘘でしょ。だって、今の灼耶からは想像もできないもん」
「皮肉はやめてください」
「ごめん」
「ところがある日。教卓に立って話をしていると、みんなから執拗な質問責めにあいました。その時から、人前に立つと違和感を覚えるようになりました。なぜかひどく緊張し、汗をかく。頬が熱を帯びる。やがてそれは顕著に現れるようになり、同性の前でも赤面するようになりました。私は怖かった。誰といても赤くなる、異性からは誤解される。辛く、苦しい……。でも、この悩みを誰にも話せなかった。友達にでさえ! そのまま中学時代は終わり、高校では1人も友達を作れないまま、今に至ります」
「なるほど。好意がなくても赤面、か。ごめん。僕も正直、灼耶から好かれていると思っていた。確かに勘違いだと言われると、興ざめして嫌いになる。でも灼耶からしてみれば、悪意はないのに敵を作ることになる。それは辛いね」
「そう、そうなんですよ! なんとかなりませんか」
僕は首をかしげて考えるも答えは出ないから、やはりエリーザにヘルプするしかない。なんとも情けない話だが。しかし、頭の中にはある提案が浮かんだ。
「なあ、さっき高校では友達を作れないとか言ってたよな。僕はスクラップを免れるためにも、君に協力したい。そこで、だ。明日は学校が休み。こりすとエリーザっていう僕の先輩ロボットと一緒に、ショッピングをすることになってるんだけど、一緒にどう?」
「えっ、私、人が多いところは苦手で……」
「こりすも苦手さ。だから、こじんまりとした店にしか行かないよ。移動も車だから、人目に触れる機会も少ないし」
「で、でも、せっかくの休日、楽しいショッピングなのに、私なんかがいたらつまらなくなってしまいますよ」
「大丈夫さ。こりすもエリーザも優しい。きっと歓迎してくれる。君も友達ほしいでしょ?」
「はい、ほしいです。友達になれるようにがんばります!」
「エリーザに聞いたけど、がんばるということは無理をする場合もあるということだ。明日は気兼ねなく楽しもう」
「あ、ありがとうございます」
「よし、じゃあ今日は僕と仲良くなるためにも、一緒に帰ろう!」
「えっ、一緒に……。それってまるで、デ、デート……」
よりいっそう顔を赤くして、教室からかけ出していった灼耶。なんで逃げたんだ?
僕は逃げた理由を考えていると、鍵を閉められたらしくセキュリティ発動! ちょっとしたハプニングだった。




