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ただ走ってるだけの回

 ミソノは、この間遠足の目的地だった山の麓の方へ駆け出していった。僕は現在、建ち並ぶビルをバックにひたすら歩道を走っている。なんか、陸上部になった気分だ。隣には、めくれそうなミニスカートを必死に抑えながら走っているナース姿のうさぎ先生がいる。


 先生の誘惑のせいで忘れていたけど、前方には押田がいる。彼とはかなり離れているから、アリのように小さく見える。ミソノに至っては見えない。それでも、押田ライオンがいまだにミソノへ向けて走っているので、逃亡劇は続いているのだろう。


 それにしても、もう10分くらい走っている。それも、なかなかの韋駄天である押田を見失わないように全力で。人間は不便だ。機械の僕は疲れないが、うさぎ先生は呼吸が速い。艶やかな紅唇から吐き出される息は悩ましい。でも心配だ。


「うさぎ先生、苦しそうだけど大丈夫? 後は僕に任せて休んでもいいよ」


 僕が紳士のように優しく語りかけると、


「ハァ、ハァッ、ハッ、ハルディ君はロボットだから疲れ知らずでしょ。おぶって……」


「え? でも」


「いいからおぶって! あたし、教師としてあの2人を見過ごす訳にはいかない。ほら、あの山にはこの間みたいに危険なものがいるかもしれないし」


 格好はふざけているが、熱血なんだな。よし、おぶってあげるため、走りつつ掌を上にして両腕を腰の両端に据えたぞ。しかし、スタンバイはバッチリだというのに、うさぎ先生はなかなか飛びのってこない。せっかく肌と肌が触れあうチャンス……いや、モタモタしていたら、押田を見失ってしまうのに。すると、僕の後方に回ったうさぎ先生から、予想だにしないことが告げられた。


「やっぱり、おんぶはやめた。エロボットのハルディ君に、いやらしいことをされる可能性があるからさ」


 どんだけエロいやつだと思われてるんだ、僕! でも、動揺してはいられない。


「じゃあ、うさぎ先生。このまま走り続けるというの?」


「ううん、もう走れない」


「えっ、矛盾してない?」


「いや、あなたにまたがろうと思って。四つんばいになりなさい」


「僕は金太郎のクマじゃない! なんでそんなことをしないといけないんだっ」


「あたしもドSらしくありたいというポリシーがあってね」


「なんてくだらない! ポリシーとあの2人はどっちが大事だっ」


「もちろん両方」


 強欲だ。さすが性欲が半端なさそうなだけに、己の欲望に忠実な女性だ。逆らったらムチで叩かれそうだからな。僕は止まってから、おとなしく四つんばいになった。うさぎ先生はためらう様子もなく、僕の背中にまたがった。うあっ、背中が温かい。編み目のような布の感触が背中をくすぐる。これは、もしや……下着だっ! 造られてよかった。モアイに感謝、……はしないけど。でも、僕は忘れていた。この人の本性を。


「さあ、ガンガンムチを入れるから、ドンドン走ってねーっ!」


「僕はクマでもウマでもないよーっ!」


 あのナース服のどこに忍ばせていたのか、突然僕の尻にムチが入った! 下着の感触がアメ、それとムチ。さすが、調教上手だ。僕は走り出した!


 僕はうさぎ先生の掌にうまいこと転がされて、ウマのように走らされている。そう考えると、ドMの押田が興奮する理由が少し理解できた。と、頭の中で納得している僕は、いつの間にか押田のすぐ後ろまで来ていた。なんと、もう追いついてしまった。ムチで叩かれた僕は、かなりスピードが出るのかと感心する。


 僕は押田の背中を見つめた。彼は立ち止まっている。そして、押田の先にいるのは金髪のミニスカート。ようやく、ミソノの背中を捉えた。だが、彼女は何やら、黒いスーツにサングラスをかけた2人組の男と対峙している。

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